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第八話「剣士と魔王、時々姫①」
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赤い魔鳥に、物凄い速さで乱雑に運ばれているライ。
「レモンの方が運転上手だったし丁寧だったぞ」
ライが文句を垂れれば、赤い魔鳥は掴んでいたライを勢いを付けて投げ飛ばした。
そしてライが地面に落ちる前に服を掴み、やはり乱雑に目的地まで急ぎ出す。
「短気だね」
「キュィ」
「黙ってろってか?はいはい」
ライは今、次々変わる景色や、煌めく星や月を楽しむ気分ではない。
たかが鳥に当たってしまう程、最悪な気分だ。
さっきから、シオンの泣き顔が脳裏を過ぎって消えない。
少しきつめな物言いをした自覚はある、でも泣かせるつもりはなかった。
まさか、あのくらいでシオンが泣くなんて思いもしなかった。
ただ、自分から遠ざかってくれれば、それで良かったんだ・・・。
「キュゥィ」
不機嫌そうに魔鳥が鳴く。
魔鳥の視線の先には、雲より高い円柱の建物、天辺が確認出来ない。
「あれが魔王城か?」
「キュ」
赤い魔鳥は、再びライを天高く投げ飛ばした。
ただ今度は普通に見送られた。
最後まで太々しい鳥だな、なんて苦笑まじりにライは思う。
明かりの灯っている、開けっぱなしの大きな窓が見えた。
どうやら、そこが入り口らしい。
ライは勢いのまま、魔王城のどこかしらの部屋へと招かれた。
そこは随分とだだ広い白い空間で、夜なのに昼の様な明るさがある。
そして。
「やぁ、こんばんわ。剣士ライ」
自分と、そう歳は変わらないであろう青年。
笑顔の筈なのに、黒い瞳の切長の目は何処か威圧感を覚える。
真っ黒な髪は後ろで一つに纏められ、そこから見える立派な角が堂々とその威厳を示している様だった。
「魔王?」
「一応はね。初めましてだね、俺はヒカル。夜分に申し訳ないね、強引な真似をして」
「ほんとにな。で、俺に何の様なわけ?」
ヒカルと名乗った魔王は、軽い足取りでライの元へ近寄る。
ダァン。
痛くはない、痛くはないが、胸ぐらを掴まれたと思ったら、ライは抵抗する暇もなく、軽々と床に押し倒されていた。
ライを見下ろす瞳の奥には、蔑視さが伺えみえる。
勝てない、逆らえない、適応しない、圧倒的な力の差を、ライは即座に理解した。
「俺の可愛い従者を泣かせてくれたようだね」
「・・・退けよ」
「さて、種明かしと行こうか。君が、心の声のまま忠実に、シオンを拒絶せず受け入れてさえくれていたなら、俺が出しゃ張る事もなく、二人の行く末を暖かく見守るだけのつもりで居たんだけどさ」
ヒカルは、ゆったりとライから手を離し降りる。
立てる?とばかりに差し出されたヒカルの手を払いのけ、ライはヒカルを睨み付けながら起き上がる。
「シオンを、泣かせるつもりは、なかった。それについては詫びる」
「詫びは俺じゃなく、シオンに直接言ってやってくれ」
「俺はもう、シオンに会うつもりはない」
「そんなに、ユキトがシオンに侵食されて行く様が怖いのかな?意外と臆病なんだね」
「・・・魔王様は何でもお見通しってか」
「新しい恋は、けして悪い事じゃないと思うけど」
「黙れよ」
低く唸る様にライが言う。
今度は、ライがヒカルの胸ぐらを掴む。
「ユキトが、どんな境地で死んでいったと思う。族に攫われ、何日も複数の男共に犯され恥辱され、しまいには腹を何箇所も刺され、冷たい川に投げ捨てられた」
「あぁ、らしいな」
「俺はその間、村から遠く離れた場所で浮かれ気分だったよ。村に戻ったらユキトに銀鎖を渡して、正式に夫婦になろうと告げるつもりでいた。でも、俺が村に戻った時にはもう、後の祭りさ。捕まった族は愉快げに、ユキトの顛末を狂った様に喋り散らかしてたよ」
平和な日常は、あの日、あっという間に奪われ壊された。
握っていたヒカルの胸ぐらを、ライは悔しげに離す。
「ライが、ユキトの死を悔やんでるのは分かってる。ならその悔しみを、繰り返す気か?」
「っ」
「シオンも、ユキトの様にならないとは限らない」
「・・・シオンは魔族だ。大抵の難事なら自分で解決する強さがある」
「ユキトだって弱くはなかったろ?それにシオンは、ただただ、正義感の強い、優しい女の子ってだけだ。そしてその正義感は、かなり危ういものでもある。そんなの、ライも本当は分かっているのだろ?」
「お強い魔王様が守ってやればいいだろっ!俺じゃなくてもいい!俺が永遠に愛すると誓った女はユキトだけなんだよ!!」
声を荒げるライ。
さっきからずっと、シオンの泣き顔ばかりがチラつく。
側に居たい、笑顔が見たい、俺が守ってやりたい、他の奴になんて奪われたくもない。
ーーーーそう思うは、シオンにユキトの面影を重ねているからだ。それ以外の理由なんて、いらない。
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「レモンの方が運転上手だったし丁寧だったぞ」
ライが文句を垂れれば、赤い魔鳥は掴んでいたライを勢いを付けて投げ飛ばした。
そしてライが地面に落ちる前に服を掴み、やはり乱雑に目的地まで急ぎ出す。
「短気だね」
「キュィ」
「黙ってろってか?はいはい」
ライは今、次々変わる景色や、煌めく星や月を楽しむ気分ではない。
たかが鳥に当たってしまう程、最悪な気分だ。
さっきから、シオンの泣き顔が脳裏を過ぎって消えない。
少しきつめな物言いをした自覚はある、でも泣かせるつもりはなかった。
まさか、あのくらいでシオンが泣くなんて思いもしなかった。
ただ、自分から遠ざかってくれれば、それで良かったんだ・・・。
「キュゥィ」
不機嫌そうに魔鳥が鳴く。
魔鳥の視線の先には、雲より高い円柱の建物、天辺が確認出来ない。
「あれが魔王城か?」
「キュ」
赤い魔鳥は、再びライを天高く投げ飛ばした。
ただ今度は普通に見送られた。
最後まで太々しい鳥だな、なんて苦笑まじりにライは思う。
明かりの灯っている、開けっぱなしの大きな窓が見えた。
どうやら、そこが入り口らしい。
ライは勢いのまま、魔王城のどこかしらの部屋へと招かれた。
そこは随分とだだ広い白い空間で、夜なのに昼の様な明るさがある。
そして。
「やぁ、こんばんわ。剣士ライ」
自分と、そう歳は変わらないであろう青年。
笑顔の筈なのに、黒い瞳の切長の目は何処か威圧感を覚える。
真っ黒な髪は後ろで一つに纏められ、そこから見える立派な角が堂々とその威厳を示している様だった。
「魔王?」
「一応はね。初めましてだね、俺はヒカル。夜分に申し訳ないね、強引な真似をして」
「ほんとにな。で、俺に何の様なわけ?」
ヒカルと名乗った魔王は、軽い足取りでライの元へ近寄る。
ダァン。
痛くはない、痛くはないが、胸ぐらを掴まれたと思ったら、ライは抵抗する暇もなく、軽々と床に押し倒されていた。
ライを見下ろす瞳の奥には、蔑視さが伺えみえる。
勝てない、逆らえない、適応しない、圧倒的な力の差を、ライは即座に理解した。
「俺の可愛い従者を泣かせてくれたようだね」
「・・・退けよ」
「さて、種明かしと行こうか。君が、心の声のまま忠実に、シオンを拒絶せず受け入れてさえくれていたなら、俺が出しゃ張る事もなく、二人の行く末を暖かく見守るだけのつもりで居たんだけどさ」
ヒカルは、ゆったりとライから手を離し降りる。
立てる?とばかりに差し出されたヒカルの手を払いのけ、ライはヒカルを睨み付けながら起き上がる。
「シオンを、泣かせるつもりは、なかった。それについては詫びる」
「詫びは俺じゃなく、シオンに直接言ってやってくれ」
「俺はもう、シオンに会うつもりはない」
「そんなに、ユキトがシオンに侵食されて行く様が怖いのかな?意外と臆病なんだね」
「・・・魔王様は何でもお見通しってか」
「新しい恋は、けして悪い事じゃないと思うけど」
「黙れよ」
低く唸る様にライが言う。
今度は、ライがヒカルの胸ぐらを掴む。
「ユキトが、どんな境地で死んでいったと思う。族に攫われ、何日も複数の男共に犯され恥辱され、しまいには腹を何箇所も刺され、冷たい川に投げ捨てられた」
「あぁ、らしいな」
「俺はその間、村から遠く離れた場所で浮かれ気分だったよ。村に戻ったらユキトに銀鎖を渡して、正式に夫婦になろうと告げるつもりでいた。でも、俺が村に戻った時にはもう、後の祭りさ。捕まった族は愉快げに、ユキトの顛末を狂った様に喋り散らかしてたよ」
平和な日常は、あの日、あっという間に奪われ壊された。
握っていたヒカルの胸ぐらを、ライは悔しげに離す。
「ライが、ユキトの死を悔やんでるのは分かってる。ならその悔しみを、繰り返す気か?」
「っ」
「シオンも、ユキトの様にならないとは限らない」
「・・・シオンは魔族だ。大抵の難事なら自分で解決する強さがある」
「ユキトだって弱くはなかったろ?それにシオンは、ただただ、正義感の強い、優しい女の子ってだけだ。そしてその正義感は、かなり危ういものでもある。そんなの、ライも本当は分かっているのだろ?」
「お強い魔王様が守ってやればいいだろっ!俺じゃなくてもいい!俺が永遠に愛すると誓った女はユキトだけなんだよ!!」
声を荒げるライ。
さっきからずっと、シオンの泣き顔ばかりがチラつく。
側に居たい、笑顔が見たい、俺が守ってやりたい、他の奴になんて奪われたくもない。
ーーーーそう思うは、シオンにユキトの面影を重ねているからだ。それ以外の理由なんて、いらない。
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