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片思いごっこ
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「ん……」
気がついたらいつも見ている天井が眼前に広がっていた。
あれ? いつの間にか帰宅したのだろうか。今まで酔って記憶をなくしたことなどないからわからない。まぁでも無事帰宅したのなら大丈夫だ。
そう思って起き上がると違和感を覚えた。そして、その違和感の原因にすぐ気がついた。
天井も壁も一緒なのに、家具やインテリアが全く違っている。そもそも寝ているベッドも違っているし、なんだか少し大きめの寝巻きを着ている。
え? え?? 彼シャツー♡ 的な大きさ?
混乱の真っ只中にいたら、部屋の扉が開いて大きめの人影が現れた。
「起きた?」
キッチンの窓から後光が差し込む。
ま、眩しい!
光の中心に立っていたのは隣人中澤だった。めちゃくちゃカッコいい。
いや、そうじゃなくて。
ん? ということはここ、中澤家??????
頭の中を覆い尽くして溢れそうなぐらいのはてなマークが浮かんだ。
ってことは俺の部屋の隣? だから内装はほぼ一緒なんだ~。というか結構間取りも俺の部屋と一緒なんだな。角部屋だから俺の部屋と違って二面採光だけど。とか感心してる場合じゃねー!!
「あっ、俺もしかして運んでもらった……?」
「うん」
そうか。しかし全く覚えていない。華奢とはいえ俺みたいな男が軽々(かどうかは分からないけれど)運べる中澤は力持ちなんだな。
っつうか寝巻きも着替えさせてもらってない? きっとこのブカブカの寝巻きは隣人中澤の借り物だろう。
サーッと顔から血の気が引く。
「え、もしかして服汚したりとかっ……」
「いや別に。……っていうか、俺のこと覚えてない?」
とりあえず何か粗相をしたわけではないことには安堵する。
鋭い眼光を向けられて、年下なのに俺に対してタメ口で、でもなんだかそんなところが逆にトキメク。
「あの、姉妹会社の新人の中澤さんですよね~……」
姉妹会社とはいえ仕事関係の人間だし、年下相手になんて情けない姿を見せてしまったんだ。そして俺は申し訳なさから敬語になった。
「やっぱ覚えてないんだ」
はい?
「いやだから姉妹会社の」
ふう、と後光を浴びながら隣人中澤がため息を吐く。
「??」
なんだか呆れていないか? 会社云々ではなくて隣の部屋の住人、ってことだろうか。ため息をつかれる原因には見当がつかない。
「俺、中澤隣人。隣人、って字と一緒で隣人」
ああやっぱり。隣人って気付いてないのー? ってことだったのね。
「ああ隣の部屋の人ですよね。気付いてます気付いてます。隣人って書いて隣人っていうの。すごい偶然」
それを聞いてまた隣人中澤隣人が深いため息を吐く。
あれ? これも違うの??
「まあ、小さかったから仕方ないけど、名前聞いても思い出さないのはちょっと傷つく。実家の隣の家の名字覚えてない? 中澤」
実家の隣の名字? そういえばそんな名字だったような気もする。
…………ん?
「……え!? ちょっと待って、隣人って、リンちゃん!?」
「そーだよ。やっと思い出した?」
いや、あの頃リンちゃんは五歳ぐらいだったはずだ。だとすると今目の前にいる隣ちゃんは計算して~……二十半ばぐらいだから、んん? 思ったより少しいってるけれどそれにしてもあの可愛らしい面影はどこへやら、ずいぶん厳つく成長してやしないかい??
「ま、マジで……!? 二十年ぶりだぞ。いや、わかんないだろ~!! 全然違うじゃん!!」
あまりの変わりように咄嗟に叫び声を上げてしまって慌てて口を押さえる。そういえばこのマンション、案外壁が薄かったんだ。
「大丈夫だよ。隣、幻兄ちゃんの部屋だろ?」
「あ、ああそうか」
それにしても目の前に立っているのがあのリンちゃんだとは信じられない。そりゃ五歳ぐらいまでの姿しか覚えていないんだから、面影がないぐらい変わっていても不思議ではないがそれにしても違い過ぎる。
ふんわり可愛らしい印象が、なんとまぁ厳つく変貌したなと。
「え? すごい偶然じゃないか? リンちゃん、俺だって気付いてたの?」
「まぁ……気付いてたけど、なかなか声かけるタイミングなくて。昨日も何度か声かけようとしたんだけど」
「え? そうだったの?」
思い返してみれば、昨日はあまりに突然現れた想い人に焦って少し避けてしまっていたのかもしれない。あの後すぐに酔いも回って記憶も無くしてしまったし。
「俺昨日大丈夫だった? 何も覚えてない」
「大丈夫だったよ」
ひたすら記憶を失ってしまったことに自己嫌悪してしまっていたら、リンちゃんこと中澤隣人はそんな俺を見下ろしてふっと笑った。
ドキリ。と胸が弾む。
顔は厳つくはなっているけれど、中身は見た目と違って柔らかいみたいだ。しかもその笑顔が無表情の時と違ってなんだかキラキラしていてギャップ萌えというかなんというか。
しかしこんな偶然があるものだな。
自分の性癖を受け入れるのが怖くて忘れるために離れたリンちゃんが、こんなに時間を経て、しかも隣人として現れるなんて。
そこではた、と気がついた。
ちょっと待て。
俺、またリンちゃんに惹かれたってことか?
知らず知らずのうちに再会したリンちゃんこと隣人中澤隣人に無意識に惹かれ、とても口には出来ないような妄想のオカズにして。まさかこんな展開になるなんて。
初恋と呼べるのかもわからない想いを抱いていたリンちゃんに、また大人になって恋をしてしまったのだ。
あの頃は受け入れられなくて逃げてしまったけれど、今は十二分に自分の性癖は理解している。けれど、だからといってどうなんだ? 告白する? いや、結局伝えたところで引かれるのがオチだ。
だったらこのまま仲良くなって、友達として側にいた方がいい。
この気持ちを伝えて、離れていってしまう確率の方が断然高いのだとしたら。
気がついたらいつも見ている天井が眼前に広がっていた。
あれ? いつの間にか帰宅したのだろうか。今まで酔って記憶をなくしたことなどないからわからない。まぁでも無事帰宅したのなら大丈夫だ。
そう思って起き上がると違和感を覚えた。そして、その違和感の原因にすぐ気がついた。
天井も壁も一緒なのに、家具やインテリアが全く違っている。そもそも寝ているベッドも違っているし、なんだか少し大きめの寝巻きを着ている。
え? え?? 彼シャツー♡ 的な大きさ?
混乱の真っ只中にいたら、部屋の扉が開いて大きめの人影が現れた。
「起きた?」
キッチンの窓から後光が差し込む。
ま、眩しい!
光の中心に立っていたのは隣人中澤だった。めちゃくちゃカッコいい。
いや、そうじゃなくて。
ん? ということはここ、中澤家??????
頭の中を覆い尽くして溢れそうなぐらいのはてなマークが浮かんだ。
ってことは俺の部屋の隣? だから内装はほぼ一緒なんだ~。というか結構間取りも俺の部屋と一緒なんだな。角部屋だから俺の部屋と違って二面採光だけど。とか感心してる場合じゃねー!!
「あっ、俺もしかして運んでもらった……?」
「うん」
そうか。しかし全く覚えていない。華奢とはいえ俺みたいな男が軽々(かどうかは分からないけれど)運べる中澤は力持ちなんだな。
っつうか寝巻きも着替えさせてもらってない? きっとこのブカブカの寝巻きは隣人中澤の借り物だろう。
サーッと顔から血の気が引く。
「え、もしかして服汚したりとかっ……」
「いや別に。……っていうか、俺のこと覚えてない?」
とりあえず何か粗相をしたわけではないことには安堵する。
鋭い眼光を向けられて、年下なのに俺に対してタメ口で、でもなんだかそんなところが逆にトキメク。
「あの、姉妹会社の新人の中澤さんですよね~……」
姉妹会社とはいえ仕事関係の人間だし、年下相手になんて情けない姿を見せてしまったんだ。そして俺は申し訳なさから敬語になった。
「やっぱ覚えてないんだ」
はい?
「いやだから姉妹会社の」
ふう、と後光を浴びながら隣人中澤がため息を吐く。
「??」
なんだか呆れていないか? 会社云々ではなくて隣の部屋の住人、ってことだろうか。ため息をつかれる原因には見当がつかない。
「俺、中澤隣人。隣人、って字と一緒で隣人」
ああやっぱり。隣人って気付いてないのー? ってことだったのね。
「ああ隣の部屋の人ですよね。気付いてます気付いてます。隣人って書いて隣人っていうの。すごい偶然」
それを聞いてまた隣人中澤隣人が深いため息を吐く。
あれ? これも違うの??
「まあ、小さかったから仕方ないけど、名前聞いても思い出さないのはちょっと傷つく。実家の隣の家の名字覚えてない? 中澤」
実家の隣の名字? そういえばそんな名字だったような気もする。
…………ん?
「……え!? ちょっと待って、隣人って、リンちゃん!?」
「そーだよ。やっと思い出した?」
いや、あの頃リンちゃんは五歳ぐらいだったはずだ。だとすると今目の前にいる隣ちゃんは計算して~……二十半ばぐらいだから、んん? 思ったより少しいってるけれどそれにしてもあの可愛らしい面影はどこへやら、ずいぶん厳つく成長してやしないかい??
「ま、マジで……!? 二十年ぶりだぞ。いや、わかんないだろ~!! 全然違うじゃん!!」
あまりの変わりように咄嗟に叫び声を上げてしまって慌てて口を押さえる。そういえばこのマンション、案外壁が薄かったんだ。
「大丈夫だよ。隣、幻兄ちゃんの部屋だろ?」
「あ、ああそうか」
それにしても目の前に立っているのがあのリンちゃんだとは信じられない。そりゃ五歳ぐらいまでの姿しか覚えていないんだから、面影がないぐらい変わっていても不思議ではないがそれにしても違い過ぎる。
ふんわり可愛らしい印象が、なんとまぁ厳つく変貌したなと。
「え? すごい偶然じゃないか? リンちゃん、俺だって気付いてたの?」
「まぁ……気付いてたけど、なかなか声かけるタイミングなくて。昨日も何度か声かけようとしたんだけど」
「え? そうだったの?」
思い返してみれば、昨日はあまりに突然現れた想い人に焦って少し避けてしまっていたのかもしれない。あの後すぐに酔いも回って記憶も無くしてしまったし。
「俺昨日大丈夫だった? 何も覚えてない」
「大丈夫だったよ」
ひたすら記憶を失ってしまったことに自己嫌悪してしまっていたら、リンちゃんこと中澤隣人はそんな俺を見下ろしてふっと笑った。
ドキリ。と胸が弾む。
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