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「あの殿方は、どなたです?」
「ん?…あぁ。あの方は、   帝国のオスカー殿下だよ」
「まぁ。あの方が噂の…」

帝国のオスカー。
数多の国を手中にした帝国を収める王の子供。
今、オスカーに跪いている自国の王子の情けなさ。
しょせん、こんな小さな国の王子だ。
輝きが違う。違いは、一目瞭然。
あぁ。あの人こそ、私の王子様。

「ああ…ご機嫌麗しゅう。私の名前は…」

近づく私に気づいた殿下が、私を見た。
すっと、目が細められ、品定めするような目つきに私は、勝ちを確信したときだった。


―ドオオオォォオオオン!!!

「きゃぁ!」
「うわ」

突然、鳴り響いた轟音と衝撃に会場が揺れる。
私は、思わず座り込んでしまう。

「な、なに…?」

「なにごとだ」
「殿下を狙った敵のものかと」
「殿下。ここは、危険です。お逃げください」

え?私、まだ挨拶してないんだけど!?今、行かれたら、困る!

「で、殿下!私の名前を…」
「どけ。小娘!」
「きゃっ!」

兵士が、無理やり私を押しのける。
乱暴をされたことがない私は、その力に思わず倒れこんでしまった。
な、なんなの!?この兵士!兵士の分際で、私を倒すなんて許されると思ってるの?

「ちょっといきなり何?」
「リリア!お前、彼女に乱暴するな!」
「そうよ!私を誰だと思ってるの?私は…」

殿下の美しい瞳が、私を見つめた。
アメジストをはめ込んだような美しい瞳が、私をとらえる。
あぁ。殿下。なんて美しい…。
殿下が、私を見つめている。きっと私の美しさに見惚れてしまったのね。
名前を名乗らなくては…。

「殿下…」
『皆さん。聞こえますでしょうか?』
「は?」

無粋な声が辺りに響き渡る。
この不愉快な声は、忌々しい、あの姉の声。
一体、どこから?
きらきらと輝く光の玉が、天井に浮いている。
声は、あそこから出ているらしい。

「なに?」
『会場から、出ることを禁止します。結界が破られてしまいました。今、早急に、国に結界を張り直しております。城には、すでに二重の結界を張り終えておりますので、ご安心下さい。今、そこはこの国で、一番安全な場所です。まぁ、内部に敵がいなければの話ですが…』
「おい!お前、今どこにいるんだ!結界を破られたなんて、怠慢だろ!」
『それを言われてしまえば、返す言葉もありません。申し訳ございません。あとで、お叱りも処置もいくらでも受けます。ですが、今は、しばしお待ちください』
「お前!俺たちに命令するのか?」
『非常事態です。お許しを』
「おい!僕は、王子だぞ!」
「ルイ。お前は、黙れ。…ソニア。いけそうか?」
『はい』
「任せた」
『かしこまりました』

国の結界が、破られた?
ありえない。ってことは、この国には、敵がうようよいるってこと?
気持ち悪い!

「早く!倒しなさいよ!この役立たず!」

あんたのせいで、私の計画が、全部ぱぁになっちゃったんだから!
国の結界がきちんと張りなおされていないせいで、市街のほうが、爆発音で、うるさい。
こんな空気で、どうロマンチックになるっていうのよ!
私が、殿下といい雰囲気に持って行って、そのままお持ち帰りされる予定なのよ!?
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