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12:ピンクの玩具※

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 目の前で颯斗がローターをゆらゆらと揺らしている。
 その光景に恨んで良いのか恥ずかしがって良いのか屈辱を覚えて良いのか分からず、雛子は綯交ぜになる感情を持て余しながら「昨年度売上ナンバーワンなの」と、まったくもって場違いな補足説明を付け足した。

 なぜこんな所に――ラブホテルゆえに別段おかしな場ではないのだが――、ローターがあるのかと言えば、そもそもは日中に颯斗が送ってきたメッセージが原因である。

『会社で扱ってるもの持って来いよ』と。

 具体的な指示はせず雛子に選ばせるあたり意地が悪い。きっと雛子が悩むことを見越し、それを含めて楽しんでいるのだろう。

 楽しまれるのは不服だが、脅されているのだから従わないわけにはいかない。
 悩ましいことに会社には試供品がたくさんあり、いつでも好きにお持ち帰りください状態なのだ。女性向けとはいえアダルトグッズは多種多様で、試供品置き場には新商品から廃盤品まで揃っている。
 だからこそ選べない。他人にお勧めするならまだしも、自分に使われる物なのだから猶更だ。

 そうして午後の仕事を悩みながら過ごし、結果、雛子はこのローターを持ってきた。
 誰にも見られないように倉庫代わりの一室からそっと持ち出し、そして袋に三重に包んで鞄に入れたのだ。――試供品を持ち帰ること自体は悪い事ではなく、その場を見かけた者が揶揄ってきたり性的なちょっかいを駆けてくるような職場でもない。それでもやはり雛子の胸中的にはこそこそと行動してしまうのだ―ー

「これ持ってきたって事は、使って欲しいんだよな?」
「持ってこいって言われたから持ってきただけ。選んだのも、昨年度売上ナンバーワンだから。ただそれだけよ」
「この体勢で強がっても意味ないぞ」
「……この体勢だって、座れっていうから座っただけ」

 これは精一杯の強がりだ。それもだいぶわかりやすい強がり。
 颯斗ももちろん分かっているのだろう「はいはい」と適当に返すだけで、持っていたリモコンのスイッチをカチリと入れた。
 コードで垂れ下がりゆらゆらと揺れていた丸い機械部が途端にヴヴヴヴと微かな振動音をあげる。思わず雛子は体を強張らせ、身を引こうとして颯斗の膝から落ちかけた。

「へぇ、意外と音は小さめなのか」
「……止めてよ」
「そう恥ずかしがるなよ。お前だって使ったこと……、無いのか?」

 意外そうな声色で問われ、雛子はぐぬぬと一度唸り……、だが素直に頷いて返した。
 事実なので認めざるを得ない。顔が熱くなる。アダルトグッズを常用していると思われるのも恥ずかしいが、かといって全く経験が無いことを改めて認識させられるとそれはそれで恥ずかしいのだ。

「こういうの持ち帰り放題なんだろ。使えばいいのに」
「なんか、こう……、機械って怖いじゃない。あ、もちろんうちの製品に不備があるなんて思ってないわよ。安心安全の設計なんだから。……でも、なんというか気持ち的な部分で使う気になれないの」

 だからアダルトグッズを使ったことは無い。そう雛子がたどたどしく話せば颯斗が一瞬間を空けたのち、小さく笑みを浮かべて「そうか」と返してきた。
 手には振動を続けるローターが握られており、それをそっと雛子の体へと近付けてくる。

「それなら俺が使い方を教えてやるよ」
「使用方法に関しては箱に説明書が」
「だから営業は黙ってろ。使い方ってのは使用方法じゃなくて、……気持ちよくなる方法だ」

 話しつつ、颯斗の手が雛子の胸に触れる。振動するローターを胸に押し付け、かと思えば先端でそっと肌を撫でる。
 手で触れられるのとは違う細かな振動に雛子は「んっ」と息を詰まらせた。

「擽ったい……」
「それなら、これは?」

 颯斗の手がゆっくりと動く。ローター越しに雛子の胸を撫で、そっと胸の突起に押し付けてきた。
 ピクンと雛子の体が跳ねたのは、先程までのくすぐったさとは違う感覚が走ったからだ。振動し続けるローターと親指で胸の先端を挟まれればむず痒いような痺れが胸から這い上がってくる。漏らした自分の呼吸は微かに荒れている。

「あ、やだ……それ、いや……はなして……」
「いやじゃなくて気持ち良いんだろ」
「ちがう……。あっ、だめ、擦らないでよ……」

 ローターと親指で胸の突起を挟まれ、更に親指の腹で擦られるともどかしさが募る。
 更に颯斗の片手がもう片方の胸をやんわりと揉みだすと、雛子の口からは快楽を漂わせた甘い声が漏れた。「だめ」だの「いや」だのと口にはしているが、その声は自分の耳にも官能的に聞こえてしまうほどに甘い。
 体が震える。ローターが与えてくる振動が、暖かく大きな手が与える柔らかな感覚が、甘く体中に満ちていく。
 その感覚はゆっくりとだが着実に下腹部に溜まり、無意識に腰が動いた。

「なんだ、我慢できなくなったのか?」
「違う……。違うの、これは……ふっ…んぅ……」

 違うと言いながらも、体は既にローターの振動を快感として受け入れている。
 腹部がじんわりと熱くなり、ショーツで隠れた秘部にも甘い痺れが伝わる。はぁ……と漏れた吐息は随分と熱っぽい。
 胸に与えられていた振動がゆっくりと肌をなぞり、胸下から臍へと降りていく。臍の窪みを擽るように撫で、そして更に下に……。

「ひゃっ!」

 今夜もまた雛子の口から間の抜けた悲鳴が漏れた。
 振動がついに布に覆われていた秘部に触れたのだ。もどかしいなんてレベルではない、はっきりとした、それも強い感覚に無意識に腰が逃げる。だが颯斗の手がそうはさせまいとローターを更に強く押し付けてきた。
 元より敏感な場所の、更に敏感な花芽。そこにローターが触れた瞬間に雛子の体がより大きく跳ねた。
 振動が秘部を超えて脳にまで走り抜ける。あまりに強い快感に慌てて颯斗の手を止めようと押さえるも、体は強張るのに手には上手く力が入らない。

「あっ、あ! んぁ、や……と、止めて!」
「ここまで来て止めるわけないだろ」
「やだっ、やっ、んぅうう! 強いの……これ、強い、から!」
「強いって、まだ設定の弱だぞ。そんなに辛くないだろ。ほら、怖くないから落ち着けって」

 なぁ、と颯斗が諭しながら雛子の背を撫でてくる。「大丈夫だから」という彼の声色は落ち着いていて、まるで子供を諭すかのように優しい。
 だが片手では優しく背を撫でながらも、もう片方の手はいまだローターを雛子の花芽に押し付けてる。手を剥がそうとしてもビクともせず、それどころかぐりぐりと強めに押し付けてきた。声も背を撫でる手も優しいのにこちらの手だけは強引だ。

「んっ、待って……い、いっちゃうから……!」
「大丈夫だから、ほら力抜いて俺にしがみついてろ」

 背中を撫でていた颯斗の手が微弱な抵抗をしていた雛子の腕を掴み、己の肩へと促す。
 もう少し意識がはっきりとしていたら雛子も抗っただろうが、今はもう思考が蕩けかけていて物事が考えられない。早く楽になりたい一心でぎゅうと強く颯斗の体に抱き着いた。

「あ、あっ、んぅっ、もう……! 颯斗……!」
「分かってる、気持ち良いんだろ。いっていいから、なぁ、雛子」

 耳元で颯斗が名前を呼んでくる。優しく低い声……。
 それを聞いた瞬間、雛子の体がぶるっと大きく震えた。腹部に溜まっていた熱がより強いものになって背筋を一気に駆け抜ける。

「あっ、んぅうう!」

 颯斗の体にしがみつき、声を上げて体を震わせた。しがみついた腕にも、彼の体を絡めるように閉じた足にも、全てに力が入る。

「は、ぁ……。ん……」

 そんな弾けるような快感が走り抜けたかと思えば、途端に体中の力が抜ける。スイッチは既に切られているのに、まだ痺れに似た振動が余韻となって体に甘く響いている。
 耐え切れずにぐったりと颯斗の体にもたれかかった。あれほど強くしがみついていた腕にも足にも今はもう力が入らない。

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