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2、音楽室ー七不思議定番

第七昼 「噂の怪」

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「昨日は何であんなことしたの!!」

あのチャラ男(仮)に会いに行ってそう怒鳴る。

「いや、本当に俺も知らないんだってば!!目が覚めたら音楽室で寝てるし、訳わかんねえよ」

「え?目が覚めたら音楽室?じゃあその前は何を………」

「カズが来るから音楽室に向かおうとした途端に意識がふらっとして気づいたらうわってなってた」

「うーん、本当なんだろうね」

「信じてくれよ~じゃないと俺、お前にセクハラしたやべー奴だって認識されちまう」

土下座をしながら何回も私の顔を見てくる。彼の目にはなんだか本当に何も知らなかったようにも思えるほど怯えている。ユキに聞かされたことがあるが、幽霊には良い霊もいるが悪霊もいると。全てが全て信用できる幽霊ばかりではないから気をつけろと言われていたことを思い出す。そしてあの時の音楽室で感じた左目の疼き、やはり悪霊が漂っていて彼に憑依したのだろうか。

「信じることは難しいけど、もう二度と私の前に来ないでよね」

「わかった………ありがとう、感謝する」

やっぱり違うのだろうか?彼の反応的には今を信じてみても良さそうだが………一体何が正解なのだろうか?

「ああ、でも待ってくれ」

「ん?どうしたの?」

部活に行こうと思い、後ろを見せた瞬間に彼は私を声で引き留めた。

「音楽室の幽霊話、言うの忘れていたが聞くかい?」

「え?ああ、確かにそんな話もしていたような………是非、教えてくれるなら」

土下座の体制から頭を上げて手を太ももの上に乗せると律儀に彼は解説を始めた。私はそれを黙って聴くことにした。一応噂でも知っておいた方がいいこともあるとユキに言われてたんだっけ?

「それはもう何十年も前からの話さ」

「なるほど結構昔なんだね」 

「うん、それでな。毎日夜の二十二時になると音楽室からピアノの音が聞こえるんだ」

夜のピアノ音…………心当たりのある。

「ショパンの…………ノクターン………」

「そう、それ。よく知ってるねぇ。まあ性格に言うと夜想曲 第二番Op.9-2 変ホ長調って言うらしい」

予想的中。やっぱり昨日会ったあの人は幽霊だったんだ。

「でも二十二時三十分になると絶対に音楽は止まってしまうらしい」

「じゃあ三十分の間だけしか聞けないんだね」

「うん、俺も聞いたことあるんだ。ありゃ不気味だぜ」

彼は身震いするように言っている。私にはそうは聞こえなかった。何だか意味ありげに悲しくそして優しい音だったようにも聞こえる。



 
また、夢の中にいた。

「カズ……………どこにいるんだ!?」  

俺は暗い廊下を懐中電灯の光だけを頼りに動く。そうだった俺はカズを探しているんだった。何で忘れていたのだろうか?やっぱり寝ぼけているのかもしれない。

「カズ!?」

廊下の突き当たりに光が灯った部屋があり、外にまでその光が漏れ出ていた。プレートをよく読んでみると音楽室と書いてあり、ピアノの音がすることに気づく。

ドアを開けると光がさらに廊下に流れ出ていき、暗い中にいた俺の目は急な光の強さに閉じられる。

「ユ、キ……」

無人で鍵盤が押され、鳴るピアノ。その異質な空気の中にカズはいた。制服を赤色で汚して地面に倒れ込んでいる。俺は考えるよりも先にカズの元に駆け寄る。

「何があったんだ!?」

「ユキ…………」

まだ意識はある。しかしその悲惨な姿に思わず息を呑む。顔は鼻血が凝固して歪な模様をしている。顔を殴られたのか頬も腫れており鼻血が出ていた原因はきっとこれだろう。お腹の辺りを見ると鋭利なもので幾度も刺されたようだ腸が出てくれぐらいには原型をとどめていなかった。こんな状況でもまだ死ねていないカズは幸運なのか不幸なのか。俺には可哀想でならなかった。

「ああ、俺はここにいるぞ…………そうだ!!救急車を…」

しまった。とポケットを探ってスマホがないことにようやく気づく。何でこの場にないのか思い出せなかったが、これでは救急車が呼べない。

「どうしよう…………俺はどうすれば………」

「ユキ………」

カズは腕を俺の方へ伸ばして手を握ってほしいと言っているように思えた。

「カズ………何でこんなこと………」

「ユキ…………」

「ああ、どうした?」

ピアノが、無駄に音を立てて止まった。静寂、ピアノの音なんて気にしている暇なんてないのに急に訪れた静けさには少し鳥肌が立つ。
 
「ユキ…………一緒に死んで………」

俺は夢という名の眠りから事切れた。
 


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