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58:お互いさま※

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 数秒、互いの声が止み、荒い呼吸とシーツの上に落とされたローターの振動音だけが続く。

「……あー、やばかった」

 沈黙を破った颯斗の声は随分とすっきりとしており、深い溜息には果てたあと特有の気怠さも少し混じっている。
 声だけならば運動した後にも思えるかもしれない。たとえばジムでのトレニンーグを終えた後や、晴れやかな外でのスポーツを終えた後。汗ばんだ前髪を掻き上げながらこんな声で雑談をすれば周囲にいる女性達は惚れ惚れとし彼に熱い視線を送ることだろう。

 なぜこんな想像をしてしまうのかといえば、今の雛子は目を瞑っているため彼の声だけを聞いているからだ。
 なぜ目を瞑っているのかといえば……。

「ビックリしたけどすげぇ気持ち良かった。ほら、まだ少し足が震えて……、ひ、雛子……!?」

 ようやく雛子の状況に気付き、颯斗が言葉を詰まらせた。
 なにせ今の雛子は顔面に白濁の液を垂らしているのだ。目を瞑ったままなのは言わずもがな、目を開けたら入りかねないからである。――さっさと顔を拭えば良いのだが、一度颯斗にこの惨状を見せてやろうと思って黙って待っていた――

「……タオル」
「わ、悪い。ほら、拭いてやるからじっとしてろ」

 颯斗の言葉の後に、顔になにかが触れる。
 そっと目元や頬を拭い、それどころか額まで拭いてくるのだから、雛子が考えている以上に顔中にかかったのかもしれない。
 そうしてあらかた拭い終えてゆっくりと目を開ける。「大丈夫か?」と颯斗に尋ねられてコクリと頷いて返した。

「顔にかけるなんて酷い」
「酷いのはどっちだよ。……腰抜けるかと思った」
「それほど気持ちよかったってことでしょ? ローター使った時の颯斗、良い声だしてたわよ」

 にんまりと笑って雛子が告げれば、颯斗がぐっと言葉を詰まらせた。
 その頬が赤くなっているのは快感に翻弄されて声を出したと自覚があるのだろう。「うるせぇ」と不満たっぷりな反論をし、次いでサイドテーブルに置いてあったペットボトルの水を手渡してきた。
 飲めという事なのだろうか。よく分からないままに口を着ける。
 口の中はローションの粘りとストロベリーの香り、そして甘さが残っている。その中に微かにある青臭さ。それらが混ざり合って何とも言い難い状態だったので水は有難い。数口飲んでさっぱりとさせれば、そのタイミングを見計らっていたかのように颯斗がキスをしてきた。

 これは、と雛子がキスをされたまま眉根を寄せる。

「あれだけ口で尽くした女に対して、すすいでからじゃないとキスをしないなんて酷いんじゃない?」
「そう言うなって、これは男の生理的なもんだ」

 きっぱりと断言し、もう一度と深くキスをしてくる。
 雛子は心の中で「そういうものなのかしら」と考えつつ、舌を絡められる感覚に表情を和らげた。


 数度キスをし、ふと颯斗が足元に視線を落とした。
 つられて雛子も見ればローションの容器が転がっている。絵柄はストロベリー。見ただけで甘い香りと味が蘇ってきそうだ。

「これ、本当に甘かったのか?」
「ストロベリーの香りも甘さもたっぷり。でもちょっと変な感じがしたけど」
「そうか、それならぜひ俺も味わってみないとな」
「容器から飲んでみる? あんまりいっぺんに飲むのはおすすめしな……きゃっ!!」

 突然足を掴まれて、更にはぐいと強引に足を上げられ。バランスを崩してぼすんとシーツに倒れた。
 だが颯斗は転ぶ雛子にお構いなしと、掴んでいた足を自分の肩に乗せてしまう。片足を上げられ、更にはもう片方の足まで肩に乗せられてはバランスなどとれるわけがない。

「な、なに……っ!」

 なにするのよ、と文句を言おうとするも、颯斗の表情を見て息を呑んだ。彼がにやにやと笑みを浮かべている。
 随分と意地の悪い笑みだ。だが元々の見目の良さもあってその表情も様になっており、女性の足の間にいるという状況が蠱惑的な魅力も追加させる。
 だが今の雛子には蠱惑的な魅力もなにもなく、さぁと顔色を青ざめさせた。なにせ颯斗の手にはストロベリーの香りがするローションと……、そして機械があるのだ。
 ローターではない。その次に使った機械……。女性の花芽を吸う、雛子が果てるどころか潮を吹くまでに至った機械である。

「ま、待って颯斗! それは駄目! 落ち着いて話し合いましょ! ねぇ!!」

 身を起こそうとするも足を持ち上げられていてはうまくいかず、必死に声を掛けても颯斗が返事をする様子はない。
 彼はただ黙ったままローションの液体を雛子の秘部にかけてくる。その量は妙に多く、どぷりと音がしそうなほど。粘度の高い液体が秘部を覆う感覚に雛子の背がふるりと震え、鼻に掛かった甘い声を漏らしてしまった。ショーツはまだ履いているものの、感度の高まった体では薄い布一枚などあってないようなもの。
 次いで颯斗は手にしていた容器を放ると、雛子の顔をじっと見据えたまま濡れそぼった秘部に顔を寄せた。わざと口を開けてゆっくりと近付けるのは見せつけているためだろうか。

「待って颯斗っ……んっ! あ、や、やだっ!」

 ぢゅうとわざと音を立てて吸われ、雛子の体が大きく跳ね上がった。
 彼の舌が下着越しに秘部を舐め上げ、舌先を強く押しつけてくる。まるで布ごど中に入ろうとしているかのように強引で、溢れた愛液とローションをわざと音をたてて吸う。

「んぁ、あっ、颯斗……、んぅ」

 ショーツのクロッチ部分をずらされて舌が中へと入り込んでくる。指ともローターとも違う感覚。異物感ではあるもののもどかしい快感でもあり、自然と背が逸れる。
 だが次の瞬間には強い快感が走り抜け、高い悲鳴をあげると共に体を跳ねさせた。中を舌で愛撫された時のもどかしさとは違う、明確な、そして強すぎる快感。
 それが断続的に何度も続き、慣れぬ体制もあってか呼吸すらままならない。
 あの機械だ。下着もずらされ露わになった花芽にきゅうと吸い付き、電気のように激しい快感を下腹部から背を伝い脳天へと走らせる。あまりに強い快感に視界がちかちかと瞬いた。

「あ、あっ、いや! やだぁ! 颯斗っ!」
「ほら、気持ち良いだろ」
「んぅう、うう、ぁ、あぁ!」

 一度舌を引き抜いて尋ねてくる。それに対して雛子は碌に答えられず、強い刺激にいやいやと顔を横に振るだけだ。
 だがその仕草も、荒い呼吸も、合間に漏れる声も、全てが甘いのは自分でも分かる。これで颯斗がやめてくれるわけがなく、もう一度と言いたげに再び雛子の秘部へと唇を寄せた。ぢゅうと卑猥な音をたてて吸い付き、ゆっくりと舌を押し入れてくる。

「颯斗っ、はや、と……!」

 待って、と訴えようとするも言葉にならず、ただ嬌声の合間に彼の名前を呼ぶだけで精一杯だ。
 強い快感に視界がぼやけ、体が強張る。傍らにあったタオルをぎゅうと握りしめるのとほぼ同時に、刺激がざわと体の内側で暴れた。
 強い何かがくる、と雛子の体が本能で一際強く強張った。

「ふぁ、ん、んうぅうう!」

 体が仰け反り、快感が体中から溢れる。快感の波がせり上がるどころか体全体を覆いつくしてなおも暴れるような感覚。
 果ててもなおその快感の余韻は強く荒々しく体を満たし、余韻にすらも体が跳ねる。

「はぁ……ん……ふぅ……」
「やっぱり凄いなこの機械」
「んぅ……ばか……颯斗のばかぁ……」

 ばか、さいてい、と罵倒を繰り返す。もっともその声は甘く微睡んでおり、何を言っても効果が無いことは自分でも分かっている。
 むしろ甘い声で罵倒しても颯斗を喜ばせるだけだ。現に彼はにやにやとした笑みを浮かべ、雛子の足をそっとシーツに戻すと見せつけるようにタオルで顔を拭いだした。

 なぜ顔を拭うのか。
 ……その理由を察し、雛子は余力を使って「最低!」と罵った。もう少し余力があれば蹴っ飛ばしてやったのに。

「俺が最初にお前の顔にぶっかけたんだから、これでお互い様だろ」
「お互い様って、そんな、だからって……もう……!」

 彼の言い分に、雛子は自分の顔が真っ赤になるのを感じた。
 顔を見るのも恥ずかしくなってしまい、不貞腐れた口調で「疲れたから寝る」と訴えてベッドの端でしわくちゃになっているバスローブを取ろうとし……、ガシと手首を掴まれた。
 誰に?もちろん颯斗にだ。
 彼は妙に爽やかな笑顔を浮かべており、片手では雛子の手首を掴み、そしてもう片手はまるで「こちらを見ろ」とでも言いたげに下を指さしている。
 その仕草に促されて雛子が視線を落とせば、彼の下腹部、濡れた下着が山を作っている。

「……もう嫌」

 割と本気の声が出た。

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