君とリスタート〜剣士様は抱き枕を所望する〜

愛宮

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第六話「剣士様は面倒見がいい①」

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橙色の空色は、もう時期、暗闇へと変わる。
夕刻の時間帯に、たまたま村や町に訪れる事が出来ればそれに越した事はないのだが、そう上手い具合に事が運ぶ事は珍しい。
故に、野宿せざるおえない時もある。
シオンは心底、野宿を免れた事に、喜びの笑顔を浮かべている。
今、ライとシオンが居る場所は、色んなお酒が楽しめる事で有名な、そこそこ大きな町だ。

「シオンは酒、呑めるのか?」
「余り好まない。美味しいと感じないもの。ライは?」
「普通には嗜むよ。ツマミを食いながら、朝までゆっくり呑み続けるってのがまた、至高なんだよな」
「ざるって事ね。お酒を美味しく呑める人ってちょっと羨しい。楽しそうだもの」
「ここには柑橘系の甘い酒もあるだろうから、挑戦して少しずつ慣れて行くって言うのも有りかもな。でも、無理して酒に馴染む必要はないと思うよ、酒で失敗する輩も多い訳だしさ。でも、シオンがどんな酔い方するのか少し見てみたいってのはあるな、俺的には理性壊れて素直な可愛い甘え上戸な女の子になってくれる事を期待かな」
「理性なんて、そう簡単に壊れるものじゃないでしょ」
「壊れる奴は、呆気なく壊れんだよ。特に、シオンみたいに酒慣れしてない奴は」
「理性を手放すなんて真似、私に限って有り得ない。警備隊で、それなりに精神訓練だって受けてるんだから」
「余り、酒の威力を見くびらない方がいいよお嬢さん。後で後悔しても知らないよ」

ライとシオンが、軽い雑談をしながら町歩きをしていると、そこにーーー。

「らぁぁぁぁい!!」

突然現れた男が、振り上げていた刀をライへと振り下ろしてきた。
けれど、ライは素早く腰にある鞘から刀を取り出し、簡単にそれを受け止める。
ガキーン!と刀同士がぶつかって鈍い音が鳴る。

「まだ、んな鈍刀を持ち歩いてんのかよ」

ライが取り出した刀は、刃毀れが激しく錆も見受けられる。
それは、剣士としては致命的な、明らか“何も切れない刀“だ。

「久しぶりだなライ。まさか、こんな所で出会うなんて思ってなかったよ」
「えっと、誰だっけ?」
「ケンゴだ!!わざとなのか!?何度か剣客試合で対峙したり、盗賊討伐なんかで一緒に行動しただろうが!!?」
「あ~ケンゴね、そういや居たな」
「俺なんて眼中にないってか?相変わらず腹の立つ奴だな」

ケンゴの両手で振り下ろされている刀を、ライは片手で錆刀を振り、簡単にケンゴを後ずさりさせた。
悔しげに顔を一瞬曇らすケンゴだが、すぐに活気のいい元気な笑みを浮かべ、刀を鞘に戻していた。
ライも、錆刀を鞘にしまう。

「容易く払われちまったか、やっぱ強いなライは。なぁライもまた剣客試合出ろよ!もう一度、お前と真剣勝負がしたい。いい武器屋も紹介するからさ、そろそろ新しい刀に取り換えたらどうだ?俺は、お前の手加減なしの真の怖さと戦ってみたいんだ」
「勝負する気も、刀を換えるつもりも俺にはないよ。そもそも試合も、頼まれ事として参加しただけだったしな」
「俺がもっと実力付けて、そんな余裕な戯言、ほざけなくさせてやるよ」

不意に、ケンゴの視線がライの隣に居るシオンに移る。

「でもまさかだったな、あの氷の剣士様が女と一緒に居るなんて思わなかったよ。それともあれか?今夜限りの女を見繕ったってとこか?いいね、引くて数多な色男さんは」
「野暮な事を聞くね、ま、ご想像のままにどうぞ。行こうか、シオン」

ライはシオンの手を引き、ケンゴを残し、その場を後にする。


*****


陽が完全に落ち、ライとシオンは、歴史が有りそうな立派な旅館に、今夜はお世話になる事にした。
また例の如く、旅館の中居に「布団は一組で」と軽率な発言をしようとするライの口を、シオンは慌てて両の手で抑える。
急接近してきたシオンを、ライは躊躇う事なく、ぎゅっと抱きしめ、掌を舐める。
シオンは、反射的に手を引く。

「あらあら戯れあっちゃって、仲の良い若夫婦ね、羨ましいわ」
「警戒心が強い妻でしてね、でもそこがまたコイツのいじらしくて、可愛い所ではあるんですけど」

中居の賛辞に、ライは飄々と何食わぬ顔で嘘を付く。

「勘違いしないで下さい、妻じゃ有りません!!」
「秒読み段階です」
「ライ!離して」
「恥ずかしがる事ないだろ?夜はもっと濃厚な時間を過ごしてると言うのに」
「ライッ」
「あらあら」


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