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第三話「真面目魔族は隠し事が出来ない③」
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「お嬢さん、お悩みかな?」
強盗事件を解決し、ライと別行動をとった後、シオンはとある淑女に話掛けられていた。
「私ね、一応占い師なの。男の事で悩んでると感じるわ、良かったら恋愛系に効力のある石もお勧めしてあげるわよ」
「えっと、間に合ってますので、失礼します」
「あら、釣れないわね」
軽く会釈し、その場を去ろうとしたシオンに、淑女は独り言をぼやく。
「男って言うのはね、惚れた女の頼みに弱いものなのよ」
淑女はシオンを見つめ、妖艶な笑みを携えていた。
*****
朝の一方的な戯れも終了し、宿で出発の支度をしているライとシオン。
「お、そうだシオン」
ライは懐から出した物をシオンへと見せる。
薄い紅色の小さな石が付いた、細い銀鎖の首飾り。
「桃色金剛って石、幸運を呼んでくれる石なんだと。昨日助けた娘さんが好きな装飾品くれるって言うから、それ貰って来た」
「可愛い。くれるの?」
「俺は装飾品とか付けないし、石言葉も余り信じてないからな」
首飾りを見つめ、シオンは嬉しそうに瞳を輝かせている。
ライはシオンの背後に回り、銀鎖を首に巻く。
シオンの鎖骨の間で、謙虚に主張する桃色の石。
「ありがと、ライ。嬉しい」
「気に入ってくれたなら何より」
突然、シオンはライの真正面に立つ。
そのシオンの瞳には、揺るがない力強い決意が見て取れる。
「ライ」
「ん?」
「私、決めました」
「何を?」
「貴方には、私を好きになって貰うって」
「は?」
「とある方に教えて貰ったんです。男の人って好きな人のお願いには弱いと」
「まぁ、うん、全員に当て嵌まるかは不明だけど、一定数は居るね」
「作戦を考えたんです。力での足止めは絶対に敵わない。なら、私を好きになって貰い、ライに『サクラコを諦めて』ってお願いするしかないんじゃないかと」
何とも単純で可愛い決意表明だ。
ライは楽しそうに笑いだす。
「はははっ、そっかそっか、うん、頑張れ、可愛いなシオンは」
「笑う事ないでしょ!こっちは真剣なのに」
「ごめん。で、何か俺を惚れさす秘策でもあるの?言っとくけど、告白とか涙とか、色仕掛けとかは慣れてるから通用しないよ」
「どこに行ってもモテモテな剣士様ですからね、女の武器が通用しないのは百も承知ですとも。だから、同行しながら作ろうと思って」
「何を?」
「強力な惚れ薬を。今、レモンに頼んで惚れ薬に関する資料を集めて貰ってる所」
「・・・それは、狡くないか?」
「卑怯と言われようと、作戦成功の為なら構わない。魔王城に着くまでには、絶対に完成させてみせる。あ、ライ、ちょっと待ってて貰っていい?助言くれたお姉さんにお礼してくる」
言うだけ言って、シオンは部屋から飛び出して行ってしまう。
「・・・忙しない奴だな。惚れ薬って、突拍子のない事を言い出すとこまで似んのかよ」
*****
シオンは、占い師の淑女と昨日、遭遇した場所に付く。
でも、そう簡単には見当たらない。
お礼を言いたかったな、と思うが、ライを何時迄も待たせて置く訳にもいかない。
諦めて引き返そうとした、その矢先。
「私をお探し?」
シオンの前に、空からふんわりと降ってくる、探し人。
この淑女は人間だ、きっと何らかの魔術石の力なのだろう。
「昨日は助言、ありがとうございました。これ、助言のお代です」
「お役に立てたなら嬉しいわ。お代は遠慮なく頂くわね。それと、よく似合ってるわ、胸の石」
「あ、ありがとうございます。まだ、付け慣れなくて、何か褒められると照れ臭いですね」
「桃色金剛ね、とても希少な石よ。今じゃ殆ど取引すらされていないわ。贈り主は相当な資産家さんみたいね」
「えっと、人助けの礼として貰ったけど、自分は要らないからくれる、と言っていましたが」
「まさか、有り得ないわ。どんな理由があろうとも、無償で桃色金剛を譲る奇人なんて居るとは思えない」
「でも、現に」
「お嬢さんに、気を使わせたくなくて、そう言ったのでしょうね。桃色金剛は、相手の幸せを願い、贈られる石。愛されてるわね」
「はぁ」
「あら、信じてない反応ね。それじゃ、また縁があれば何処かでね」
淑女は現れた同様に、空へと舞い登って行った。
シオンも宿に駆け足で戻る。
ライは、宿の外で立ち尽くしていた。
「ライ、御免なさい」
「いいよ、用事は済んだ?」
「えぇ。ねぇ、ライ、この石なんだけど」
「ん?」
「えっと、あ、やっぱり何でもない」
「そ、じゃあ、行こうか」
ライに、淑女の話の真意を確かめようとしたが、寸前でシオンは止めた。
ーーーー私にはどうでもいい事か。石の真意なんて、旅の目的には何の関係もない。
おそらく昨日助けた娘さんが、ただ単に石の価値を知らずにライに譲ってしまっただけなのだ。と、シオンは適当に結論付けた。
第三話「真面目魔族は隠し事が出来ない」終
強盗事件を解決し、ライと別行動をとった後、シオンはとある淑女に話掛けられていた。
「私ね、一応占い師なの。男の事で悩んでると感じるわ、良かったら恋愛系に効力のある石もお勧めしてあげるわよ」
「えっと、間に合ってますので、失礼します」
「あら、釣れないわね」
軽く会釈し、その場を去ろうとしたシオンに、淑女は独り言をぼやく。
「男って言うのはね、惚れた女の頼みに弱いものなのよ」
淑女はシオンを見つめ、妖艶な笑みを携えていた。
*****
朝の一方的な戯れも終了し、宿で出発の支度をしているライとシオン。
「お、そうだシオン」
ライは懐から出した物をシオンへと見せる。
薄い紅色の小さな石が付いた、細い銀鎖の首飾り。
「桃色金剛って石、幸運を呼んでくれる石なんだと。昨日助けた娘さんが好きな装飾品くれるって言うから、それ貰って来た」
「可愛い。くれるの?」
「俺は装飾品とか付けないし、石言葉も余り信じてないからな」
首飾りを見つめ、シオンは嬉しそうに瞳を輝かせている。
ライはシオンの背後に回り、銀鎖を首に巻く。
シオンの鎖骨の間で、謙虚に主張する桃色の石。
「ありがと、ライ。嬉しい」
「気に入ってくれたなら何より」
突然、シオンはライの真正面に立つ。
そのシオンの瞳には、揺るがない力強い決意が見て取れる。
「ライ」
「ん?」
「私、決めました」
「何を?」
「貴方には、私を好きになって貰うって」
「は?」
「とある方に教えて貰ったんです。男の人って好きな人のお願いには弱いと」
「まぁ、うん、全員に当て嵌まるかは不明だけど、一定数は居るね」
「作戦を考えたんです。力での足止めは絶対に敵わない。なら、私を好きになって貰い、ライに『サクラコを諦めて』ってお願いするしかないんじゃないかと」
何とも単純で可愛い決意表明だ。
ライは楽しそうに笑いだす。
「はははっ、そっかそっか、うん、頑張れ、可愛いなシオンは」
「笑う事ないでしょ!こっちは真剣なのに」
「ごめん。で、何か俺を惚れさす秘策でもあるの?言っとくけど、告白とか涙とか、色仕掛けとかは慣れてるから通用しないよ」
「どこに行ってもモテモテな剣士様ですからね、女の武器が通用しないのは百も承知ですとも。だから、同行しながら作ろうと思って」
「何を?」
「強力な惚れ薬を。今、レモンに頼んで惚れ薬に関する資料を集めて貰ってる所」
「・・・それは、狡くないか?」
「卑怯と言われようと、作戦成功の為なら構わない。魔王城に着くまでには、絶対に完成させてみせる。あ、ライ、ちょっと待ってて貰っていい?助言くれたお姉さんにお礼してくる」
言うだけ言って、シオンは部屋から飛び出して行ってしまう。
「・・・忙しない奴だな。惚れ薬って、突拍子のない事を言い出すとこまで似んのかよ」
*****
シオンは、占い師の淑女と昨日、遭遇した場所に付く。
でも、そう簡単には見当たらない。
お礼を言いたかったな、と思うが、ライを何時迄も待たせて置く訳にもいかない。
諦めて引き返そうとした、その矢先。
「私をお探し?」
シオンの前に、空からふんわりと降ってくる、探し人。
この淑女は人間だ、きっと何らかの魔術石の力なのだろう。
「昨日は助言、ありがとうございました。これ、助言のお代です」
「お役に立てたなら嬉しいわ。お代は遠慮なく頂くわね。それと、よく似合ってるわ、胸の石」
「あ、ありがとうございます。まだ、付け慣れなくて、何か褒められると照れ臭いですね」
「桃色金剛ね、とても希少な石よ。今じゃ殆ど取引すらされていないわ。贈り主は相当な資産家さんみたいね」
「えっと、人助けの礼として貰ったけど、自分は要らないからくれる、と言っていましたが」
「まさか、有り得ないわ。どんな理由があろうとも、無償で桃色金剛を譲る奇人なんて居るとは思えない」
「でも、現に」
「お嬢さんに、気を使わせたくなくて、そう言ったのでしょうね。桃色金剛は、相手の幸せを願い、贈られる石。愛されてるわね」
「はぁ」
「あら、信じてない反応ね。それじゃ、また縁があれば何処かでね」
淑女は現れた同様に、空へと舞い登って行った。
シオンも宿に駆け足で戻る。
ライは、宿の外で立ち尽くしていた。
「ライ、御免なさい」
「いいよ、用事は済んだ?」
「えぇ。ねぇ、ライ、この石なんだけど」
「ん?」
「えっと、あ、やっぱり何でもない」
「そ、じゃあ、行こうか」
ライに、淑女の話の真意を確かめようとしたが、寸前でシオンは止めた。
ーーーー私にはどうでもいい事か。石の真意なんて、旅の目的には何の関係もない。
おそらく昨日助けた娘さんが、ただ単に石の価値を知らずにライに譲ってしまっただけなのだ。と、シオンは適当に結論付けた。
第三話「真面目魔族は隠し事が出来ない」終
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