上 下
47 / 47

47

しおりを挟む
兵士たちがじりじりと近づいてくる。

「オーロラ!」

私は、友達であるドラゴンの名前を呼んだ。
オーロラは、まだこの国の周辺にいたようで、すぐに飛んできてくれた。

「ひっ!」

兵士も王子もオーロラの姿を見て、慌てて逃げていく。

「ソニアッ!この国は、お前の力が必要なんだ!」
「もう遅いですよっ!それに聖女はほかにも5人もいますから。大丈夫です」
「ソニアがいなくては、魔石は誰が作るというのだっ!」
「一人欠けたくらいで破綻するような約束をドラゴンとしようとするのがおかしいんですっ!」

オーロラの背中から、叫ぶ。
まったく。この国もハズレか。
一つの国に定住しないで、各地を移動しながら、生活するしかないのかしら。

「ソニアッ!」
「オーロラ。もういい、早く行こう」

オーロラは、天高く上がっていく。
王子の叫び声は、やがて遠くなり、ついに聞こえなくなった。

「これからどこに行くんだ」
「聖女の力を必要としているところ」
「これ以上離れると、あの国の加護が外れるがいいのか?」
「あの国?」

オーロラのいうあの国が、どの国なのか分からず、首をかしげた。

「お前が元いた国だ」
「……あぁ」

そういえば、まだ加護あるんだっけ。

「まぁいいんじゃない。妹いるし。妹が頑張ってくれればいいでしょ」
「そういうものか?」
「別にいいよ。もう。私は、私を必要としてくれる人のところに行きたい」
「あの国も必要としていたじゃないか」
「あの国は、私の力というか、別に誰でもよかったよ。地竜の加護とか帝国に並ぶ力と豊かさが欲しかっただけっぽいし」
「ほかの国もそうなのではないか?」
「……う~ん」

確かにそうかもしれないな。
でも、もしかしたら、違うところもあるかもしれない。

「いや。それでもせめて、週4勤務の6時間労働がいい……」
「なにを言っているんだ」

あんな人間工場みたいな真似は、二度とやりたくない。
あの国に残された聖女5人は、私が抜けたら仲良く助け合って生きてほしい。

「気長に探すよ」
「また悠長な」

寿命の長いドラゴンにそういわれてしまえば、苦笑いしかできない。

「ずっと頑張ってきたんだから、今くらい、のんびりしてもいいでしょう」
「そういうものか」
「……あっ!」
「どうした」
「ストップ!ストップ!オーロラ、地竜に挨拶しに行きたい」
「地竜?…ああ」

オーロラは、くるりと空中で体の向きを変え、地上に向かった。
地竜は未だ、のんびりと魔石を食べている。

「誰かと思えば」
「別れのあいさつにきました」
「律儀だな」

あれだけ用意した石は、3分の1が減っていた。

「やっぱりドラゴンのお腹を満たすなんて無謀よね…」
「こいつは、大食漢だからな。こいつが異常なんだ」
「その分、働くんだからいいだろ」
「なんか色々とすみませんでした」
「別にいいさ。変に人間たちを殺すよりは後味はいい」
「はぁ……」

あのまま鉱山にいたら、王子たちの命令で殺しはしないものの、傷つきあう展開はあったかもしれない。そう思えば、確かに平和的に解決…はしてないが、一応はまとまっている。

「まぁ。人間の命は短いし、渡り鳥みたいな生活をする聖女が一人いても面白い。たまに話を聞かせにきてくれ」
「はぁ……」
「それで、この国の加護を伸ばしてやってもいい」
「それでいいなら」
「ドラゴンは、基本的に暇だからな。遊びに来られて喜んでいるんだ」
「喜びはしてないが、暇つぶしにはなる」
「はぁ……」

良く分からないが、それでこの国の加護が引き延ばされるんだったら、別にいいかな。
一応の宿代代わりとして、渡すにはちょうどいいだろう。

私は、地竜に別れを告げ、オーロラと一緒にまた天空を登っていく。

「帝国はどうだ?」
「帝国なんて、もっと面倒そう。もっと田舎がいいな。のんびりできるところがいい」

聖女を顔で判断するようなところじゃなければ、どこでもいいかな。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~

日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。 田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。 成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。 「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」 彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で…… 一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。 国王や王女は気づいていない。 自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。 小説家になろうでも短編として投稿してます。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」 カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。 それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。 でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。 そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。 ※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。 ※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。 ※追放側のマルセナsideもよろしくです。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...