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「あれ?」
「どうしたの?」

一人の青年が、立ち止まった。
この国は、世界でも数少ない世界樹が生えていることで、有名な国だった。
本来ならば、教会が立ち、聖女や教会の人間が、結界を張ることで防いでいる瘴気は、この国では世界樹の力によって、浄化され、守られていた。
世界樹の周囲に魔物が近寄ることはなく、この国は、ほかの国と比べると教会がないこともあり、神に対する信仰がなかった。
今まで、どうにかなってきたのだから、どうにでもなるという精神である。
だから、高い金額の寄付を教会にすることもなく、教会が立つことに反対する国民が多かったため、この国ではいまだに教会もなく、聖女が立ち寄ることもなかった。

世界樹がなくなったり、枯れたりしたら、考えればいい。
どうせそんなことはありえない。

国の誰もがそう思っていた。
この国の王ですら、そう思っていた。
だから、教会の手紙も無視をしていた。

その大事な世界樹に感謝する人間は、もういないという事実を知らないにも関わらず。

そして、たまたま世界樹を見上げた青年は、いつもと違う世界樹の様子に気づいた。
元気がない。
そんな気がする。
いつもは、淡く光っているのに、今日はなぜか枝がしなびているような気がしてならなかった。

「あの世界樹なんだけどさ。元気がないように見えて」
「世界樹?…あぁ。あの大きな木?それがどうしたの?」
「なんかしおれてないか?」
「そう?」

青年の恋人は、青年と同じく世界樹を見つめ、そして興味がなくなったと言わんばかりに、顔を振り、歩を進めた。

「気のせいじゃない?全然いつもと変わらないわ」
「そう?でも、光ってないし」
「光ってるときなんて、なかったじゃない」
「いや、いつもは光ってたはず…だけど…」

そういわれれば確かに最近、光った様子がない。
いつからだろうか。
世界樹が光らなくなったのは。

「そんなことより、早くお店行きましょうよ。予約したの、あの有名なとこなんでしょ」
「あ、ああ…」
「日も陰ってきたし、どうせ明日になれば、元気になるわよ。知らないけど」
「そ、そうだな。そうだよな…」
「あんな木、気にしてる人なんて、早々いないわよ。あなた、オタクだったの?」
「そういうわけじゃないけど、いつも見てたから、おかしいな…って」
「なんかあったら、王様が何とかしてくれるわよ。ほら、早く行きましょ」
「ああ…」

青年は、ちらりと世界樹を見つめる。
そうだ。
俺の目の錯覚かもしれないんだ。
それにあの世界樹は、きっと国が管理している。
だから、なにかあってもきっと国がなんとかしてくれる。
だから、自分が何かをする必要はないし、何かにきづいたとして、何ができるというのだ。

そう思うのに、
なぜだかずっと、嫌な感じがする。
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