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2、音楽室ー七不思議定番
第九夕 「彼女の怪」
しおりを挟むあの後、情報は得たもののそれ以降の話は広がりそうになかった。とりあえず医師に訊いてみてからまた情報交換しようと伝えて私は病院に走り、約束通りに看護師に連れられて医師の休憩部屋まで行くとすかさず話を始めた。
「アズサさん、懐かしいな」
「彼女はどういう理由で入院を?」
全く見ず知らずの人間から彼女のことを訊かれ疑わられたが、彼女の従姉妹で何も知らされずに彼女がいなくなったから気になって調べに来たと言うと。事情を察するように顔を顰めて話してくれた。
「家族は教えてくれなかったのかい?」
嘘であるため少し良い気分はしなかったが、ナギさんのためだと思うと訊かずにはいられなかった。
「家族はアズサさんの話になるとみんな黙ってしまうんです」
もちろん嘘だ。
「そうか、まあ………あんな事があったからな」
「あんな…………とは、どんな?」
医師は少し私の顔と天井を交互に見たのち眉間に皺を寄せてから話し始めた。
「彼女は、最初は事故をしたと言っていた。周りの人間もそう思っていた。しかしそんな考えをしなかった人もいたんだ。それが私たち病院側と彼女の側近の家族、そして警察だけが真実を知っていた」
「真実………とは?」
目が疲れたのか午前の仕事の疲れがどっと来たみたいだ。つけていた黒縁の眼鏡を机に置き瞼に手を当てている。
「彼女は殺されかけたんだ。実の父親に家で襲われて、逃げている最中にマンションの三階から落ちた。彼女は右肩から下………右腕を切除せざるを得なかったんだ」
「父親はどうなったんですか?」
当てていた手をどかして眼鏡を再度かけると、パソコンを操作し始めてニュース記事のサイト画面を私に見せた。
「結果から言うと、彼女は無事に退院して学校にも通い始めた。聞いた話によるとピアノの教室にも通い始めていたらしい」
「これって……………まさか」
「そう、そのまさかだ。彼女は高校三年生の卒業間際に逃走中で警察の手から逃げていた父親に殺されてしまったんだ」
そのニュース記事では洽崎高等学校に通っていた女子高生が実の父親に刺殺されたという趣旨の内容で、数年前に起きた殺人未遂事件の被害者と加害者であるということも書かれていた。
「運ばれた時は正直もう何十年も医師を続けている私でさえ吐き気がするほど驚愕したよ。死因の刃物による刺し傷は合計でも十六箇所はあって、もう手の施しようもない状態だった」
そう話している時にふと私の方へ視線を送ると申し訳なさそうに頭を掻いた。
「すまない、少し過激な内容だったかな?」
「いえ、大丈夫です…………」
彼女を探すはずだったのに、殺されていた…………ナギさんはこのことを知っていたのだろうか?もう医師の言葉は耳には届いておらず、礼を言うと私は今日二度目の病院を出た。
†
夕方も終わりかけ、もう夜と差し違いないぐらいに暗くなった時に私は音楽室に来ていた。病院から走って来ていたため汗が額から顎に流れ、落ちる。シャツも濡れて肌に引っ付いていて気分が悪かった。
「早かったね。もう彼女は見つけたのかい?」
二十二時になっていないのに彼はピアノの椅子に座り、私を出迎えてくれた。
「それが…………」
「うん、どうしたの?顔色悪いね」
ナギさんは私の肩に手を置くと、優しくそっと笑顔を浮かべて、話してほしい、とだけ言った。彼の話の時点で少し察しがついていた。もう彼女は居ないんじゃないかと、待っていると約束しているのに一向に現れない。二十二時になっても彼女が来ない理由、少しでも想像できていた。でもそんなわけがないと自分の中で悪い想像を拭っていた。けど、現実は悪い方向にだけは行きやすいようにできているみたいだ。
「彼女は、もう居ないんです」
「………………」
「もう、死んじゃってて居ないんです」
どんな顔をして良いのか分からず、私は視線を落とすことしかできなかった。
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