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2章
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神殿は、城から大きく離れた場所にあるらしい。確かに周囲には人工的な建物も何もなく、ただ美しい平原の風景が広がっていた。その中に、ぽつんと建つ神殿は、遠くからでも目立っていただろう。
今は、崩れて影も形もないが。
私たちは、王子の先導のもと、神殿から城へと向かっていた。道中、何もない静かな平原を進んでいく中で、兵士たちが慎重に警戒を怠らない様子がうかがえた。私が王子に何かしないか不安と恐れがあるのだろう。
私が神殿を壊したと思われているのだろうし、本当に聖女なのかも怪しいのだから、疑うのは当たり前だろう。
ちらりと、王子を見る。
横顔も美しいな。ぼんやりと美術品を見るような気持ちで、じっと王子を見続けていると、その視線に気づいた王子が私を見た。
「歩くのに疲れたか?」
「いえ…ずいぶんと離れたところにあるんだなって」
「神殿は、神聖な場所だからな。普段は選ばれた人間か、特別な行事のとき以外は、立ち入ることも許されない」
「神殿が壊れてから、ずいぶんと早く来たように思えましたが」
「地震なんて、この国始まって以来のことだからな。神殿で、何かあったに違いないと思ったんだ。神殿が、城から離れていたとしても加速魔法を使えば、あっという間に着く」
「魔法…存在するんですね」
「あなたがいた世界に魔法は存在しないのか?」
「ファンタジー…おとぎ話に出てくるものとしか」
王子と私が話している内容を聞いているほかの兵士や神官が馬鹿にしたように笑っている。
「魔法がないのが、おかしいですか?」
「おい。失礼だぞ。彼女は、異世界から来たんだろう?この世界とは、違う文明を持っていたとしても不思議ではない」
「いえ。失礼。ずいぶんと原始的な世界から来たと思いましてな。通りで、育ちが悪そうな言葉を使うと思いました」
「納得ですな」
魔法が使えないのは、原始的という認識なのか。
元の世界でいうと、科学技術が発達していない国や地方のイメージに近いのだろうか。
「ええ。すみません。私も裸に近い恰好をしていれば、よかったですかね?」
「ふん。似たようなものだろうが。そんな下品な服、見たことがない。黒一色など」
スーツ姿は、この世界では下品なのか。
確かに彼らの服装は、白を基調としているものが多い。
さすがに兵士たちはそうでもないらしいが。
その中で、黒一色のスーツというのは、珍しいのかもしれない。
「これが、私たちの基本装備なんですよ。正装、制服といったほうがいいかもしれませんが」
「なるほど。伝統的な服装なんだな。黒は、こちらの世界ではあまりメジャーな色ではないんだ」
「すみません。何せ無理やり、こちらの予定も聞かず、問答無用で連れてこられたものですから、もし、呼ばれるが分かっていたら、ドレスでも着てきたんですけどね。真っ白なやつ用意する時間も余裕も、こちらの意志も何もなく、連れてこられたもんですから」
「ああ。それは、すまなかったね」
王子は、私の言葉に苦笑いした。
よかった、常識人っぽい。
無言になった神官たちよりは、よほど話が通じる。
今は、崩れて影も形もないが。
私たちは、王子の先導のもと、神殿から城へと向かっていた。道中、何もない静かな平原を進んでいく中で、兵士たちが慎重に警戒を怠らない様子がうかがえた。私が王子に何かしないか不安と恐れがあるのだろう。
私が神殿を壊したと思われているのだろうし、本当に聖女なのかも怪しいのだから、疑うのは当たり前だろう。
ちらりと、王子を見る。
横顔も美しいな。ぼんやりと美術品を見るような気持ちで、じっと王子を見続けていると、その視線に気づいた王子が私を見た。
「歩くのに疲れたか?」
「いえ…ずいぶんと離れたところにあるんだなって」
「神殿は、神聖な場所だからな。普段は選ばれた人間か、特別な行事のとき以外は、立ち入ることも許されない」
「神殿が壊れてから、ずいぶんと早く来たように思えましたが」
「地震なんて、この国始まって以来のことだからな。神殿で、何かあったに違いないと思ったんだ。神殿が、城から離れていたとしても加速魔法を使えば、あっという間に着く」
「魔法…存在するんですね」
「あなたがいた世界に魔法は存在しないのか?」
「ファンタジー…おとぎ話に出てくるものとしか」
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「魔法がないのが、おかしいですか?」
「おい。失礼だぞ。彼女は、異世界から来たんだろう?この世界とは、違う文明を持っていたとしても不思議ではない」
「いえ。失礼。ずいぶんと原始的な世界から来たと思いましてな。通りで、育ちが悪そうな言葉を使うと思いました」
「納得ですな」
魔法が使えないのは、原始的という認識なのか。
元の世界でいうと、科学技術が発達していない国や地方のイメージに近いのだろうか。
「ええ。すみません。私も裸に近い恰好をしていれば、よかったですかね?」
「ふん。似たようなものだろうが。そんな下品な服、見たことがない。黒一色など」
スーツ姿は、この世界では下品なのか。
確かに彼らの服装は、白を基調としているものが多い。
さすがに兵士たちはそうでもないらしいが。
その中で、黒一色のスーツというのは、珍しいのかもしれない。
「これが、私たちの基本装備なんですよ。正装、制服といったほうがいいかもしれませんが」
「なるほど。伝統的な服装なんだな。黒は、こちらの世界ではあまりメジャーな色ではないんだ」
「すみません。何せ無理やり、こちらの予定も聞かず、問答無用で連れてこられたものですから、もし、呼ばれるが分かっていたら、ドレスでも着てきたんですけどね。真っ白なやつ用意する時間も余裕も、こちらの意志も何もなく、連れてこられたもんですから」
「ああ。それは、すまなかったね」
王子は、私の言葉に苦笑いした。
よかった、常識人っぽい。
無言になった神官たちよりは、よほど話が通じる。
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