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2、音楽室ー七不思議定番

第八夜・3 「音楽の怪」

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僕の隣に彼女が座って、鍵盤を引くのは僕、ペダルを踏んだり時折一緒に弾いたりするのが''彼女''。こんな演奏会が続いてもう、一ヶ月が過ぎようとしていた。

「今日はありがとう。また明日」

「うん、また………」

そして''彼女''は明後日が退院日。もともと会っていなかっただけで結構昔から入院していたらしくリハビリも終え最近は義手をつけて来ていたことを僕の前で見せびらかしたりしていた。

「もう………お姉ちゃんに会えないんだ…………」

''彼女''が外に出ていっても僕は外に出ることは許されない。病院の中でこんなに苦痛だと感じたのは初めてだった。義足の練習なんかよりも苦しくて、心の底から何かが込み上がって来そうだった。




次の日の夜、''彼女''はいつもとは違う服装をしていた。入院服ではなく、小説やドラマ、テレビでしか見たことはなかったが学校の制服というやつを着ている。夜の暗い風景がより紺色の制服を黒色に見せていた。月光の光が当たっている時に限ってその色が紺色であることがわかる。赤色のスカーフを襟から胸元に垂らして結んで、長いスカートは膝下辺りまであった。

「どう?お姉さんの制服姿は」

妖しい笑顔を僕に向けて、くるっと周り制服の姿の全貌を見せる。

「似合ってるよ。とても」

嘘ではなかった。心の中にある込み上がって来そうな感情はきっと''彼女''に対する好意だったのだ。そのことに今更ながらに気付き、それが手遅れでありもう彼女に会えないという感情をより促進させる。

「実はね。高校には初めて通うの」

「そうなんだ」

「中学の初めに腕を無くして、退院した頃にはもう高校生活の後半だなんて私の青春台無しじゃない」

月光は''彼女''の妖しさを強調させ、悔しがるその顔でさえ神秘的で神々しさまで覚えさせる。

「僕との演奏会は青春の一ページにもならないのかい?」

「え?うーんそうだなぁ」

品定めするみたく、顔を覗き込んで目線を外したと思えばピアノ椅子に座る僕を奥の方へ押し、隣に座る。

「最後に一曲弾こう?」

「うん」

そうして''彼女''と最後の演奏をした。たった数分の曲は一時間……いや、数時間、数十時間のように長く感じた。鍵盤の上で十五本の指と五本の機械の指が動き回る。決して一人では弾けない二人ならではの演奏だった。昔せめて指が六本あったらもっと違う演奏ができるだろうにと考えていたが、そんなことよりも全然良い。二人で演奏するのがもっと現実的で、僕が理想とするものだった。

「私は洽崎高等学校ってところにいるわ。卒業してもずっといるから貴方もいつか学校に通える日が来たら………同じ高校に通える日が来たら次はそこの音楽室で一緒に弾きましょう」

次の日の朝、''彼女''は僕に顔を合わせもせずにこの病院から去った。名前すら知らなかったのに………そうだ。覚えていないのではなくて僕は訊いていなかったし向こうも教えてくれなかったんだ。次いつか会える日が来る時に教えてくれるように僕が頼んでいたからだ。




「だけれどね。僕は''彼女''に会う前に病弱な体質が働いてしまって、難病にかかってしまい死んでしまったんだ」

「そんなことが…………」

「だから僕はこうして、''彼女''と入院時代お互いが病室を抜け出して一緒に演奏会をした二十二時から三十分間の間だけ演奏をして待っていたんだ」

ずっと''彼女''を待った。けど彼女は来なかった。ずっとずっとずっと待っているのに、約束を忘れてしまったのだろうか?いや、そんなことするわけがない。いや、''彼女''は来ているのかもしれない。僕がそれを認めたくないだけ………そうとも言えるだろう。

「君に頼みがある」

「何ですか?」

遠い日に見た''彼女''の姿が完全に一致して見えたのを何とか頭を振って何とか元に戻す。

「彼女を見つけてくれないか?義手をしている卒業生なんてそうそういないだろう?見つけるのは簡単かもしれない」

そういうと待ってましたとパイプ椅子を蹴飛ばすように立つと駆け寄って僕の手を握る。

「任せてください!!それが私達のするべき仕事なので!!」



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