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第二章『愛は無期限(鈴野結羽視点)』
*結羽と多駕*
しおりを挟む季節は秋手前。
もうエアコンは必要ないが、少し残暑の影響で蒸し暑い。
「多駕は体温高いね」
「暑いなら離れろよ、結羽」
「あったかくて丁度いい~」
「はいはい」
一つ年上の幼馴染の穂波多駕が暮らすワンルームの部屋にお邪魔させて貰い、まったりと寛いでいる私。
私は今、ソファ代わりに彼の腕の中で凭れながら適当にスマホでネットサーフィン中。
彼は私を挟みながら、難しそうな英字の本に目を通している。
多駕は一応、私の彼氏である。
「死ぬ前に、多駕とエッチしてみたいな」
「どんな郷を俺に背負わす気だよ。俺は結羽を殺す気はないよ」
私の体は生まれつき弱い。
ちょっとの刺激で、どうなるか分からないらしい。
治療方法は、今の技術ではまだ見つかっていないそうだ。
見つかってないものに駄々を捏ねても仕方ないので諦めている。
段々と体は思う様に動かなくなってきたし、苦しい時間も増して来た。
私の命は、もうすぐ終わる。
「どうせ近いうちに死ぬんだしいいじゃん別に」
「良くないだろ。俺が一生、妹溺愛の姉ちゃんズに憎まれるだろ。それと、そう言う事、結衣や結空さんの前では言うなよ」
「言わないよ。多駕の前以外では、私、とってもお利口さんだもん。あ~ぁ、病気に殺されるくらいなら、多駕に殺されたいな、ね、だからエッチしようよ」
「そうだな、結羽がこの本を全部英訳出来たら、結羽のそのお願いきいてやってもいいよ」
「鬼~」
余裕がある時はこうして、多駕と二人だけになれる場所で有意義に過ごす。
少し前までは、地元にあるカラオケやゲーセンでお外デートをしていたけど、今はそれが難しい。
多駕とのデートに結空ちゃんは余りいい顔をしない。
何時も、とても心配そうに見送ってくれるのが少し申し訳なく思うけど、この我儘は許して欲しい。
お姉ちゃんの結衣には、多駕との関係性を秘密にしてある。
日々バイトに勤しみ、四葉女の特待生として学業にも手を抜かず頑張っているお姉ちゃんに、余計な心配を掛けて邪魔したくないからね。
「ねぇ、じゃぁキスして、とびきり優しく官能的な奴」
多駕は読んでいた本を閉じ、床に置く。
自由になった両手で、私の頬に触れてくる。
あったかい、気持ちいな。
このまま一生離れず、側に居てくれたらいいのに。
「約束は守るよ、だから心配しなくていい」
「・・・うん」
当てるだけの優しいキスを何度も貰う。
お姉ちゃんと結空ちゃんは、愛してるからこそ、ずっとこの先も笑って毎日を過ごして欲しいと願う。
多駕は、愛してるからこそ、一緒に死んで、ずっと側に居て欲しいと願う。
*****
小学校の頃、体育の授業は何時も日陰で過ごした。
元気に走る皆がとても羨ましかった。
「結羽、隣いいか?」
「多駕?何してるの?」
「国語の授業だったけど、退屈だから抜け出して来た。此処でサボろうかと思って」
「先生に叱られるよ」
「サボってる事は先生の許可も得てる。成績落とさなきゃ親にも言いつけないから、思う存分、サボって来いと言われた」
私が一人で居る時、お姉ちゃんか多駕か、もしくは二人一緒に、自分のクラスの授業を抜け出して、私の側に居てくれる。
二人とも、昔から頭が良かったから、先生公認でサボりを許されていた。
「結衣とジャンケンして、今日は俺が勝った」
そう言って、得意げにカッコつけて笑う。
多駕のママとパパは教育熱心で怒らすと怖い、もし私のせいで多駕が叱られたらと思うと不安になる。
そんな気持ちが顔に出てたのか、多駕は私の髪を撫でながら言う。
「俺は、結羽の事が大好きで、俺が此処に居たくて居るんだから気にするな」
「ありがと、多駕。私も多駕の事好きだよ」
「だったら、大人になったら俺のとこに嫁に来てよ」
「大人・・・」
「そ、結羽が大人になったら結婚しよ。結羽を幸せにする権利を、俺に下さい」
守れない約束はしないと決めていた。
でも、嘘吐きになっても構わないと思ったの。
嘘を吐いても、多駕はきっと「仕方ないな」と笑って許してくれるから。
「浮気はしないでね」
「まかせろ」
「約束ね、多駕。大人になったら、多駕のお嫁さんにして」
「ああ、約束だ」
幼い頃の、無垢で純粋な約束事を、私は今だに大事にしている。
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