元カノと復縁する方法

なとみ

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9.二年間

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「じゃぁ、香月さんは君の提案を飲んだんだ。」

桐山はテーブルを挟んで座る旭に言った。
はい、と誇らしげに答える。

旭は、営業サポートを極めたいという希望と、香月が求める女性管理職への挑戦について、つい先日まで折り合いがつかず、価値観の押し付け合いのようなやり取りを続けてきた。
旭の頑張りを認めてくれるようにはなったが、管理職を目指さない立場を、面談のたびに甘い、甘い、と指摘された。
旭が自分にさせて欲しいと提案したのは、営業サポートのスーパーバイザーとして各部署をまわり、業務効率のアップを成果とするような立場だった。

「どう説得したの?」

楽しそうに桐山が聞く。

「最終的には、会社で初の実績になります、という言葉で決まりました。」

さすが、彼女の大好きな言葉だね、と笑った。

「君の、そういう強かなところも好きだよ。」

突然の言葉に、旭は固まった。この人は、油断をさせておいて急に斬り込んでくるようなことをする。

さて、と桐山が両手をテーブルの上で組む。

「何度も君には告げてきたけど、これを最後にする。」

「君のことが、好きだよ。」

「俺と結婚して欲しい。」

射抜くような視線から目をそらさず、旭は答える。

「ごめんなさい。」

はぁ、と桐山がため息をついた。

「彼と結婚しなかった時のために保留にしない?」 

「しません。」

その言葉を言った途端、あー、と、脱力したように背にもたれかかった。

「人生であんなに全力で人を誘惑したのは初めてだよ。」

思い出して顔が赤くなる。

「私も、初めてでした。」

その言葉に、そう?と少し嬉しそうに言う桐山に笑顔を見せる。

恋愛よりも、仕事の方が、ずっと楽だな。
そう言って、彼はどこか満足そうに微笑んだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「榛名さーん!!」

今月から一緒に仕事をしている南さんが駆け寄ってくる。確か、入社3年目と言っていただろうか。

「聞きました!?なんか、上海で活躍してた有望男子が帰ってくるんですって!!」

「へぇ、そうなんだ。」

穏やかに答える旭に、不満そうに言う。

「榛名さん、こんなこと、言いたかないですけど、榛名さん今年もう31でしょう。可能性のあるものにはどんどん行かないと、結婚出来ませんよ!!」

その剣幕に、そうだね、とくすくす笑う。

もう!分かってるんですか!!と怒っていたその子は、次の瞬間には旭の背後に目をやっていた。


「あ!橘さん!!」

橘さーん!!と今度は駆け去っていく。
あまりの可笑しさに声を出して笑った。


上手く振り払ってきたのか、旭を追いかけてきた橘が横に立つ。

「橘くん。」

「営業最優秀賞、おめでとう。」

ありがとうございます、と嬉しそうに微笑む姿も、随分大人びた。

「瀬戸口さん、帰ってくるんですね。」

見晴らしの良いバルコニーには、今は誰もいないようだ。

「旭さん」

「俺、あの二人が怖くて参戦できませんでしたけど、」

「あなたのこと、好きでした。」

「今度、手を離すことがあったら、俺が掴みにいきます。」

それだけ、言いたかったんで、と照れくさそうに笑った。

ありがとう、そう言って旭も頬を染めて微笑んだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

その日は、快晴で、オフィスから見える空は雲ひとつなく晴れ渡っていた。

フロア全体に声がかかり、新配属の主任紹介が行われる。
南さんが袖を掴み、あの人ですよ、と耳打ちしてきた。


毎日のように見ていたその姿は、記憶よりもずいぶん逞しくなった。

「上海から4月に戻ってきました。瀬戸口颯です。」
「どうぞ、宜しくお願いします。」

拍手で迎えられる中、

颯がまっすぐこちらを見る。

目が合い、彼は少年のような笑顔で笑った。
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