出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁

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「… … …はい?」

まさか、あそこで出会った雑魚パーティが、勇者?

「かれらは、私が魔物に襲われていた時に助けてくれたのだ」

王子の言葉いわく、魔物と戦っている最中に、どこからともなく現れ、さっそうと助けてくれたらしい。…本当かしら。
彼らは、尋常ではないほどに弱かった。
厳しい修行を乗り越えて、とかならわかるが、彼らの様子を見ていても、強くなったようには見えない。

「彼らに出会ったのは、一年前のことだ」

去年から、知り合いだったのか。
一年前…?
なにかあったかしら。
そういえば、魔物憐みの令が下りたのが、だいたいその時期だった気がする。

「私が、平原で魔物たちとの闘いに明け暮れていたときだった」

だらだらと王子が話していたことをまとめると、国の近くの平原で魔物群れが発見された。王子として、兵士を連れて、退治しに行った。
ここまではいい。
だが、兵士と王子たちは、魔物の群れと戦っている最中、魔物が仲間を呼び、数が増えてしまった。その魔物の数に成すすべなく、倒れていると、どこからともなく勇者たちが現れて、魔物たちを倒してくれたのだと。
…なんか覚えがあるな。

以下、回想。

「なにっ!?魔物の群れが平原で発見されただと!?…しかも角が生えている?」
「はい。白い体毛に黒い斑点があるそうです」
「それは、魔牛のことではないのですか?」

特徴を聞くに、群れは、おそらく魔牛だろう。
あたたかい地域を巡回している比較的おとなしい魔物で、群れで行動していると言われているが、この国にも来たのか。
魔牛は、危害を加えなければ、こちらに危害を加えることをしない。のんびりと草を食べていて、おいしい牛乳を出す。牛乳を飲めば、魔力や疲労が回復する。ある国では、魔牛を育てて、その乳を国産品として、売り出しているところもあるので、無害な魔物筆頭ともいわれている。
私は、聖女なので、魔牛の乳を飲むと、お腹を下してしまうから飲めないのだが。おいしいと評判である。乳を使った料理は、私の体が受け付けないので、食べられないのが残念だが、どれもとてもおいしいと言われている。

「その魔物は、放っておいても大丈夫ですよ。その魔物が出す乳は、とてもおいしいと言われているそうですし、うまくしたら乳がとれるかもしれません」
「なに?乳だと…魔物の出す乳など、気持ち悪くて、飲めるわけがないだろう」
「まあ、べつに飲みたくなければ、飲まなくてもよろしいですし、放っておいても害のある魔物では…」
「お前は、その魔物の乳が飲めるのか?」
「え?いえ、私は、体が拒否反応をしてしまうので、飲むことは出来ないのですが」
「お前は、自分が飲めないものを私に勧めたのか!?」
「え?はぁ、まあそういうことになってしまいましたが、ですが、それは私に魔力回路がないから受け付けないだけであって」
「そうだったな」

にやりと、王子は私の弱みでも握ったかのように笑った。
この王子は、私が魔法が使えないのが、よほど面白いのか、よく意地の悪い顔で笑いながら、からかってくる。いちいち、付き合っているのも馬鹿らしいので、スルーするが。

「お前は、魔法が使えないからな」
「はい、そうですね。私は魔法が使えません。話を戻して、あれの乳は、別に危険なものではありません。魔力も疲労も回復してくれるすばらしい乳を出します。現に、隣の国では…」
「愚かものめ!」

私が、無理やり話題を変えたのが気に食わなかったのだろう。
私の話を無視して、王子は、急に叫び声をあげた。

「自分が飲めないのに、私に勧めるなど、なんと常識がないのだ!えぇい!そんなわけの分からない乳を出す魔物など、この国には必要ない!即刻、退治してくれる!」
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