9 / 10
9.二年間
しおりを挟む
「じゃぁ、香月さんは君の提案を飲んだんだ。」
桐山はテーブルを挟んで座る旭に言った。
はい、と誇らしげに答える。
旭は、営業サポートを極めたいという希望と、香月が求める女性管理職への挑戦について、つい先日まで折り合いがつかず、価値観の押し付け合いのようなやり取りを続けてきた。
旭の頑張りを認めてくれるようにはなったが、管理職を目指さない立場を、面談のたびに甘い、甘い、と指摘された。
旭が自分にさせて欲しいと提案したのは、営業サポートのスーパーバイザーとして各部署をまわり、業務効率のアップを成果とするような立場だった。
「どう説得したの?」
楽しそうに桐山が聞く。
「最終的には、会社で初の実績になります、という言葉で決まりました。」
さすが、彼女の大好きな言葉だね、と笑った。
「君の、そういう強かなところも好きだよ。」
突然の言葉に、旭は固まった。この人は、油断をさせておいて急に斬り込んでくるようなことをする。
さて、と桐山が両手をテーブルの上で組む。
「何度も君には告げてきたけど、これを最後にする。」
「君のことが、好きだよ。」
「俺と結婚して欲しい。」
射抜くような視線から目をそらさず、旭は答える。
「ごめんなさい。」
はぁ、と桐山がため息をついた。
「彼と結婚しなかった時のために保留にしない?」
「しません。」
その言葉を言った途端、あー、と、脱力したように背にもたれかかった。
「人生であんなに全力で人を誘惑したのは初めてだよ。」
思い出して顔が赤くなる。
「私も、初めてでした。」
その言葉に、そう?と少し嬉しそうに言う桐山に笑顔を見せる。
恋愛よりも、仕事の方が、ずっと楽だな。
そう言って、彼はどこか満足そうに微笑んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「榛名さーん!!」
今月から一緒に仕事をしている南さんが駆け寄ってくる。確か、入社3年目と言っていただろうか。
「聞きました!?なんか、上海で活躍してた有望男子が帰ってくるんですって!!」
「へぇ、そうなんだ。」
穏やかに答える旭に、不満そうに言う。
「榛名さん、こんなこと、言いたかないですけど、榛名さん今年もう31でしょう。可能性のあるものにはどんどん行かないと、結婚出来ませんよ!!」
その剣幕に、そうだね、とくすくす笑う。
もう!分かってるんですか!!と怒っていたその子は、次の瞬間には旭の背後に目をやっていた。
「あ!橘さん!!」
橘さーん!!と今度は駆け去っていく。
あまりの可笑しさに声を出して笑った。
上手く振り払ってきたのか、旭を追いかけてきた橘が横に立つ。
「橘くん。」
「営業最優秀賞、おめでとう。」
ありがとうございます、と嬉しそうに微笑む姿も、随分大人びた。
「瀬戸口さん、帰ってくるんですね。」
見晴らしの良いバルコニーには、今は誰もいないようだ。
「旭さん」
「俺、あの二人が怖くて参戦できませんでしたけど、」
「あなたのこと、好きでした。」
「今度、手を離すことがあったら、俺が掴みにいきます。」
それだけ、言いたかったんで、と照れくさそうに笑った。
ありがとう、そう言って旭も頬を染めて微笑んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日は、快晴で、オフィスから見える空は雲ひとつなく晴れ渡っていた。
フロア全体に声がかかり、新配属の主任紹介が行われる。
南さんが袖を掴み、あの人ですよ、と耳打ちしてきた。
毎日のように見ていたその姿は、記憶よりもずいぶん逞しくなった。
「上海から4月に戻ってきました。瀬戸口颯です。」
「どうぞ、宜しくお願いします。」
拍手で迎えられる中、
颯がまっすぐこちらを見る。
目が合い、彼は少年のような笑顔で笑った。
桐山はテーブルを挟んで座る旭に言った。
はい、と誇らしげに答える。
旭は、営業サポートを極めたいという希望と、香月が求める女性管理職への挑戦について、つい先日まで折り合いがつかず、価値観の押し付け合いのようなやり取りを続けてきた。
旭の頑張りを認めてくれるようにはなったが、管理職を目指さない立場を、面談のたびに甘い、甘い、と指摘された。
旭が自分にさせて欲しいと提案したのは、営業サポートのスーパーバイザーとして各部署をまわり、業務効率のアップを成果とするような立場だった。
「どう説得したの?」
楽しそうに桐山が聞く。
「最終的には、会社で初の実績になります、という言葉で決まりました。」
さすが、彼女の大好きな言葉だね、と笑った。
「君の、そういう強かなところも好きだよ。」
突然の言葉に、旭は固まった。この人は、油断をさせておいて急に斬り込んでくるようなことをする。
さて、と桐山が両手をテーブルの上で組む。
「何度も君には告げてきたけど、これを最後にする。」
「君のことが、好きだよ。」
「俺と結婚して欲しい。」
射抜くような視線から目をそらさず、旭は答える。
「ごめんなさい。」
はぁ、と桐山がため息をついた。
「彼と結婚しなかった時のために保留にしない?」
「しません。」
その言葉を言った途端、あー、と、脱力したように背にもたれかかった。
「人生であんなに全力で人を誘惑したのは初めてだよ。」
思い出して顔が赤くなる。
「私も、初めてでした。」
その言葉に、そう?と少し嬉しそうに言う桐山に笑顔を見せる。
恋愛よりも、仕事の方が、ずっと楽だな。
そう言って、彼はどこか満足そうに微笑んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「榛名さーん!!」
今月から一緒に仕事をしている南さんが駆け寄ってくる。確か、入社3年目と言っていただろうか。
「聞きました!?なんか、上海で活躍してた有望男子が帰ってくるんですって!!」
「へぇ、そうなんだ。」
穏やかに答える旭に、不満そうに言う。
「榛名さん、こんなこと、言いたかないですけど、榛名さん今年もう31でしょう。可能性のあるものにはどんどん行かないと、結婚出来ませんよ!!」
その剣幕に、そうだね、とくすくす笑う。
もう!分かってるんですか!!と怒っていたその子は、次の瞬間には旭の背後に目をやっていた。
「あ!橘さん!!」
橘さーん!!と今度は駆け去っていく。
あまりの可笑しさに声を出して笑った。
上手く振り払ってきたのか、旭を追いかけてきた橘が横に立つ。
「橘くん。」
「営業最優秀賞、おめでとう。」
ありがとうございます、と嬉しそうに微笑む姿も、随分大人びた。
「瀬戸口さん、帰ってくるんですね。」
見晴らしの良いバルコニーには、今は誰もいないようだ。
「旭さん」
「俺、あの二人が怖くて参戦できませんでしたけど、」
「あなたのこと、好きでした。」
「今度、手を離すことがあったら、俺が掴みにいきます。」
それだけ、言いたかったんで、と照れくさそうに笑った。
ありがとう、そう言って旭も頬を染めて微笑んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日は、快晴で、オフィスから見える空は雲ひとつなく晴れ渡っていた。
フロア全体に声がかかり、新配属の主任紹介が行われる。
南さんが袖を掴み、あの人ですよ、と耳打ちしてきた。
毎日のように見ていたその姿は、記憶よりもずいぶん逞しくなった。
「上海から4月に戻ってきました。瀬戸口颯です。」
「どうぞ、宜しくお願いします。」
拍手で迎えられる中、
颯がまっすぐこちらを見る。
目が合い、彼は少年のような笑顔で笑った。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
昨日、彼を振りました。
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「三峰が、好きだ」
四つ年上の同僚、荒木さんに告白された。
でも、いままでの関係でいたかった私は彼を――振ってしまった。
なのに、翌日。
眼鏡をかけてきた荒木さんに胸がきゅんと音を立てる。
いやいや、相手は昨日、振った相手なんですが――!!
三峰未來
24歳
会社員
恋愛はちょっぴり苦手。
恋愛未満の関係に甘えていたいタイプ
×
荒木尚尊
28歳
会社員
面倒見のいい男
嫌われるくらいなら、恋人になれなくてもいい?
昨日振った人を好きになるとかあるのかな……?
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる