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第六話「剣士様は面倒見がいい②」

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シオンは旅館の温泉で疲れを癒し、部屋へと戻る。
すでに、湯上がり状態のライがそこに。

「なぁシオン、中居さんが教えてくれたんだけどさ、この旅館、西側にお客さん限定の酒盛り場があるんだと、一緒に行かね?」
「・・・」
「変な意味はない。純粋な誘いだ」
「なら、付き合う。警備隊として今後、お酒に携わる責務が任されないとも限らないから、少しでも修練して慣れておかないと」
「真面目だね。もし、お酒に呑まれ落ちたとしても、俺が手厚く介抱して寝床まで運んであげるよ」
「そんな、不甲斐ない事態になる訳ないでしょ」


*****


落ち着いた雰囲気のある、薄暗くこじんまりとした店内。
店主と客の間に、飲食用の仕切り台があり、椅子も一人一人ではなく、仕切り台と同じ長さの椅子が用意されているだけの、単調した作りの酒場。

酒場の店主は、客の要望も聞き、それに合わせた独自のお酒を提供してくれる、とても気さくで明るい年配の男性だ。
酒に余り舌慣れしてないシオンには、度数低めの初心者用の甘い蜜柑酒をこさえてくれた。
最初は「甘くて美味しいです」と店長に賛辞の言葉を送っていたシオンだったのだが、一杯目を呑み終わる前にはもう・・・。

「りゃい~」
「ん、何ですか?」
「りゃいが、のんでゆのも、ちょーだい」
「駄目、これは甘くないお酒なので、シオンさんのお口には合わないの」
「ひとくちも、だめ?」
「そうだな、口移しでならあげてもいいかな」
「いいよ~」
「たく、可愛い酔っ払いめ」

警備隊の精神訓練も、お酒の威力には敵わなかった様だ。
花咲く綻ぶ笑顔を浮かべ、ライに身を寄せだすシオン。
口が触れ合った所で限界が訪れたのか、そのままシオンはライの肩に倒れ込む。

「店主、ここの蜜柑酒って、度数強いの?」
「いんや、むしろ嬢ちゃんが酒初心者って話てたから、弱めに調合したつもりだったんだけどね」

眠ってしまったものは仕方なく、シオンを自分の膝を枕に寝かせ、ライは一人で頼んだ豆をつまみながら酒を嗜む事にした。

「よぉライ。連れは寝ちまったのか?」
「誰だっけ?」
「さっき会ったろ!?ケンゴだ」
「あぁ、そういえば会った気もするな。で、何で居んの?」
「俺もたまたま、この旅館だったんだよ」

ケンゴは1人分の距離を取り、ライの横に座り、そこそこ度数高めの梅酒を店主に注文する。
届けられた梅酒を、ケンゴは少しだけ口に含む。

「・・・ライ」
「ん?」
「正直、冗談抜きに驚いた」
「何が?」
「“氷”の名称を貰うぐらい冷徹だったお前の風状が、随分和らいで様変わりしてたのも勿論だが、何より、その娘を連れてた事にだよ。一緒に行動を共にしてるのか?」
「あぁ、懐かれて仕方なくな」
「常に一人行動を好む“氷”の剣士様ってあろうお方が、懐かれたぐらいで旅の同行者を許すなんて思えないけどね。お前の強さや見た目に惚れ込み、共に行動をしたいと志願してきた女達を、まぁ男も居るか、そういう奴らを今まで何人断ってきた?軽く女の相手はするが、ライの、ユキトって女への執着と一途さは、俺たち界隈では有名な話だ。その娘、本気なのか?」
「まさか、遊びだよ、単なる暇つぶし」
「テメェがいつも懐に大事に抱えてる、銀鎖まで渡しておいてか?」

ライは小さく苦笑を落とすと、眠るシオンの頭を優しく撫でる。

「コイツの容姿が余りにもユキトに類似してるからさ、少し擬似恋愛を楽しませて貰おうと思っただけさ。俺が生涯愛すると決めた女はユキト、ただ一人だけだ。それは、今もこれからも変わらない」

ライは、残りの豆が入った皿をケンゴの前に置く。
席から立つと、ライは眠っているシオンを、両腕で掬い上げる様に抱えた。

「店主、俺たちはこれで失礼するよ、ご馳走様」
「またおいでね」

二人分の勘定を済ませ、ライはシオンを抱え、店を離れた。



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