塀のうちの字余り

蕚ぎん恋

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—桜に還る—

祝福

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 少し考えて、卯乃は猫の姿のまま目を閉じた深森に呼びかけた。

「ねぇ。やっぱり人型でいてもらってもいいですか?」

 不思議と敬語になってしまった。深森がぱっちりと目を開ける。暗がりでも卯乃のことがよく見えているのか、瞳孔が真ん丸になっていて、じいっと見てくる視線が分かる。

「なあん?」
「なんでだ?」と聞こえるような声で深森が鳴いた。
「だってまたゴキブリ出たら……。絶対無理。眠れない」

 口をついて出たのはちょっとだけ本心とはずれた言葉だった。
 深森猫はたしっと爪を隠した手の先で卯乃の頬を触ってきた。たしたしたし……。
 いつしかその手が大きな掌になって卯乃の小さな顔に沿うように優しく撫ぜていた。

「卯乃は怖がりだな」

 困ったやつだ、というような僅かに憂いの滲む声色だ。
 人型で男二人で横たわったら、いかにも布団が窮屈になった。深森は卯乃と向かい合わせに片腕で自分の頭に腕枕し、もう一方は卯乃の背に回して柔らかくさする。

「俺が守ってやるから、寝ていいぞ」

 その手つきが優しくてとろとろと眠くなる。無意識に寝返りを打ったら、今度は背中から腕の中に引き寄せられた。卯乃と同じグレープフルーツのボディーソープが香るのが爽やかで心地よい。

「卯乃、いい匂い……」

 すんっと項の辺りを嗅がれ、掠れた声が吐息と共に悩ましく首筋に落ちてくる。
 腰には大好きなふっさふさの尻尾を巻き付けられ、ぐっと身体を押し当てられた時、硬いものが当たる感覚を得た。同じ男としてすぐにその欲に想像がつきドキッとしてしまった。
 これからの展開を少し期待しつつも、密着してみたら逞しい男の身体が少し怖くもあって、卯乃はこの期に及んで怯んだ。

(もしも深森が本気を出して来たら多分オレは逃げらんない)

「ごめん。獣型で一晩寝てもらう予定だったから、布団一組しか持ってきてなくて。狭いよね。これじゃ疲れ取れないよね? もう一組取りに行こうかな……。あっ!」

 卯乃は「いいこと思いついた!」と腕を振り払うようにがばっと布団から飛び起きた。

「深森の代わりに今度はオレがウサギになればいいんだ。そしたら布団狭くないし」
「は?」
「よし、そうしよう。耳、引っかかるから脱いじゃえ」

 完全に天然のボケとうっかりが焦りで極まった卯乃は朗らかな声を上げて、タンクトップを脱ぎ捨てると、今度は下履きに手をかけ思い切りよくぐいっとおろした。足に引っかかったそれを子どもがズボンを脱ぐときのようにもぞもぞっと両足を動かし、下着ごと脱ぎ捨てる。

「オレ、ウサギの時かなりちっちゃくなるから寝返りでつぶさ……」
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