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シーズン1
episode10「Joker」
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私、和泉葎花は管理室へ向かった。
「意外と広くてびっくりです!」
とりあえず落ち着かないと……私は長塚探偵の助手こと和泉。こんな現場慣れっこでしょうが!!
「ねえねえ、和泉ちゃん!君ってなんで探偵の助手になんてなったの?」
山口君が話しかけてくる。
「ええーと、なんでだっけ?何か細かく質問してみて、何か思い出すかも」
「そっか、じゃあ……和泉ちゃんって何歳?」
私はやるせない気持ちを感じたが、これも仕事の一環。ちゃんと自分の役を演じなくっちゃ!!弱々しいと探偵になれない、長塚君の受け売りだからね。
「えっとね、今年で27歳だよ。長塚君と同じ年齢なんだ」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ僕は和泉さんにすら負けているわけだ」
残念そうに俯いていた。
「じゃあ、長塚探偵と和泉さんってどういう関係?」
意地悪そうにニヤニヤする山口君。
「え!?ち、ちょっと……別に、深い関係じゃないよ……」
「え~本当かな?その反応的に見ると、深~い関係なのかなー?」
この人はなんてことを聞いてくるんだ!!
「じ、じゃあ……少しだけ昔話ね」
「よっ!待ってました!!」
騒ぐだけ騒ぐ彼を差し置いて私は冷静になって話した。
「私ね、昔……高校生の頃、虐められててね。結構酷かったんだ……」
「へぇー、ひどいってどんな?」
「まず私の席は落書きだらけ、死ねとかクズとか帰れとか色々書かれていたんだ……他にもあるんだけどあんまり言いたくない」
「で?そこからどう長塚探偵と出会うわけ?」
ずかずかと聞いて来て……この人デリカシーが本当にない人だね長塚君そっくり。
「それで私リスカとかして、何回も屋上に行ったりして飛び降りてやるって思ってたけど……死ぬのって怖いんだ……」
「ふむふむ……」
「山口君、何書いてるの?」
さっきから気になっていたが山口君はメモ帳みたいなものに書き物をしていた。
「いやぁ、小説家たるもの人間の感情というものがどうしても気になってしまうんです、こう言うのはメモしておかないと……」
「はあ……」
私はため息をこぼす。この子はデリカシーがないのかそれとも天然なのか。
「で、その時助けてくれたのが、長塚君で。飛び降りようとしてた私の手握ってくれた。とっても暖かかったの。私本当に泣きじゃくって今思えば恥ずかしいね」
「今こんなに強い女性が昔はか弱い女の子だった。そう言うストーリーもありですね」
ダメね、完全に自分だけの世界に入ってるわ。
「着きましたよ」
先頭を歩いていた琴さんが管理人室についたことを教えてくれた。
「あ、ついちゃったね。話はまた後で……」
山口君は頷いた。
「では開けますよ」
そう言うと琴さんはドアノブを握って開ける。
「暗いねぇ?明かりは?」
山口君が先頭につきずかずかと侵入して行った。ぱちっと音と共に電気がつく。
「いやー暗いのは苦手なんでね。ついつい焦っちゃいました」
笑いながら言う。
「にしてもすごい機械たちですね。どれがどのボタンだか検討がつきません」
確かにボタンがやけに多く。どれがどれだかわからない。
「任せておいてください。こう見えても管理会社に勤めていたこともあるんですよ?」
琴さんはそう言うと胸ポケットから老眼鏡をつけてボタンたちを凝視する。
「にしても暑いわね……なんでかしら?」
私はさっきからやけに暑かった。隣を見ると山口君もそうみたいだった。汗を手で拭っている。
「なんででしょうか?暖房がついてます」
「えぇ?じゃあ止めてください」
山口君がそう促すと琴さんは素早く止めた。
「…………………」
私は無言で額に垂れてきた汗を手で拭うと、袖が捲れてしまった。
「あ、しまった……」
袖の下は見られないようにしていたのだが迂闊だった。山口君はこちらを凝視する。
「和泉……」
「え?」
ずかずかと近づいてきて手首を握られ袖を捲られた。
「何でだよ、やめたって言ってたじゃないか!?」
「ごめん……嘘ついてた……本当は辞めてたつもりだったの……けどいつの間にか……」
そう私はまた手首を切っていたのだ。
「しかもこの傷……跡的にまだ最近じゃないか!?」
「ごめんなさい……許して……」
すると山口君の手が離れる。琴さんが止めに入った。
「見てください泣いてるじゃないですか?」
琴さんはそれだけいうと山口君も気づいたようだ。頭を下げるだけで何も言わなかった。
「大丈夫なの琴さん……悪いのは私だから……」
「何故です!?悪いのはあなたを泣かせた彼でしょう?」
「本当に大丈夫なの……だから、早くシャッター調べましょう……」
琴さんは腑に落ちないような気持ちなのだろうか。少しためらった後にまたボタンを見始めた。
「あ、ありました。このボタンです。管理会社の時のシャッター用のボタンと同じ形と名称です」
「やりましたね!早速試してみましょう!」
黙っていた山口君はいつも通りの調子に戻り琴さんにそう言う。
「じゃあ、行きますよ?」
私たちはお互い目線だけ合わせて頷く。琴さんの指がボタンを押す。カチッといい上を向いていたボタンが下を向く。すると……。
「あ、あれ?」
停電!?目の前の景色が一瞬で暗黒に包まれる。
「和泉さん?山口さん?どこですか!?」
琴さんの声だ!だけど周りが暗すぎて声だけじゃ場所の判別がつかない。
「こっちです!!琴さん!」
私も叫ぶ。
「無事なんですね!?今声のする方に向かいますね!?」
「りょうかいで………!!うっ」
私が再び叫ぼうとするのを誰かに口を塞がれ途切れる。見てみると山口君だ。
「和泉さん?どうしたんですか?返事してください!!」
「和泉さんこっち!!」
琴さんの言葉を無視し山口君は私の腕を握って走り出す。
「ち、ちょっと!!山口君!?何するの?」
「考えてわからないか?琴さんがボタンを押した瞬間停電……都合が良すぎるだろう?彼が意図的に停電にしたんだ!」
「え?それ本当なの!?」
暗くて見えにくいが確かに彼は今頷くのが見える。
「と、とりあえずそこまで!」
山口君の指差す方を見ると微かに電気がついていた……。いや、電気ではなくインテリ用の松明のようなものだった。
「はあ、はあ、はあっ!」
息が上がってきているため喉が痛いが。何とか声を出す。
「ありがとう、山口君。助かったわ」
「うん!いいってことよ!」
私たちは息が整うまでそこで止まっていた。
「琴さん追ってこないな……僕の推理が外れたのか?」
「いや、でも確かに怪しいわね」
「そっか、推理は当たってたのかな」
そう笑って喋る彼を見ていると少し元気を取り戻してきた。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
「うん?どうしたの?」
「今言うことじゃないんだけどね、思い出したんだ。私が助手になった理由」
「そっか……どうなんだい?」
私は彼に見られるのが恥ずかしくなりそっぽを向いて言った。
「私ね……」
すると突如腹部があったかくなるのを感じた。
「え…………?」
山口君に助けを求めようと振り返ると彼はまだ気づいていないようだった。不思議そうな顔をしている。
「山口…………く、ん……」
手を当ててみると赤くどろりとした液体が指と指に間に絡みつく、そして最後に見たのは私の腹部に刺さったナイフだった。
シーズン1 エピソード10「切り札」
「意外と広くてびっくりです!」
とりあえず落ち着かないと……私は長塚探偵の助手こと和泉。こんな現場慣れっこでしょうが!!
「ねえねえ、和泉ちゃん!君ってなんで探偵の助手になんてなったの?」
山口君が話しかけてくる。
「ええーと、なんでだっけ?何か細かく質問してみて、何か思い出すかも」
「そっか、じゃあ……和泉ちゃんって何歳?」
私はやるせない気持ちを感じたが、これも仕事の一環。ちゃんと自分の役を演じなくっちゃ!!弱々しいと探偵になれない、長塚君の受け売りだからね。
「えっとね、今年で27歳だよ。長塚君と同じ年齢なんだ」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ僕は和泉さんにすら負けているわけだ」
残念そうに俯いていた。
「じゃあ、長塚探偵と和泉さんってどういう関係?」
意地悪そうにニヤニヤする山口君。
「え!?ち、ちょっと……別に、深い関係じゃないよ……」
「え~本当かな?その反応的に見ると、深~い関係なのかなー?」
この人はなんてことを聞いてくるんだ!!
「じ、じゃあ……少しだけ昔話ね」
「よっ!待ってました!!」
騒ぐだけ騒ぐ彼を差し置いて私は冷静になって話した。
「私ね、昔……高校生の頃、虐められててね。結構酷かったんだ……」
「へぇー、ひどいってどんな?」
「まず私の席は落書きだらけ、死ねとかクズとか帰れとか色々書かれていたんだ……他にもあるんだけどあんまり言いたくない」
「で?そこからどう長塚探偵と出会うわけ?」
ずかずかと聞いて来て……この人デリカシーが本当にない人だね長塚君そっくり。
「それで私リスカとかして、何回も屋上に行ったりして飛び降りてやるって思ってたけど……死ぬのって怖いんだ……」
「ふむふむ……」
「山口君、何書いてるの?」
さっきから気になっていたが山口君はメモ帳みたいなものに書き物をしていた。
「いやぁ、小説家たるもの人間の感情というものがどうしても気になってしまうんです、こう言うのはメモしておかないと……」
「はあ……」
私はため息をこぼす。この子はデリカシーがないのかそれとも天然なのか。
「で、その時助けてくれたのが、長塚君で。飛び降りようとしてた私の手握ってくれた。とっても暖かかったの。私本当に泣きじゃくって今思えば恥ずかしいね」
「今こんなに強い女性が昔はか弱い女の子だった。そう言うストーリーもありですね」
ダメね、完全に自分だけの世界に入ってるわ。
「着きましたよ」
先頭を歩いていた琴さんが管理人室についたことを教えてくれた。
「あ、ついちゃったね。話はまた後で……」
山口君は頷いた。
「では開けますよ」
そう言うと琴さんはドアノブを握って開ける。
「暗いねぇ?明かりは?」
山口君が先頭につきずかずかと侵入して行った。ぱちっと音と共に電気がつく。
「いやー暗いのは苦手なんでね。ついつい焦っちゃいました」
笑いながら言う。
「にしてもすごい機械たちですね。どれがどのボタンだか検討がつきません」
確かにボタンがやけに多く。どれがどれだかわからない。
「任せておいてください。こう見えても管理会社に勤めていたこともあるんですよ?」
琴さんはそう言うと胸ポケットから老眼鏡をつけてボタンたちを凝視する。
「にしても暑いわね……なんでかしら?」
私はさっきからやけに暑かった。隣を見ると山口君もそうみたいだった。汗を手で拭っている。
「なんででしょうか?暖房がついてます」
「えぇ?じゃあ止めてください」
山口君がそう促すと琴さんは素早く止めた。
「…………………」
私は無言で額に垂れてきた汗を手で拭うと、袖が捲れてしまった。
「あ、しまった……」
袖の下は見られないようにしていたのだが迂闊だった。山口君はこちらを凝視する。
「和泉……」
「え?」
ずかずかと近づいてきて手首を握られ袖を捲られた。
「何でだよ、やめたって言ってたじゃないか!?」
「ごめん……嘘ついてた……本当は辞めてたつもりだったの……けどいつの間にか……」
そう私はまた手首を切っていたのだ。
「しかもこの傷……跡的にまだ最近じゃないか!?」
「ごめんなさい……許して……」
すると山口君の手が離れる。琴さんが止めに入った。
「見てください泣いてるじゃないですか?」
琴さんはそれだけいうと山口君も気づいたようだ。頭を下げるだけで何も言わなかった。
「大丈夫なの琴さん……悪いのは私だから……」
「何故です!?悪いのはあなたを泣かせた彼でしょう?」
「本当に大丈夫なの……だから、早くシャッター調べましょう……」
琴さんは腑に落ちないような気持ちなのだろうか。少しためらった後にまたボタンを見始めた。
「あ、ありました。このボタンです。管理会社の時のシャッター用のボタンと同じ形と名称です」
「やりましたね!早速試してみましょう!」
黙っていた山口君はいつも通りの調子に戻り琴さんにそう言う。
「じゃあ、行きますよ?」
私たちはお互い目線だけ合わせて頷く。琴さんの指がボタンを押す。カチッといい上を向いていたボタンが下を向く。すると……。
「あ、あれ?」
停電!?目の前の景色が一瞬で暗黒に包まれる。
「和泉さん?山口さん?どこですか!?」
琴さんの声だ!だけど周りが暗すぎて声だけじゃ場所の判別がつかない。
「こっちです!!琴さん!」
私も叫ぶ。
「無事なんですね!?今声のする方に向かいますね!?」
「りょうかいで………!!うっ」
私が再び叫ぼうとするのを誰かに口を塞がれ途切れる。見てみると山口君だ。
「和泉さん?どうしたんですか?返事してください!!」
「和泉さんこっち!!」
琴さんの言葉を無視し山口君は私の腕を握って走り出す。
「ち、ちょっと!!山口君!?何するの?」
「考えてわからないか?琴さんがボタンを押した瞬間停電……都合が良すぎるだろう?彼が意図的に停電にしたんだ!」
「え?それ本当なの!?」
暗くて見えにくいが確かに彼は今頷くのが見える。
「と、とりあえずそこまで!」
山口君の指差す方を見ると微かに電気がついていた……。いや、電気ではなくインテリ用の松明のようなものだった。
「はあ、はあ、はあっ!」
息が上がってきているため喉が痛いが。何とか声を出す。
「ありがとう、山口君。助かったわ」
「うん!いいってことよ!」
私たちは息が整うまでそこで止まっていた。
「琴さん追ってこないな……僕の推理が外れたのか?」
「いや、でも確かに怪しいわね」
「そっか、推理は当たってたのかな」
そう笑って喋る彼を見ていると少し元気を取り戻してきた。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
「うん?どうしたの?」
「今言うことじゃないんだけどね、思い出したんだ。私が助手になった理由」
「そっか……どうなんだい?」
私は彼に見られるのが恥ずかしくなりそっぽを向いて言った。
「私ね……」
すると突如腹部があったかくなるのを感じた。
「え…………?」
山口君に助けを求めようと振り返ると彼はまだ気づいていないようだった。不思議そうな顔をしている。
「山口…………く、ん……」
手を当ててみると赤くどろりとした液体が指と指に間に絡みつく、そして最後に見たのは私の腹部に刺さったナイフだった。
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