君とリスタート〜剣士様は抱き枕を所望する〜

愛宮

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第六話「剣士様は面倒見がいい③」

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布団にシオンを寝かせ、その寝顔を眺める。
ユキトも酒に弱かったのかな。なんて、ライは思いを馳せる。
ライの恋人ユキトは、18の成人を迎えずに亡くなった。

火照るシオンの頬に、ライは触れる。
シオンから伝わる温もりに、ほっとする。

「らぁい?」

うっすら瞼をあげ、舌ったらずにライの名を呼ぶ。

「ライの手、冷たくて気持ちい」
「悪い、起こしたか?気分は?」
「だいじょうぶ、少しふわふわするだけ」
「水飲む?持ってこようか?」

シオンは小さく首を振る。
そして、ぼんやりする眼差しでライの瞳を見てくる。
まるで、何か探る様に。
銀鎖を渡した時もそうだったが、シオンはライの深意を尋ねる事はしない。
けれど言葉以上に、群青色の眼差しが、物言いたそうに寂しそうに揺れる。

「もしかして、さっきのケンゴとの会話、聞いてた?」
「・・・さっきのって?」
「何でもないよ、寝ようか」
「ぅん」

シオンの体温で温まっている布団に、ライも潜る。
普段は嫌々抱き枕になり、少しの抵抗を見せる癖に、今日は大人しく抱き枕の役割を果たしてくれている。

「んな無防備だと、本当にパクリ食われるぞ」
「ライなら、パクリされても嫌じゃないよ」
「・・・たく、早く寝ろ」
「ぅん」

何時もの様にシオンを強く抱き締め、その柔らかさと温もりにライは浸かる。

ーーーーその愛らしい顔で、余り煽ってくれるな。玩具に愛着が湧いたら、捨て難くなるだろうが。


*****


ライは早朝から、昨夜と同じ酒場に出掛けて行った。
店主が勧めてくれた酒を、出発前にもう一度呑んでおきたいとの事らしい。

時間を持て余し中のシオンは、適当に町を見て歩いていた。
不意に、道の先に立っていたケンゴに気付き、シオンは足を止めた。

「どうも、娘さん」
「ライのお友達の、ケンゴさんでしたっけ?」
「覚えてくれていて光栄ですね。でも俺はライの友達じゃないですよ、いわば好敵手です、相手にされてませんけどね。ライはどうしました?」
「朝から呑みに行ってますよ」
「そうでしたか、俺が昨日、邪魔しちゃったから呑み足りなかったんでしょうね」

昨日、ライと遭遇した時は血気盛んな様子のケンゴだったが、今日は少しの笑みを携えながら、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

「あの、私に何か?」
「ライが側に置く娘がどんな子か、興味がありまして。確か昨日、ライにシオンって呼ばれてましたよね。シオンに、お願いが」
「・・・お願い、ですか?」
「ライに雪解けは必要ねぇんだよ」

急にケンゴは口調を強め、鞘から刀を取り出すと、切先をシオンの喉元へと向ける。
けれど、シオンは一切の怯む事なく、冷静な目でケンゴを見やる。

「ライは“氷”の剣士として常に強い存在で居てくれないと、つまらないだよね。凍て付く眼光が削がれていく様を、俺は寛容出来ない。シオン、君はライを弱くする存在だ。今のうちに、ライの元を去ってくれないかな」
「それを決めるのはライでしょ?それにライは、別に強く有りたいとは願ってないわ」
「分かった風な口を聞くね、死んだ女の代替えとして側に置かれてるだけの癖に」
「私は私の目的があってライと共に旅をしてる。ライの意図なんて私にはどうでもいい。それより、この刃、退けてくれない?ケンゴに殺意は感じられない、私を傷つけるつもりなんて最初からないのでしょ?」
「面白いなシオンは。勇ましい女は嫌いじゃないよ」
「それはどうも」
「やばいな、ライのお気に入りだと分かってるけど、ちょっかい出したくなっちゃったかも。それに、シオンをもし奪ったら、ライがどんな反応するか少し見てみたい気もするな」

バギン!!
ケンゴの刀の刃が、真っ二つに割れる。

錆刀を片手に現れたライは、自分の背後にシオンを隠す。

「何してんの?お前」

ケンゴに向けられたライの声色は、聞いた事のないほど低く冷たい響きを纏っていた。
ライの背中越しに見えるケンゴは、冷や汗をかき、体を震わせている様にシオンには見えた。
そして、ケンゴは立っていられなくなったのか、地面に座り込む。

「ライ?」

シオンは背後からライの服を引っ張り、こっちを向く様に合図を送る。
振り返ったライは、普段からシオンがよく目にする、陽気でのんびりとした緩い笑顔のライのままだった。


*****


ライとシオンが、その場から見えなくなると、ケンゴはよろめきながらも何とか立ち上がる。
砕かれた刀を眺め、汗を垂らしながらも嬉しそうに口角を上げる。

「鈍刀でどうやったら新調したばっかの刀を折れるんだっての。あ~ぁ、なりを顰めてるだけで健在じゃねぇか。駄目だ、まだまだ全然勝てる気がしねぇや。にしも、暇つぶし相手の女にしては、随分と入れ込んでる様に見えるぜ、ライ」

ライが向けてきた、怒りに満ちた静かな澱む視線。
思い出しても背筋がゾクリと凍りつく。
どう考えても、あれは嫉妬だ。
もし、シオンに傷一つでも付けていたのなら、今頃砕かれていたのは刀ではなく自分だったと容易に想像が出来る、さらに身慄いをケンゴは覚えていた。


第六話「剣士様は面倒見がいい」終
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