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おまけ(微ざまぁ回)
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この国の世界樹が枯れた。
以前から、この国には奇妙な風邪が流行っていた。
止まらない咳。引かない高熱。四肢は痛み、とても起きてはいられない状態になるらしい。
それと同時にいつからか、この国には瘴気がただようようになった。
魔物が狂暴化して、手負いの冒険者が増え、国の城壁が壊れることも何度もあった。
異変は、ずっと前からあったのに、俺はこの国から出られなかった。
出るには、もう外も危険がありすぎた。
強い瘴気。強い魔物。
国王の聖女嫌いのせいで、この国は、どこの国からも教会の助けが来ないらしい。
まさに八方塞がり。どこにも逃げ道なんてないのだ。
「……」
俺の恋人は、ずいぶんと前から症状がひどかった。
皮膚からは腐臭がするようになった。美しかった容貌は変わり果ててしまった。
彼女の父親は、ずっと前に死んでしまった。
最後まで、苦しそうな姿だった。悲しむ間もなく、彼女も倒れてしまったが。
「お守り…本物だったのはあいつのほうだったのかな」
元恋人の祟りだという人もいた。
俺は、元恋人だったという理由から石を投げられることも多くなった。
「お前がもっと引き留めていたら、こんなことにはならなかった!」
なんて叫ばれることもたくさんあった。
たくさん責めて、石を投げられて、そこで俺はようやく元恋人の気持ちが分かった。
今さら、後悔しても遅いんだけどな。だからこそ。
「……ごほっ」
俺だけ健康だったのは、長年、彼女のお守りを持っていたからなのか。
もう俺しかこの国で、病気になっていない人間はいなかったから。
でも、お守りはとっくの昔に返してしまった。
だから、もうだめなんだろうな。
最後に会いたかったな。
きっと今もどこかで、俺が捨てたことを悲しんでいるに違いない。
今、会いに来たら、彼女の大好きな笑顔で迎えてやるのに。
抱きしめて、キスして「お前なしで生きていられない」って言ってあげるから。
「早く帰ってきてくれないかな」
彼女は、俺のことが大好きだから、「ごめんなさい」って泣きながら帰ってくるかもしれない。俺は、ずっと待っている。
◇
「そういえば、ついにお前の元いた国の世界樹が枯れたぞ」
「え?」
私はというと、そんな国のことをすっかり忘れていた。
忘れていたというか、思い出す余裕がなかったというのが正しい。
「あの国、教会がないから、世界樹が枯れたらやばいんじゃない?」
「ああ。やばいことになってるみたいだな」
「ふ~ん」
私たちは、未だに教会に探されているので、元いた国に帰るどころか、その近くに行くこともない。だから、いったいどうなっているのか知ることは、今のところない。
「まぁ。いいんじゃない。私のお守りは偽物らしいし、本物のほうに頑張ってもらえば」
「頑張ってもらった結果が、こうなんだろ」
「だって、もう関係ないし」
私は、未だに許していない。
これで許せる人間がいたら、私はとっくに教会に入っている。
故郷のことを思い出したら、必然と元恋人のことも思い出した。
今、思い出してもむかつく…。
「絶対許さないし、絶対帰ってなんかやらない」
「まぁ、あの国に行く理由なんてないしな」
私は、コップに入ったワインを一気に飲んで、「今に満足してるから、昔を振り返らなくてよし!」と叫んだ。
以前から、この国には奇妙な風邪が流行っていた。
止まらない咳。引かない高熱。四肢は痛み、とても起きてはいられない状態になるらしい。
それと同時にいつからか、この国には瘴気がただようようになった。
魔物が狂暴化して、手負いの冒険者が増え、国の城壁が壊れることも何度もあった。
異変は、ずっと前からあったのに、俺はこの国から出られなかった。
出るには、もう外も危険がありすぎた。
強い瘴気。強い魔物。
国王の聖女嫌いのせいで、この国は、どこの国からも教会の助けが来ないらしい。
まさに八方塞がり。どこにも逃げ道なんてないのだ。
「……」
俺の恋人は、ずいぶんと前から症状がひどかった。
皮膚からは腐臭がするようになった。美しかった容貌は変わり果ててしまった。
彼女の父親は、ずっと前に死んでしまった。
最後まで、苦しそうな姿だった。悲しむ間もなく、彼女も倒れてしまったが。
「お守り…本物だったのはあいつのほうだったのかな」
元恋人の祟りだという人もいた。
俺は、元恋人だったという理由から石を投げられることも多くなった。
「お前がもっと引き留めていたら、こんなことにはならなかった!」
なんて叫ばれることもたくさんあった。
たくさん責めて、石を投げられて、そこで俺はようやく元恋人の気持ちが分かった。
今さら、後悔しても遅いんだけどな。だからこそ。
「……ごほっ」
俺だけ健康だったのは、長年、彼女のお守りを持っていたからなのか。
もう俺しかこの国で、病気になっていない人間はいなかったから。
でも、お守りはとっくの昔に返してしまった。
だから、もうだめなんだろうな。
最後に会いたかったな。
きっと今もどこかで、俺が捨てたことを悲しんでいるに違いない。
今、会いに来たら、彼女の大好きな笑顔で迎えてやるのに。
抱きしめて、キスして「お前なしで生きていられない」って言ってあげるから。
「早く帰ってきてくれないかな」
彼女は、俺のことが大好きだから、「ごめんなさい」って泣きながら帰ってくるかもしれない。俺は、ずっと待っている。
◇
「そういえば、ついにお前の元いた国の世界樹が枯れたぞ」
「え?」
私はというと、そんな国のことをすっかり忘れていた。
忘れていたというか、思い出す余裕がなかったというのが正しい。
「あの国、教会がないから、世界樹が枯れたらやばいんじゃない?」
「ああ。やばいことになってるみたいだな」
「ふ~ん」
私たちは、未だに教会に探されているので、元いた国に帰るどころか、その近くに行くこともない。だから、いったいどうなっているのか知ることは、今のところない。
「まぁ。いいんじゃない。私のお守りは偽物らしいし、本物のほうに頑張ってもらえば」
「頑張ってもらった結果が、こうなんだろ」
「だって、もう関係ないし」
私は、未だに許していない。
これで許せる人間がいたら、私はとっくに教会に入っている。
故郷のことを思い出したら、必然と元恋人のことも思い出した。
今、思い出してもむかつく…。
「絶対許さないし、絶対帰ってなんかやらない」
「まぁ、あの国に行く理由なんてないしな」
私は、コップに入ったワインを一気に飲んで、「今に満足してるから、昔を振り返らなくてよし!」と叫んだ。
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