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番外編

episode1「新生天音会」

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これは私、井上清作による新生天音孤児''特Z者製造計画についての十一月~十一月三十一日までを記録した手記である。

私がしてしまったことは大抵許されるわけがない。特にあの子たちにはな、だからこそこの手記を誰かに受け取ってもらうため無駄に足掻くまでさ。

この研究は極秘に進められてきた。そして最低三件の企業に受け渡す予定の特Z者の孤児を作り、私がこの会から落とされるところまでを記録する。

11/1.この日私の元に一件の依頼が届く。もともと新生天音会に所属していたのは職がなく迷っていた頃に勧誘が来た。某有名大学卒業の私だったが想像以上に外の世界の人間は私を欲しがらなかった。今までの経歴が全て水の泡になった気持ちになっていた、弱い心の隙をつかれつい会に参加してしまった。おっと、話がずれたな。その依頼とは新生天音孤児''特Z者製造計画というものだった。

11/2.会のリーダー的存在の……名前は公開してはいけないルールなので名は伏せる。彼に会いに行って話を聞いた。ちょうど一週間前は西洽崎市で起きた地震でかなり荒れていてその時に親なしの孤児を拾い集めたのだと、その子らを使って人体実験を行うという内容だった。まさかな、そんな映画みたいな話があってたまるか。もちろん反論したがこちらと弱みを握られている身であるため直ぐに黙らされたさ。

11/6.実験室(自室)と言われる部屋を用意されて準備をした。とてもみていられない光景に目を瞑る。部屋の恥には四人の子供がいた。当時七歳ぐらいであろう中藤怜恩、山口悠太、和泉葎花、和泉樒花。最後の二人は双子の姉妹だ。楽しい日常から非日常のような惨劇に巻き込まれた子たちの気持ちは私には理解できないだろうし、理解しようとしても同情は慰めではない。

11/7.それぞれ四人にはとある実験をした。中藤怜恩には、一日に大量の小説や映像を見させ、山口悠太には過度なストレス性を与える電波音を一日中聴かせた、和泉葎花には誰もいない狭い空間にずっと閉じ込めた、そして和泉樒花にはあえて何もしないという四人の子供と四つの実験による最悪の事件の始まりさ。

11/10.変化が最初に見られたのは山口悠太からだった。報告によると過度の体の震えや、視線を感じる、一人で喋り出すなど。

11/11.それに続くように和泉葎花は人とのコミュニケーションを避けるようになり食事も良く残すようになる、しかし一人の研究員のことが気に入っているみたいで、ずっと一緒に話している。

11/13.中藤怜恩が自分も物語を書きたいと言い出し白紙の紙を400枚ほど渡した。 

11/14.樒花が最近他の子たちとの交流を避けているようだ。私が尋ねると''みんなが構ってくれない''と言った。

11/16.山口悠太が暴れ出した。急に研究員に殴りかかり暴れ回った結果、最終的には山口悠太が泣き出しストレスによる情緒が安定していないのが見てわかる。

11/17.リーダーに文句を言いに行ってやった。さすがに子供たちもそろそろ限界を迎えている。だがやはりそれ相応の結果はなかった。

11/20.最近、中藤怜恩の様子がおかしい。個室から出なくなりずっと紙に向かって手だけが動いている。体は完全に寝ている状態であるのに。

11/22.山口悠太は最近、複数の人格を保持しているのがわかった。自分のことをここの孤児院にこなかった兄の和希であると言い出したり、中藤怜恩、和泉葎花、和泉樒花の名を名乗ったり仕草や喋り方を完全とはいかないが真似をしている。

11/24.中藤怜恩は成功した。彼はとてつもない特Z者の素質がある。詳細はとあるキーワードを三つ5w1hに合わせて言うだけで
過去現在未来の事柄が全て把握できる。そして彼の恐ろしいのは人の記憶をも把握できること、しかしそれには紙とペンが必要になる。

11/25.山口悠太の結果としては、何とも言えない。彼はストレスを過剰に摂取して尚且つ母親の死が重なり、二重人格……いや二重どころではない相手の仕草言葉遣いや息の仕方上り方、全てを把握しなおかつ何人もの人間の人格を所有できるという。

11/26.樒花、彼女は失敗というか。あえて何もしないというのが本当に何も怒らなかった。強いていうならば、仲間との会話が最初よりできるようになった。顔色を窺えるようになったというべきか?

11/29.葎花が好意を向けていた研究員を殺した。理由を問えば、自分が好きだと言ったら拒否された。とのこと。

11/30.私は怖くなってしまった。理由は自分の生み出してしまった子供たちがもう人間に見えなくなってしまった。自分で作っておいて何をいうかと思うが私はとにかく逃げたくなったのだ。

最後に、我々は最後の最後で気づいたのだ。私は自分達の研究でこの子たちは壊れたのだと思っていたが、違うみたいだ。彼、彼女らはあの地震の時以来からもう壊れていたんだ。

この手記を残して井上清作は研究室から新生天音会から消えた。
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