ベビーシッターなんて言わせないっ！

ベビーシッターなんて言わせないっ！

５

　この頃から、自分でも驚くぐらい勉強に集中出来なくなってきてしまった。雑念が多過ぎるのだと自分でも気付いていながら、今まで自然にしていたことが出来ない。一つの事に集中するということは、こんなに難しいことなのだと気が付いた。
　たまに早く帰宅した両親にも心配をされる始末だった。海里が俺のことを報告したのだろう。
　大丈夫だと言っては見せるものの、明らかな成績の落ち方に何か心配事でもあるのではないかと酷く気に病まれた。
　それは海里も同じで、最近は一人でしていた勉強を教えると言い出してきた。
「大丈夫だから！」
　そもそも恐らく成績が落ちてしまった原因の海里に側にいられてはより集中が出来ない。集中が出来ないどころかより掻き乱されてしまう。
「いいえ。玲さんの勉強は光辻の家にとっても大切なことですから」
　その言葉に、カチンとくる。
「そりゃ、光辻の家の子供が頭が悪いじゃ将来が不安だよな！」
　はっきりと言われたことはないけれど、きっと俺も祖父の会社を手伝う事になるだろう。だから良い学校に通い、教養も身につけさせている。これまでの海里の俺に対するすべてだって、俺のためというより光辻家のために違いない。きっとそうだ。
「私は玲さんのことを思って」
「それが邪魔なんだよ！」
　あんな、やらなくてもいいような性教育なんてして俺の頭を掻き乱して。勉強のことを考えようとしても海里のことばかり頭に浮かんできて離れない。なんで、どうして、海里海里海里。なのに海里はいつもと変わらない態度で俺に接する。俺ばかりが気にして、俺ばかりが求めて、俺ばかりがこんなにも好きで。
　好き、で……？
　自分でもその言葉に驚いた。
　俺は、海里が好きなのか？
「あ、お、俺は……」
　邪魔だなんて、自分が酷い言葉を浴びせかけたことなど気が付かずに、ただ戸惑っていた。
「わかりました」
　自分の気持ちを整理するよりも先に海里は一言を残して部屋を出ていってしまった。
　いつもと変わりない無表情だったけれど、少しだけ寂しそうに見えたのは俺のただの願望だろうか。