君とリスタート〜剣士様は抱き枕を所望する〜

愛宮

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第一話「剣士様は抱き枕を所望する」

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「・・・ウッソでしょ、道に迷った」

任務先に向かう途中、近道しようと魔物が暮らすからと危険だと注意喚起されている森に入り込み、盛大に迷い、頭を抱える一人の女性がいた。
さてどうするか、右も左も、前も後ろも木々ばかりの同景色。
今回、自分が承った命は、王都に入り、人間達が魔族に対する好感度を調査すると言うもの。
昔程ではないが、今だ人間達は魔族を悪として捉える考えをする者が少なくない。
勿論、魔族に友好な人間達も大勢居る。

どの時代も、人間だろうが魔族だろうが、等しく身勝手な奴は一定数存在する。
人間と魔族の安定と平和を守る、それが自分が務める魔王直下警備隊の役割。

人間と魔族の違いは、魔力があるかないかと、角の有無ぐらいだろう。
ちなみに角は自分の意思で引っ込み自由。
見た目も寿命の長さも成長速度も、人間も魔族も変わりはない、その昔は一つの種族だったとされている。

「今日はもう寝よ」

もう夜も遅い、この森からの脱出は明日考えよ。
寝袋に包まると、相当疲れていたのだろう、あっとう言う間に意識が遠のく。

翌朝、押しつぶされそうな感覚で目が覚める。

「んぁ?何?おも・・・・はい?」

なんだこの状況は?
同じ寝袋で、男に抱きつかれている。
その男は気持ちよさそうに寝息など立てている。
抜け出そうと暴れたか、暴れれば暴れる程、何故か男の拘束が強くなる。
魔王直下警備隊では一応、そこそこ良いポジションを任される程、そこら辺の男に負けぬ腕っぷしはあるつもりなのだが。

ーーーー何者だ、この男、気配からして人間の様だ。

「久しぶりの女・・・柔らかっ」

男の手がいらぬ所に伸びようとしたので、自分も痛いが頭突きで叩き起こす。
男が拘束を緩ませた隙に、寝袋から飛び出す事に成功した。

「イッテェ、何すんだよ」
「それは、こっちの台詞です!何してるんですか貴方は!?女性の寝袋に潜り込むなど、破廉恥にも程があります。って、あれ、貴方は・・・」

なんと、その男の顔に、見覚えがあった。
一年更新される新装版の人間図鑑に新たに追加登録された男だ。
データによると確か、氷の名証を授かった5剣士の一人。実力は10段階の10。
正直、厄介そうな相手に出くわしてしまったと身を硬くする。

「俺の事知ってるんだ?」
「・・・氷剣士のライでしょ、貴方、有名人だもの。こんな所で何を?」
「魔王城に喧嘩売りに行く途中だったんだけど、近道にこの森を抜けようと試みたら意外と奥深くてさ。野宿しようと矢先に良い湯湯婆が転がってたから、ついお邪魔させて貰ったって訳。そっちは?」

ぶん殴りたい衝動を、何とか根性で堪える。

ーーーー落ち着け私。とりあえず、こんな喧嘩っぱやそうな危険な奴、魔王城に踏み込ませるのは危険だ。

「私はシオンと申します。恥ずかしながら道に迷っておりました。あの、魔王城に向かってらっしゃるとの事ですが、何が為に?」
「囚われの姫をお助けに」

囚われの姫?
と聞き、シオンはサクラコの事を思い浮かべる。
彼女曰く、家での生活にうんざりし家出してきたと言っていたが、まさかお姫様だったとは。
サクラコを返せば、この剣士も魔王城には用は無くなり、引き返してはくれそうだが・・・生憎、サクラコは返してやれない。
何せサクラコは、魔王の番である。
契約の儀式も無事先日、終えたばかりだ。

正直、煩わしい案件ではあるが、お給金が良い分、関わってしまった以上、魔王直下警備隊として放置は出来ない。
どうにかして、剣士にサクラコを諦めさせなければ。

「剣士様!お願いがございます」
「何?」
「どうか私を、剣士様の旅に同行させて下さいませ」
「その動機は?」
「動機?えっと、ん~・・・あっそうですっ私が貴方を好きだからって言うのどうですか?」
「明らか今、考えた動機だよな、それ。じゃあさ、毎晩、俺の抱き枕になってくれるってのなら、同行を許可してもいいよ?」

こんの破廉恥剣士め。
魔族と人間の平和の為、シオンは覚悟を決める。

「操だけは守りますから」
「せいぜい俺に奪われない様に防衛がんばって」
「無理強いしたら、さっきみたいに頭突きかますだけです」
「あれ、まじで痛かったわ、どんな石頭してんだよ」



第一話「剣士様は抱き枕を所望する」終
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