君とリスタート〜剣士様は抱き枕を所望する〜

愛宮

文字の大きさ
上 下
14 / 16

第八話「剣士と魔王、時々姫③」

しおりを挟む
「ライ、確認事項だけ言わせて貰う。今のシオンは魔族だ」
「人間だろうが魔族だろうが、どっちでも構いやしないさ」
「ユキトの記憶が、シオンに戻る事は決して無い」
「むしろ有難いよ。シオンに、ユキトの時の記憶は必要ない」
「それと、俺の血で甦った影響なのか、シオンは俺の事を凄く慕ってくれている。今はまだ、シオンにとって俺の存在の方がライより大きいだろう」
「それは、うん、まぁ分かってるつもりだ。信頼回復を含め、口説く所からまずは頑張ってみるさ」
「最後に。ライ、許すのは今回一回のみだ。次、シオンを傷つけて泣かす様な真似をしたならば、二度とシオンへは会えないと覚悟しておけ、分かったな」

黒い迫力を纏った笑顔でヒカルは言う。
現魔王が放つビリビリと地肌まで感じる緊張感に、ライも自分の覚悟を込めた漲る声で返事をする。

「御意に」

ライの答えに満足したのか、ヒカルの雰囲気は和らぐ。

「ではライ、日の出と共にシオンの所に向かおうか。我々も一緒に行く」
「我々?」
「俺とサクラコ。近い内に王都に向かい、サクラコの父と母にも挨拶をしたいと思っていた所だ」
「嫌だ!絶対に行かないから!!ヒカル君の裏切り者!!」

大人しくライとヒカルの会話の行方を見守っていたサクラコだったが、自分の話題が出た途端、ヒカルの背から飛び出し脱走を図る。
だがヒカルは脱兎を許してくれず、簡単にサクラコはお姫様抱っこで囚えられていた。
パタパタと、ヒカルの腕の上で暴れるサクラコ。

「あの姫様、俺が言うのも何ですが、一度王都に戻られ、ご自分の口から王や王妃様に状況を説明された方が宜しいかと思うのですが。とても、姫様の身を案じておられます」
「私は、あの人たちのお人形で居るのは御免なの!仮面を被った生活になんて戻りたくない」

王から聞かされていたのは、淑やか穏やかなで笑顔が可憐なお姫様。
けれど今、ライの目の前にいるお姫様は、じゃじゃ馬感たっぷりの元気な女の子だ。
泣き出してしまいそうなサクラコを慰める様に、その頬にヒカルは優しく口付ける。

「大丈夫だよサクラコ。俺も一緒に行くんだし。王様達は、サクラコが好奇心旺盛の腕白姫だと知らず、ただ、世間知らずの淑やか麗しい可愛い末姫が消えたと言う事で、本当に心配で心配で仕方がないだけなんだ。一度、王都に戻り、元気な姿を見せてあげよ、ね?」
「ヒカル君と離れるのは、絶対に嫌だからね」
「そんな事にはならないよ」
「・・・わかった、一度戻る」
「うん、良い子だ。ではライ、今夜は部屋を用意させるから、そこで休んでくれ」

再び赤い魔鳥が窓から入って来て、ライの肩に止まる。
生意気な視線でライを見据えたのち、こっちだ!とばかり服を乱暴に掴み引っ張って行く。

「ライ、シオンへの詫びの言葉、ちゃんと考えておきなよ」
「あぁ、そうさせて貰うよ。シオンがユキトだと認識した途端、愛しさ倍増で少し緊張してきた」
「とりあえず、頑張れ、とだけ応援させて貰うよ。シオンは俺にとっても可愛い女の子だ、幸せになって貰わないと困るからね」
「・・・ヒカルは、姫様の幸せだけを願って愛でておいて下さい。シオンの管轄は俺がする」
「キュイッ!」
「分かったって、そんな強く引っ張るな、服が破れる」

赤い魔鳥に誘導されるまま、ライはだだっ広い白い部屋を後にして行く。

「あらま、ライ君ってば心狭いね。シオンちゃん大変だ」
「だな。では、ライの言う通り、サクラコを沢山愛でさせて貰おうかな」
「こーら、ヒカル君。さっきから負けちゃってるよ宿命に。頑張って抵抗するんじゃなかったの?」
「そうだった、油断するとつい、サクラコを可愛がりたくなってしまう。おそろしい宿命だ」
「というか、本当に城に戻らなきゃ駄目なの?」
「煩わしい事は早めに処理しておきたいんだ、いつまでも王様に訝しげられる俺の立場にもなってくれ。なんで姫様って立場のサクラコが俺の“運命の番“何だよ」
「私に言わないで、そもそも私も見つけたのはヒカル君が先なんだからね」

ヒカルとサクラコ。
運命の番同士ではある、のだが。
縛られるのが嫌いで、運命の番と言う宿命に逆らいたいが逆らえなかったヒカルと、運命の番なら仕方ないと開き直り、むしろ王室から離れられる言い訳に使ったサクラコの、少し縺れ気味の夫婦だったりする。


第九話「剣士と魔王、時々姫」終
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

処理中です...