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プロローグ
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その国は、魔物に襲われていた。
「ギャァアアアア!!!」
「だ、だれか…助けて!神さま!」
国を、民を守るために兵士たちは、ボロボロになりながらも戦っていた。一匹、二匹、倒していくも次から次へと湧き出るように魔物は、その数を増やしていく。
歴戦の戦士たちも数の暴力には、耐えられない。連日、朝から晩まで魔物が大量に押し寄せ、戦い続けていれば、体力も精魂力つきるのは、当然の事だった。
既に力尽き、魔物に食べられるのを待っているもの、死の恐怖に怯えているもの、絶望で、自殺するもの、地獄を具現化したとすれば、この状況がまさしくそうだった。
その頃、王城では、王子とその婚約者である聖女がひっそりと身を隠していた。
魔物の襲来にすっかりと怯えきって、緊張している体は冷たく、震えている。王子は、彼女を強く抱きしめた。彼女に自身の体温を分け与えるかのように。
「聖女は、どこだ!」
「ひっ!」
怒り狂った王とその側近が扉をぶち壊さんとばかりに乱暴に開いた。
怒りで完全に頭に血が上っているのか、真っ赤な顔に額やこめかみには、血管が浮き出ている。鬼が存在するのだとすれば、まさしくこんな顔をしているのだろう。
「貴様!皆が戦い、傷つき、死んでいっているのだぞ!?魔物の一部は、城に入り込んでいる。それなのになぜ、貴様だけこんなところで隠れている!!!」
「い、いや…来ないで…」
怯えた少女を庇うように王子が前に立ち塞がる。
「父上!彼女が怖がっております。お止めください」
「元はと言えば、お前があの聖女を追い出したからいけないのだ!!!私に指図をするな!!!」
「がぁ、げ、ぇ?」
行く手を阻む王子の腹部に躊躇いなく、王は手に持つ剣を押し込み、深く刺した。剣の切っ先は、王子の体を突き抜け、少女の目に背中から生えた鋭い刃の先が写った。
「がはっ、あ?!」
「きゃあああああ!!!」
王子の腹部からは、ドパッと血が溢れた。そのまま止まる事なく血が溢れ、王子は、そのまま倒れ込んだ。
聖女に治してもらわなくては。
そう思い、自身の最愛に目を向けると、「ひっ!」とまた悲鳴を上げて、王子から離れていく。
「た、たすけ…」
王子の言葉など耳に入らないのか、それとも拒否をしているのか、激しく少女は頭を振った。美しい髪がバサバサと音を立てた。
「い、いやっ!もう、いやあああ!!!」
そのまま逃げ出そうとした聖女の長い髪を、王は躊躇いなく掴むと、そのまま思い切り引きずった。あまりに乱暴に掴んだので、何本か細い髪が抜けて、地に落ちた。まるで、少女ではなく、ずだ袋でも引きずっているような乱暴さだった。
「いたいいたいいたいいたい!!!!離してよ!いたいよお母さん!!!たすけて!だれか、」
王子は、ぼんやりと薄くなっていく意識のかなた、遠ざかっていく自身の父親と愛しの婚約者、そして、ゾロゾロとその後ろを付いていく側近たちの姿を見つめた。自分の死など、なんとも思っていないようだった。
どうして、こんなことに…。
私は、ただ…あの出来損ないの聖女もどきを追い出しただけだ。それなのに、どうしてこんなことになっているんだ。まさか、あの女が本物の聖女だったとでもいうのか。
あんな、魔法の一つもろくに使えない女が。
「あれ。誰かさんかと思えば、王子様じゃありませんか」
幻覚と幻聴か。
既にこの国を去った、いや追い出した女が目の前に立っていた。女の輪郭は、光り輝き、神々しい。聖女というより、天使のようだった。
「俺を天に連れていくのがあの女の姿をした天使とはな…」
「いやいや。なに天国に行けると思ってるんですか?あなた、本当に図々しいんですね。神経図太すぎやしませんか?この国を崩壊に追いやった張本人が、天国に行けると、本当に思ってるんですか?」
「なんだ、お前…」
やけに苛立つ天使だ。いや、もうどうでもいい。… … …。
あたたかな、ぬるま湯に浸かっているような幸福な感覚。気持ちいい。これが死というものなのか。微睡みに揺蕩うように王子の意識は、ふわふわと浮いていた。
「いや、なに寝てるんですか?国の一大事に寝るとか、本当あなたって、王の資格ありませんよね」
バチン。
巨大な静電気を受けたような衝撃が背中を走る。反射的に飛び上がり、自身を無理やり叩き起こした女の顔を見た。呆然としている王子の顔を見て、女は、本当に愉快なものを見たとでもいうように大きく笑った。
「ギャァアアアア!!!」
「だ、だれか…助けて!神さま!」
国を、民を守るために兵士たちは、ボロボロになりながらも戦っていた。一匹、二匹、倒していくも次から次へと湧き出るように魔物は、その数を増やしていく。
歴戦の戦士たちも数の暴力には、耐えられない。連日、朝から晩まで魔物が大量に押し寄せ、戦い続けていれば、体力も精魂力つきるのは、当然の事だった。
既に力尽き、魔物に食べられるのを待っているもの、死の恐怖に怯えているもの、絶望で、自殺するもの、地獄を具現化したとすれば、この状況がまさしくそうだった。
その頃、王城では、王子とその婚約者である聖女がひっそりと身を隠していた。
魔物の襲来にすっかりと怯えきって、緊張している体は冷たく、震えている。王子は、彼女を強く抱きしめた。彼女に自身の体温を分け与えるかのように。
「聖女は、どこだ!」
「ひっ!」
怒り狂った王とその側近が扉をぶち壊さんとばかりに乱暴に開いた。
怒りで完全に頭に血が上っているのか、真っ赤な顔に額やこめかみには、血管が浮き出ている。鬼が存在するのだとすれば、まさしくこんな顔をしているのだろう。
「貴様!皆が戦い、傷つき、死んでいっているのだぞ!?魔物の一部は、城に入り込んでいる。それなのになぜ、貴様だけこんなところで隠れている!!!」
「い、いや…来ないで…」
怯えた少女を庇うように王子が前に立ち塞がる。
「父上!彼女が怖がっております。お止めください」
「元はと言えば、お前があの聖女を追い出したからいけないのだ!!!私に指図をするな!!!」
「がぁ、げ、ぇ?」
行く手を阻む王子の腹部に躊躇いなく、王は手に持つ剣を押し込み、深く刺した。剣の切っ先は、王子の体を突き抜け、少女の目に背中から生えた鋭い刃の先が写った。
「がはっ、あ?!」
「きゃあああああ!!!」
王子の腹部からは、ドパッと血が溢れた。そのまま止まる事なく血が溢れ、王子は、そのまま倒れ込んだ。
聖女に治してもらわなくては。
そう思い、自身の最愛に目を向けると、「ひっ!」とまた悲鳴を上げて、王子から離れていく。
「た、たすけ…」
王子の言葉など耳に入らないのか、それとも拒否をしているのか、激しく少女は頭を振った。美しい髪がバサバサと音を立てた。
「い、いやっ!もう、いやあああ!!!」
そのまま逃げ出そうとした聖女の長い髪を、王は躊躇いなく掴むと、そのまま思い切り引きずった。あまりに乱暴に掴んだので、何本か細い髪が抜けて、地に落ちた。まるで、少女ではなく、ずだ袋でも引きずっているような乱暴さだった。
「いたいいたいいたいいたい!!!!離してよ!いたいよお母さん!!!たすけて!だれか、」
王子は、ぼんやりと薄くなっていく意識のかなた、遠ざかっていく自身の父親と愛しの婚約者、そして、ゾロゾロとその後ろを付いていく側近たちの姿を見つめた。自分の死など、なんとも思っていないようだった。
どうして、こんなことに…。
私は、ただ…あの出来損ないの聖女もどきを追い出しただけだ。それなのに、どうしてこんなことになっているんだ。まさか、あの女が本物の聖女だったとでもいうのか。
あんな、魔法の一つもろくに使えない女が。
「あれ。誰かさんかと思えば、王子様じゃありませんか」
幻覚と幻聴か。
既にこの国を去った、いや追い出した女が目の前に立っていた。女の輪郭は、光り輝き、神々しい。聖女というより、天使のようだった。
「俺を天に連れていくのがあの女の姿をした天使とはな…」
「いやいや。なに天国に行けると思ってるんですか?あなた、本当に図々しいんですね。神経図太すぎやしませんか?この国を崩壊に追いやった張本人が、天国に行けると、本当に思ってるんですか?」
「なんだ、お前…」
やけに苛立つ天使だ。いや、もうどうでもいい。… … …。
あたたかな、ぬるま湯に浸かっているような幸福な感覚。気持ちいい。これが死というものなのか。微睡みに揺蕩うように王子の意識は、ふわふわと浮いていた。
「いや、なに寝てるんですか?国の一大事に寝るとか、本当あなたって、王の資格ありませんよね」
バチン。
巨大な静電気を受けたような衝撃が背中を走る。反射的に飛び上がり、自身を無理やり叩き起こした女の顔を見た。呆然としている王子の顔を見て、女は、本当に愉快なものを見たとでもいうように大きく笑った。
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