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生命が宿るのは、生か、死か。
押入れの秘密 第二話
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押入れの秘密 第二話
17時55分
「こんなのでいいならあったけど……」
あいにく家には本格的なものはなく百円圴一で売ってあるような簡易的なものしかなかった。これがあの精密機械に使えるかはわからないが一応持ってきた。
「ああ、全然大丈夫ですよ」
ドライバーを受け取るなりまた黙り込んで作業を始めた。俺はそんな中でもずっと押入れの襖が気になって仕方がなかった。彼は部屋の真ん中でちょうど例の押入れは彼の背中の方にある。いわば死角にある。
あくまで自然に彼の背後の方へ周り、押入れの存在から遠のけさせる。少し不審そうに後ろを振り返り顔を見てきたため笑顔を見せるとまた作業に戻った。
「あの……背後にいられるとすごく気になって集中できないんですけど」
「そうなのかい?でも解体作業が俺も気になってね。見ていたいんだ」
「では後ろではなく横か前に来てもらえませんか?」
「いや、前と横じゃ邪魔になるだろうし、後ろにいるよ」
無駄だと感じたのかそれ以上のことは言わなくなった。ひとまず安堵の息。
「そういえば小林くん。君学校でいろんな噂飛び交ってるけど、大丈夫かい?」
一旦作業の手を止める。俺の方へ振り返り微笑む。
「人間生きてるなら噂の一つや二つ作られるものですよ」
「そ、そうなんだ。てっきりに君は本当に不死の人間なのかと思ってたよ」
冗談っぽく笑いながらそういうと、彼は否定もせずにまたドライバーを握った。
18時00分
「あの……」
彼は相変わらず襖の前に突っ立っている俺に唐突に話しかける。作業の手は止めずに声だけで。無視する必要もないためどうした?と一言返す。
「これはとある人に聞いた診断みたいなものなんですけど、話してもいいですか?暇なので」
急な話だなと感じながら見えるはずもないのに背を向ける彼に頷いて見せる。なぜかそれを悟ったのか彼は話を始めた。
「これはサイコパス診断と言われるもので、自分が正常な人間かそれとも心に秘めたるサイコパスな部分を知ることのできる面白い診断なんですけど、ちょっとあなたにその診断に参加してもらいたいんです。一問だけです。時間はあまり取りません」
「ああ、構わないよ」
フッと小さく鼻で笑って彼淡々と説明を始めた。
「とある日、男は人を殺してしまいました。それも自分の彼女を……」
その内容に心臓が高鳴った。偶然話の内容が俺に被ったのか、それとも彼はもう俺がしたことに気がついていてしまったのか。どちらにせよ俺に焦りを覚えさせる。
「二人は学校でも有名なほど仲のいいカップルだったんですが、もしその男があなたなら何故に彼女を殺してしまったんでしょうか?最愛の彼女を……」
でも彼は背中を見せるだけで俺の方を向こうとしない。そして微かに俺の心の中で揺れるものがあった。勘のいい彼ならもしかしたら襖のなかをのぞいてしまい、不思議と丸まった布団を見つけて中をのぞいたのではないか。もしそうなら彼になら白状してもいいのではないかと思った。どうせいずれバレる、警察に行けば俺の言い分は届かないだろう。でも彼なら俺の言い分を受け取ってくれると全く根拠もないし唐突な考えだったが、俺はきっと救いが欲しかったんだこの状況を打開してくれる救世主を……それが彼だった。
「ごめん……ごめんなさい……」
「なぜ謝るんですか?僕はあなたに何かしたでしょうか?」
首を横に振った。どうせ背中を向ける彼には見えないだろう。
「事故だったんだ……そんなつもりはなかった……いつも唐突で行く当てのない彼女とのデートが楽しみで、会うたびに俺の元気をくれていたのに……俺はなんてことを……」
なんのアドバイスもくれることもなく、まだそのなんとか診断というものの続きと解釈しているみたいだ。彼は声色一つ変える事なくまた話を再開する。
「あなたの答えは事故でしたか。自分には殺意のない。偶然起きてしまった事を自分の罪だとそう思っているんですね」
「ああ、多分……」
ここまできて本当に何も知らないのではないかと不安になる。
「ならあなたはサイコパスではないですね。安心してくだい」
そして笑顔で振り返る。
「答えは……?」
「はい?答え、ですか?」
拍子抜けした声をした後に、考え込む。数時間前マユミさんがしていたように顎に手を当てていて首を傾げて。
「答えは……知らない方がいいですよ。あなたは正常だったんですから、答えを知ってしまったらあなたはまともな人間ではなくなってしまう。心の汚れた人間だけでいいんですよ。答えを知るのは」
「そう、か」
18時15分
解体作業が終わると部品部品をバックに詰め込み背中に背負った。
「では、僕はこのあたりで帰るとします」
「すまなかったね。わざわざ来てもらってさらに解体まで……」
ただし背負った鞄がやけに大きく感じた。まあ、彼はいろんなことをしているからな。今度はどんな趣味を始めたのか。
ドアノブを捻り部屋から出る。そしていった。もう二度と悲劇を繰り返さないために。
「そこ、そこの階段壊れてるから気をつけなよ」
階段を降りている最中に言ったものだから、小林くんの足が空中で止まる。
「おっと……危ない危ない。忠告ありがとうございます。助かりました」
その段だけを飛ばして彼はスタスタと軽快に降りていった。最初も……マユミさんの時もこうしていれば、今頃家に帰りついて明日はまた行く当てのない……
そうだ、彼女は最後に行きたいところがあると言っていたが、一体どこへ行きたかったんだろうか。死ぬ寸前までに彼女の中で広がっていた夢はなんだったんだ……考えても俺にはわからなかった。俺はマユミさんじゃないからな。
「また明日会いましょう」
玄関で片手をあげて背を向ける小林くんに今までずっと気になっていたことを聞いた。
「なあ、本当に君は何も知らないのかい?……俺が彼女を…………」
そこまでいい彼は学校でも聞いたことがないくらいに大きな声で遮った。
「あなたは最初から何もしていなかったんです。だから自分を責めるようなことはやめてください。今からあなたはいつも通りに晩御飯を食べ、お風呂に入り、寝て、学校に登校するんです」
言葉を出し切ったのか小林くんは一回深呼吸をしていつもみたいに囁くようにさようなら、と言い残してドアを閉めた。
XX時XX分
彼が帰ってから俺は言われたように母が作った晩御飯を食べて、風呂に入り、そしてベッドに入り天井を眺めていた。暗闇だから何も見えるわけなく、雲の形が動物のようだとはしゃぐ子供のように、天井のシミが人の顔のようだと考えていた。
「小林くん。君は一体……何者なんだ」
押入れの襖を見た。暗闇だからかやけに不気味に思えた。ベッドから立ち上がるとおぼつかない足取りで襖の前に行き、思いっきり広げた。
「やっぱり……ないか」
彼が帰った後、急いで自分の部屋に行って彼女をみるために襖を開けると、さっきまでは不思議と丸くなっていた布団が割れた風船のように小さく萎んでいた。布団の中を見てもやはりそこにいたはずの彼女……マユミさんの死体は無くなっていた。
見間違えたのではないかと気になってもう一度確認したのが今。やはりなかった。
この布団は俺がベッドに変えてから一度も押入れから出したことがなかった、だから埃がすごかった。こんな中に詰め込んでしまったことを何回も謝った。聞こえるはずのない、そしていなくなってしまったマユミさんに向かって。
「ごめんなさい……マユミさん……ごめんなさい………」
小林くんの言いたいことがわかった。彼女は最初からいなかったのだ。俺は誰とも付き合ったことなどなかった。彼女との大切な思い出を全て忘れて、罪を忘れてまたいつも通りの生活をしていくんだ。そういう体で俺は彼女の分を生きる。小林くんが最後に放った言葉をそう解釈することにした。
しかし、俺にそんな非情なことはできなかった。彼女のことを忘れろ?殺したことを忘れろというのか?そんなこと許されるはずがない。俺はこの罪を一生背負っていくんだ。俺は弱い人間だからだ。小林くんほど俺は………強くない。
押入れの秘密、終。
17時55分
「こんなのでいいならあったけど……」
あいにく家には本格的なものはなく百円圴一で売ってあるような簡易的なものしかなかった。これがあの精密機械に使えるかはわからないが一応持ってきた。
「ああ、全然大丈夫ですよ」
ドライバーを受け取るなりまた黙り込んで作業を始めた。俺はそんな中でもずっと押入れの襖が気になって仕方がなかった。彼は部屋の真ん中でちょうど例の押入れは彼の背中の方にある。いわば死角にある。
あくまで自然に彼の背後の方へ周り、押入れの存在から遠のけさせる。少し不審そうに後ろを振り返り顔を見てきたため笑顔を見せるとまた作業に戻った。
「あの……背後にいられるとすごく気になって集中できないんですけど」
「そうなのかい?でも解体作業が俺も気になってね。見ていたいんだ」
「では後ろではなく横か前に来てもらえませんか?」
「いや、前と横じゃ邪魔になるだろうし、後ろにいるよ」
無駄だと感じたのかそれ以上のことは言わなくなった。ひとまず安堵の息。
「そういえば小林くん。君学校でいろんな噂飛び交ってるけど、大丈夫かい?」
一旦作業の手を止める。俺の方へ振り返り微笑む。
「人間生きてるなら噂の一つや二つ作られるものですよ」
「そ、そうなんだ。てっきりに君は本当に不死の人間なのかと思ってたよ」
冗談っぽく笑いながらそういうと、彼は否定もせずにまたドライバーを握った。
18時00分
「あの……」
彼は相変わらず襖の前に突っ立っている俺に唐突に話しかける。作業の手は止めずに声だけで。無視する必要もないためどうした?と一言返す。
「これはとある人に聞いた診断みたいなものなんですけど、話してもいいですか?暇なので」
急な話だなと感じながら見えるはずもないのに背を向ける彼に頷いて見せる。なぜかそれを悟ったのか彼は話を始めた。
「これはサイコパス診断と言われるもので、自分が正常な人間かそれとも心に秘めたるサイコパスな部分を知ることのできる面白い診断なんですけど、ちょっとあなたにその診断に参加してもらいたいんです。一問だけです。時間はあまり取りません」
「ああ、構わないよ」
フッと小さく鼻で笑って彼淡々と説明を始めた。
「とある日、男は人を殺してしまいました。それも自分の彼女を……」
その内容に心臓が高鳴った。偶然話の内容が俺に被ったのか、それとも彼はもう俺がしたことに気がついていてしまったのか。どちらにせよ俺に焦りを覚えさせる。
「二人は学校でも有名なほど仲のいいカップルだったんですが、もしその男があなたなら何故に彼女を殺してしまったんでしょうか?最愛の彼女を……」
でも彼は背中を見せるだけで俺の方を向こうとしない。そして微かに俺の心の中で揺れるものがあった。勘のいい彼ならもしかしたら襖のなかをのぞいてしまい、不思議と丸まった布団を見つけて中をのぞいたのではないか。もしそうなら彼になら白状してもいいのではないかと思った。どうせいずれバレる、警察に行けば俺の言い分は届かないだろう。でも彼なら俺の言い分を受け取ってくれると全く根拠もないし唐突な考えだったが、俺はきっと救いが欲しかったんだこの状況を打開してくれる救世主を……それが彼だった。
「ごめん……ごめんなさい……」
「なぜ謝るんですか?僕はあなたに何かしたでしょうか?」
首を横に振った。どうせ背中を向ける彼には見えないだろう。
「事故だったんだ……そんなつもりはなかった……いつも唐突で行く当てのない彼女とのデートが楽しみで、会うたびに俺の元気をくれていたのに……俺はなんてことを……」
なんのアドバイスもくれることもなく、まだそのなんとか診断というものの続きと解釈しているみたいだ。彼は声色一つ変える事なくまた話を再開する。
「あなたの答えは事故でしたか。自分には殺意のない。偶然起きてしまった事を自分の罪だとそう思っているんですね」
「ああ、多分……」
ここまできて本当に何も知らないのではないかと不安になる。
「ならあなたはサイコパスではないですね。安心してくだい」
そして笑顔で振り返る。
「答えは……?」
「はい?答え、ですか?」
拍子抜けした声をした後に、考え込む。数時間前マユミさんがしていたように顎に手を当てていて首を傾げて。
「答えは……知らない方がいいですよ。あなたは正常だったんですから、答えを知ってしまったらあなたはまともな人間ではなくなってしまう。心の汚れた人間だけでいいんですよ。答えを知るのは」
「そう、か」
18時15分
解体作業が終わると部品部品をバックに詰め込み背中に背負った。
「では、僕はこのあたりで帰るとします」
「すまなかったね。わざわざ来てもらってさらに解体まで……」
ただし背負った鞄がやけに大きく感じた。まあ、彼はいろんなことをしているからな。今度はどんな趣味を始めたのか。
ドアノブを捻り部屋から出る。そしていった。もう二度と悲劇を繰り返さないために。
「そこ、そこの階段壊れてるから気をつけなよ」
階段を降りている最中に言ったものだから、小林くんの足が空中で止まる。
「おっと……危ない危ない。忠告ありがとうございます。助かりました」
その段だけを飛ばして彼はスタスタと軽快に降りていった。最初も……マユミさんの時もこうしていれば、今頃家に帰りついて明日はまた行く当てのない……
そうだ、彼女は最後に行きたいところがあると言っていたが、一体どこへ行きたかったんだろうか。死ぬ寸前までに彼女の中で広がっていた夢はなんだったんだ……考えても俺にはわからなかった。俺はマユミさんじゃないからな。
「また明日会いましょう」
玄関で片手をあげて背を向ける小林くんに今までずっと気になっていたことを聞いた。
「なあ、本当に君は何も知らないのかい?……俺が彼女を…………」
そこまでいい彼は学校でも聞いたことがないくらいに大きな声で遮った。
「あなたは最初から何もしていなかったんです。だから自分を責めるようなことはやめてください。今からあなたはいつも通りに晩御飯を食べ、お風呂に入り、寝て、学校に登校するんです」
言葉を出し切ったのか小林くんは一回深呼吸をしていつもみたいに囁くようにさようなら、と言い残してドアを閉めた。
XX時XX分
彼が帰ってから俺は言われたように母が作った晩御飯を食べて、風呂に入り、そしてベッドに入り天井を眺めていた。暗闇だから何も見えるわけなく、雲の形が動物のようだとはしゃぐ子供のように、天井のシミが人の顔のようだと考えていた。
「小林くん。君は一体……何者なんだ」
押入れの襖を見た。暗闇だからかやけに不気味に思えた。ベッドから立ち上がるとおぼつかない足取りで襖の前に行き、思いっきり広げた。
「やっぱり……ないか」
彼が帰った後、急いで自分の部屋に行って彼女をみるために襖を開けると、さっきまでは不思議と丸くなっていた布団が割れた風船のように小さく萎んでいた。布団の中を見てもやはりそこにいたはずの彼女……マユミさんの死体は無くなっていた。
見間違えたのではないかと気になってもう一度確認したのが今。やはりなかった。
この布団は俺がベッドに変えてから一度も押入れから出したことがなかった、だから埃がすごかった。こんな中に詰め込んでしまったことを何回も謝った。聞こえるはずのない、そしていなくなってしまったマユミさんに向かって。
「ごめんなさい……マユミさん……ごめんなさい………」
小林くんの言いたいことがわかった。彼女は最初からいなかったのだ。俺は誰とも付き合ったことなどなかった。彼女との大切な思い出を全て忘れて、罪を忘れてまたいつも通りの生活をしていくんだ。そういう体で俺は彼女の分を生きる。小林くんが最後に放った言葉をそう解釈することにした。
しかし、俺にそんな非情なことはできなかった。彼女のことを忘れろ?殺したことを忘れろというのか?そんなこと許されるはずがない。俺はこの罪を一生背負っていくんだ。俺は弱い人間だからだ。小林くんほど俺は………強くない。
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