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呆れて物も言えないとは、このことだ。
私が、どれほど時間と労力を削って、それこそ倒れるまで頑張ってきたと思っているんだ。誰も頼れない中で、必死に頑張ってきた。聖女は、私一人しかいないことに対するプレッシャーに押しつぶされそうになったことだってある。
でも、私しかいないから…。私以外誰もいなかったから、頑張ってきた。頑張ってこれたというのに。この王子様は、そのすべてを否定するのか…。

「君は仕事を夜遅くまでしていると言ったが、それは効率が悪いからではないのか?現に他国の聖女は、もっと仕事が早く終わっていると聞く」
「それは…」

私のやり方は、確かに効率が悪いのかもしれない。
分からない。私の前の代の聖女は、すでにいない。老衰で、先立ってしまったからだ。先生は、色々なことを教えてくれた。
聖女の仕事のことだけではなく、家事や料理に関しても色々と。

「貴方を一人にして、ごめんなさいね。王には、何度も助けを求めたのだけど…」
「大丈夫です。先生。私、一人でもやっていけます」
「いいえ。聖女の仕事は、補佐が絶対に必要なの。貴方は人間なのだから。ずっとは無理なの。本当は、私以外にも聖女はいたのだけど…」
「王に辞めさせられてしまったのでしょう。しかたありません」
「国の命に係わることなのに、あの王ときたら…」
「先生…誰が聞いているか分かりません」
「私は、腐っても聖女よ。王の悪口の一つや二つ見逃してもらえるくらいには、偉いのよ」

そういって、気丈に笑っていた先生も、もういない。

「そうなのかもしれません。ですが、私は決して仕事に手を抜いたわけではありません」
「黙れ。言い訳は聞きたくない」
「お姉さま。見苦しいですよ」

どの口が言ってるんだ。
あぁ。もう、私は本当に今まで何をやってきたのだろう。
妹が、こうも大口を叩けるのは、今までさんざん甘やかされてきたからだ。
いつまでもそうやって甘えていれば、苦労などしなくても良かったのに。なぜ今更になって、こうも聖女にこだわるんだ。
王子も王子だ。
どこの誰か知らないが、よけいなことを吹き込んで。
私がいなくなったら、本当にこの国は傾いてしまうかもしれないというのに。呑気なことだ。
さすがに王子の独断だけで、私を追い出すことは不可能だろう。
一応、聖女としての実績が私にはある。
王様だって、馬鹿ではない。
こんな馬鹿の親なんだから、もしかしたら程度が知れているかもしれないが、さすがにこれは、ストップがかかるだろう。
王が許してもその部下が止めてくれるだろう。

私は、楽観的に考えていた。
だが、すぐにその考えは、覆されることになる。
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