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帝王の刻印 - 籠の鳥は空を見ない -
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いつの間にか、辺りは暗闇に満たされていた。
いや、暗闇になったわけではない。いつの間にか眠っていたようだ。
虎はそっと目を開ける。頬に触れるのはシーツの感触。
しかし、掌で覆っていたあの暖かい男の角ばった手の感触は感じられない。
「坂崎、さん……?」
ゆっくりと目を開ける。
けれど、ベッドには横たわっていたはずの坂崎の姿がない。
「……どこに」
虎は慌てて立ち上がると、部屋の中を見渡した。
ベッドルームの中には坂崎の姿はない。
では、社長室の方か。
あの人にあまりここをウロウロされては心配だ。部下に見つかれば恐らくどこかに隔離されているだろう。だったら、虎に連絡が来るはずだが、誰も連絡をしてこないと言う事は、その可能性も低い。
虎は扉を開けて社長室に向かう。
すると、対角線上にある大きな机の向こう側、虎がいつも腰をかけている椅子の辺りに坂崎が立っていた。
「もう、大丈夫なのか?」
自分一人で自由に歩きまわれるのなら、もう安心か。
「ええ、大丈夫です。すみませんでした、心配をかけて……」
坂崎は苦笑いを浮かべつつ、こちらを見やる。
「ここ、虎君の店の中、なんですか……?」
こちらに向けていた視線を外し部屋の中をゆるりと見回す。
「ああ」
恐らく以前話した、ホストクラブとでも勘違いしたままでいてくれているのなら良いが。
「そうですか。虎君みたいな若者が社長だなんて意外でした。確か、ここの社長は五十過ぎだとの噂でしたので……」
坂崎のいつもとは違った低い声音に虎は身を凍らせる。
ここの社長が、五十過ぎだと聞いていた? それはまさに先代の九条鷹道の話だ。虎が経営しているホストクラブの事ではない。今虎たちがいる、この『DARK HELL』の事に他ならない。
慌てて部屋の中心に足を進めると黒く冷たい鉄の塊を向けられて足を止めた。
「……拳銃か……」
よくよく見ると机の引き出しが開いている。
「そこには鍵がかかってたはずだけど……?」
クスクスと笑い、坂崎は小さく身体を揺らす。
「ジャケットのポケットなんて、安易な場所に入れていてはいけないですよ」
虎は慌てて鍵を入れていたポケットを探るが、坂崎の言う通りもうそこには何もなかった。
「悪かったな。いつもはあんなに気を抜いて人前で眠ったりはしないからな……。あんた一体何者だよ。あいつが話してた通りのヤクザか何かか?」
拳銃を突きつけられたままで身動きがとれない。
ヤクザだとすれば、一体何が目的だ。縄張りか、もしくは資金調達にこの組織が邪魔なのか。そうだとしても何故、ヤクザ風情がこの組織の事を知っている? 外部への漏洩はないはずだ。客にスパイがいたか。いや、厳重な審査をしているからその可能性も薄い。ヤクザだとしたら、その時点でわかるはずだ。それにしても、この組織を敵に回すというのに一人だけで乗り込んでくるというのも無鉄砲すぎる。
虎は頭の中でいろいろな可能性に思いを巡らせる。
「ヤクザ……? 一体何の話ですか……? 僕はね、こういうものですよ」
坂崎がズボンのポケットから取り出したものに、虎は驚きはしたものの、いやに納得してしまった。
「ああそうか。すっかりその線を忘れていた」
ヤクザとは比べ物にならないほどにこの組織を邪魔に思っているやつらの存在を。
「でも半年もゲイでもないのに俺にべったりでおとり捜査してたってのか? 刑事さん」
坂崎が差し出してきたのは警察手帳だ。それを見て、シオンが言った事の意味もようやく理解した。
「そういえば、あいつん家は柊組だったか。何ヶ月か前にそこの組員が拳銃ぶっ放して一般人犠牲になってパクられたっけ……。その時あいつ、あんたの事見たんだな……」
何人かの刑事が柊組にそいつらを逮捕しに向かっているはずだ。その中の一人が坂崎だったというわけか。
シオンもシオンだ。警察関係者かもしれない事までわかっていたはずなのだから、ついでにそれも教えてくれれば良かったのだ。あいつが連れていた犬が異常に坂崎に吠えかかっていた事にもこれでやっと合点がいった。
「あいつ……? 確かに僕は柊組には行きましたがね……」
今こちらに銃を突きつけてくる坂崎には温かみも何も感じられない。あんなにも優しくて温和だった坂崎が、冷たい氷のように感じられた。
「なぁ、答えなよ。あんた俺の事知ってて半年も我慢して相手してたっていうのか?」
これまでの事は全部、演技だったというのだろうか。
「最初から君の事を知っていて近づいたわけじゃありません。ただ、この組織と何らかの関係があるとは思っていたから近づいた」
「あぁ、最初から罠だったってわけか……大した演技だよ」
まんまと騙された。まさか、捜査のために男と関係を持つとまでは思いも至らなかった。
それに、貧弱な坂崎の事をヤクザだと疑いきれなかったように、刑事だなんて夢にも思わなかった。
「君と関係を持ったのは、成り行きでした。男娼の一人だと思ったからです。でも、君の身体には組織のトップだけが身体に刻んでいると言われていた龍の刺青があった……」
思い返せば、刺青を目の当たりにした時の坂崎の様子は少しおかしかった。坂崎のとぼけたような性格にうっかり騙されたが、あの時がまさに、虎が組織のトップであるかもしれないと疑いを抱いた瞬間だったのだ。
「ああ、これね。そう言う意味だったんだ。俺は単に、先代とお揃いだとだけ思ってたんだけどね……」
虎はゆるりと自分の胸元の刺青を撫で上げる。その刺青は、先代である九条鷹道が虎の身体に刻ませたものであった。虎自身もその意味を知らなかったが、まさにこの組織のトップである事を示す証しだったのだ。まさか部外者にそれを知らされる事になるとは夢にも思わなかった。
「じゃあ、俺への疑いは深まったわけだ。好きだ、忘れられそうにない? 俺も馬鹿だな。あんな言葉にほだされて、あんたとの関係を半年も続けるなんて」
今考えれば出来過ぎている。一夜を共にしただけの男に惚れた晴れただなんて、今時そんな天然記念物みたいな男がいる事自体おかしかったんだ。
「本当に、君がこの組織のトップだと言うんですか……?」
地面を這うような、低い声音で坂崎が問いかけてくる。
「ああ、そうだよ」
虎の言葉を聞いた坂崎は、どこか残念そうに眉を顰めた。
「そうですか……。本当は、君とこの組織とは何の関係もない事を願っていました……」
虎は、坂崎の言わんとする事がわからない。
「は? 手柄の元が自分の手中にあるかも知れないっていうのに、何でそんな事を思う必要がある? 俺はまんまとあんたの罠に引っかかったじゃないか」
おとり捜査は大成功だ。大物が釣れたと普通は大手を振って喜んでもいいところなのに、何故そんな悲壮な表情をしているのかが虎には理解出来ない。
「好きだったんです。君の事が、本当に」
虎は驚かされる。こんな状況で、また告白されるとは思っていなかったからだ。しかも、今まさに自分に銃口を向けている相手から、だ。
「好き? 俺の事が?」
虎は小さく鼻で笑ってしまった。
「回を重ねるごとに、どんどん君に惹かれていった。だから、君の潔白を願った。ずっと、君をこの手で抱いていたかった」
今銃を握り締める手で、本当は君の身体を抱いていたかったのだと、坂崎は悔しそうに呟いた。
虎はそんな坂崎の告白を受けて、すぅっと小さく息を吸い込むと一つため息をついた。
「俺も、あんたは……俺の事愛してくれるかもしれないって心のどこかで願ってたよ」
先ほど坂崎の隣に寄り添いながら、この事実を知った坂崎が自分を受け入れてくれる事を切に願った。彼を愛せるかもしれないと少しでも思ったからだ。
けれど結果はやはり、想像した通り後者であったようだ。
「俺の部下が俺を見て言ったんだ。俺はあんたに惹かれてるんじゃないかって……」
もう一歩、踏み出せばそれは愛に変わっていただろう。
「でも、この店は『君の店』なんでしょう? 君はやっぱり社長だった。僕だって、君の事を愛したかった。でも、駄目なんです。僕は君を、許せない……!」
こんな人を買ったり身体を売らせたりしているような汚らわしい場所を経営している虎を、恐らく実直な坂崎は許せないのだろう。
やはり坂崎は、真っ直ぐで純粋で真っ白で、汚れを知らない男だ。何故この男が刑事をしているのか、少し納得出来たような気がした。
「……わかったよ。負けだ。パクるなりしょっぴくなりあんたの好きにしろ」
虎は諦めたように呟いて、ゆるりと両手を挙げる。
「虎……君……」
すんなりと応じた虎に、坂崎は無念そうに小さく呟いた。
「でも、一つお願いがあるんだ。聞いてくれるか?」
苦笑いを浮かべて、弱々しい声音で問いかける。
「なんですか……?」
坂崎も消沈した様子で、小さく応えた。
「最後にさ、もう一回だけ抱いてくれないか? あんたにさ、抱かれたいんだ」
虎の唐突な願いに、坂崎は一瞬戸惑う。
「逃げないよ。もし心配なら俺に後ろ手で手錠をかけてくれればいい」
「手錠を……」
少し考え込んだ後で、坂崎は小さく頷いた。
「わかりました。そこで待っていて下さい」
机から離れ、拳銃を向けたまま坂崎がゆっくりと虎に近づいてくる。両手を挙げた虎の手を下ろさせ、後ろで束ねるとガチャリと手錠をかけた。
「さ、ベッドルームに行こうぜ」
「はい……」
ベッドルームへ続く扉を開くように促して、二人で中に入る。
虎は手錠で手を拘束されたまま、ベッドに腰を下ろした。
目の前に拳銃を向けた坂崎が立つ。
「ねぇ、キスしてよ」
見上げて小さく笑うと、顎にゆるりと手が伸びてきた。くいっと上向けられてちゅうと柔らかく唇を吸われる。
一度唇が離れ、虎に突きつけていた拳銃を坂崎はベッド脇のカウンターに置いて、また深く口づけてきた。
虎の身体をきつく抱きしめ、深く抉るような口づけをしてくる。
「ん……んっ……」
口の端から、虎の切ない喘ぎが漏れる。
深く互いの舌を絡ませ合い、長い時間貪るような口づけを交わした。
小さく息をつきながら、ゆっくりと唇を離す。
坂崎の唇が首筋に吸い付くと、そこを丹念に舐めあげてから、ジャケットのボタンに手がかかる。すべて外し終えるとストンとジャケットを後ろに落として、今度はシャツのボタンをすべて外して、前から両手を左右に差し入れゆるゆると腹を撫でられる。
「ん……」
後ろに倒れようとするが、後ろ手に手錠をかけられているせいで仰向けにはなれない。
「あんたと初めてセックスした時、騎乗位でしたの覚えてる? また騎乗位でして欲しいんだ……いいでしょう?」
「わ……わかりました……っ……」
このままでは体勢が限られる。虎がそう言うと、坂崎は顔を赤らめて余裕なく応じる。やはりまだ、性的な事には慣れないようだ。すべてが演技、というわけではないのかもしれない。あながち、童貞だと言っていたのは本当だったのかもしれない。
坂崎が先にベッドに横たわって、着ていたジャケットを脱ぐと、腹の辺りに跨がった虎の身体に手を伸ばす。
またシャツの中に手を差し入れて、ゆるゆると腹を撫でてくる。
「んっ……。坂崎さんっ……下も、触って……」
「あ、ああ……」
少し上ずった声で答えると、坂崎は虎のズボンのファスナーに手を伸ばす。
虎のズボンを下着ごと太股まで下ろすと、中から現れた虎の急所にそっと手を添える。両手でそこを上下に緩く扱かれると、ビクンと虎の身体が震える。
「もっと、強く……っ」
虎の要望通りに、坂崎の手の力が強まると、上下に扱く速度も同時に速まる。硬く反りたった昂ぶりの先端からほんのり透明の液体が溢れる。それが坂崎の手を濡らし、ぐじゅぐじゅといやらしい音を立てる。
「俺も、あんたの……舐めてあげるよ……っ……。前、開いて……」
「あ、ああ……」
刺激に震えながら、坂崎に訴えかけると、坂崎は片手で虎のものを刺激し続けながら自分のズボンのファスナーに手をかけ、下着の中から硬くなったそれを引きずり出した。
虎は体勢を変えて、目の前に坂崎のモノを見据える。手が使えないため、舌先でそれを自分の口の中に誘導する。
「……っ……」
ぺろりと先端を舐めあげると、坂崎が肌を粟立たせて鼻にかかった声を漏らす。
「本当にあんた、可愛いね……」
口を大きく開けてそれをくわえ込むと、舌を沿わせて上下に頭を動かす。
「……くっ……」
感覚に耐えながら、坂崎が小さく声を漏らす。時に軽く歯を立てながら、上下への律動を繰り返した。
筋に沿って舌を這わせ、先端を小さく吸う。
「……虎君……っ……もう……」
坂崎の焦った声が聞こえてきて、ゆるゆるとそこから唇を離した。
「もうちょっと、楽しませて欲しいんだけど……な」
体勢を立て直して坂崎の腰にまた跨がると、反りたったものを自分で支えるように言う。
その先端を上手く自分の秘部にあわせ、ゆっくりと腰を下ろしていく。
「……んっ……」
唾液で濡れたそこは滑りもよく、簡単にその昂ぶりを飲み込んでいく。ずるずると中にそれを埋め込むと、坂崎の腹に座った。
「坂崎さん……俺ね……」
「た、……虎君……?」
動きを止めて話かける虎に、坂崎は震えた声を発する。
「本当はここで、社長なんてしたくないんだ……。外の世界で自由に生きていきたい」
繋がったまま、悲壮に揺れる瞳で虎は坂崎を見下ろす。
「虎君……」
坂崎は、なんと答えていいのかわからないようだ。
「あんたと一緒に、生きていきたかった」
「虎君……!」
坂崎の腕の中にきつく抱き寄せられる。
「僕だって本当は……君の事が好きなんだ……でも、どうしようもない」
「わかってるよ。あんたと俺は、一緒にいられないって」
裏社会の人間が刑事と一緒にいるなんて、到底無理な話だ。
虎はそっと身体を起こすと、小さく笑いかける。
「これが最後だ。あんたを目一杯感じさせてくれよ」
「ああ」
その言葉を引き金に、坂崎の腰が律動を始める。時に緩やかに、時に激しく突き上げられると内壁が擦れて甘い刺激が生まれる。
「……んっ……んん」
激しい突き上げに身体がガクガクと震える。支えのない状態に崩れ落ちそうになりながらも、中に与えられる感覚をしっかりと受け止めた。
「……くっ……」
繋がりあうそこが、汗と液にまみれて音を立てる。二人の喘ぎが部屋中に響き渡る。
「ね……、もう……っ……坂崎さん……中にっ……」
「虎君……虎君っ……!」
何度も何度も肌をぶつけ合い、より一層激しく突き上げられた瞬間、身体の中で熱い飛沫を感じた。ドロドロと中に吐き出されるそれを感じながら、自分自身も坂崎の腹の上に白く濁った液体を吐き出した。
「はぁ、……はぁ……」
荒い吐息を漏らしながらぐったりとベッドに二人で倒れ込む。
肌が汗で濡れている。
「あんたはもしかしたら、俺の事、愛してくれるかもしれないって思ってた……」
それも叶わぬ夢になった。
「虎君……」
坂崎の顔が悲壮に歪む。彼もまた、虎がこんなところの社長をしていなければ、自分が裁くべき相手でなければそれを望んでいただろう。
叶わぬ夢。
──いや、そんな綺麗なものじゃない。
「でもあんたはやっぱり、俺を愛しちゃくれなかった……残念だよ」
ガチャリと、坂崎の頭元で金属がぶつかるような音が響く。それと同時に、左の手首に感じる激しい締め付け。
「……え……」
坂崎は一体何が起きたのかわからず唖然としている。
虎はゆっくりと身体を起こすと、いつの間にか解放された手に持つそれを坂崎に掲げて見せた。
「あんた俺に言ったよね。大切な鍵をジャケットのポケットなんかに入れてるなって……ねぇ」
先ほどまで虎を拘束していた手錠は、坂崎の手首とベッドの頭元の鉄柵をしっかりと繋いでいた。
「……き、君は……!」
坂崎が開いている片手でカウンターの上に置いた拳銃を取りにかかるが、虎が先にそれを取り上げる。
「それにこんなものを手放すなんて、のろまなあんたらしいよ」
虎は繋がったままだったそれをゆっくりと身体から抜き出して、身なりと整える。
「聞いてくれる? 坂崎さん……何で俺がこんなところにいるか……」
「……虎君……君は……!」
ベッドで身動きがとれず暴れる坂崎の姿は何だか滑稽に見えて笑ってしまった。
虎はそんな坂崎を見下ろしながら夢物語を語る。
「俺も、ここで働いている奴らと同じように小さい頃にここに連れて来られたんだ。母親に捨てられてさぁ。それからずっとここで働いてきたんだ。大勢の男に抱かれて、恥も外聞もなくなった」
虎の話を聞きながらも、坂崎は必死にもがいて抜け出そうとしている。虎はベッドの縁に座り、坂崎に視線を向ける。
「でも運よく先代に目をかけられてね。俺を愛人にしてくれた。酷く気に入られて、彼が亡くなった後こうして社長にまでなれた。でも、地獄は地獄に変わりない。母さんが俺を愛せずに、ここへ突き落としたあの時から俺はもう、外の世界には戻れなくなったんだ」
虎は母親がレイプされて生まれてきた子供だった。虎は彼女を愛していた。なのに、彼女は自分を汚した相手の血を受け継いだ虎を絶対に愛してはくれなかった。
「俺が愛しても無駄なんだ。幾ら愛しても、あの人は愛してくれない。あんたもあの人と一緒だよ。あんたは俺の事、愛してくれるかと思ったのに」
虎は坂崎のこめかみに銃を突きつける。ギクリと、坂崎の身体の動きが止まる。
「本当に、残念だよ」
グッと拳銃をこめかみに押し当て、引き金に指をかける。
「……っ……」
坂崎が恐怖に目をきつく閉じてすぐに、ベッドルームのドアが開く音と低く心地の良い男の声が聞こえてきた。
「その男が、今でも君を抱ける数少ない男の一人か? 全く羨ましいよ」
「今日限り……、ですけどね」
そこには、大和田の姿があった。
「お待ちしてました、大和田さん」
彼の後ろには龍と、何人か部下の姿もある。
坂崎の頭から拳銃を引くと、龍のところまで歩いていってそれを渡した。
「社長」
「ああ、心配をかけたな」
龍を見上げると、神妙な顔つきをしてこちらを見下ろしてくる。
「なんで……貴方たちは……!」
突然現れた男たちに、坂崎が慌てる。必死で手錠で繋がれた自分の腕を動かすものだから、そこが擦れて酷い痣になっている。
「ここの部屋、隠しカメラ仕込んであるの。普通もしかしたらって思うでしょう? あんたさ、それでも刑事なんだろ」
二人の会話も、セックスでさえもすべて外に筒抜けであったという事を坂崎に教えてやる。
セックスは大和田が来るまでの時間稼ぎだった。
「それにさ、あんたの前に立ってる人の顔を忘れたのか?」
虎の意外な台詞に坂崎は薄暗い中じっと示された大和田の顔を見る。そして、何かに気付いたのかベッドの背凭れにガンと身体をぶつけて後ずさった。
「どうして……何故警視総監がここに……!」
「やっと気が付いた……?」
自分の長である警視総監が、ここの社長であるはずの虎と親しげに話をしているのかと、坂崎はパニックに陥る。
「あんた、何でこんな非合法で明らかに違法な場所が今まで一度も警察に検挙されなかったのか、不思議じゃないか……?」
「それ……は……」
坂崎の頭にも一つの可能性が思い浮かんだのだろう。しかし、それを言いよどむ。信じたくない事実を目の当たりにして、混乱している。
「あまり虐めるな。ここの先代が私の親友でね。彼がこの組織を始めた頃、私はまだ新米の刑事だった。親友のやる事に目を瞑り、私自身もこの組織を利用する一人だったが、そんな私も今や警視総監という立場になってね。親友を庇ってきた事、そもそも自分自身がここを利用している事がバレれば私の今の地位は確実になくなる。それに、ここを私は結構気に入っているんだ。虎君の事も気に入っている。だから、なんとしてもここを存続させる必要がある。私も地獄を見ている一人だ。抜け出せずにいるんだよ、この地獄から」
淡々と話す大和田を、大きく開いた目で見つめ、坂崎はあまりの現実に打ち震えている。
「それでわかりました……。この組織は、昔から警察内部で噂されているはずなのに、その存在を口に出してはいけない、タブーのような存在だった……。貴方が、捜査の手が及ばないように圧力をかけていたんですね……!」
大和田は、小さくため息をつく。
「正義感でここへ来たか。君は自分の意思だけで単独行動をしているな? 刑事は二人一組で行動するのが決まりだ。しかし、その方が都合がいいか」
虎は、後ろの部下に指示を出す。
すると、用意されていたまだ若い男の子が連れてこられた。
「あんたの罪はこれだよ。おまけに精神異常で警察病院に入るんだ。そんなあんたの言う事なんて誰も信じないからな」
「き、君は……」
坂崎の顔面が蒼白になる。そして、虎を睨みつけると、酷く暴れだした。
「き、君は……!!」
ベッドが壊れそうなほどに暴れる坂崎の手は赤く、血に染まり始めていた。
「ごめんね、坂崎さん。俺にはこうするしかないんだ。こうするしか……」
虎は、後の事を大和田と他の部下に任せて部屋を出た。社長室を飛び出すと、龍が後を追ってきた。
「社長……、社長……!」
エレベーターの前まで来てきつく腕を捕まれる。そして、強い力でその胸に抱き寄せられる。
「俺は酷い男だ……。あの人の事を……愛せるかも知れないと思ったほどなのに……それなのにこんな仕打ちを……」
ボロボロと涙が溢れてくる。とめどなく溢れて、龍のスーツを濡らしていく。
「社長は悪くありません……。あの男は、貴方を騙していた。裏切ったんです。貴方は何も、悪くない」
龍は必死に虎を抱きしめる。虎はガクリと膝を落とし、龍はそんな虎の身体を必死に抱き留める。
「俺は夢を見たんだ……もしかしたら、こんな最低な俺でも普通の幸せが手に入れられるかも知れない……そんな夢を……」
その相手が坂崎だった。
「本当は坂崎さんに逮捕されていた方が、良かったのかもしれない……。こんな闇に隠れて逃げ惑う生活、もう捨てて……」
今まで何度そう思った事か。だけど駄目だ。自分一人が犠牲になるのならまだいい。虎の肩には大勢の人の人生が重くのしかかる。組織の人間はまだいい。生活能力があるからだ。けれど、親に売られてここに連れて来られた子供たちはどうなるだろうか。虎が捕まり、組織がなくなった後、残された彼らがどんな人生を歩まなければならなくなるかを考えると自分だけが逃げるわけにはいかなかった。
どう足掻いても、どうしようもない。
「俺は……貴方の傍にいます。どんなに深い闇の中でも、俺だけは貴方の傍にずっといます。だから、お願いです。泣かないで下さい」
龍はいつも虎を支えてくれた。崩れそうになる度に傍にいて、虎を支えてくれた。
「ごめんな龍……。ごめん、龍……」
どうしても、外への憧れを捨てられない。いつしかこの蟻地獄から救い上げてくれる存在がいるのかもしれないという希望を、捨てられずにいる。
「俺は馬鹿だな……。誰も彼も傷つける事しか出来ない俺が、幸せになろうなんて、なんて傲慢だ」
こんな自分が人に愛されるわけがない。人を愛する権利もない。
「さぁ来い」
エレベーターホールの外から、部下の声が聞こえてくる。
虎はゆるりと立ち上がり、薄く開いた廊下へと続く扉の隙間を覗き込んだ。
そこには、数人の部下に連れられて歩く、坂崎の姿があった。
生気を失った青ざめた顔色をしている。ここで数時間隔離された後、坂崎はでっち上げられた証拠と共に警察へと連れて行かれる。そしてその後、警察病院へと収容される。
こうしてこの組織にはむかうものは今までも淘汰されてきた。
「やれやれ」
坂崎の姿が隔離される部屋の方へ消えてすぐに、大和田がエレベーターホールへと入ってきた。
「すみません、大和田さん」
虎は大和田に向かい、深々と頭を下げる。
「何、構わんよ。それよりも私は、君にこんな悲しそうな顔をさせるあの男が憎らしいな」
大和田は虎に歩を進め、目尻に指を伸ばすと涙を拭う。
「君は十分人の苦しみを理解している。だからこそ、あの男のために涙を流せる。そして他人のために自分が犠牲になる道を選んだ」
大和田の手が虎の腕に伸び、くっと引かれると大きな胸に抱き寄せられる。
「私も鷹道も、君を愛しているよ。この男だって、そうだ」
大和田が示したのは、龍であった。それを受け、龍も大きく頷く。
「皆君を敬愛している。あの坂崎という男だっていずれ、それに気づく時が来るだろう」
虎は強張っていた身体を、大和田の胸にそっと預けた。
「だったら、いいな……」
大和田の胸は広くて、まるで、父親のように暖かい。虎にとって父親は自分の人生と、そして母の人生を狂わせた元凶なのに、大和田の胸を父のように暖かいと感じる事が不思議でならなかった。
憧れ……だろうか。自分が感じる事の出来なかった愛情への憧れ、なのだろうか。
「大和田さん、俺、お願いがあるんだ……」
虎は、それを大和田に告げてからゆっくりと目蓋を閉じた。
「ああわかった。だからおやすみ。今だけは何もかも忘れて、おやすみ」
大和田は虎を抱きしめたまま、優しく囁く。その声を聞きながら、虎は大和田の胸の中で静かに寝息を立て始めた。
いや、暗闇になったわけではない。いつの間にか眠っていたようだ。
虎はそっと目を開ける。頬に触れるのはシーツの感触。
しかし、掌で覆っていたあの暖かい男の角ばった手の感触は感じられない。
「坂崎、さん……?」
ゆっくりと目を開ける。
けれど、ベッドには横たわっていたはずの坂崎の姿がない。
「……どこに」
虎は慌てて立ち上がると、部屋の中を見渡した。
ベッドルームの中には坂崎の姿はない。
では、社長室の方か。
あの人にあまりここをウロウロされては心配だ。部下に見つかれば恐らくどこかに隔離されているだろう。だったら、虎に連絡が来るはずだが、誰も連絡をしてこないと言う事は、その可能性も低い。
虎は扉を開けて社長室に向かう。
すると、対角線上にある大きな机の向こう側、虎がいつも腰をかけている椅子の辺りに坂崎が立っていた。
「もう、大丈夫なのか?」
自分一人で自由に歩きまわれるのなら、もう安心か。
「ええ、大丈夫です。すみませんでした、心配をかけて……」
坂崎は苦笑いを浮かべつつ、こちらを見やる。
「ここ、虎君の店の中、なんですか……?」
こちらに向けていた視線を外し部屋の中をゆるりと見回す。
「ああ」
恐らく以前話した、ホストクラブとでも勘違いしたままでいてくれているのなら良いが。
「そうですか。虎君みたいな若者が社長だなんて意外でした。確か、ここの社長は五十過ぎだとの噂でしたので……」
坂崎のいつもとは違った低い声音に虎は身を凍らせる。
ここの社長が、五十過ぎだと聞いていた? それはまさに先代の九条鷹道の話だ。虎が経営しているホストクラブの事ではない。今虎たちがいる、この『DARK HELL』の事に他ならない。
慌てて部屋の中心に足を進めると黒く冷たい鉄の塊を向けられて足を止めた。
「……拳銃か……」
よくよく見ると机の引き出しが開いている。
「そこには鍵がかかってたはずだけど……?」
クスクスと笑い、坂崎は小さく身体を揺らす。
「ジャケットのポケットなんて、安易な場所に入れていてはいけないですよ」
虎は慌てて鍵を入れていたポケットを探るが、坂崎の言う通りもうそこには何もなかった。
「悪かったな。いつもはあんなに気を抜いて人前で眠ったりはしないからな……。あんた一体何者だよ。あいつが話してた通りのヤクザか何かか?」
拳銃を突きつけられたままで身動きがとれない。
ヤクザだとすれば、一体何が目的だ。縄張りか、もしくは資金調達にこの組織が邪魔なのか。そうだとしても何故、ヤクザ風情がこの組織の事を知っている? 外部への漏洩はないはずだ。客にスパイがいたか。いや、厳重な審査をしているからその可能性も薄い。ヤクザだとしたら、その時点でわかるはずだ。それにしても、この組織を敵に回すというのに一人だけで乗り込んでくるというのも無鉄砲すぎる。
虎は頭の中でいろいろな可能性に思いを巡らせる。
「ヤクザ……? 一体何の話ですか……? 僕はね、こういうものですよ」
坂崎がズボンのポケットから取り出したものに、虎は驚きはしたものの、いやに納得してしまった。
「ああそうか。すっかりその線を忘れていた」
ヤクザとは比べ物にならないほどにこの組織を邪魔に思っているやつらの存在を。
「でも半年もゲイでもないのに俺にべったりでおとり捜査してたってのか? 刑事さん」
坂崎が差し出してきたのは警察手帳だ。それを見て、シオンが言った事の意味もようやく理解した。
「そういえば、あいつん家は柊組だったか。何ヶ月か前にそこの組員が拳銃ぶっ放して一般人犠牲になってパクられたっけ……。その時あいつ、あんたの事見たんだな……」
何人かの刑事が柊組にそいつらを逮捕しに向かっているはずだ。その中の一人が坂崎だったというわけか。
シオンもシオンだ。警察関係者かもしれない事までわかっていたはずなのだから、ついでにそれも教えてくれれば良かったのだ。あいつが連れていた犬が異常に坂崎に吠えかかっていた事にもこれでやっと合点がいった。
「あいつ……? 確かに僕は柊組には行きましたがね……」
今こちらに銃を突きつけてくる坂崎には温かみも何も感じられない。あんなにも優しくて温和だった坂崎が、冷たい氷のように感じられた。
「なぁ、答えなよ。あんた俺の事知ってて半年も我慢して相手してたっていうのか?」
これまでの事は全部、演技だったというのだろうか。
「最初から君の事を知っていて近づいたわけじゃありません。ただ、この組織と何らかの関係があるとは思っていたから近づいた」
「あぁ、最初から罠だったってわけか……大した演技だよ」
まんまと騙された。まさか、捜査のために男と関係を持つとまでは思いも至らなかった。
それに、貧弱な坂崎の事をヤクザだと疑いきれなかったように、刑事だなんて夢にも思わなかった。
「君と関係を持ったのは、成り行きでした。男娼の一人だと思ったからです。でも、君の身体には組織のトップだけが身体に刻んでいると言われていた龍の刺青があった……」
思い返せば、刺青を目の当たりにした時の坂崎の様子は少しおかしかった。坂崎のとぼけたような性格にうっかり騙されたが、あの時がまさに、虎が組織のトップであるかもしれないと疑いを抱いた瞬間だったのだ。
「ああ、これね。そう言う意味だったんだ。俺は単に、先代とお揃いだとだけ思ってたんだけどね……」
虎はゆるりと自分の胸元の刺青を撫で上げる。その刺青は、先代である九条鷹道が虎の身体に刻ませたものであった。虎自身もその意味を知らなかったが、まさにこの組織のトップである事を示す証しだったのだ。まさか部外者にそれを知らされる事になるとは夢にも思わなかった。
「じゃあ、俺への疑いは深まったわけだ。好きだ、忘れられそうにない? 俺も馬鹿だな。あんな言葉にほだされて、あんたとの関係を半年も続けるなんて」
今考えれば出来過ぎている。一夜を共にしただけの男に惚れた晴れただなんて、今時そんな天然記念物みたいな男がいる事自体おかしかったんだ。
「本当に、君がこの組織のトップだと言うんですか……?」
地面を這うような、低い声音で坂崎が問いかけてくる。
「ああ、そうだよ」
虎の言葉を聞いた坂崎は、どこか残念そうに眉を顰めた。
「そうですか……。本当は、君とこの組織とは何の関係もない事を願っていました……」
虎は、坂崎の言わんとする事がわからない。
「は? 手柄の元が自分の手中にあるかも知れないっていうのに、何でそんな事を思う必要がある? 俺はまんまとあんたの罠に引っかかったじゃないか」
おとり捜査は大成功だ。大物が釣れたと普通は大手を振って喜んでもいいところなのに、何故そんな悲壮な表情をしているのかが虎には理解出来ない。
「好きだったんです。君の事が、本当に」
虎は驚かされる。こんな状況で、また告白されるとは思っていなかったからだ。しかも、今まさに自分に銃口を向けている相手から、だ。
「好き? 俺の事が?」
虎は小さく鼻で笑ってしまった。
「回を重ねるごとに、どんどん君に惹かれていった。だから、君の潔白を願った。ずっと、君をこの手で抱いていたかった」
今銃を握り締める手で、本当は君の身体を抱いていたかったのだと、坂崎は悔しそうに呟いた。
虎はそんな坂崎の告白を受けて、すぅっと小さく息を吸い込むと一つため息をついた。
「俺も、あんたは……俺の事愛してくれるかもしれないって心のどこかで願ってたよ」
先ほど坂崎の隣に寄り添いながら、この事実を知った坂崎が自分を受け入れてくれる事を切に願った。彼を愛せるかもしれないと少しでも思ったからだ。
けれど結果はやはり、想像した通り後者であったようだ。
「俺の部下が俺を見て言ったんだ。俺はあんたに惹かれてるんじゃないかって……」
もう一歩、踏み出せばそれは愛に変わっていただろう。
「でも、この店は『君の店』なんでしょう? 君はやっぱり社長だった。僕だって、君の事を愛したかった。でも、駄目なんです。僕は君を、許せない……!」
こんな人を買ったり身体を売らせたりしているような汚らわしい場所を経営している虎を、恐らく実直な坂崎は許せないのだろう。
やはり坂崎は、真っ直ぐで純粋で真っ白で、汚れを知らない男だ。何故この男が刑事をしているのか、少し納得出来たような気がした。
「……わかったよ。負けだ。パクるなりしょっぴくなりあんたの好きにしろ」
虎は諦めたように呟いて、ゆるりと両手を挙げる。
「虎……君……」
すんなりと応じた虎に、坂崎は無念そうに小さく呟いた。
「でも、一つお願いがあるんだ。聞いてくれるか?」
苦笑いを浮かべて、弱々しい声音で問いかける。
「なんですか……?」
坂崎も消沈した様子で、小さく応えた。
「最後にさ、もう一回だけ抱いてくれないか? あんたにさ、抱かれたいんだ」
虎の唐突な願いに、坂崎は一瞬戸惑う。
「逃げないよ。もし心配なら俺に後ろ手で手錠をかけてくれればいい」
「手錠を……」
少し考え込んだ後で、坂崎は小さく頷いた。
「わかりました。そこで待っていて下さい」
机から離れ、拳銃を向けたまま坂崎がゆっくりと虎に近づいてくる。両手を挙げた虎の手を下ろさせ、後ろで束ねるとガチャリと手錠をかけた。
「さ、ベッドルームに行こうぜ」
「はい……」
ベッドルームへ続く扉を開くように促して、二人で中に入る。
虎は手錠で手を拘束されたまま、ベッドに腰を下ろした。
目の前に拳銃を向けた坂崎が立つ。
「ねぇ、キスしてよ」
見上げて小さく笑うと、顎にゆるりと手が伸びてきた。くいっと上向けられてちゅうと柔らかく唇を吸われる。
一度唇が離れ、虎に突きつけていた拳銃を坂崎はベッド脇のカウンターに置いて、また深く口づけてきた。
虎の身体をきつく抱きしめ、深く抉るような口づけをしてくる。
「ん……んっ……」
口の端から、虎の切ない喘ぎが漏れる。
深く互いの舌を絡ませ合い、長い時間貪るような口づけを交わした。
小さく息をつきながら、ゆっくりと唇を離す。
坂崎の唇が首筋に吸い付くと、そこを丹念に舐めあげてから、ジャケットのボタンに手がかかる。すべて外し終えるとストンとジャケットを後ろに落として、今度はシャツのボタンをすべて外して、前から両手を左右に差し入れゆるゆると腹を撫でられる。
「ん……」
後ろに倒れようとするが、後ろ手に手錠をかけられているせいで仰向けにはなれない。
「あんたと初めてセックスした時、騎乗位でしたの覚えてる? また騎乗位でして欲しいんだ……いいでしょう?」
「わ……わかりました……っ……」
このままでは体勢が限られる。虎がそう言うと、坂崎は顔を赤らめて余裕なく応じる。やはりまだ、性的な事には慣れないようだ。すべてが演技、というわけではないのかもしれない。あながち、童貞だと言っていたのは本当だったのかもしれない。
坂崎が先にベッドに横たわって、着ていたジャケットを脱ぐと、腹の辺りに跨がった虎の身体に手を伸ばす。
またシャツの中に手を差し入れて、ゆるゆると腹を撫でてくる。
「んっ……。坂崎さんっ……下も、触って……」
「あ、ああ……」
少し上ずった声で答えると、坂崎は虎のズボンのファスナーに手を伸ばす。
虎のズボンを下着ごと太股まで下ろすと、中から現れた虎の急所にそっと手を添える。両手でそこを上下に緩く扱かれると、ビクンと虎の身体が震える。
「もっと、強く……っ」
虎の要望通りに、坂崎の手の力が強まると、上下に扱く速度も同時に速まる。硬く反りたった昂ぶりの先端からほんのり透明の液体が溢れる。それが坂崎の手を濡らし、ぐじゅぐじゅといやらしい音を立てる。
「俺も、あんたの……舐めてあげるよ……っ……。前、開いて……」
「あ、ああ……」
刺激に震えながら、坂崎に訴えかけると、坂崎は片手で虎のものを刺激し続けながら自分のズボンのファスナーに手をかけ、下着の中から硬くなったそれを引きずり出した。
虎は体勢を変えて、目の前に坂崎のモノを見据える。手が使えないため、舌先でそれを自分の口の中に誘導する。
「……っ……」
ぺろりと先端を舐めあげると、坂崎が肌を粟立たせて鼻にかかった声を漏らす。
「本当にあんた、可愛いね……」
口を大きく開けてそれをくわえ込むと、舌を沿わせて上下に頭を動かす。
「……くっ……」
感覚に耐えながら、坂崎が小さく声を漏らす。時に軽く歯を立てながら、上下への律動を繰り返した。
筋に沿って舌を這わせ、先端を小さく吸う。
「……虎君……っ……もう……」
坂崎の焦った声が聞こえてきて、ゆるゆるとそこから唇を離した。
「もうちょっと、楽しませて欲しいんだけど……な」
体勢を立て直して坂崎の腰にまた跨がると、反りたったものを自分で支えるように言う。
その先端を上手く自分の秘部にあわせ、ゆっくりと腰を下ろしていく。
「……んっ……」
唾液で濡れたそこは滑りもよく、簡単にその昂ぶりを飲み込んでいく。ずるずると中にそれを埋め込むと、坂崎の腹に座った。
「坂崎さん……俺ね……」
「た、……虎君……?」
動きを止めて話かける虎に、坂崎は震えた声を発する。
「本当はここで、社長なんてしたくないんだ……。外の世界で自由に生きていきたい」
繋がったまま、悲壮に揺れる瞳で虎は坂崎を見下ろす。
「虎君……」
坂崎は、なんと答えていいのかわからないようだ。
「あんたと一緒に、生きていきたかった」
「虎君……!」
坂崎の腕の中にきつく抱き寄せられる。
「僕だって本当は……君の事が好きなんだ……でも、どうしようもない」
「わかってるよ。あんたと俺は、一緒にいられないって」
裏社会の人間が刑事と一緒にいるなんて、到底無理な話だ。
虎はそっと身体を起こすと、小さく笑いかける。
「これが最後だ。あんたを目一杯感じさせてくれよ」
「ああ」
その言葉を引き金に、坂崎の腰が律動を始める。時に緩やかに、時に激しく突き上げられると内壁が擦れて甘い刺激が生まれる。
「……んっ……んん」
激しい突き上げに身体がガクガクと震える。支えのない状態に崩れ落ちそうになりながらも、中に与えられる感覚をしっかりと受け止めた。
「……くっ……」
繋がりあうそこが、汗と液にまみれて音を立てる。二人の喘ぎが部屋中に響き渡る。
「ね……、もう……っ……坂崎さん……中にっ……」
「虎君……虎君っ……!」
何度も何度も肌をぶつけ合い、より一層激しく突き上げられた瞬間、身体の中で熱い飛沫を感じた。ドロドロと中に吐き出されるそれを感じながら、自分自身も坂崎の腹の上に白く濁った液体を吐き出した。
「はぁ、……はぁ……」
荒い吐息を漏らしながらぐったりとベッドに二人で倒れ込む。
肌が汗で濡れている。
「あんたはもしかしたら、俺の事、愛してくれるかもしれないって思ってた……」
それも叶わぬ夢になった。
「虎君……」
坂崎の顔が悲壮に歪む。彼もまた、虎がこんなところの社長をしていなければ、自分が裁くべき相手でなければそれを望んでいただろう。
叶わぬ夢。
──いや、そんな綺麗なものじゃない。
「でもあんたはやっぱり、俺を愛しちゃくれなかった……残念だよ」
ガチャリと、坂崎の頭元で金属がぶつかるような音が響く。それと同時に、左の手首に感じる激しい締め付け。
「……え……」
坂崎は一体何が起きたのかわからず唖然としている。
虎はゆっくりと身体を起こすと、いつの間にか解放された手に持つそれを坂崎に掲げて見せた。
「あんた俺に言ったよね。大切な鍵をジャケットのポケットなんかに入れてるなって……ねぇ」
先ほどまで虎を拘束していた手錠は、坂崎の手首とベッドの頭元の鉄柵をしっかりと繋いでいた。
「……き、君は……!」
坂崎が開いている片手でカウンターの上に置いた拳銃を取りにかかるが、虎が先にそれを取り上げる。
「それにこんなものを手放すなんて、のろまなあんたらしいよ」
虎は繋がったままだったそれをゆっくりと身体から抜き出して、身なりと整える。
「聞いてくれる? 坂崎さん……何で俺がこんなところにいるか……」
「……虎君……君は……!」
ベッドで身動きがとれず暴れる坂崎の姿は何だか滑稽に見えて笑ってしまった。
虎はそんな坂崎を見下ろしながら夢物語を語る。
「俺も、ここで働いている奴らと同じように小さい頃にここに連れて来られたんだ。母親に捨てられてさぁ。それからずっとここで働いてきたんだ。大勢の男に抱かれて、恥も外聞もなくなった」
虎の話を聞きながらも、坂崎は必死にもがいて抜け出そうとしている。虎はベッドの縁に座り、坂崎に視線を向ける。
「でも運よく先代に目をかけられてね。俺を愛人にしてくれた。酷く気に入られて、彼が亡くなった後こうして社長にまでなれた。でも、地獄は地獄に変わりない。母さんが俺を愛せずに、ここへ突き落としたあの時から俺はもう、外の世界には戻れなくなったんだ」
虎は母親がレイプされて生まれてきた子供だった。虎は彼女を愛していた。なのに、彼女は自分を汚した相手の血を受け継いだ虎を絶対に愛してはくれなかった。
「俺が愛しても無駄なんだ。幾ら愛しても、あの人は愛してくれない。あんたもあの人と一緒だよ。あんたは俺の事、愛してくれるかと思ったのに」
虎は坂崎のこめかみに銃を突きつける。ギクリと、坂崎の身体の動きが止まる。
「本当に、残念だよ」
グッと拳銃をこめかみに押し当て、引き金に指をかける。
「……っ……」
坂崎が恐怖に目をきつく閉じてすぐに、ベッドルームのドアが開く音と低く心地の良い男の声が聞こえてきた。
「その男が、今でも君を抱ける数少ない男の一人か? 全く羨ましいよ」
「今日限り……、ですけどね」
そこには、大和田の姿があった。
「お待ちしてました、大和田さん」
彼の後ろには龍と、何人か部下の姿もある。
坂崎の頭から拳銃を引くと、龍のところまで歩いていってそれを渡した。
「社長」
「ああ、心配をかけたな」
龍を見上げると、神妙な顔つきをしてこちらを見下ろしてくる。
「なんで……貴方たちは……!」
突然現れた男たちに、坂崎が慌てる。必死で手錠で繋がれた自分の腕を動かすものだから、そこが擦れて酷い痣になっている。
「ここの部屋、隠しカメラ仕込んであるの。普通もしかしたらって思うでしょう? あんたさ、それでも刑事なんだろ」
二人の会話も、セックスでさえもすべて外に筒抜けであったという事を坂崎に教えてやる。
セックスは大和田が来るまでの時間稼ぎだった。
「それにさ、あんたの前に立ってる人の顔を忘れたのか?」
虎の意外な台詞に坂崎は薄暗い中じっと示された大和田の顔を見る。そして、何かに気付いたのかベッドの背凭れにガンと身体をぶつけて後ずさった。
「どうして……何故警視総監がここに……!」
「やっと気が付いた……?」
自分の長である警視総監が、ここの社長であるはずの虎と親しげに話をしているのかと、坂崎はパニックに陥る。
「あんた、何でこんな非合法で明らかに違法な場所が今まで一度も警察に検挙されなかったのか、不思議じゃないか……?」
「それ……は……」
坂崎の頭にも一つの可能性が思い浮かんだのだろう。しかし、それを言いよどむ。信じたくない事実を目の当たりにして、混乱している。
「あまり虐めるな。ここの先代が私の親友でね。彼がこの組織を始めた頃、私はまだ新米の刑事だった。親友のやる事に目を瞑り、私自身もこの組織を利用する一人だったが、そんな私も今や警視総監という立場になってね。親友を庇ってきた事、そもそも自分自身がここを利用している事がバレれば私の今の地位は確実になくなる。それに、ここを私は結構気に入っているんだ。虎君の事も気に入っている。だから、なんとしてもここを存続させる必要がある。私も地獄を見ている一人だ。抜け出せずにいるんだよ、この地獄から」
淡々と話す大和田を、大きく開いた目で見つめ、坂崎はあまりの現実に打ち震えている。
「それでわかりました……。この組織は、昔から警察内部で噂されているはずなのに、その存在を口に出してはいけない、タブーのような存在だった……。貴方が、捜査の手が及ばないように圧力をかけていたんですね……!」
大和田は、小さくため息をつく。
「正義感でここへ来たか。君は自分の意思だけで単独行動をしているな? 刑事は二人一組で行動するのが決まりだ。しかし、その方が都合がいいか」
虎は、後ろの部下に指示を出す。
すると、用意されていたまだ若い男の子が連れてこられた。
「あんたの罪はこれだよ。おまけに精神異常で警察病院に入るんだ。そんなあんたの言う事なんて誰も信じないからな」
「き、君は……」
坂崎の顔面が蒼白になる。そして、虎を睨みつけると、酷く暴れだした。
「き、君は……!!」
ベッドが壊れそうなほどに暴れる坂崎の手は赤く、血に染まり始めていた。
「ごめんね、坂崎さん。俺にはこうするしかないんだ。こうするしか……」
虎は、後の事を大和田と他の部下に任せて部屋を出た。社長室を飛び出すと、龍が後を追ってきた。
「社長……、社長……!」
エレベーターの前まで来てきつく腕を捕まれる。そして、強い力でその胸に抱き寄せられる。
「俺は酷い男だ……。あの人の事を……愛せるかも知れないと思ったほどなのに……それなのにこんな仕打ちを……」
ボロボロと涙が溢れてくる。とめどなく溢れて、龍のスーツを濡らしていく。
「社長は悪くありません……。あの男は、貴方を騙していた。裏切ったんです。貴方は何も、悪くない」
龍は必死に虎を抱きしめる。虎はガクリと膝を落とし、龍はそんな虎の身体を必死に抱き留める。
「俺は夢を見たんだ……もしかしたら、こんな最低な俺でも普通の幸せが手に入れられるかも知れない……そんな夢を……」
その相手が坂崎だった。
「本当は坂崎さんに逮捕されていた方が、良かったのかもしれない……。こんな闇に隠れて逃げ惑う生活、もう捨てて……」
今まで何度そう思った事か。だけど駄目だ。自分一人が犠牲になるのならまだいい。虎の肩には大勢の人の人生が重くのしかかる。組織の人間はまだいい。生活能力があるからだ。けれど、親に売られてここに連れて来られた子供たちはどうなるだろうか。虎が捕まり、組織がなくなった後、残された彼らがどんな人生を歩まなければならなくなるかを考えると自分だけが逃げるわけにはいかなかった。
どう足掻いても、どうしようもない。
「俺は……貴方の傍にいます。どんなに深い闇の中でも、俺だけは貴方の傍にずっといます。だから、お願いです。泣かないで下さい」
龍はいつも虎を支えてくれた。崩れそうになる度に傍にいて、虎を支えてくれた。
「ごめんな龍……。ごめん、龍……」
どうしても、外への憧れを捨てられない。いつしかこの蟻地獄から救い上げてくれる存在がいるのかもしれないという希望を、捨てられずにいる。
「俺は馬鹿だな……。誰も彼も傷つける事しか出来ない俺が、幸せになろうなんて、なんて傲慢だ」
こんな自分が人に愛されるわけがない。人を愛する権利もない。
「さぁ来い」
エレベーターホールの外から、部下の声が聞こえてくる。
虎はゆるりと立ち上がり、薄く開いた廊下へと続く扉の隙間を覗き込んだ。
そこには、数人の部下に連れられて歩く、坂崎の姿があった。
生気を失った青ざめた顔色をしている。ここで数時間隔離された後、坂崎はでっち上げられた証拠と共に警察へと連れて行かれる。そしてその後、警察病院へと収容される。
こうしてこの組織にはむかうものは今までも淘汰されてきた。
「やれやれ」
坂崎の姿が隔離される部屋の方へ消えてすぐに、大和田がエレベーターホールへと入ってきた。
「すみません、大和田さん」
虎は大和田に向かい、深々と頭を下げる。
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大和田は虎に歩を進め、目尻に指を伸ばすと涙を拭う。
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「私も鷹道も、君を愛しているよ。この男だって、そうだ」
大和田が示したのは、龍であった。それを受け、龍も大きく頷く。
「皆君を敬愛している。あの坂崎という男だっていずれ、それに気づく時が来るだろう」
虎は強張っていた身体を、大和田の胸にそっと預けた。
「だったら、いいな……」
大和田の胸は広くて、まるで、父親のように暖かい。虎にとって父親は自分の人生と、そして母の人生を狂わせた元凶なのに、大和田の胸を父のように暖かいと感じる事が不思議でならなかった。
憧れ……だろうか。自分が感じる事の出来なかった愛情への憧れ、なのだろうか。
「大和田さん、俺、お願いがあるんだ……」
虎は、それを大和田に告げてからゆっくりと目蓋を閉じた。
「ああわかった。だからおやすみ。今だけは何もかも忘れて、おやすみ」
大和田は虎を抱きしめたまま、優しく囁く。その声を聞きながら、虎は大和田の胸の中で静かに寝息を立て始めた。
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表紙協力:須坂紫那様
挿絵協力:あまつ様(二階堂磨様)
※書籍・書き下ろし・同人誌を電子書店にて販売中です!
こちらもよろしくお願い致します!(^^)
〈アズノベルズ〉黒き龍は服従の虜
http://www.aznovels.com/syousai.php?serial=189
〈アズノベルズ〉黒き狼は華音の虜
http://www.aznovels.com/syousai.php?serial=241
書き下ろしや同人誌も書籍ページに掲載されている電子書店に掲載されておりますので是非ご覧下さい(^^)
※別で掲載しております【黒き龍は服従の虜番外編 SMルームで密談を♡】と同じ名前とキャラがいたり、設定が似ていますが、それは【帝王の刻印】が【黒き龍は服従の虜】の原型のようなお話だからです。ですが、まったく別のお話です。よろしくお願い致します。
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