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「私を追い出したあとは、どうするのですか?誰がこの国を守るのです」
「貴様などいなくてもこの国は、平気だ」

…この微妙な会話のズレは、なに?
私は、私の代わりに誰がこの国を守るのかと聞いているのだけど?その答えが、なんで私がいなくても平気だって答えになるのよ。この王子様は、会話もできないの?
…そう考えて、ふと、そういえば王子と婚約関係を結んでいたにも関わらず、王子とろくに話もしてこなかったことに気づいた。
聖女が、国の王子と婚約関係を結ぶことは、どこの国でも常識というか、お約束みたいな感じだったから、あまり気にしたことはなかったけど。
聖女と王子が結ばれるのは、おそらく聖女を縛るためなんだろう。国を守る要である聖女を手っ取り早く自国に縛り付けられることができる。そうでなくても、聖女は、簡単に国から抜け出せないように様々な誓約で縛られている。まぁ、私は特に縛られていないんだけど。
だから、この婚約が破棄されるのであれば、私を縛るのものは、何もなくなる。

「聖女さまが、何を危惧されているのか分かりませんが、この国はこれから私とフィリップで守っていくから大丈夫ですよぉ」
「あなたは…?」

急に出てきた美少女が、どこかで見たことがあるような気がして、不躾だが、じろじろと見つめる。

「おい!貴様、私の最愛をいやらしい目で見るな!汚れるだろ!」

なんか王子が喚いているけど、無視だ。無視。
仮にも婚約者がいるのに関わらず、浮気をしているそっちの方こそ、嫌らしいし、汚れているだろ。
…思い出した。まだ、魔物憐れみの令が出される前にこの国にやってきた冒険者の少女だ。
近くの村の見回りから帰ってきたときに、国のすぐ近くの外がなにやら騒がしくて気になって見てみれば雑魚の魔物にピーピー言っていた冒険者御一行の一人だ。うちの国の周りの魔物は、常時デバフ状態だから、ここ何年も魔物に襲われて、死人どころか大怪我するような事故は、起こっていない。その上、苦戦するほどのレベルでもないから、ある意味、珍しい出来事に驚いて、覚えてたのだ。
そのパーティは、とにかく才能がなかった。剣士は、剣が重いのか、鍛えていないのか、剣を一振りするのにも一苦労しているようだったし、攻撃術者は、攻撃魔法一つ、出すのに時間がやたらかかる詠唱を続けているし、盾役は
ふらふらとしていて、仲間を守るどころか自分の身すら守るのもやっとというくらいで、弓を持った男は、放った矢がまったく当たらない。おまけにこの子は、回復術者にも関わらず、怪我した仲間の姿に悲鳴をあげて、逃げてしまって、てんで役に立たない。
コントか?
正直な感想がこれだ。
兵士祈願の少年だって、もう少しうまくやるレベルだ。
彼らの戦闘を一通り見せてもらったが、ここまでひどいのは初めて見た。よくもまぁ、これだけのレベルの人間が揃ったものだ。おそらく、酷すぎて、ほかのパーティから追い出されたか入れてもらえなかったかのどちらかのだろうけど。
まぁ、この国から始めようとしたことは、幸運だった。
ほかの国であれば、とっくに全滅しているだろう。
現に魔物の方を見ると、とっくに戦闘意欲はないようで、のんびりと森へ帰って行っている。魔物のレベルも弱ければ、好戦的な魔物も少ないので、比較的
安全なのはそのせいだ。

しかし、あの時の冒険者がどうして…。王子とは、一体どこで出会ったのかしら
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