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「…」
「魔物め!この私自ら退治してくれようぞ!」
「おい、かっこつけんなよ。王子様」
「俺たちの取り分も残してくれないと困るぜ?」
「王子様。かっこいいですわ」

大勢の兵士たちと一緒に見守る中、私は王子の魔物退治を見学していた。
のんびりと草を食べている魔牛は、こちらに襲い掛かってくる様子はない。呑気で穏やかな性格をしているのだ。
しかし…。

「とりゃあああ!!!」

剣を振りかざした王子にさすがに命の危機とあらば、穏やかな魔物筆頭であろうと、容赦しない。

―カキン!
「なにっ!?」

魔牛の角がたやすく王子の剣を弾き飛ばす。
剣は、くるくると円を描いて、飛んでいく。

「わ、私の剣が…」
「ちっ!どいてな、王子様!」
「魔法詠唱…ええっと、ええっと」
「ぐっ!持ちこたれるのは、1分が限界だ!」
「…」

要領悪いなぁ…。
チームプレーも全然うまくいってないし。
よくもまぁ、これで冒険者を目指そうと思ったな。

魔牛に振り回されて、放り投げられている自称勇者パーティに笑いも起きない。

「せ、聖女様」
「わかってますよ。―主よ、我を守り給え」

王子に傷一つつけようものなら、どれほどうるさく言われるか、分かったものではない。
魔牛と自称勇者パーティの間に障壁を張る。魔牛は、障壁に弾き飛ばされ、その衝撃で倒れてしまった。
かわいそうなことをしてしまったな。
とどめを刺そうとしている自称勇者パーティから、魔牛を守るため、魔牛にも障壁を張る。
剣士の剣が、弾き飛ばされ、武器がなくなったことにビビッて剣士が逃げた。

「どうか、お逃げなさいな」

私は、魔牛に話しかける。
言葉を理解したのか、一つうなずくと魔牛は、そのまま離れていく。
魔物は、知性が高い。
おそらく私と戦うのは、分が悪いと分かっているのだろう。
戦いで、興奮しているにも関わらず、魔牛の群れは、去っていった。
それに胸をなでおろしていると、

「お前!悪魔の手先か!」
「は?聖女ですが?」

魔物を逃がしたことが、気に食わないんだろう。
ほかに気にすることはあるはずなのに。
自称勇者パーティが自分を放り投げて逃げ出したこととか。
自分の剣が、通らなかったこととか。

「お前…やはりおかしいと思っていたんだ」
「なにがですか?」
「魔物をやけに援護しているし」
「そりゃあ、人間に害を及ぼさないのであれば」
「魔法の一つもろくに使えないし」
「聖女ですので」
「私を敬わないし」
「対等な立場ですので」
「お前、やはり正体を現したな」
「正体ですか」
「お前は、この国を破滅に陥れようとしている悪魔の手先だ!」

本当に破滅に陥れようとしているのであれば、結界も張らないし、王子を守ることなんてしませんよね。
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