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生命が宿るのは、他殺か、自殺か。
死なない心中 第一話
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死なない心中 第一話
この学校には様々な噂が存在する。その発端もまたまちまちであり、唐突だ。これは僕が聞いた一番初めの噂であり事実だ。信じるか信じないか読んでいる君たちに任せるよ。でも僕は事実だと思ってるし、嘘一つつかないありのままを話します。
†
話を持ち出してきたのは親友とも言えないくらいの関係の同じクラスの男子でした。なんでよりにもよって僕なのか、他にもたくさん話す人はいただろうに彼は授業が終わるのと同時に血相を変えて僕の元へ駆け寄ってきました。彼の声は震えていてとても正常と言える状態ではありません。保健室に行くよう促しましたが聞いてくれませんでした。冷静になるどころか彼の勢いは増すばかりでした。
「なあ、君。知っているかい?この学校で今流行っている噂。この話は聞いたら君もすぐに他の人に話すんだよ?この噂は伝播して感染していくからね」
なんとなく彼に言いたいことはわかりました。いわばチェーンメールのお喋り版であり伝言ゲームのように広がっていくもの、言わないと死ぬぞと脅し文句を添えて広がっていくテンプレートな噂でした。
「自殺願望者の人間が集まる屋上の話。毎月十三日の午後十七時にうちの学校の屋上から飛び降りる人間二人組がいるんだってよ。でもいつも下にある死体は一人だけなんだって」
なんだか胡散臭い話でした。でも彼が真剣に話すものだから少し僕も真剣になってしまいました。
「もう片方はどこに行ったんですか?まさか落ちた後にひょっこり立ち上がって去っていくなんてことないでしょう?」
僕は後半は冗談のように鼻で少し笑って言いましたが彼の反応は意外にも驚いて見えました。まさか的を射ているのかと問うと、彼は目を見開いて笑いながら僕の肩を掴んで言いました。その力は軽いものではなくやけに力が入っており痣になるのではないかと心配しましたがそんなことはありませんでした。
「すごいよ君、まさかこの噂を知っていたのかい?」
「いいえ、今初めてあなたから聞きました……」
「だとしたら尚更すごいよ。勘が冴えてるんだね。初めてだよ、この話でここまで悟ることができたのは……よし、いいだろう。君には話してあげよう。この噂のもう一つの真実をね」
僕の隣の席は空いていたので、そこの椅子を目の前まで持ってくると腕を組みながら意気揚々と彼は語り始めます。この時には僕の心はすっかりその噂の方へ向いていました。
「そうなんだ。彼ら彼女らの二組ペアの片方は不死身なんだよ。彼はこの世界に飽きて自殺したい。でも一人で死ぬのは嫌だ。だからこの学校のこの噂を使って月十三日にくる自殺願望者と共に飛ぶんだ。でも世の中は甘くない、彼は死ねないんだよ。だから今もこうしてこの噂を伝播させて少しでも自殺願望者を屋上に募っているわけだ」
僕は素直にフーンと頷くことだけしました。彼は話すだけ話してスッキリしたのか愉快そうに笑いながら去っていきました。
確かにうちの学校の今年からの自殺者の数はおかしいと思っていました。僕の友達に落ちるところを見たということも聞いていましたし、原因は嘘でもまことでもこんな理由があったのかと素直に納得しました。いい後付け設定だとも思いましたし、確かにそういうこともありえると二つの意見が心の中を浮遊していました。
頭の中には太宰治の名前が出てきました。彼は何回もの自殺未遂を繰り返し、とある作品には今回の噂みたく心中の片方が生き延びるというシーンがありました。その死なない彼または彼女に太宰の姿を重ねていました。
にしても死ねない人間の心中……か。僕の中でそそられるものを感じて、あることに気がつきました。今日の日にちでした。
「十二月十二日……」
その噂だと月の十三日に実行されると言われる心中は明日起こる。僕の心にはまた二通りの考えが出てきました。死なない人間の心中を見て見たいのとやめておこうというものでした。
僕は数分考えた末に、答えを導き出しました。後悔はしない、明日の心中の被害者はこの僕になるであろう。そう僕は前者を選んだのだ。
†
次の日になりました。十三日彼の噂が正しいのなら今日の十七時に死なない人間が来る日のはずです。僕は放課後になるのが待ち遠しかった。だって今日、僕は死ぬのと同時に人類史上初の存在、いわば不死身の存在に出会えるのです。それは楽しみで楽しみで授業なんて頭に入ってきませんでした。本当に不死身だったらすごいことです。きっと誰に言っても信じてもらえないでしょう、だって不死はフィクションの世界でのみ存在が許されます。そんなものが現実に存在するのが目の前まで来てるなんて正直学校すらどうでもいい気分でした。でもまあ、彼または彼女が不死であるかないかを確認できるのは屋上から飛び降りた後の話であって僕がその現場を見ることは叶いません。
別の誰かが飛び降りるのを見てみるのもありだと感じましたが、やはり自分が経験してこその至高の勲章だと思いましたからね。やめたくなかったんですよ。飛び降りると言う行為を。
「本当に行くのかい?」
存在に気づくのに遅れましたが噂を提供してくれた彼が僕の机の前に立ってそう問いました。
「気になりますからね。死なない人間が存在するのかどうか。この目に焼き付けるまでは諦めたくないんです」
「変わった人だね。大体の人は逃げてくのに君は死ぬのを選ぶのかい?そこまでしても存在の証明が必要?」
僕は俯きました。確かにそこまでして知る必要があるか。普通の人はNOと首を横に振るでしょう。しかし、ふっと口の端を歪めてほくそ笑みこう囁きました。
「はい、知りたいです」
†
十七時になりました。放課後の学校に残ることは初めてでしたがなかなかに心地いいものですね。夕日が教室の窓からさし辺りをオレンジ色に染め上げ、いつもとは変わった視点で僕は学校の廊下を歩いていました。
他の生徒は帰ってしまいついさっきまでの騒ぎ具合は嘘みたいです。残っている人間は物好きばかりで部活をしている生徒もいませんでした。なぜここまでも人間がいないのか最初こそ不思議に思いましたが、すぐにわかりました。
そうです。みんな今日がその日であることを知っていて怖けずき逃げたんだとそう解釈しました。だって誰も自殺する現場なんて見たくありません。僕だってもし正常な考えができたのなら同じことをしたでしょう。
「自分には、人間の生活というものが見当つかないのです……」
僕にはその文章がとても似合っているように感じました。クラスでは厨二病や根暗とか言われますが関係ありません。誰も僕の本当の心のなかを読み取れていないからそう言えるのです。勝手な個人での印象は自分勝手な言い分であり全く参考になりません。個人的主観は時に的を射る時がありますがあくまで主観、その手を使ったミステリー本があるくらいですし信頼性はゼロに等しい。僕はそう思っているので周りがどういようともなんとも感じません。その人に考えがあるように、僕にも僕の考えがあります。
そうやって考え事を深めているうちにいつの間にか屋上に着いていました。重いドアを開けると外の空気が入ってきて、オレンジ色の空が頭上高くに広がりました。
「おう、君が俺の相手かい?男子は珍しいんだよ」
片手を上げて僕に向かって手を振って彼は言いました。同時に彼の周りに集まっていたカラスが一斉に飛び立って行きました。
彼には懐いているのに僕が来た途端に逃げるとは僕も嫌われたものです。
「はい……そうですけど」
僕は小さく彼に聞こえないように笑うと、そう呟きました。
第一話、終。
この学校には様々な噂が存在する。その発端もまたまちまちであり、唐突だ。これは僕が聞いた一番初めの噂であり事実だ。信じるか信じないか読んでいる君たちに任せるよ。でも僕は事実だと思ってるし、嘘一つつかないありのままを話します。
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話を持ち出してきたのは親友とも言えないくらいの関係の同じクラスの男子でした。なんでよりにもよって僕なのか、他にもたくさん話す人はいただろうに彼は授業が終わるのと同時に血相を変えて僕の元へ駆け寄ってきました。彼の声は震えていてとても正常と言える状態ではありません。保健室に行くよう促しましたが聞いてくれませんでした。冷静になるどころか彼の勢いは増すばかりでした。
「なあ、君。知っているかい?この学校で今流行っている噂。この話は聞いたら君もすぐに他の人に話すんだよ?この噂は伝播して感染していくからね」
なんとなく彼に言いたいことはわかりました。いわばチェーンメールのお喋り版であり伝言ゲームのように広がっていくもの、言わないと死ぬぞと脅し文句を添えて広がっていくテンプレートな噂でした。
「自殺願望者の人間が集まる屋上の話。毎月十三日の午後十七時にうちの学校の屋上から飛び降りる人間二人組がいるんだってよ。でもいつも下にある死体は一人だけなんだって」
なんだか胡散臭い話でした。でも彼が真剣に話すものだから少し僕も真剣になってしまいました。
「もう片方はどこに行ったんですか?まさか落ちた後にひょっこり立ち上がって去っていくなんてことないでしょう?」
僕は後半は冗談のように鼻で少し笑って言いましたが彼の反応は意外にも驚いて見えました。まさか的を射ているのかと問うと、彼は目を見開いて笑いながら僕の肩を掴んで言いました。その力は軽いものではなくやけに力が入っており痣になるのではないかと心配しましたがそんなことはありませんでした。
「すごいよ君、まさかこの噂を知っていたのかい?」
「いいえ、今初めてあなたから聞きました……」
「だとしたら尚更すごいよ。勘が冴えてるんだね。初めてだよ、この話でここまで悟ることができたのは……よし、いいだろう。君には話してあげよう。この噂のもう一つの真実をね」
僕の隣の席は空いていたので、そこの椅子を目の前まで持ってくると腕を組みながら意気揚々と彼は語り始めます。この時には僕の心はすっかりその噂の方へ向いていました。
「そうなんだ。彼ら彼女らの二組ペアの片方は不死身なんだよ。彼はこの世界に飽きて自殺したい。でも一人で死ぬのは嫌だ。だからこの学校のこの噂を使って月十三日にくる自殺願望者と共に飛ぶんだ。でも世の中は甘くない、彼は死ねないんだよ。だから今もこうしてこの噂を伝播させて少しでも自殺願望者を屋上に募っているわけだ」
僕は素直にフーンと頷くことだけしました。彼は話すだけ話してスッキリしたのか愉快そうに笑いながら去っていきました。
確かにうちの学校の今年からの自殺者の数はおかしいと思っていました。僕の友達に落ちるところを見たということも聞いていましたし、原因は嘘でもまことでもこんな理由があったのかと素直に納得しました。いい後付け設定だとも思いましたし、確かにそういうこともありえると二つの意見が心の中を浮遊していました。
頭の中には太宰治の名前が出てきました。彼は何回もの自殺未遂を繰り返し、とある作品には今回の噂みたく心中の片方が生き延びるというシーンがありました。その死なない彼または彼女に太宰の姿を重ねていました。
にしても死ねない人間の心中……か。僕の中でそそられるものを感じて、あることに気がつきました。今日の日にちでした。
「十二月十二日……」
その噂だと月の十三日に実行されると言われる心中は明日起こる。僕の心にはまた二通りの考えが出てきました。死なない人間の心中を見て見たいのとやめておこうというものでした。
僕は数分考えた末に、答えを導き出しました。後悔はしない、明日の心中の被害者はこの僕になるであろう。そう僕は前者を選んだのだ。
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次の日になりました。十三日彼の噂が正しいのなら今日の十七時に死なない人間が来る日のはずです。僕は放課後になるのが待ち遠しかった。だって今日、僕は死ぬのと同時に人類史上初の存在、いわば不死身の存在に出会えるのです。それは楽しみで楽しみで授業なんて頭に入ってきませんでした。本当に不死身だったらすごいことです。きっと誰に言っても信じてもらえないでしょう、だって不死はフィクションの世界でのみ存在が許されます。そんなものが現実に存在するのが目の前まで来てるなんて正直学校すらどうでもいい気分でした。でもまあ、彼または彼女が不死であるかないかを確認できるのは屋上から飛び降りた後の話であって僕がその現場を見ることは叶いません。
別の誰かが飛び降りるのを見てみるのもありだと感じましたが、やはり自分が経験してこその至高の勲章だと思いましたからね。やめたくなかったんですよ。飛び降りると言う行為を。
「本当に行くのかい?」
存在に気づくのに遅れましたが噂を提供してくれた彼が僕の机の前に立ってそう問いました。
「気になりますからね。死なない人間が存在するのかどうか。この目に焼き付けるまでは諦めたくないんです」
「変わった人だね。大体の人は逃げてくのに君は死ぬのを選ぶのかい?そこまでしても存在の証明が必要?」
僕は俯きました。確かにそこまでして知る必要があるか。普通の人はNOと首を横に振るでしょう。しかし、ふっと口の端を歪めてほくそ笑みこう囁きました。
「はい、知りたいです」
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十七時になりました。放課後の学校に残ることは初めてでしたがなかなかに心地いいものですね。夕日が教室の窓からさし辺りをオレンジ色に染め上げ、いつもとは変わった視点で僕は学校の廊下を歩いていました。
他の生徒は帰ってしまいついさっきまでの騒ぎ具合は嘘みたいです。残っている人間は物好きばかりで部活をしている生徒もいませんでした。なぜここまでも人間がいないのか最初こそ不思議に思いましたが、すぐにわかりました。
そうです。みんな今日がその日であることを知っていて怖けずき逃げたんだとそう解釈しました。だって誰も自殺する現場なんて見たくありません。僕だってもし正常な考えができたのなら同じことをしたでしょう。
「自分には、人間の生活というものが見当つかないのです……」
僕にはその文章がとても似合っているように感じました。クラスでは厨二病や根暗とか言われますが関係ありません。誰も僕の本当の心のなかを読み取れていないからそう言えるのです。勝手な個人での印象は自分勝手な言い分であり全く参考になりません。個人的主観は時に的を射る時がありますがあくまで主観、その手を使ったミステリー本があるくらいですし信頼性はゼロに等しい。僕はそう思っているので周りがどういようともなんとも感じません。その人に考えがあるように、僕にも僕の考えがあります。
そうやって考え事を深めているうちにいつの間にか屋上に着いていました。重いドアを開けると外の空気が入ってきて、オレンジ色の空が頭上高くに広がりました。
「おう、君が俺の相手かい?男子は珍しいんだよ」
片手を上げて僕に向かって手を振って彼は言いました。同時に彼の周りに集まっていたカラスが一斉に飛び立って行きました。
彼には懐いているのに僕が来た途端に逃げるとは僕も嫌われたものです。
「はい……そうですけど」
僕は小さく彼に聞こえないように笑うと、そう呟きました。
第一話、終。
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