19 / 41
19
しおりを挟む
「あれ?」
「どうしたの?」
一人の青年が、立ち止まった。
この国は、世界でも数少ない世界樹が生えていることで、有名な国だった。
本来ならば、教会が立ち、聖女や教会の人間が、結界を張ることで防いでいる瘴気は、この国では世界樹の力によって、浄化され、守られていた。
世界樹の周囲に魔物が近寄ることはなく、この国は、ほかの国と比べると教会がないこともあり、神に対する信仰がなかった。
今まで、どうにかなってきたのだから、どうにでもなるという精神である。
だから、高い金額の寄付を教会にすることもなく、教会が立つことに反対する国民が多かったため、この国ではいまだに教会もなく、聖女が立ち寄ることもなかった。
世界樹がなくなったり、枯れたりしたら、考えればいい。
どうせそんなことはありえない。
国の誰もがそう思っていた。
この国の王ですら、そう思っていた。
だから、教会の手紙も無視をしていた。
その大事な世界樹に感謝する人間は、もういないという事実を知らないにも関わらず。
そして、たまたま世界樹を見上げた青年は、いつもと違う世界樹の様子に気づいた。
元気がない。
そんな気がする。
いつもは、淡く光っているのに、今日はなぜか枝がしなびているような気がしてならなかった。
「あの世界樹なんだけどさ。元気がないように見えて」
「世界樹?…あぁ。あの大きな木?それがどうしたの?」
「なんかしおれてないか?」
「そう?」
青年の恋人は、青年と同じく世界樹を見つめ、そして興味がなくなったと言わんばかりに、顔を振り、歩を進めた。
「気のせいじゃない?全然いつもと変わらないわ」
「そう?でも、光ってないし」
「光ってるときなんて、なかったじゃない」
「いや、いつもは光ってたはず…だけど…」
そういわれれば確かに最近、光った様子がない。
いつからだろうか。
世界樹が光らなくなったのは。
「そんなことより、早くお店行きましょうよ。予約したの、あの有名なとこなんでしょ」
「あ、ああ…」
「日も陰ってきたし、どうせ明日になれば、元気になるわよ。知らないけど」
「そ、そうだな。そうだよな…」
「あんな木、気にしてる人なんて、早々いないわよ。あなた、オタクだったの?」
「そういうわけじゃないけど、いつも見てたから、おかしいな…って」
「なんかあったら、王様が何とかしてくれるわよ。ほら、早く行きましょ」
「ああ…」
青年は、ちらりと世界樹を見つめる。
そうだ。
俺の目の錯覚かもしれないんだ。
それにあの世界樹は、きっと国が管理している。
だから、なにかあってもきっと国がなんとかしてくれる。
だから、自分が何かをする必要はないし、何かにきづいたとして、何ができるというのだ。
そう思うのに、
なぜだかずっと、嫌な感じがする。
「どうしたの?」
一人の青年が、立ち止まった。
この国は、世界でも数少ない世界樹が生えていることで、有名な国だった。
本来ならば、教会が立ち、聖女や教会の人間が、結界を張ることで防いでいる瘴気は、この国では世界樹の力によって、浄化され、守られていた。
世界樹の周囲に魔物が近寄ることはなく、この国は、ほかの国と比べると教会がないこともあり、神に対する信仰がなかった。
今まで、どうにかなってきたのだから、どうにでもなるという精神である。
だから、高い金額の寄付を教会にすることもなく、教会が立つことに反対する国民が多かったため、この国ではいまだに教会もなく、聖女が立ち寄ることもなかった。
世界樹がなくなったり、枯れたりしたら、考えればいい。
どうせそんなことはありえない。
国の誰もがそう思っていた。
この国の王ですら、そう思っていた。
だから、教会の手紙も無視をしていた。
その大事な世界樹に感謝する人間は、もういないという事実を知らないにも関わらず。
そして、たまたま世界樹を見上げた青年は、いつもと違う世界樹の様子に気づいた。
元気がない。
そんな気がする。
いつもは、淡く光っているのに、今日はなぜか枝がしなびているような気がしてならなかった。
「あの世界樹なんだけどさ。元気がないように見えて」
「世界樹?…あぁ。あの大きな木?それがどうしたの?」
「なんかしおれてないか?」
「そう?」
青年の恋人は、青年と同じく世界樹を見つめ、そして興味がなくなったと言わんばかりに、顔を振り、歩を進めた。
「気のせいじゃない?全然いつもと変わらないわ」
「そう?でも、光ってないし」
「光ってるときなんて、なかったじゃない」
「いや、いつもは光ってたはず…だけど…」
そういわれれば確かに最近、光った様子がない。
いつからだろうか。
世界樹が光らなくなったのは。
「そんなことより、早くお店行きましょうよ。予約したの、あの有名なとこなんでしょ」
「あ、ああ…」
「日も陰ってきたし、どうせ明日になれば、元気になるわよ。知らないけど」
「そ、そうだな。そうだよな…」
「あんな木、気にしてる人なんて、早々いないわよ。あなた、オタクだったの?」
「そういうわけじゃないけど、いつも見てたから、おかしいな…って」
「なんかあったら、王様が何とかしてくれるわよ。ほら、早く行きましょ」
「ああ…」
青年は、ちらりと世界樹を見つめる。
そうだ。
俺の目の錯覚かもしれないんだ。
それにあの世界樹は、きっと国が管理している。
だから、なにかあってもきっと国がなんとかしてくれる。
だから、自分が何かをする必要はないし、何かにきづいたとして、何ができるというのだ。
そう思うのに、
なぜだかずっと、嫌な感じがする。
56
お気に入りに追加
1,971
あなたにおすすめの小説
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。
何とかお姉様を救わなくては!
日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする!
小説家になろうで日間総合1位を取れました~
転載防止のためにこちらでも投稿します。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
王国冒険者の生活(修正版)
雪月透
ファンタジー
配達から薬草採取、はたまたモンスターの討伐と貼りだされる依頼。
雑用から戦いまでこなす冒険者業は、他の職に就けなかった、就かなかった者達の受け皿となっている。
そんな冒険者業に就き、王都での生活のため、いろんな依頼を受け、世界の流れの中を生きていく二人が中心の物語。
※以前に上げた話の誤字脱字をかなり修正し、話を追加した物になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる