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白銀東京スクランブル
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「春鹿さーん、お疲れ様です! こっち終わりましたよー!」
戸田の声に春鹿は雪かきの手を止めた。
「あ、たたた」
上体を起こすときに自然に腰に手が行く。下を向き続けての作業の負担はしっかり腰に来ているようだ。
戸田の方を見ると、村中から田部家の敷地に入ってくるゆるい下り坂の雪がなくなっている
一度すっかり村を埋めた雪は解ける間もなく、また白さに厚みを重ねていた。
前日にせっかく雪を退けた部分にも容赦ない。
「俺がやりますよー」
まだ雪が降る中を、頬と鼻を赤くした戸田がスコップを片手に駆け寄ってくる。長靴のせいか走る動きがぎこちない。
戸田が機械で手伝ってくれたのであっと言う間だったとは言え、雪かきを始めて三時間。その間に春鹿が除けた雪は家の玄関から庭だけの距離がやっとだ。
「ごめん、私のところ、全然、進んでないや」
春鹿の体力はそういうのももはややっとで、息が切れる。
「もう春鹿さんは休んでてください」
「ううん、せめてここくらい……」
「初めてにしちゃ上出来です! 千世なんて一年目、全く使い物にならなくて。最後、雪で遊んでましたからね!」
「そりゃ千世ちゃんはさぁ。私はここ育ちなんだよ。なのにこのザマ……」
「いやいや、逆に春鹿さんに手伝わせてしまって、ランさんが東京出張から帰って来たら、もうコレ怒られ案件です」
大げさに肩をすくめる。
「自分家のことなんだから私がやるのは当たり前なのに、晴嵐ってば。変な責任感じさせちゃってほんとごめんね」
「ランさんの名代ですから当然のこと! ちゃちゃっとやっちゃいます!」
そう言うや、春鹿とは比べものにならない力強さで戸田は庭の雪を退け始めた。
春鹿は軽く安堵のため息をついてから、被っていたフードを脱いだ。
頭から白い湯気が立ち上るのがわかるくらいに防水ジャケットの内は、汗が蒸れて上半身はサウナ状態になっている。
長靴の中の爪先は冷えと冷たさでじんじん痛いくらいなのに、晒された外気の冷たさが今は気持ちいい。
重く暗い空を仰ぐと、落ちてくる雪が頬に当たって火照りをかすかに冷ましてくれる。
晴嵐は千世と二人、東京に出張していて村に不在だ。
大雪が降って村に帰れず市内で一泊した次の日に、雪を除けたばかりの道を出発して行った。
もともとその予定はあったらしく、けして二人で過ごした夜に何もなかったことが原因ではない。
あの日、晴嵐はシャワーを終えてバスルームから出ると、「さて寝るか」と自分のベッドの布団に入った。
それまでの会話で、晴嵐の機嫌損ねたのは間違いなかったが、だからと言って怒って不貞寝したというわけでもなくて、晴嵐の態度はいつもと変わらなかった。
ただの幼馴染らしくそれぞれのベッドで眠り、朝を迎えた、というのが緊急避難の夜の顛末だ。
「ハル、おめさぼっちゃーらだめだべな。おう、戸田坊、甘酒さ飲んで行げ。もう十分だ」
一足先に休ませてもらうと言って、家に入っていた吾郎が玄関から姿を見せた。
「戸田くん、ほんとにもういいよ。ありがとう。助かった」
「そうっすか? ではこの辺で。春鹿さん、また積もったらいつでもやりますから」
「その時はまた頼むかも。さ、中どうぞ」
「あざーっす」
戸田もフードを脱ぐ。白い湯気を立ち上らせてせ、まだ残る雪を大股で踏んで進んで、玄関の中に消えていく。
代わりにまた吾郎が顔を出し、
「春鹿ももう入れ。疲れだべ」
「うん、ありがと」
一人雪の中に残された春鹿は、そこに腰の高さまで積もっている雪の塊を一つ手に取って、火照る頬に当てた。
不在の間の村のことを、晴嵐は戸田に頼んでくれている。
そんな心配をしてもらう義理はないと春鹿のした返事は可愛くないものだったが、結局はこうして助けられている。
腕に薄く積もっている雪を払いながら家に入ると、暗い土間の上がり框に腰を下ろして戸田がふうふうと冷ましながら甘酒を飲んでいた。
石油ストーブの天板に直置きされた鍋から吾郎がお玉ですくって入れてくれる。
「春鹿さんお疲れっすー!お先です!」
「餅も焼くか」と吾郎が聞き「食います!」と答える元気な声に、春鹿の疲れも少し飛んだ。
「あー、自分の無能さにショック……」
もう今日の体力は使い果たした。脱力して、戸田の隣に尻もちをつくように座り込んだ。
「いやいや、十分できてましたよー! 一年目の千世なんてスコップ一投目でいきなり腰やっちゃって即ベンチ要員でしたからね」
「いや……私は雪国生まれの雪国育ちなんだってば」
「だども、東京さ出る前におめにやらへだごどねがったはんで」
「すみません……父ちゃんに頼り切ってました」
三人で笑い合う。
確かに生まれも育ちも白銀とは言え、上京するまで雪かきの手伝いなどしたこともなかった。そう言う意味では経験値は千世と同じともいえる。
「お安い御用ですから気にしないで下さい!」
「ありがとう」
戸田の厚意は嬉しいけれど少し酸っぱい。
もっとできるようにならなければ思う。一人で、人に、晴嵐に迷惑をかけずにいられるように。
「戸田君は行かなくてよかったの、東京」
「いいんですいいんです、留守番も必要だし。行っても疲れるだけなんで」
「何言ってんの。若いのに」
神奈川出身だという戸田だが、
「すっかりここの静かさに慣れちゃいましたよ。正直、ずっと白銀に住みたいですもん」
「物好きだねぇ。こんな田舎じゃ、お嫁に来る子も可哀そうだよ」
「いやぁ、結婚はもう諦めてますよ。白銀細工に魅せられて、弟子入りさせてもらうときに一生独り身は覚悟だったんで」
戸田は眉尻を下げて、頭を掻いた。
「え……そこまで?」
「何百年前にお殿様に献上した看板だけで今の時代まで食っで行げるが」
「いや、勉強させてもらって給料までもらえて、師匠には十分してもらってます」
「大変なんだね……」
晴嵐もそれらしきことは言っていた。
伝統工芸が儲かるものでないのは簡単に予想はできるけれど。
戸田の話によると、国や県から助成や後継者育成のための補助や取り組みなども行われているらしいが、それでも現状は厳しいらしい。
それでも、三滝工房はかなり恵まれた職場のようだ。
吾郎はストーブの横に座って、網の上の餅をひっくり返しながら、
「せいちゃんに、塗りかなんかの名人の娘さんとせいちゃんの縁談があっだげど、ありゃ何年前が」
「漆器じゃなくて蒔絵です」
「ああ、隣のM市の?」
「まあ、あちらの方が全国区で有名ですけど。その人間国宝の先生が、県の伝統工芸組合の理事をされていて。確か千世が来た前後だったから、三年前ですかね。その時に県の育成人材に選ばれたりして、縁談話もあったもんだから、白銀細工も村もちょっと活気づいたんです」
「パトロンってこと?」
「まあ、下世話な言い方をすると……」
「なに、芸術なんてどの時代も一緒だべ。弱者が生き残っていぐ術だ」
「で、縁談はダメになったの?」
「こんな安月給で結婚なんかできるかよって。実際、セレブ感満載の人で、白銀に嫁ぐのを嫌がったのかもしれないですねぇ」
「まあ、そのお嬢様の気持ちもわかるかなぁ」
「そこそこ仲良さそうに見えてたんですけどね。県のミスアップルにも選ばれた綺麗な方で。イギリス留学されてたとかで視察名目でイギリスにも旅行されてましたし」
「へえ」
「正式に婚約とかされてたわけではなかったし、ポシャった時も破談ってほど深刻でもなかったですけど、村の人たちが勝手に騒いで勝手にしょんぼりして」
「そんき、玉の輿に期待されであったんだべ」
「それを言うなら逆タマだけど」
「でも、そのお嬢さん、あ、萬よろずさんって言うんですけど今は観光協会の方で働かれていて、いろんな工芸品の研修旅行とか展示会とか、ランさんにたくさん機会を下さってるんです。だから個人的に応援はしてくださってるんじゃないかなと」
創作活動以外に、わりと手広く活動しているなと思ったのは、その彼女のおかげもあったのかと春鹿は腑に落ちた。
「うちも千世が来て、その結婚には反対だったから、そんな身売りみたいなことはさせないって頑張って、千世は零細工芸のビジネスモデルとかそういうのも学校で勉強したらしいんで、SNSで宣伝したりネットで注文も受けたり。だから最近、業績自体は上がってるんです。今回の出張も千世の伝手で東京のアパレルブランドとコラボする企画の打ち合わせで」
「千世ちゃん、芸大だもんね。はあー。すごいや。昔みたいに土産物屋で細々売ってる時代じゃないんだな」
春鹿が感嘆していると、
「せいちゃんはいづ帰っでくるんだ?」と無骨な手で、吾郎が餅を乗せた皿に醤油をかけながら言った。
「三泊の予定だから、えっと、明々後日です。つか、改めて考えると、春鹿さんだけこっちに残ってるのなんか新鮮っすね。ランさん、最近の東京行きは春鹿さんの出張に合わせることが増えてましたから」
「口うるさいのがいなくてせいせいしてるよ」
「その間、俺が任されてるんで! 飲みに行ったりしちゃいますー?」
「いいねー。でも雪がね」
「ランさん、妬かせてみたい」
「だからー、そんなんじゃないから、私たち。幼馴染っていうか腐れ縁? ねえ、二人が出張してる間、よかったらウチでゴハン食べない?」
「えっ、いいんすか! 春鹿さんの手料理!」
「呼んでおいてなんだけど、この雪じゃ、運転が怖くて買い物も行けないからたいしてもてなせないけど」
「いえ、助かります! ランさんも千世もいなくて俺だけのためにおかみさんに賄い頼むのも申し訳ないと思ってたんで」
「じゃ、おばちゃんに連絡しておく」
「あざっす! 今日一日、頑張れるー!」
それから餅を三個も食べて、戸田は三滝の工房へ帰って行った。
戸田の声に春鹿は雪かきの手を止めた。
「あ、たたた」
上体を起こすときに自然に腰に手が行く。下を向き続けての作業の負担はしっかり腰に来ているようだ。
戸田の方を見ると、村中から田部家の敷地に入ってくるゆるい下り坂の雪がなくなっている
一度すっかり村を埋めた雪は解ける間もなく、また白さに厚みを重ねていた。
前日にせっかく雪を退けた部分にも容赦ない。
「俺がやりますよー」
まだ雪が降る中を、頬と鼻を赤くした戸田がスコップを片手に駆け寄ってくる。長靴のせいか走る動きがぎこちない。
戸田が機械で手伝ってくれたのであっと言う間だったとは言え、雪かきを始めて三時間。その間に春鹿が除けた雪は家の玄関から庭だけの距離がやっとだ。
「ごめん、私のところ、全然、進んでないや」
春鹿の体力はそういうのももはややっとで、息が切れる。
「もう春鹿さんは休んでてください」
「ううん、せめてここくらい……」
「初めてにしちゃ上出来です! 千世なんて一年目、全く使い物にならなくて。最後、雪で遊んでましたからね!」
「そりゃ千世ちゃんはさぁ。私はここ育ちなんだよ。なのにこのザマ……」
「いやいや、逆に春鹿さんに手伝わせてしまって、ランさんが東京出張から帰って来たら、もうコレ怒られ案件です」
大げさに肩をすくめる。
「自分家のことなんだから私がやるのは当たり前なのに、晴嵐ってば。変な責任感じさせちゃってほんとごめんね」
「ランさんの名代ですから当然のこと! ちゃちゃっとやっちゃいます!」
そう言うや、春鹿とは比べものにならない力強さで戸田は庭の雪を退け始めた。
春鹿は軽く安堵のため息をついてから、被っていたフードを脱いだ。
頭から白い湯気が立ち上るのがわかるくらいに防水ジャケットの内は、汗が蒸れて上半身はサウナ状態になっている。
長靴の中の爪先は冷えと冷たさでじんじん痛いくらいなのに、晒された外気の冷たさが今は気持ちいい。
重く暗い空を仰ぐと、落ちてくる雪が頬に当たって火照りをかすかに冷ましてくれる。
晴嵐は千世と二人、東京に出張していて村に不在だ。
大雪が降って村に帰れず市内で一泊した次の日に、雪を除けたばかりの道を出発して行った。
もともとその予定はあったらしく、けして二人で過ごした夜に何もなかったことが原因ではない。
あの日、晴嵐はシャワーを終えてバスルームから出ると、「さて寝るか」と自分のベッドの布団に入った。
それまでの会話で、晴嵐の機嫌損ねたのは間違いなかったが、だからと言って怒って不貞寝したというわけでもなくて、晴嵐の態度はいつもと変わらなかった。
ただの幼馴染らしくそれぞれのベッドで眠り、朝を迎えた、というのが緊急避難の夜の顛末だ。
「ハル、おめさぼっちゃーらだめだべな。おう、戸田坊、甘酒さ飲んで行げ。もう十分だ」
一足先に休ませてもらうと言って、家に入っていた吾郎が玄関から姿を見せた。
「戸田くん、ほんとにもういいよ。ありがとう。助かった」
「そうっすか? ではこの辺で。春鹿さん、また積もったらいつでもやりますから」
「その時はまた頼むかも。さ、中どうぞ」
「あざーっす」
戸田もフードを脱ぐ。白い湯気を立ち上らせてせ、まだ残る雪を大股で踏んで進んで、玄関の中に消えていく。
代わりにまた吾郎が顔を出し、
「春鹿ももう入れ。疲れだべ」
「うん、ありがと」
一人雪の中に残された春鹿は、そこに腰の高さまで積もっている雪の塊を一つ手に取って、火照る頬に当てた。
不在の間の村のことを、晴嵐は戸田に頼んでくれている。
そんな心配をしてもらう義理はないと春鹿のした返事は可愛くないものだったが、結局はこうして助けられている。
腕に薄く積もっている雪を払いながら家に入ると、暗い土間の上がり框に腰を下ろして戸田がふうふうと冷ましながら甘酒を飲んでいた。
石油ストーブの天板に直置きされた鍋から吾郎がお玉ですくって入れてくれる。
「春鹿さんお疲れっすー!お先です!」
「餅も焼くか」と吾郎が聞き「食います!」と答える元気な声に、春鹿の疲れも少し飛んだ。
「あー、自分の無能さにショック……」
もう今日の体力は使い果たした。脱力して、戸田の隣に尻もちをつくように座り込んだ。
「いやいや、十分できてましたよー! 一年目の千世なんてスコップ一投目でいきなり腰やっちゃって即ベンチ要員でしたからね」
「いや……私は雪国生まれの雪国育ちなんだってば」
「だども、東京さ出る前におめにやらへだごどねがったはんで」
「すみません……父ちゃんに頼り切ってました」
三人で笑い合う。
確かに生まれも育ちも白銀とは言え、上京するまで雪かきの手伝いなどしたこともなかった。そう言う意味では経験値は千世と同じともいえる。
「お安い御用ですから気にしないで下さい!」
「ありがとう」
戸田の厚意は嬉しいけれど少し酸っぱい。
もっとできるようにならなければ思う。一人で、人に、晴嵐に迷惑をかけずにいられるように。
「戸田君は行かなくてよかったの、東京」
「いいんですいいんです、留守番も必要だし。行っても疲れるだけなんで」
「何言ってんの。若いのに」
神奈川出身だという戸田だが、
「すっかりここの静かさに慣れちゃいましたよ。正直、ずっと白銀に住みたいですもん」
「物好きだねぇ。こんな田舎じゃ、お嫁に来る子も可哀そうだよ」
「いやぁ、結婚はもう諦めてますよ。白銀細工に魅せられて、弟子入りさせてもらうときに一生独り身は覚悟だったんで」
戸田は眉尻を下げて、頭を掻いた。
「え……そこまで?」
「何百年前にお殿様に献上した看板だけで今の時代まで食っで行げるが」
「いや、勉強させてもらって給料までもらえて、師匠には十分してもらってます」
「大変なんだね……」
晴嵐もそれらしきことは言っていた。
伝統工芸が儲かるものでないのは簡単に予想はできるけれど。
戸田の話によると、国や県から助成や後継者育成のための補助や取り組みなども行われているらしいが、それでも現状は厳しいらしい。
それでも、三滝工房はかなり恵まれた職場のようだ。
吾郎はストーブの横に座って、網の上の餅をひっくり返しながら、
「せいちゃんに、塗りかなんかの名人の娘さんとせいちゃんの縁談があっだげど、ありゃ何年前が」
「漆器じゃなくて蒔絵です」
「ああ、隣のM市の?」
「まあ、あちらの方が全国区で有名ですけど。その人間国宝の先生が、県の伝統工芸組合の理事をされていて。確か千世が来た前後だったから、三年前ですかね。その時に県の育成人材に選ばれたりして、縁談話もあったもんだから、白銀細工も村もちょっと活気づいたんです」
「パトロンってこと?」
「まあ、下世話な言い方をすると……」
「なに、芸術なんてどの時代も一緒だべ。弱者が生き残っていぐ術だ」
「で、縁談はダメになったの?」
「こんな安月給で結婚なんかできるかよって。実際、セレブ感満載の人で、白銀に嫁ぐのを嫌がったのかもしれないですねぇ」
「まあ、そのお嬢様の気持ちもわかるかなぁ」
「そこそこ仲良さそうに見えてたんですけどね。県のミスアップルにも選ばれた綺麗な方で。イギリス留学されてたとかで視察名目でイギリスにも旅行されてましたし」
「へえ」
「正式に婚約とかされてたわけではなかったし、ポシャった時も破談ってほど深刻でもなかったですけど、村の人たちが勝手に騒いで勝手にしょんぼりして」
「そんき、玉の輿に期待されであったんだべ」
「それを言うなら逆タマだけど」
「でも、そのお嬢さん、あ、萬よろずさんって言うんですけど今は観光協会の方で働かれていて、いろんな工芸品の研修旅行とか展示会とか、ランさんにたくさん機会を下さってるんです。だから個人的に応援はしてくださってるんじゃないかなと」
創作活動以外に、わりと手広く活動しているなと思ったのは、その彼女のおかげもあったのかと春鹿は腑に落ちた。
「うちも千世が来て、その結婚には反対だったから、そんな身売りみたいなことはさせないって頑張って、千世は零細工芸のビジネスモデルとかそういうのも学校で勉強したらしいんで、SNSで宣伝したりネットで注文も受けたり。だから最近、業績自体は上がってるんです。今回の出張も千世の伝手で東京のアパレルブランドとコラボする企画の打ち合わせで」
「千世ちゃん、芸大だもんね。はあー。すごいや。昔みたいに土産物屋で細々売ってる時代じゃないんだな」
春鹿が感嘆していると、
「せいちゃんはいづ帰っでくるんだ?」と無骨な手で、吾郎が餅を乗せた皿に醤油をかけながら言った。
「三泊の予定だから、えっと、明々後日です。つか、改めて考えると、春鹿さんだけこっちに残ってるのなんか新鮮っすね。ランさん、最近の東京行きは春鹿さんの出張に合わせることが増えてましたから」
「口うるさいのがいなくてせいせいしてるよ」
「その間、俺が任されてるんで! 飲みに行ったりしちゃいますー?」
「いいねー。でも雪がね」
「ランさん、妬かせてみたい」
「だからー、そんなんじゃないから、私たち。幼馴染っていうか腐れ縁? ねえ、二人が出張してる間、よかったらウチでゴハン食べない?」
「えっ、いいんすか! 春鹿さんの手料理!」
「呼んでおいてなんだけど、この雪じゃ、運転が怖くて買い物も行けないからたいしてもてなせないけど」
「いえ、助かります! ランさんも千世もいなくて俺だけのためにおかみさんに賄い頼むのも申し訳ないと思ってたんで」
「じゃ、おばちゃんに連絡しておく」
「あざっす! 今日一日、頑張れるー!」
それから餅を三個も食べて、戸田は三滝の工房へ帰って行った。
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