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雪に恋して4
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田町の駅に着いたのは夕方で、辺りはもう暗くなっていた。
改札を出ると、空気が道路で硬くなっているしまり雪のせいで、雪とは違う氷の世界のような冷えた匂いがする。
東京帰りの春鹿を待っていたのは戸田だった。
晴嵐が来ると思って遠慮なく迎えを頼んだのに、わざわざ面倒をかけて申し訳ない。
「え……もしかして晴嵐ってば落選して落ち込んでるの?」
「春鹿さん、それ違いますって! 認識違ってます!」
戸田は春鹿の勘違いに慄きながら、
「落選なんかじゃないですから! 入選したことがもう十分すごいんですって」
晴嵐は県の伝統工芸協会に呼び出され出かけているそうで、それで代わりに来てくれたそうだ。
戸田は、A子と一緒に遊びに来た後輩が気になっているとかで、彼女の話が聞くために春鹿の帰りを心待ちにしていたようだった。
「春鹿さんがいて、万が一、後輩さんも田舎暮らしがしたいってなったら、やべーっす! パラダイス! ああ、楽しくなるだろうなぁ。あ、もちろんA子さんもいらしたら楽しさ三倍!」
意外ではあったが、実は今回の旅行で後輩が誰より白銀を気に入ってくれていた。
戸田と意気投合したのも事実だが。
「流行ってるじゃないですか、田舎暮らし! 芸能人だって移住してる人多いし、それ系の人気ユーチューバーもたくさんいて」
「うーん、後輩ちゃんはスローライフっていうより物質主義なギャルだからなぁ、どうかなぁ……」
後輩はグルメとブランドが好きな生粋のお嬢様なのだ。移住してくるなどということは万が一にもないだろうけれど、そんな後輩が白銀を楽しんでくれたことは、嬉しいに違いなかった。
*
スーツ姿のまま、スイッチを入れたばかりのこたつに入る。
布団も冷えていて、全く暖かくない。
家の中は、急いで旅館へ移動するために出たときのままだった。
東京からめいめい持参してくれた土産がたくさん並んでいる。
ぼんやりと白い蛍光灯に照らされて、壁の古時計の針の音が響くのをしばらく聞いていた。
いろいろと考えなければいけないと思う。
しかし、いろいろと考える前に、しばらく留守にしていた間の片付けや出張中の洗濯など用事を済ます。
風呂から出て髪を乾かしたところで、ドライヤーの向こうでダンダンと玄関の戸をたたく音がした。
春鹿は、ため息をついて、冷えた土間へ下りる。
「もー、なによ」
鍵を開けると、ひゅっと肺に冷気が入る。
晴嵐が戸にもたれかかるようにして立っていた。
顔が赤い。
「ハルー、おがえりー」
「え、えー!? なんて格好してんのっ!?」
晴嵐の姿は紋付袴だ。
「裾びしょびしょじゃん! 足袋もやばい! 脱がなきゃ! 凍傷になるよ! ちょっと! 大丈夫?」
晴嵐は足元をふらつかせながら、どうにか居間の手前の冷えた板の間に寝転がった。
「なんでこんなに酔っぱらってんの!? 協会に行ってたんでしょ? どうやって帰って来たの」
「黒塗りの車で送迎づき」
「なにそのVIP待遇」
「表彰されで、祝賀パーティーみてなもんさあっで飲まされだ」
「えー! すごいじゃん!」
「ハル」
薄暗闇の中で、酔いつぶれて仰向けに転がっている晴嵐がとろんとした目で仰いでくる。
「……おがえり」
「ただいま」
「水、くれ」
晴嵐は、よっごらせ、と鈍い動きで上半身を起こし水を飲んだ。
春鹿はその傍らに腰を下ろす。
それから、しっかりとした口調で、
「……どうだった、東京は」
「えー? 別に……あ、暖かかった! 寒かったけど、こっちに比べれば全然」
春鹿の答えにふっと笑う。
「……帰っでこねかもって、ちょっとだげ思っだ」
「なんで。帰って来ない可能性なんてなかったでしょうが」
「ん、そうなんだども……。おがえり、春鹿」
「だから、ただいま! ってば」
何度言わせるのよと笑ってから、晴嵐に「せめて足袋は脱いで」と頼む。
「なんだ、おめはかあちゃか」と酔っ払いらしく絡んでから、まるで子どもみたいにつま先を引っ張って脱ぎ捨てた。
晴嵐は仙台平の袴の裾の濡れを気にしてか、それとももう動くのも億劫なのか、こたつに入るように促しても板の間から動こうとしない。
仕方なく、土間のストーブに火をつける。
障子を背もたれにして座る晴嵐の隣に春鹿も腰を下ろすが、そこは一応屋内というだけで室温は零度かそれ以下か。
吐く息は当然白い。
「寒くないの?」
「体さ火照っでるがらちょうどい。おい、おめーはなんか羽織っとげ」
風呂上がりの身体が湯冷めしないか気にして、自分の羽織を脱ごうとするのでストップをかけた。
春鹿はフリースの上にどてらを着て、靴下も二枚履きだ。
しかし寒さからではなく、心もとなさから膝を抱えて小さくなった。
暗がりのなかで、
「『入選おめでとう』だったんだね。あんたへの返信には残念だったねって送っちゃったけど……」
晴嵐は、酒のせいか気力の抜けた表情のまま、遠くないどこか一点を見つめている。
「正直、はながら大賞さ取れるなんで思っでながった。今年は特に、もっど有名で活躍されでる作家さんさ多ぐいだし」
「売れてるからとか年功序列とかってわけじゃないんでしょ?」
「一応はな。芸術品としでの価値や基準で審査されるごとにはなってる。ばって、世間的な評価とが話題性さあれば、やっぱり有利なんでねがな」
「ふうん」
「どこの世界でも同ずだろうけど、いぎなりバズったりするのも『運』の実力さ持っでる人の話であっで。千世のおかげで、最近少しは認めでもらえる機会も増えだけども、俺みでなのは地道にやっで行ぐしがねえのはもうわがってる。真剣に、真面目に、本気でやっでだがらって報われるわげでもねけどな」
そこで、晴嵐は「アレ」と顎で背後の居間を示した。
「あれって?」つられて、春鹿も振り返る。
「月桂樹」
「ああ」
「アレ、いな。銀と緑がよぐ合っで、鹿が森の中さいでるみてだ。おめが飾ってるの、こん前見てさ。閃いたづーか、作っでみてもんがでぎた」
「あんた、もう前向いてるの? すごいね」
「いちいち落ち込でられるか」
晴嵐は笑い飛ばすように天を仰いで、
「こごには手に入らねもんの方が多い。こったなごとにはもう慣れっこだ」
「そんな、夢破れることに慣れないでよ」
「さすがに慣れた。慣れて、それでも生きて。それが今の俺だ」
ストーブに乗せた薬缶がカンと鳴る。水が温まりはじめた合図だ。
春鹿はもう一度ぎゅっと膝を抱き、
「……あんまり落ち込んでないんだね」
「あ? だはんで……」
「少しだけ、村でお嫁になること想像したのに、私」
「ああ、そっぢか」と驚いた顔をするので、「ああ、って! ちょっと! 忘れてたんかい」と春鹿は足を崩す。
自分の方を向いて正座で居直られても、晴嵐はどこ吹く風で笑って、
「冗談だなんて言ったっきゃおめにも神様にも怒られるばって、神様さ手合わせで『健康で長生ぎしますように、金持ちさなれますように』って願うのど同じような軽い気持ちで掛けた願みでなもんで」
「軽い気持ち!?」
「そもそも、おめが本気に取るど思ってねがったし」
「そりゃ、あの状況で言われたら本気でとるよ!」
「そもそも『賞が取れだら』なんて情けねえ話だったべ。勝手に賞品にされねでよがったなぁ」
「そうじゃなくて。晴嵐とのどうこうと、賞のあるなしは関係ないことでしょ」
頬を膨らませて怖い顔で直視してくる春鹿を、晴嵐はゆっくりと見た。
「……白銀村で俺の嫁にならねといげねかもしれねのに、それでも帰っで来たのか」
「だからー、それとこれも関係はない! 出張に行って自分ん家に帰って来ただけ。ただの帰宅! それに……」
「うん?」
「……本当に出て行くことになるかもしれないし。会社が本社復帰しないかって言ってきて、まだ考え中だけど」
「そうか。いづ?」
「だからまだわかんないって。決めてもない」
「そうか」と晴嵐がもう一度言うので、
「だから、まだわかんない。迷ってる」
春鹿ももう一度言った。
「……でも、行くなら春から、かな」
「吾郎さは?」
「まだ言ってない。けど、そうなったら父ちゃんは残ると思う。今はまだ……」
「おっちゃんのことはなんも心配しねぐてもいいがらな。俺に任せで行げ」
「だからー、そこまでまだ考えが行ってないの。この先の未来のイメージ、まだゼロなの」
「そうか」
三度言って、晴嵐が項垂れるように頭を下げたので、
「せい……」
春鹿が名前を呼ぶ前に、晴嵐は顔を上げた。
「で、白銀で、嫁コさなる想像はどうだった?」
興味津々と言った表情でたずねてくる。
「……それも具体的にはイメージはできなかったけど」
「昔ほど、白銀村のごと、嫌いでなぐなったが?」
「……それは、うん」
「そんならもう、それだげでいさ」
晴嵐はコップに残っていた水をぐっと飲みほしてから、
「おめの後輩も、白銀で嫁コさなる気ねがな?」
「……ないと思うよ、それは……」
「残念だべ」
いてて、と体を起こすと、土間の隅にあった吾郎の長靴を探し当てて履いた。
袴に長靴。
当然、変だが雪国らしくて、雪国だから問題ない。
白銀はこれでいい。
これが白銀村だから。
春鹿に借りたもこもこの襟巻を巻いて、晴嵐は雪道を帰っていった。
改札を出ると、空気が道路で硬くなっているしまり雪のせいで、雪とは違う氷の世界のような冷えた匂いがする。
東京帰りの春鹿を待っていたのは戸田だった。
晴嵐が来ると思って遠慮なく迎えを頼んだのに、わざわざ面倒をかけて申し訳ない。
「え……もしかして晴嵐ってば落選して落ち込んでるの?」
「春鹿さん、それ違いますって! 認識違ってます!」
戸田は春鹿の勘違いに慄きながら、
「落選なんかじゃないですから! 入選したことがもう十分すごいんですって」
晴嵐は県の伝統工芸協会に呼び出され出かけているそうで、それで代わりに来てくれたそうだ。
戸田は、A子と一緒に遊びに来た後輩が気になっているとかで、彼女の話が聞くために春鹿の帰りを心待ちにしていたようだった。
「春鹿さんがいて、万が一、後輩さんも田舎暮らしがしたいってなったら、やべーっす! パラダイス! ああ、楽しくなるだろうなぁ。あ、もちろんA子さんもいらしたら楽しさ三倍!」
意外ではあったが、実は今回の旅行で後輩が誰より白銀を気に入ってくれていた。
戸田と意気投合したのも事実だが。
「流行ってるじゃないですか、田舎暮らし! 芸能人だって移住してる人多いし、それ系の人気ユーチューバーもたくさんいて」
「うーん、後輩ちゃんはスローライフっていうより物質主義なギャルだからなぁ、どうかなぁ……」
後輩はグルメとブランドが好きな生粋のお嬢様なのだ。移住してくるなどということは万が一にもないだろうけれど、そんな後輩が白銀を楽しんでくれたことは、嬉しいに違いなかった。
*
スーツ姿のまま、スイッチを入れたばかりのこたつに入る。
布団も冷えていて、全く暖かくない。
家の中は、急いで旅館へ移動するために出たときのままだった。
東京からめいめい持参してくれた土産がたくさん並んでいる。
ぼんやりと白い蛍光灯に照らされて、壁の古時計の針の音が響くのをしばらく聞いていた。
いろいろと考えなければいけないと思う。
しかし、いろいろと考える前に、しばらく留守にしていた間の片付けや出張中の洗濯など用事を済ます。
風呂から出て髪を乾かしたところで、ドライヤーの向こうでダンダンと玄関の戸をたたく音がした。
春鹿は、ため息をついて、冷えた土間へ下りる。
「もー、なによ」
鍵を開けると、ひゅっと肺に冷気が入る。
晴嵐が戸にもたれかかるようにして立っていた。
顔が赤い。
「ハルー、おがえりー」
「え、えー!? なんて格好してんのっ!?」
晴嵐の姿は紋付袴だ。
「裾びしょびしょじゃん! 足袋もやばい! 脱がなきゃ! 凍傷になるよ! ちょっと! 大丈夫?」
晴嵐は足元をふらつかせながら、どうにか居間の手前の冷えた板の間に寝転がった。
「なんでこんなに酔っぱらってんの!? 協会に行ってたんでしょ? どうやって帰って来たの」
「黒塗りの車で送迎づき」
「なにそのVIP待遇」
「表彰されで、祝賀パーティーみてなもんさあっで飲まされだ」
「えー! すごいじゃん!」
「ハル」
薄暗闇の中で、酔いつぶれて仰向けに転がっている晴嵐がとろんとした目で仰いでくる。
「……おがえり」
「ただいま」
「水、くれ」
晴嵐は、よっごらせ、と鈍い動きで上半身を起こし水を飲んだ。
春鹿はその傍らに腰を下ろす。
それから、しっかりとした口調で、
「……どうだった、東京は」
「えー? 別に……あ、暖かかった! 寒かったけど、こっちに比べれば全然」
春鹿の答えにふっと笑う。
「……帰っでこねかもって、ちょっとだげ思っだ」
「なんで。帰って来ない可能性なんてなかったでしょうが」
「ん、そうなんだども……。おがえり、春鹿」
「だから、ただいま! ってば」
何度言わせるのよと笑ってから、晴嵐に「せめて足袋は脱いで」と頼む。
「なんだ、おめはかあちゃか」と酔っ払いらしく絡んでから、まるで子どもみたいにつま先を引っ張って脱ぎ捨てた。
晴嵐は仙台平の袴の裾の濡れを気にしてか、それとももう動くのも億劫なのか、こたつに入るように促しても板の間から動こうとしない。
仕方なく、土間のストーブに火をつける。
障子を背もたれにして座る晴嵐の隣に春鹿も腰を下ろすが、そこは一応屋内というだけで室温は零度かそれ以下か。
吐く息は当然白い。
「寒くないの?」
「体さ火照っでるがらちょうどい。おい、おめーはなんか羽織っとげ」
風呂上がりの身体が湯冷めしないか気にして、自分の羽織を脱ごうとするのでストップをかけた。
春鹿はフリースの上にどてらを着て、靴下も二枚履きだ。
しかし寒さからではなく、心もとなさから膝を抱えて小さくなった。
暗がりのなかで、
「『入選おめでとう』だったんだね。あんたへの返信には残念だったねって送っちゃったけど……」
晴嵐は、酒のせいか気力の抜けた表情のまま、遠くないどこか一点を見つめている。
「正直、はながら大賞さ取れるなんで思っでながった。今年は特に、もっど有名で活躍されでる作家さんさ多ぐいだし」
「売れてるからとか年功序列とかってわけじゃないんでしょ?」
「一応はな。芸術品としでの価値や基準で審査されるごとにはなってる。ばって、世間的な評価とが話題性さあれば、やっぱり有利なんでねがな」
「ふうん」
「どこの世界でも同ずだろうけど、いぎなりバズったりするのも『運』の実力さ持っでる人の話であっで。千世のおかげで、最近少しは認めでもらえる機会も増えだけども、俺みでなのは地道にやっで行ぐしがねえのはもうわがってる。真剣に、真面目に、本気でやっでだがらって報われるわげでもねけどな」
そこで、晴嵐は「アレ」と顎で背後の居間を示した。
「あれって?」つられて、春鹿も振り返る。
「月桂樹」
「ああ」
「アレ、いな。銀と緑がよぐ合っで、鹿が森の中さいでるみてだ。おめが飾ってるの、こん前見てさ。閃いたづーか、作っでみてもんがでぎた」
「あんた、もう前向いてるの? すごいね」
「いちいち落ち込でられるか」
晴嵐は笑い飛ばすように天を仰いで、
「こごには手に入らねもんの方が多い。こったなごとにはもう慣れっこだ」
「そんな、夢破れることに慣れないでよ」
「さすがに慣れた。慣れて、それでも生きて。それが今の俺だ」
ストーブに乗せた薬缶がカンと鳴る。水が温まりはじめた合図だ。
春鹿はもう一度ぎゅっと膝を抱き、
「……あんまり落ち込んでないんだね」
「あ? だはんで……」
「少しだけ、村でお嫁になること想像したのに、私」
「ああ、そっぢか」と驚いた顔をするので、「ああ、って! ちょっと! 忘れてたんかい」と春鹿は足を崩す。
自分の方を向いて正座で居直られても、晴嵐はどこ吹く風で笑って、
「冗談だなんて言ったっきゃおめにも神様にも怒られるばって、神様さ手合わせで『健康で長生ぎしますように、金持ちさなれますように』って願うのど同じような軽い気持ちで掛けた願みでなもんで」
「軽い気持ち!?」
「そもそも、おめが本気に取るど思ってねがったし」
「そりゃ、あの状況で言われたら本気でとるよ!」
「そもそも『賞が取れだら』なんて情けねえ話だったべ。勝手に賞品にされねでよがったなぁ」
「そうじゃなくて。晴嵐とのどうこうと、賞のあるなしは関係ないことでしょ」
頬を膨らませて怖い顔で直視してくる春鹿を、晴嵐はゆっくりと見た。
「……白銀村で俺の嫁にならねといげねかもしれねのに、それでも帰っで来たのか」
「だからー、それとこれも関係はない! 出張に行って自分ん家に帰って来ただけ。ただの帰宅! それに……」
「うん?」
「……本当に出て行くことになるかもしれないし。会社が本社復帰しないかって言ってきて、まだ考え中だけど」
「そうか。いづ?」
「だからまだわかんないって。決めてもない」
「そうか」と晴嵐がもう一度言うので、
「だから、まだわかんない。迷ってる」
春鹿ももう一度言った。
「……でも、行くなら春から、かな」
「吾郎さは?」
「まだ言ってない。けど、そうなったら父ちゃんは残ると思う。今はまだ……」
「おっちゃんのことはなんも心配しねぐてもいいがらな。俺に任せで行げ」
「だからー、そこまでまだ考えが行ってないの。この先の未来のイメージ、まだゼロなの」
「そうか」
三度言って、晴嵐が項垂れるように頭を下げたので、
「せい……」
春鹿が名前を呼ぶ前に、晴嵐は顔を上げた。
「で、白銀で、嫁コさなる想像はどうだった?」
興味津々と言った表情でたずねてくる。
「……それも具体的にはイメージはできなかったけど」
「昔ほど、白銀村のごと、嫌いでなぐなったが?」
「……それは、うん」
「そんならもう、それだげでいさ」
晴嵐はコップに残っていた水をぐっと飲みほしてから、
「おめの後輩も、白銀で嫁コさなる気ねがな?」
「……ないと思うよ、それは……」
「残念だべ」
いてて、と体を起こすと、土間の隅にあった吾郎の長靴を探し当てて履いた。
袴に長靴。
当然、変だが雪国らしくて、雪国だから問題ない。
白銀はこれでいい。
これが白銀村だから。
春鹿に借りたもこもこの襟巻を巻いて、晴嵐は雪道を帰っていった。
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