最後の一年

山口テトラ

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柚葉編 

第十五話 偽りの心

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柚葉編 第十五話

 目が覚める。なんだかいい眠りができていないようだ、まだ気分が怠い。
 それもそのはず昨日の出来事があってから彼女のことが心配でならなかった。もちろんその彼女というのは柚葉ちゃんのことだ。昨日は助けることで精一杯で走っていってしまったけどよく考えてみたら警察に電話しておいた方が良かったのではないかと後悔している。一応後になって電話をしてみたものの相手にされなかった。
 腑に落ちない気持ちを落ち着かせるためにベッドに潜ってみたが、あいつが柚葉ちゃんもしくは俺の元へ報復をしにくるのではないかと焦っては落ち着いてを繰り返していてなかなか寝付けなかったのだ。ようやく寝ついて見ても寝れたのは三時間程度。ベッドに寝ていてもわかるくらいに頭や体が重くて気分が上がらない。別に学校に行かないという選択肢もあるのだが、数日前から担任の先生に出席日数が足りていないからこれ以上休むのは良くないと言われてから内心そっちの方でも焦っていた。
「晴翔くん、起きてるかな?」
 ドアの向こうからノックと共に愛理さんの声が聞こえてきた。彼女にも出席日数のことを話したら毎日起こしに来ると言い出した。最初は冗談かと思っていたがどうやら彼女は本気だったみたいだ。せっかくこうしてきてくれたわけだし少しの怠さなんか嘆いていないで黙って起きよう。
「今から起きるよ」
「わかった。朝食作ってるから食べてね。私用事ができたから早く出ることになったの」
 珍しい、と心の中でつぶやく。彼女がこんなに早くから家を出るなんてな。気にもなったけど余計な詮索はしない方がいいと思いとどまる。
「りょーかい、いってらっしゃい」
 そういうと階段を降りているのだろう床が軋む音が聞こえてきた。毎日俺を起こしに来るなんて苦労するだろうになぜここまでするのか。最初は冷たく当たりすぎたせいだろうか、それでここまでしてもらっているのなら申し訳ない。
「帰ってきたら謝っておくか」
 誰にいうわけでもなく、自分に言い聞かせるように呟く。
 朝食にはラップがかけられていてテーブルに並べられていた。一枚のメモ用紙も添えられていて無意識に手に取る。 文章を読む前に誰が書いたのか~より~の部分を先に見た。
「愛理さんが書いたのか……」
 メモ用紙に書かれた俺の字とは比べ物にならないほど綺麗な字を読んだ。
「中華ばかりではいけないので和食にもチャレンジしてみました。お母さんにもお父さんにもまだ食べさせたことがありません。最初に晴くんに味見してもらいたかったんです。是非感想を聞かせてください」
 確かに皿に入っている料理は和食ばかりだった。まだ慣れていないのか形が崩れかけているものもある。
 最後の方に小さく書かれている文章に気づいた。なんだかそれは何回も消しゴムで消されたのか薄く書かれた跡が残っている。しかし小さく書かれた文章はなぜかボールペンで書かれていた。
「晴くんを迎えに女の子が一人来ていました。まだ寝ていることを伝えたら先に行ってしまいました」
 俺を迎えに女の子が?一体誰のことだろうか。凛か?いいや凛なら愛理さんだって会っているから隠す必要はない。
 誰のことかわからずに朝食につけられたラップを外して口に運ぶ。
「うん、美味しい」
 
 †

 準備を終えてドアを開けるといつも通りのつまらない風景が広がっている。と思ったらそんなことはなく、一人ちょうどインターホンを押そうとしている人間がいた。俺が出てくるのとちょうどだったためかびっくりしたような顔をした後に少し顔を引き攣って笑った。
「は、晴くん。おはよう」
 たまに向かいにきてくれる彼女はいつもとは違う。だから複雑な気持ちになった。 
「凛、わざわざ来てくれたのか」
「うん、晴くんいつもは寝てる時間だから急に出てきてびっくりしちゃった」
 次は引き攣らずしっかりと笑顔だ。ポニーテールで結ばれた髪は異様に長く感じさせられた前の髪よりもスッキリしているように見えた。
凛の笑顔ってこんな顔してたんだなと素直に思った。もちろん可愛いという意味でだ。前まではあまり感じられなかった感情、最近になって急にくるようになってしまった。それは凛が変わったからか?それともずっと昔から思っていたのに自分に嘘をついていたのかわからない。
そして今の凛の一番困るところは異様に目を合わせてくるところだ。ついこの前まではずっと下を向いたり俯いてて目を合わせることも難しかった。でも今は違う。じっと俺の今考えていることを見透かされているように瞳を見つめている。俺はたまらず目を背けてしまう。
「晴くん、どうかしたの?」
「いいや、なんでもないんだ。でも凛変わったなって………」
 彼女の顔を見ることができない。だから今どんな顔をしているのかわからない。俺は凛に変わっていいと言った、しかし俺はその変わった凛を否定しようとしている。俺が彼女に放った言葉は無責任だっただろうか?間違っていたのだろうか?そんなことはない。彼女は変わって成功した。今後いい方向へ進んでいくに違いない。そう、一番許せないのは俺の心だ。きっとそうだ。間違っているのは俺自身なんだ。





 
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