上 下
71 / 71

72:甘くて美味しい関係

しおりを挟む

「……は、ぁ……ん、颯斗……」

 蕩けた意識と甘い吐息の中で颯斗を呼べば、彼の体がもぞと動いた。
 ゆっくりと熱が抜かれる。ずるりと腹の中を擦られる感覚に小さく声をあげかけるも、深くキスをされて声を封じられた。

「んっ……ふぅ……」

 キスと余韻を堪能し、唇を放す。
 吐息交じりに名前を呼び合い最後にと軽いキスをすれば、颯斗が寄り添うように横に寝そべって抱きしめてきた。
 彼の腕に促され、雛子もまた自ら彼に体をくっつけて頭を預けた。男らしい手が優しく頭を撫でてくる。見上げれば颯斗が目を細めて嬉しそうな表情をしており、目が合うと軽いキスをしてきた。

「気持ちよかった……。雛子は?」
「私も。気持ちよかったし、いま凄く幸せ。颯斗の言う通り、うちの会社の道具は気持ち良くなって幸せになる手伝いをしてくれるのね」

 ヘッドボードに無造作に置かれたコンドームの箱を手に取る。
 幸福感を胸に眺めれば、颯斗が額にキスをしてきた。

「雛子の会社の道具もだけど、チョコレートもひとを幸せに出来ると思うけどな」
「チョコレート? 持ってきてくれるの?」
「あぁ、食べるだろ」

 問われ、もちろんと頷いて返した。
 颯斗がゆっくりと身を起こし、手近に放ってあった下着とズボンを手に取ると手早く履いて、ベッドから降りる。
 寝室を出て行く彼に「パーカーも持ってきて」と告げて、雛子もまたもぞもぞと緩慢な動きながらもシーツの上に置かれたままの下着に手を伸ばした。



 ベッドに座りながら用意されたチョコレートとワインを堪能する。
 フランボワーズのボンボンショコラを口に入れ、その美味しさに思わず「幸せ」と呟けば颯斗が嬉しそうに目を細めた。彼の手は気遣うように雛子の腰に添えられている。時折擦ってくるのはまだ痛みが残っているかと心配しているのだろう。
 その気遣いは擽ったく、雛子は小さく笑みを零しながらもヘッドボードに置かれたデザートプレートからパレショコラを二枚取った。一枚を彼の口元へともっていけばパクンと食いついた。「さすが俺だな」という得意げな言葉に思わず笑ってしまう。
 そうしてもう一枚を自分で食べればストロベリーの味と香りが口内に広がった。フランボワーズとはまた違った味わいで甲乙つけがたい美味しさだ。

「颯斗が作ってくれたチョコレート、どっちも美味しい」
「ここまで喜んで貰えるなら造ったかいがあったな。俊はチョコレートよりケーキの方が得意だから、やっぱり俺を選んで良かっただろ?」

 冗談めかして告げてくる颯斗の言葉に、思わずクスクスと笑ってしまう。
 元より隣り合っていた体を更に近付けて、彼の耳元で「颯斗を選んで良かった」と告げてキスをする。擽ったかったのか颯斗が小さく身を捩って笑った。
 その表情も、次いでふっと息を吐いて穏やかに微笑む表情も、全てが愛おしい。腰に添えられた彼の手にそっと己の手を添えて名前を呼んだ。

「ねぇ颯斗……」
「ん?」
「恋人がアダルトグッズ会社で働いてても恥ずかしくない?」

 問えば、颯斗がきょとんと目を丸くさせた。
 意外な質問だったのだろう。だがすぐさま表情を穏やかなものに戻し、額にキスをしてきた。

「今更だろ。むしろ、この関係になれたんだからアダルトグッズに感謝したいぐらいだ」
「それなら、これからも使ってみたいものがあったら付き合ってくれる?」

 オナホールだの光るコンドームだの、突飛なものを持ってきた――そしてこの寝室に置いていった――自覚はある。
 これからも続けて良い? と首を傾げて問えば、颯斗が大袈裟に肩を竦めた。仕方ないとでも言いたげな態度と表情だ。

「気持ち良くなって幸せになる道具だからな、付き合うよ」
「本当? それなら……」

 さっそく、と言いたげに雛子が手に取ったのはヘッドボードに置いておいた箱だ。
 薄いピンク色の箱。描かれているのは一輪の花と降り注ぐ星。コンドームが入っている箱で、そして雛子が初めて任された仕事でデザインしたものである。
 それを手に取るも、颯斗は不思議そうに見てくるだけだ。先程使ったばかりなのにどうしてと言いたいのだろう。

「颯斗、一回しか出来てないでしょ」

 雛子は二度果てているが、颯斗は一回だけだ。
 足りないのではないかと問えば、颯斗が困ったような表情を浮かべた。雑に頭を掻くあたり図星ではあるのだろう。

「そりゃ、したい気持ちはあるけど……、辛いだろ。無理するなよ」
「平気。それに……、これね、中の包装は二種類あるの」

 箱からコンドームを取り出す。
 ぴっちりと密封されたビニールの包装。うっすらと円状の形が浮き出ている。
 箱に合わせて薄いピンク色をしており、銀色の花が描かれている。それと、星が描かれたもう一種類。比べるように二つを手に取って見せる。
 先程颯斗が使ったのは花の絵柄だったはず。一瞬だけ見えた袋を思い出して「そうでしょ?」と問えば、この後の流れを期待してか彼が無言でコクコクと頷いてきた。その瞳には期待の色が宿り始めている。

 もっとも、デザインは違えども中身は同じコンドームだ。
 だけど……。

「こっちのデザインでも気持ちよく幸せになれるか確認したいの」

 どう? と問えば、気遣うように添えられていた颯斗の手がピクリと動くのが分かった。
 次第に手に力が入り、自分の方へと促してくる。それに誘われるように彼の膝に向かい合うように座った。
 見つめい合い、どちらともなく顔を寄せてキスをする。

「二度目だけど優しくしてね」
「俺が優しくなかった時があったか?」
「脅した男とは思えない台詞ね」
「お互い様だ」

 そんな会話をしながら笑い合い、彼の手がするりとパーカーの中に入り込むのを感じて甘い吐息を漏らす。

「颯斗、愛してる」
「俺も愛してるよ、雛子」

 互いに愛を囁き合い、深いキスを交わした。



 ……end……





『あなた♡おもちゃ』これにて完結です。
最後までお付き合い頂きありがとうございました!
第16回恋愛小説大賞で奨励賞にも選んで頂きとても嬉しいです。


しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...