君とリスタート〜剣士様は抱き枕を所望する〜

愛宮

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第八話「剣士と魔王、時々姫③」

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「ライ、確認事項だけ言わせて貰う。今のシオンは魔族だ」
「人間だろうが魔族だろうが、どっちでも構いやしないさ」
「ユキトの記憶が、シオンに戻る事は決して無い」
「むしろ有難いよ。シオンに、ユキトの時の記憶は必要ない」
「それと、俺の血で甦った影響なのか、シオンは俺の事を凄く慕ってくれている。今はまだ、シオンにとって俺の存在の方がライより大きいだろう」
「それは、うん、まぁ分かってるつもりだ。信頼回復を含め、口説く所からまずは頑張ってみるさ」
「最後に。ライ、許すのは今回一回のみだ。次、シオンを傷つけて泣かす様な真似をしたならば、二度とシオンへは会えないと覚悟しておけ、分かったな」

黒い迫力を纏った笑顔でヒカルは言う。
現魔王が放つビリビリと地肌まで感じる緊張感に、ライも自分の覚悟を込めた漲る声で返事をする。

「御意に」

ライの答えに満足したのか、ヒカルの雰囲気は和らぐ。

「ではライ、日の出と共にシオンの所に向かおうか。我々も一緒に行く」
「我々?」
「俺とサクラコ。近い内に王都に向かい、サクラコの父と母にも挨拶をしたいと思っていた所だ」
「嫌だ!絶対に行かないから!!ヒカル君の裏切り者!!」

大人しくライとヒカルの会話の行方を見守っていたサクラコだったが、自分の話題が出た途端、ヒカルの背から飛び出し脱走を図る。
だがヒカルは脱兎を許してくれず、簡単にサクラコはお姫様抱っこで囚えられていた。
パタパタと、ヒカルの腕の上で暴れるサクラコ。

「あの姫様、俺が言うのも何ですが、一度王都に戻られ、ご自分の口から王や王妃様に状況を説明された方が宜しいかと思うのですが。とても、姫様の身を案じておられます」
「私は、あの人たちのお人形で居るのは御免なの!仮面を被った生活になんて戻りたくない」

王から聞かされていたのは、淑やか穏やかなで笑顔が可憐なお姫様。
けれど今、ライの目の前にいるお姫様は、じゃじゃ馬感たっぷりの元気な女の子だ。
泣き出してしまいそうなサクラコを慰める様に、その頬にヒカルは優しく口付ける。

「大丈夫だよサクラコ。俺も一緒に行くんだし。王様達は、サクラコが好奇心旺盛の腕白姫だと知らず、ただ、世間知らずの淑やか麗しい可愛い末姫が消えたと言う事で、本当に心配で心配で仕方がないだけなんだ。一度、王都に戻り、元気な姿を見せてあげよ、ね?」
「ヒカル君と離れるのは、絶対に嫌だからね」
「そんな事にはならないよ」
「・・・わかった、一度戻る」
「うん、良い子だ。ではライ、今夜は部屋を用意させるから、そこで休んでくれ」

再び赤い魔鳥が窓から入って来て、ライの肩に止まる。
生意気な視線でライを見据えたのち、こっちだ!とばかり服を乱暴に掴み引っ張って行く。

「ライ、シオンへの詫びの言葉、ちゃんと考えておきなよ」
「あぁ、そうさせて貰うよ。シオンがユキトだと認識した途端、愛しさ倍増で少し緊張してきた」
「とりあえず、頑張れ、とだけ応援させて貰うよ。シオンは俺にとっても可愛い女の子だ、幸せになって貰わないと困るからね」
「・・・ヒカルは、姫様の幸せだけを願って愛でておいて下さい。シオンの管轄は俺がする」
「キュイッ!」
「分かったって、そんな強く引っ張るな、服が破れる」

赤い魔鳥に誘導されるまま、ライはだだっ広い白い部屋を後にして行く。

「あらま、ライ君ってば心狭いね。シオンちゃん大変だ」
「だな。では、ライの言う通り、サクラコを沢山愛でさせて貰おうかな」
「こーら、ヒカル君。さっきから負けちゃってるよ宿命に。頑張って抵抗するんじゃなかったの?」
「そうだった、油断するとつい、サクラコを可愛がりたくなってしまう。おそろしい宿命だ」
「というか、本当に城に戻らなきゃ駄目なの?」
「煩わしい事は早めに処理しておきたいんだ、いつまでも王様に訝しげられる俺の立場にもなってくれ。なんで姫様って立場のサクラコが俺の“運命の番“何だよ」
「私に言わないで、そもそも私も見つけたのはヒカル君が先なんだからね」

ヒカルとサクラコ。
運命の番同士ではある、のだが。
縛られるのが嫌いで、運命の番と言う宿命に逆らいたいが逆らえなかったヒカルと、運命の番なら仕方ないと開き直り、むしろ王室から離れられる言い訳に使ったサクラコの、少し縺れ気味の夫婦だったりする。


第九話「剣士と魔王、時々姫」終
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