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災厄編第1章 災厄の始まり
第1節1款 災厄の日
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「撤退! 撤退だああ!」
「走れええええ」
「徹が! 誰か! 徹が!」
広く平らな湿地。そんな平和そうな場所は怒号と悲鳴で埋め尽くされていた。
ギルド日の出財団と蜃気楼旅団の混成部隊が〈江戸川濕地〉に突入したのは二十分くらい前の事だった。
もちろんそれはモニタ、又はVRゴーグルの向こうの話だった。
江戸川湿地は〈元の世界〉で言うところの千葉県浦安市と呼ばれる場所だ。
しかし、元の世界の様に夢に塗られたテーマパークも無ければ、泥水もが地から吹き出すほどに大人気な住宅地もここにはない。
ここにあるのは、治水や地盤の悪さで開発も出来ず放置された土地と、そしてそこに住み着き繁殖した小鬼とその集落、そして湿地を好む恐獣(いわゆるモンスタ)達の巣だ。
小鬼やその他の恐獣と言ってもここに居る奴らはレベルだけ見れば弱い。プレイヤタウンとも呼べる秋葉原(この世界では神田だが)や渋谷、池袋から遠くはなく、奥地に入り込まなければ初心者が単身で突入しても大丈夫な、初心者にとってはレベル上げには最適な場所だった。
もちろんそれはゲーム内のみの話しであって、〈元の世界〉にはそんな恐獣は存在しない。モニタと言う決して壊れない防壁があったから戦えていた。
しかし、突如その防壁は消え去ってしまった。
いくらレベルが高かろうが、いくらベテランプレイヤであろうが、そんな恐獣達が〈現実〉の目の前に現れれば対処できない。
ある者はナイフで引き裂かれ、ある者は棍棒で殴られ、ある者は捕まり彼等の〈集落〉へと引きずられていった。
この部隊を指揮していた隊長〈三文字淳〉は、部隊の最後尾に近い場所で撤退の指揮をしていた。尤も突入時は先陣を切っていたので、それが撤退行動になれば最後尾になるのも当然だが。
「とにかく走れー! 振り返るなー!」
小鬼の一団を背に撤退しながら、それこそ喉を潰す程に三文字は叫び走っていた。現場全体、そして三文字自身も混乱していた。
異変が起こった時はモニタを眺めていた三文字。突然の目眩と吐き気、その後にブラックアウト。そして気がつけばモニタの中の世界に居た。自分一人だけだったなら仲間に戦わせて余裕で敵前逃亡が出来ただろう。
しかし皆なでこの状況だ。隊列も協力も無く皆無我夢中に逃げ回っていた。
幸いな事に、剣を振れば切れるし突けば刺さる。そして誰かが魔法を使っているのも見た。
三文字の使っている、どう考えても効率の悪いバカでかく太く重い剣。しかし余裕で振るう事ができた。
落ち着いて立て直せば逃げるだけの現状をどうにか出来ただろう。
しかし三文字含めここにいる全員、そんな事を考える余裕も無く、江戸川湿地の出入口とも言える木造橋に向かって走っている。
―― なぜこんな事になった。
叫び走りながら三文字がそんな事を考えていると、左の方で小鬼に棍棒で殴られ連れて行かれようとしている奴が目に入った。
そして三文字はそいつの姿に見覚えがあった。
「晶郁!」思わず叫んでいた。親友の弟だった。
気がつくとバカでかい剣を振り上げ、晶郁を襲っていた小鬼共を引き裂いていた。
目の前の親友の弟は頭から血を流し、脚を有り得ない方向に曲げぐったりしていた。
親友の弟と言っても付き合いは長い。お互いよく知った中だ。頭が沸騰する感覚、冷静さを失う感覚には気がついていた。しかし、周囲の小鬼に突入して行く事を止める事は出来なかった。
気がつけば手当たり次第に小鬼を薙ぎ払っていた。
使っていた剣は斬れ味がとても良い。質量に任せて振るえば小鬼の脚も、腕も、首をも簡単に跳ね飛ばす事とが出来た。
「隊長! 撤退しますよ! 隊長ー!」
そして、一通り周囲の小鬼を倒したところで呼ばれていた事に気がついた。
声から察するに、副隊長の清水美帆だろう。
ゲームでは大変可愛らしいキャラクタであったが、三文字は本当の姿を知っている。オフ会でよく顔を合わせていたからだ。
四児の母をしながら夫が社長をしている紡績工場の工場長。その傍自治会長やPTA役員も務めきる強き母だ。ゲーム内の可愛いキャラとは無縁のガタイの良い貫禄ある女性だった。
そんな女性が返り血に覆われ、武具を担ぎ仁王立ちをしていた。
「晶郁は私が担ぐから、隊長は撤退を!」
右手に剣を、左肩に晶郁を担ぎ木造橋に向かって清水は走り出していた。
◆
見通して見える範囲で最後の人が木造橋を渡り切り、三文字も橋を渡った。見渡せば小鬼は既に居なかった。彼等の集落から離れ小鬼も追撃を諦めたのだろう。
小鬼や恐獣から逃げ切り、皆地面に座り込み呆然としている。そして回復魔法の使えるヒーラー達は困惑と疲労の顔をしながら駆け回っていた。
「二關君の弟さん…… えっと、晶郁君ですが……」
清水が静かに寄ってきた。
「死んだか……」
「いえ、心臓も動いているし息もしている。頭を強打されたのでしょう…… 意識が回復しなくて。あと、股関節が脱臼していると思います…… ヒーラーを当てて回復魔法を使っていますが…… 見た目ほどは悪くないかと」
清水は三文字に静かに語りかけていた。晶郁は取り敢えずは生きている。『死ななくてよかった』そう三文字は思いながら胸をなでおろしていた。
「副隊長! 報告します。少なく見積もってですが行方不明が十八人、二十人が負傷です」
「わかった。報告ありがとう。北千葉に撤退しますので準備を続けてください」
〈北千葉拠点〉日の出財団の所有するギルド会館の一つ。現実で言う所の柏市と我孫子市に跨る財団の持つ拠点の中で最も大規模な拠点の一つだ。
このゲーム内の世界には〈宿場〉と区分される街があった。宿場街には探検家と呼ばれるプレイヤ向けの施設が多くあった。
ギルドの規模が大きなくなり、物資が増えれば増えるほど巨大な保管庫が必要になる。しかし、巨大な保管庫を持つには維持費がかかる。
このゲームには江戸や大坂等の都市から離れれば離れる程、地代や税金と呼ばれる維持費が安くなるシステムがあった。本館を都市に構え、保管庫などの大規模なギルド会館を作る際には維持費削減のために郊外に作る事が定石だった。らしい。
実務はリアルでも親友である理事長の二關や会長の一守に任せていたので三文字は聞かされただけだった。
しかしゲーム時代ならよかった。〈転移石〉と呼ばれる便利アイテムでギルド会館までひとっ飛び。しかしそれが何故か見つからない。
ワープが出来ないのだから歩くしかない。
更に不幸なのは、このゲームの道路事情は酷く劣悪だ。都心であるはずの、現実なら東京都江戸川区内。
見渡す限りの田圃と木造のぼろ家、そして土の道。自動車で通ればすれ違いは出来ないだろう。
環七通りも外郭環状も無いし、水戸街道は元の世界の様な立派な道路では無いだろう。
三文字が目の前の怪我人と、これから柏まで劣悪な道路を歩かねばならない現実突きつけられ呆然としていると、清水が馬を連れてきた。
「三文字隊長は麹町に行ってください。光郁君達が居るはずだから」
「清水さんは……」
「一応副隊長って立場だから。撤退指揮とります……」
この状況下でも冷静に対応している清水を見て、三文字も頭が回るようになってきた。
「負傷していない人員を集めて、ロストした人のホームに人員を配置しておいて下さい」
とりあえず、先に報告を受けたロストした人たちが生き返っているかの確認をしなければならない。
死ねば〈ホーム〉と呼ばれるゲーム内に存在する個人拠点のベッドで復活する。ゲームではそうだった。
魔法が使えるのだからゲーム時代の仕組みは『生きている』と三文字は考えていたが、転移石と言う便利アイテムが消えてしまった。
万が一もありえる。
そんな懸念を胸に三文字は清水や晶郁を残し、馬に跨り走り出した。剣を振るう要領で馬にも乗れた。騎乗レベルが決して高かった訳ではないが、五十レベル程はあったはずでどういうわけか身体に刻み込まれていた。
◆
馬に揺られどのくらい時間が経っただろうか。ようやく田んぼと民家の比率が逆転し、立派な橋にぶつかった。
〈兩國橋〉と刻まれた橋。ここを渡れば江戸中心地だ。
プレイヤタウンの一つ〈神田〉の直近と言う事もあって、今回の騒動で混乱している探検家が多くいた。
並ぶ商店のNPCに噛みつき、商店から物を奪い逃げる者もいる。探検家同士で喧嘩をし、一人で道端に座り込み涙を流している者も居た。
暴動一歩手前の光景だ。
日の出財団の本部がある麹町。元の世界で言うと地下鉄半蔵門駅の近くだ。あの辺りはプレイヤ向け施設も少なく、NPCの比率が高いエリアだ。
「本館は無事だろうか」三文字は誰に言うでもなく呟いた。
本館には親友の二關も一守もいる。「どうか無事であってくれ」そう願いながら混乱している探検家達を横目に馬を走らせた。
「走れええええ」
「徹が! 誰か! 徹が!」
広く平らな湿地。そんな平和そうな場所は怒号と悲鳴で埋め尽くされていた。
ギルド日の出財団と蜃気楼旅団の混成部隊が〈江戸川濕地〉に突入したのは二十分くらい前の事だった。
もちろんそれはモニタ、又はVRゴーグルの向こうの話だった。
江戸川湿地は〈元の世界〉で言うところの千葉県浦安市と呼ばれる場所だ。
しかし、元の世界の様に夢に塗られたテーマパークも無ければ、泥水もが地から吹き出すほどに大人気な住宅地もここにはない。
ここにあるのは、治水や地盤の悪さで開発も出来ず放置された土地と、そしてそこに住み着き繁殖した小鬼とその集落、そして湿地を好む恐獣(いわゆるモンスタ)達の巣だ。
小鬼やその他の恐獣と言ってもここに居る奴らはレベルだけ見れば弱い。プレイヤタウンとも呼べる秋葉原(この世界では神田だが)や渋谷、池袋から遠くはなく、奥地に入り込まなければ初心者が単身で突入しても大丈夫な、初心者にとってはレベル上げには最適な場所だった。
もちろんそれはゲーム内のみの話しであって、〈元の世界〉にはそんな恐獣は存在しない。モニタと言う決して壊れない防壁があったから戦えていた。
しかし、突如その防壁は消え去ってしまった。
いくらレベルが高かろうが、いくらベテランプレイヤであろうが、そんな恐獣達が〈現実〉の目の前に現れれば対処できない。
ある者はナイフで引き裂かれ、ある者は棍棒で殴られ、ある者は捕まり彼等の〈集落〉へと引きずられていった。
この部隊を指揮していた隊長〈三文字淳〉は、部隊の最後尾に近い場所で撤退の指揮をしていた。尤も突入時は先陣を切っていたので、それが撤退行動になれば最後尾になるのも当然だが。
「とにかく走れー! 振り返るなー!」
小鬼の一団を背に撤退しながら、それこそ喉を潰す程に三文字は叫び走っていた。現場全体、そして三文字自身も混乱していた。
異変が起こった時はモニタを眺めていた三文字。突然の目眩と吐き気、その後にブラックアウト。そして気がつけばモニタの中の世界に居た。自分一人だけだったなら仲間に戦わせて余裕で敵前逃亡が出来ただろう。
しかし皆なでこの状況だ。隊列も協力も無く皆無我夢中に逃げ回っていた。
幸いな事に、剣を振れば切れるし突けば刺さる。そして誰かが魔法を使っているのも見た。
三文字の使っている、どう考えても効率の悪いバカでかく太く重い剣。しかし余裕で振るう事ができた。
落ち着いて立て直せば逃げるだけの現状をどうにか出来ただろう。
しかし三文字含めここにいる全員、そんな事を考える余裕も無く、江戸川湿地の出入口とも言える木造橋に向かって走っている。
―― なぜこんな事になった。
叫び走りながら三文字がそんな事を考えていると、左の方で小鬼に棍棒で殴られ連れて行かれようとしている奴が目に入った。
そして三文字はそいつの姿に見覚えがあった。
「晶郁!」思わず叫んでいた。親友の弟だった。
気がつくとバカでかい剣を振り上げ、晶郁を襲っていた小鬼共を引き裂いていた。
目の前の親友の弟は頭から血を流し、脚を有り得ない方向に曲げぐったりしていた。
親友の弟と言っても付き合いは長い。お互いよく知った中だ。頭が沸騰する感覚、冷静さを失う感覚には気がついていた。しかし、周囲の小鬼に突入して行く事を止める事は出来なかった。
気がつけば手当たり次第に小鬼を薙ぎ払っていた。
使っていた剣は斬れ味がとても良い。質量に任せて振るえば小鬼の脚も、腕も、首をも簡単に跳ね飛ばす事とが出来た。
「隊長! 撤退しますよ! 隊長ー!」
そして、一通り周囲の小鬼を倒したところで呼ばれていた事に気がついた。
声から察するに、副隊長の清水美帆だろう。
ゲームでは大変可愛らしいキャラクタであったが、三文字は本当の姿を知っている。オフ会でよく顔を合わせていたからだ。
四児の母をしながら夫が社長をしている紡績工場の工場長。その傍自治会長やPTA役員も務めきる強き母だ。ゲーム内の可愛いキャラとは無縁のガタイの良い貫禄ある女性だった。
そんな女性が返り血に覆われ、武具を担ぎ仁王立ちをしていた。
「晶郁は私が担ぐから、隊長は撤退を!」
右手に剣を、左肩に晶郁を担ぎ木造橋に向かって清水は走り出していた。
◆
見通して見える範囲で最後の人が木造橋を渡り切り、三文字も橋を渡った。見渡せば小鬼は既に居なかった。彼等の集落から離れ小鬼も追撃を諦めたのだろう。
小鬼や恐獣から逃げ切り、皆地面に座り込み呆然としている。そして回復魔法の使えるヒーラー達は困惑と疲労の顔をしながら駆け回っていた。
「二關君の弟さん…… えっと、晶郁君ですが……」
清水が静かに寄ってきた。
「死んだか……」
「いえ、心臓も動いているし息もしている。頭を強打されたのでしょう…… 意識が回復しなくて。あと、股関節が脱臼していると思います…… ヒーラーを当てて回復魔法を使っていますが…… 見た目ほどは悪くないかと」
清水は三文字に静かに語りかけていた。晶郁は取り敢えずは生きている。『死ななくてよかった』そう三文字は思いながら胸をなでおろしていた。
「副隊長! 報告します。少なく見積もってですが行方不明が十八人、二十人が負傷です」
「わかった。報告ありがとう。北千葉に撤退しますので準備を続けてください」
〈北千葉拠点〉日の出財団の所有するギルド会館の一つ。現実で言う所の柏市と我孫子市に跨る財団の持つ拠点の中で最も大規模な拠点の一つだ。
このゲーム内の世界には〈宿場〉と区分される街があった。宿場街には探検家と呼ばれるプレイヤ向けの施設が多くあった。
ギルドの規模が大きなくなり、物資が増えれば増えるほど巨大な保管庫が必要になる。しかし、巨大な保管庫を持つには維持費がかかる。
このゲームには江戸や大坂等の都市から離れれば離れる程、地代や税金と呼ばれる維持費が安くなるシステムがあった。本館を都市に構え、保管庫などの大規模なギルド会館を作る際には維持費削減のために郊外に作る事が定石だった。らしい。
実務はリアルでも親友である理事長の二關や会長の一守に任せていたので三文字は聞かされただけだった。
しかしゲーム時代ならよかった。〈転移石〉と呼ばれる便利アイテムでギルド会館までひとっ飛び。しかしそれが何故か見つからない。
ワープが出来ないのだから歩くしかない。
更に不幸なのは、このゲームの道路事情は酷く劣悪だ。都心であるはずの、現実なら東京都江戸川区内。
見渡す限りの田圃と木造のぼろ家、そして土の道。自動車で通ればすれ違いは出来ないだろう。
環七通りも外郭環状も無いし、水戸街道は元の世界の様な立派な道路では無いだろう。
三文字が目の前の怪我人と、これから柏まで劣悪な道路を歩かねばならない現実突きつけられ呆然としていると、清水が馬を連れてきた。
「三文字隊長は麹町に行ってください。光郁君達が居るはずだから」
「清水さんは……」
「一応副隊長って立場だから。撤退指揮とります……」
この状況下でも冷静に対応している清水を見て、三文字も頭が回るようになってきた。
「負傷していない人員を集めて、ロストした人のホームに人員を配置しておいて下さい」
とりあえず、先に報告を受けたロストした人たちが生き返っているかの確認をしなければならない。
死ねば〈ホーム〉と呼ばれるゲーム内に存在する個人拠点のベッドで復活する。ゲームではそうだった。
魔法が使えるのだからゲーム時代の仕組みは『生きている』と三文字は考えていたが、転移石と言う便利アイテムが消えてしまった。
万が一もありえる。
そんな懸念を胸に三文字は清水や晶郁を残し、馬に跨り走り出した。剣を振るう要領で馬にも乗れた。騎乗レベルが決して高かった訳ではないが、五十レベル程はあったはずでどういうわけか身体に刻み込まれていた。
◆
馬に揺られどのくらい時間が経っただろうか。ようやく田んぼと民家の比率が逆転し、立派な橋にぶつかった。
〈兩國橋〉と刻まれた橋。ここを渡れば江戸中心地だ。
プレイヤタウンの一つ〈神田〉の直近と言う事もあって、今回の騒動で混乱している探検家が多くいた。
並ぶ商店のNPCに噛みつき、商店から物を奪い逃げる者もいる。探検家同士で喧嘩をし、一人で道端に座り込み涙を流している者も居た。
暴動一歩手前の光景だ。
日の出財団の本部がある麹町。元の世界で言うと地下鉄半蔵門駅の近くだ。あの辺りはプレイヤ向け施設も少なく、NPCの比率が高いエリアだ。
「本館は無事だろうか」三文字は誰に言うでもなく呟いた。
本館には親友の二關も一守もいる。「どうか無事であってくれ」そう願いながら混乱している探検家達を横目に馬を走らせた。
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