上 下
5 / 6
本編

呆然なるままに

しおりを挟む
 死神が引きずられていったのは、小さな一軒家いっけんやだった。
 聞くに、ここは九條愛日の自宅であり、兄と二人で暮らしているらしい。
 死神は愛日によってぐいぐいと奥まで押されてゆき、『からだを冷やすと一大事なので』という言葉と共に、浴室へつめられた。

 呆然としたまま、シャワーを浴びる死神。
(いや、『神術しんじゅつ』でいくらでも元の状態にできるんですけどぉ……)
 シャワーの温度は、丁度よい具合にあたたかくて。その心地よさが、彼をなんだかいたたまれなくさせる。
(あんな小さなからだでおれを、守ろうとした。しかも、心配まで……)
 彼はこれまで、うとまれること、恐れられることは数知れずあった。
 死神は、知らない。知らなかった。
 だれかによって与えられる、お節介なまでの強さと優しさを。
(~~冷静になれ、おれ!)

 手早くシャワーを済ませ、彼は頭を切りかえるようにわしゃわしゃと乱しながら浴室よくしつを出る。すると。
「あ」
「え??」
 そこには死神のれた衣服を洗濯機にしまいいれる、華奢きゃしゃな美少女がいた。
 対する死神は、全裸ぜんらである。
 すっ、と美少女――愛日は何事もなかったかのように洗濯槽へ洗剤を入れて、ぴぴっ、と操作を済ませ。死神へバスタオルとジャージの上下、そして男性用下着のパッケージを差しだす。
「これ、兄のと買い置きですが。お洋服が乾くまでどうぞ」
「――」
「では。失礼しました」
 真顔のまま、こともなげに告げて、洗面所から出てゆく少女。
「ぅええェ……??」
 死神は、行き場のない思いと着替え一式をかかえたまま、ただただ気の抜けた声をれながすしかできなかったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒツネスト

天海 愁榎
キャラ文芸
人間の想いが形となり、具現化した異形のバケモノ━━『想獣』。 彼らは、人に取り憑き、呪い、そして━━人を襲う。 「━━私と一緒に、『想獣狩り』をやらない?」 想獣を視る事ができる少年、咸木結祈の前に現れた謎の少女、ヒツネ。 二人に待ち受ける、『想い』の試練を、彼ら彼女らは越える事ができるのか!? これは、至って普通の日々。 少年少女達の、日常を描く物語。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

求不得苦 -ぐふとくく-

こあら
キャラ文芸
看護師として働く主人公は小さな頃から幽霊の姿が見える体質 毎日懸命に仕事をする中、ある意識不明の少女と出会い不思議なビジョンを見る 少女が見せるビジョンを読み取り解読していく 少女の伝えたい想いとは…

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

感情さん

あお
キャラ文芸
感情を知らない男子高校生が感情を知っていく物語です!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...