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「…っ、う、くぅ…」
「おい。押されているぞ。どうした、聖女ともあろうものが、この程度の瘴気に押し負けるのか。やはり平和ボケして、腕が鈍ったか」
「冗談言わないでよ…ここまでひどいのは見たことがないんだから…!」

向かうは、アリーシャ王国。
さすがに徒歩では、距離があるので、オーロラの背に乗り、向かっている。
しかし、遠目から見ても瘴気が目に見えるほど、濃かったが、こうしてその中を飛んでいると、どれほどのものか実感する。

最初は、霧のように目に見えるだけだった瘴気がいつのまにやら嵐のように荒れ狂い、結界を押し返すほどのものになっている。

「押し戻されそう…!」
「もっと本気を出せ。ここが踏ん張りどころだ」

聖女と瘴気は相入れない存在同士。本来ならば、触れただけで霧散するはずの瘴気は、払われるどころか、こちらを拒絶し、強風に立ち向かっている時のように、体が、押し返される。

「瘴気が、ここまで酷いなんて…。あっちの国の人たちは、大丈夫かしら…」

瘴気に飲まれて、消えていった国は、多く、珍しいことではない。ただ、問題が一つ。

「アリーシャの聖女が消えたなんて、大問題だわ。どうしてその連絡がこちらに届かなかったのかしら」

アリーシャは、大きな国で、交易も盛んだ。
聖女だって、私が住んでいた国と違い、複数の聖女がいたはず。
一人逃げたくらいで、国が傾くわけがない。
それなのに、どうして…。

「どうして聖女は、逃げてしまったの?」
「さぁな」
「聖女がいなくなった国が、どうなるか分かっているはず。それなのに、どうして…」
「誰もがお前のようではないということだ」
「どういうこと?」
「お前は、少し自己犠牲が過ぎる。世の聖女の誰もがそうであれば、確かに良い。だが、聖女とて人間。保身に走る者とているだろう」
「…それは、国を捨て、多くの人が死ぬと分かっていても?」
「誰もが自分の身が可愛いものだ。お前とてそうだろう?」
「そうだけど…。でも、… … …」

もっと、どうにか出来なかったのだろうか?他の国に助けを求めることは出来なかったのだろうか。

「見えたぞ」
「… … …え?」

期待していなかった。
この瘴気の嵐の中だ。聖女もなしに持つわけがないと高をくくって、見に来てみれば、結界が張られている。

「… … …」

聖女がいるのだろうか。
だが、それにしては周りの瘴気が濃過ぎる。
私は、魔力を込めて、天へと手をかざす。

〈聖雨〉

天空に広範囲の魔法陣を展開され、浄化効果が付与された雨が大地に降り注いだ。
通常であれば、これで瘴気は洗い流され、空気も土地も浄化されるはずだった。

―ばちっ!ばち…ばち…ばち…。

そんなものは、無駄だとでも言うように浄化された先から、また穢れが発生し、瘴気が生まれる。
一瞬、きれいになった空間は、またもや瘴気に包まれ、何も見えなくなった。
…そうか。この土地は、もう呪われているのか。
ならば、聖女としてやることは一つ。この土地を浄化し、神降ろしをする。
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