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第三話「真面目魔族は隠し事が出来ない①」
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森を無事抜け出し、今夜の宿を求め訪れた村は、石で有名な観光地であった。
天然石から宝石、魔術石。
願い事や欲しい能力、財力の誇示などを目的に観光客が多い。
石との相性を鑑定してくれる占い師も居る。
ライとシオンは、宿の予約を終え、村を見て回っていた。
「一部屋でも空いてる部屋が残ってて良かったな」
「・・・そうね」
観光地だけあって、どの宿も部屋は満室。
何軒目かの宿で、格安小部屋をなんとか確保する事が出来た。
分かり易く、シオンの表情は不服げだ。
「抱き枕になるって約束、忘れてないよな?」
ライは、にた~と不適な笑みを浮かべ、揶揄い口調で尋ねるも、シオンは無言で一睨みするだけだった。
「女将さんには、布団は一組でいいって伝えておいたから」
「ちょっ、変な勘違いされちゃうじゃない!?」
「使わないのに用意させるのは宿の方に申し訳ないからな~。なんなら、抱き枕要因だけでなく、勘違いじゃなくさせても俺は良いんだけど?」
横に居るシオンの腰を引き寄せ、己の懐へと抱え込む。
ライは眼前にあるシオンの顎を掬いあげ、女性受けする妖艶な笑顔を携える。
「揶揄うな!!私には敬愛する尊といお方が居る!他を当たれ、破廉恥剣士っ」
シオンは拳に魔力を溜め殴ろうとした時・・・。
強盗よ!誰か捕まえて!!と女性の声が響いた。
ライに遊ばれている場合ではない。
魔力を込めた拳をそのままに、ライから押し離れ、声が鳴った方へと体を向き直す。
刀と袋を持った男二人が、ちょうどこちらに向かって走ってくる。
気配を察するに、魔族と人間の二人組だ。
「たく、欲しいもんあったら、働けっての。悪いシオン、ここは俺に良いカッコさせてな。その拳の使い所は、今回はナシって事で」
殆どの観光客達は、端っこに避けたり、他の店に避難する中、堂々と道のど真ん中に居座るライとシオン。
通行の邪魔だったのだろう。
強盗の二人組は、脅しなのか本気で殺傷目的なのか、乱暴に刀を振り回し始め「どけ」と叫ぶ。
ライも、やれやれと思いながら、腰の刀に手を掛ける。
勝負は一瞬で付いた。
鞘のまま、ライは男達の脛を殴打。
男達は刀も袋も手放し、脛を押え、情けない声を出しながら地面に転がっている。
袋から溢れるは、綺麗な輝きを放つ色取り取りの石。
「はぁ、はぁ、あの、ありがとうございます」
走り寄って来た女性が、息を切らしながら礼を述べる。
女性は相当怖い思いをしたのだろう、小刻みに体を震わせている。
ライは溢れた石も袋に戻し入れ、女性に渡す。
袋を受け取り胸に抱えると、女性は安心したかの様に息を落としていた。
「うちの商品なんです、良かった、取り戻せて。本当に、ありがとうございます」
「災難だったな。怪我はないか?」
「はい」
今だ震えたままの女性を労わる様に、ライは女性の髪を撫でる。
女性の頬に朱色がさす。
己の信者を着実に増やしていくライを横目に、シオンは指笛を鳴らす。
すると檸檬色の魔鳥が空から舞い降り、シオンの肩に止まった。
魔鳥は嬉しそうに、シオンに頬擦りしている。
「そいつ、シオンの鳥か?」
「えぇ」
「その鳥って、魔王直下警備隊の社員が相棒として従える鳥だよな?」
「そうね」
「ま、なんとなくそんな気はしてたけどな」
シオンは魔族の強盗犯のを縄でぐるぐる巻きに縛り上げると、縄の先を魔鳥に咥えさせる。
魔鳥は大きく翼を広げ、再び強盗犯を連れ空へと飛び立つ。
その際も、強盗犯の男からは情けない声があがった。
「小さい鳥の癖に、よく運べるな。重力的に不可能だよな、普通」
「警備隊で訓練されてる鳥よ、鍛え方が違うわ」
「鍛え方の問題か?魔物の鳥に理屈を求めても仕方ないか」
人間の方の強盗も、村の役人がすぐに駆けつけ、連行されていった。
「あの、改めてありがとうございます。何かお礼をさせて頂けませんか?宜しければなのですが、美味しい酒場を知ってるんです、そこで是非お礼を」
お礼と言うよりも、別の目的が隠れていそうなお誘いだ。
男女で酒を交わす約束をする、それは夜の営みの誘いも意味している。
「私、一人で寄りたい店あるから、じゃぁね剣士様」
はい、いいえ。
お返事はお好きにどうぞ、とばかりにシオンは来た道を戻る。
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天然石から宝石、魔術石。
願い事や欲しい能力、財力の誇示などを目的に観光客が多い。
石との相性を鑑定してくれる占い師も居る。
ライとシオンは、宿の予約を終え、村を見て回っていた。
「一部屋でも空いてる部屋が残ってて良かったな」
「・・・そうね」
観光地だけあって、どの宿も部屋は満室。
何軒目かの宿で、格安小部屋をなんとか確保する事が出来た。
分かり易く、シオンの表情は不服げだ。
「抱き枕になるって約束、忘れてないよな?」
ライは、にた~と不適な笑みを浮かべ、揶揄い口調で尋ねるも、シオンは無言で一睨みするだけだった。
「女将さんには、布団は一組でいいって伝えておいたから」
「ちょっ、変な勘違いされちゃうじゃない!?」
「使わないのに用意させるのは宿の方に申し訳ないからな~。なんなら、抱き枕要因だけでなく、勘違いじゃなくさせても俺は良いんだけど?」
横に居るシオンの腰を引き寄せ、己の懐へと抱え込む。
ライは眼前にあるシオンの顎を掬いあげ、女性受けする妖艶な笑顔を携える。
「揶揄うな!!私には敬愛する尊といお方が居る!他を当たれ、破廉恥剣士っ」
シオンは拳に魔力を溜め殴ろうとした時・・・。
強盗よ!誰か捕まえて!!と女性の声が響いた。
ライに遊ばれている場合ではない。
魔力を込めた拳をそのままに、ライから押し離れ、声が鳴った方へと体を向き直す。
刀と袋を持った男二人が、ちょうどこちらに向かって走ってくる。
気配を察するに、魔族と人間の二人組だ。
「たく、欲しいもんあったら、働けっての。悪いシオン、ここは俺に良いカッコさせてな。その拳の使い所は、今回はナシって事で」
殆どの観光客達は、端っこに避けたり、他の店に避難する中、堂々と道のど真ん中に居座るライとシオン。
通行の邪魔だったのだろう。
強盗の二人組は、脅しなのか本気で殺傷目的なのか、乱暴に刀を振り回し始め「どけ」と叫ぶ。
ライも、やれやれと思いながら、腰の刀に手を掛ける。
勝負は一瞬で付いた。
鞘のまま、ライは男達の脛を殴打。
男達は刀も袋も手放し、脛を押え、情けない声を出しながら地面に転がっている。
袋から溢れるは、綺麗な輝きを放つ色取り取りの石。
「はぁ、はぁ、あの、ありがとうございます」
走り寄って来た女性が、息を切らしながら礼を述べる。
女性は相当怖い思いをしたのだろう、小刻みに体を震わせている。
ライは溢れた石も袋に戻し入れ、女性に渡す。
袋を受け取り胸に抱えると、女性は安心したかの様に息を落としていた。
「うちの商品なんです、良かった、取り戻せて。本当に、ありがとうございます」
「災難だったな。怪我はないか?」
「はい」
今だ震えたままの女性を労わる様に、ライは女性の髪を撫でる。
女性の頬に朱色がさす。
己の信者を着実に増やしていくライを横目に、シオンは指笛を鳴らす。
すると檸檬色の魔鳥が空から舞い降り、シオンの肩に止まった。
魔鳥は嬉しそうに、シオンに頬擦りしている。
「そいつ、シオンの鳥か?」
「えぇ」
「その鳥って、魔王直下警備隊の社員が相棒として従える鳥だよな?」
「そうね」
「ま、なんとなくそんな気はしてたけどな」
シオンは魔族の強盗犯のを縄でぐるぐる巻きに縛り上げると、縄の先を魔鳥に咥えさせる。
魔鳥は大きく翼を広げ、再び強盗犯を連れ空へと飛び立つ。
その際も、強盗犯の男からは情けない声があがった。
「小さい鳥の癖に、よく運べるな。重力的に不可能だよな、普通」
「警備隊で訓練されてる鳥よ、鍛え方が違うわ」
「鍛え方の問題か?魔物の鳥に理屈を求めても仕方ないか」
人間の方の強盗も、村の役人がすぐに駆けつけ、連行されていった。
「あの、改めてありがとうございます。何かお礼をさせて頂けませんか?宜しければなのですが、美味しい酒場を知ってるんです、そこで是非お礼を」
お礼と言うよりも、別の目的が隠れていそうなお誘いだ。
男女で酒を交わす約束をする、それは夜の営みの誘いも意味している。
「私、一人で寄りたい店あるから、じゃぁね剣士様」
はい、いいえ。
お返事はお好きにどうぞ、とばかりにシオンは来た道を戻る。
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