最後の一年

山口テトラ

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9月8日

第三話 父さん

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9月8日 第三話

 ジリジリジリ。
 眠る俺の耳元で昨日の夜に設定していたアラームが鳴り響く。毎回思うけど目覚まし時計って大変だよな。主人からこの時間に起こしてって命令されるくせに朝いざとなって鳴り響けば朝の弱い人間に邪魔者扱いされ乱暴に叩かれて止まる。ご苦労なことだ。まあ、俺もその乱暴な主人の一人な訳で、相変わらず目覚まし時計の停止ボタンを叩いてベットの中に潜り込む。二度寝だ。ふと時計に目をやると……
「八時五十分か」
 どうせ今起きても朝のホームルームには間に合わないし、一時間目にも間に合わないだろう。なら行動は一つ、寝よう。寝てもっと行きやすい時間帯になったらしれっと参加してれば問題ない。
 自分にそう言い聞かせると深々とベットの奥底へと沈んでいくのであった。

  †

 キンコーン、カーンコーン。
 まただ、また彼は来なかった。私、福田凛は腕に巻かれた腕時計を見てみる。
「ああ、あいつまた遅刻かよ」
 後ろの席から悠斗くんがぐちぐちと言っているのが耳に入った。
「やっぱり迎えに行ったほうがよかったかな?」
 先生がホームルームに遅れているためまじめに座っている人もいればまだガヤガヤ騒いでいる人もいる。後ろに座っている悠斗くんに振り返ると私と話すために悠斗くんの体が少し前のめりになった。
「あいつは年に数回はあるもんな。こういうの。急に来なくなったり遅刻が多くなったり、かと思ったら急に来始めたり気分屋だからな」
「うん、気分屋なのは良いけどあんまり学校に来なかったら単位取れなくなっちゃうよ」
 それな、と頷きながら笑ってくれた。私はあんまり人と話すのを好んでいない。だからまともに話すのは晴くんと悠斗くんと少しの女子生徒のみ……あと先生とか。
だから少しでも私が話したことが誰かに共感された時は嬉しいものがある。話しかけてよかったと、思えるから。その分悠斗くんはすぐに笑ってくれるから優しいなと思う。でも晴くんは悠斗くんと違ってあんまり笑ってくれないし少しそっけない。だからこそ彼の笑顔が見たいといつしか頑張って挑戦してみたりしなかったり。晴くんが私にそんな態度をとるのはわかる。きっとあのことのせいだろう。
 だからこの前の彼は優しかった。私が彼のサッカーを見に行った時、彼のことを褒めたらなんだかいつもと違って結構気が和らいでいた気がする。あくまでも気がするだけだけど。そんな彼に私は見惚れていた。なんでもできて頼まれたことを断らず最後までこなしみんなと平等に仲がいい、私にはないすべてを持った彼に私は惹かれた。
 あのお店の定員さんとは不思議な会話をしていた。なぜ不思議だと感じたか、それは彼女が彼の義理の姉だったからだ。おかしい話だった、血は繋がっていないのに、晴くんも仲は良くないと言っていたけど、なんだかあの二人を見ると本物の家族のに思えた。
 まだ一ヶ月しか経っていないのに、私は晴くんと数十年一緒だったのに、なんだか私の座っていた椅子を取られたような気分になったのと同時にこう思った。
「ちょっと妬けるな……」
「えっ……なんかいった?凛ちゃん」
 しまった、と思い口を塞ぐ。すっかり夢中になって考え込んでいたらいつの間にか口に出ていたようだ。流石に発言の内容があれだったので悠斗くんが少し興味深そうに頷いたりしている。変な方向へ誤解されていなければいいんだけど。
「いや、あの……晴くんのお姉さん綺麗だったなって思って……」
 色々察してくれたみたいで、私が無理やり切り替えた内容に悠斗くんはニヤニヤしながら話に乗ってくれた。たまに妙に感が良くて察しがいい彼は話し相手としてはかなりいい人物でもある。私も良く相談したりもする。
「だよね、まさか愛理さんが晴の義姉だったなんてな。ある意味奇跡だよな」
「うん、しかも悠斗くんのバイト先と同じなんてすごいよ」
 なんとか流れは変えられたみたいだ。本当だったらこの場に晴くんもいて笑って話して共感しあったり、悠斗くんがボケて晴くんがツッコむ、私はそれを見てさらに笑う。そういう絵面がもっと続けばいいのに。でも彼は私のことが嫌いだ。
 とある出来事が起こった。確か十二年前、私たちが小学生になって少し経った頃に私は交通事故に遭った、はずだった。私は事故には巻き込まれずに助かったのだ。とある人物の命を奪ったから代わりに私が生きてしまった。
 そのとある人物こそが晴くんのお父さんで私を庇って、私を助けるために代わりに死んでしまったのだ。
 だから晴くんは私のことが嫌いなんだ。私がトロくて行動が遅い人間だから来ている車に気づかず道路に出てしまい……きっと晴くんは私のことを恨んでいる。お前のせいでってそう思っているに違いない。
 でも晴くんは優しいから、私は何回も謝った。今でも何回か謝ったりしている。でも笑顔で、もういいって誰も恨んではいないよ、そう言う。彼の優しさに溺れてしまいそうだった。でも私は絶対に忘れてはならない。この今自分が生きて彼に会えているのは一人の人間の命が私の背後で蠢いていることを絶対に忘れてはいけない。私は人殺しなんだ。しかも私の一番好きで大切な人の家族を……殺したんだ。








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