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「さて、どうしたものかな」

私は、ぽつんと一人立っていた。
村を出て、少しばかり歩いた。
見渡す限り、何もない。このあたりの土地は、私の結界の影響で魔物の出現率が、かなり低い。そのせいか、どこかのんびりとした雰囲気だ。
魔物の出現率が低いということは、旅人を狙う野盗の心配があるが、その点でも問題はない。
遠くから、巨大な影が、こちらに近づいてきたかと思えば、あっという間に私の頭上で立ち止まると、静かに地上へと下りてきた。
巨大な翼が起こした突風に思わず目を閉じる。
見上げる首が痛くなるほど、巨大なドラゴン。
真珠のごとき鱗は、虹色を帯びており、角度によって、色を変えるさまは、まさに生きた宝石である。ここからは、見えない瞳もオーロラをはめ込んでいるとでも思えるほど、鮮やかな色をしている。
美の化身。白竜。
地域によっては、神の使いと崇められていることがあるのが、頷けるほどに美しい。
一つ一つの動作が神々しく、普通の人間ならば、圧倒的なまでの美しさと優雅さに膝をつくことだろう。
ドラゴンは、首を傾げ、私に尋ねた。

「こんな辺鄙なところで何をしている?」
「お久しぶりね。あいかわらず元気そう」

このドラゴンの名前は、まさに名を体で表すがごとく「オーロラ」という。
ここ一帯は、この巨大なドラゴン、オーロラの縄張りである。とはいっても、昔から住んでいるわけではない。実のところ、このオーロラがここに住み着いたのは、ごく最近のことで、元々は、はるか遠くの土地からやってきた外来者だった。

疫病と呪いと共にやってきたドラゴンの形をした巨大な災害から、我が国を守るために死闘を繰り広げ、私とドラゴン、お互い精魂尽くし倒れ伏したのが、今では懐かしい。
なんだかんだあって、元いた住処に戻ることもなく、気づくと、オーロラは、すっかりとこの土地に居着いてしまったのである。
ドラゴンにかけられた呪いを取り払ったお礼なのかは知らないが、こうしてわざわざ私の国も含め、ここら一帯を見張ってくれているおかげで、遠くからやって来る旅人は、なんの危険も不安もなく、我が国や周辺の国へと旅することが出来ている。
魔物や野党に荷物が盗まれる危険性も襲われる危険性もないことで、交易が栄え、おかげで、この周辺は、平和で有名な国とまで言われるようになった。



「なるほど。しかし、お前を追い出すとは、何たる無礼。今まで助けられた恩を忘れるとは、愚鈍な人間らしい。して、聖女。復讐を望むのであれば、私の力を貸すこともやぶさかではない」
「別にいいわよ」
「む。つまらん」

私の答えが期待していたものと違っていたらしい。
なにやら不貞腐れて、倒れこんでしまった。
ブンブンとしっぽを勢いよくふっているせいで、またもや強風に襲われる。バサバサと髪と服がまくれ、うっとおしいこと、この上ない。

「…はぁ。―我に守りの加護を与えたまえ」

結界を張り、突風から身を守る。
それが不満なのか、今度はバシバシと結界をしっぽで叩いてくる。
じゃれているのか何なのか知らないが、これが私でなかったら、とっくに結界をぶち破られて、しっぽに踏みつぶされているところだ。

オーロラを無視し、私は地図を広げると、自分の位置を確認する。
少し遠いが、ここからなら、アリーシャ王国が近い。あそこは、帝国に比べると小さい国だが、ここら一帯の国と比べると大きな国である。

「この先に行くのは、あまりおすすめしないぞ」
「どうして?」
「この先の国に聖女はいない」
「えっ?…でも、確か有名な聖女がいたわよね…」
「有名かどうかは知らんが、聖女はいたな…」
「なら、」
「だが、逃げた」
「え?」

「あそこは、聖女に逃げられた国だ」
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