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帝王の刻印 - 籠の鳥は空を見ない -
面白い玩具
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頬に生ぬるい風が当たって通り過ぎていく。そんな生ぬるい湿気を含んだ風でも、無風の地下に比べれば気持ちがいい。外に来たという実感が、その風を浴びる事で湧いてくる。
目的の店はビル街を抜けた先にある。この細い通路を抜けて、幾つか路地を突き進み、大体歩いて八分ぐらいのところだろうか。
薄暗い通路を抜けて、広めの道に出たところで不意に何かにぶつかった。
「わ」
「ぅわ……!」
自分以外の声の大きさに驚いて、声がした方を見ると何もない。ふと視界の下の方に入ったものに視線を移す。
「あいたたた……」
大の男が一人地面に転がっていた。
「は? お、おい大丈夫かよ」
そこで、先ほどぶつかったのはこの男だという事に虎は気が付いた。
大した衝撃でもなかったのにこけるなんて間抜けな奴だなと少し苦笑いが浮かんだ。
「す、すみません……えっと……」
男は体勢を持ち直すと、四つん這いのまま地面を探り始めた。
「は? ああ、もしかしてこれか?」
男の周りを見渡すと、少し離れたところに眼鏡らしきものが落ちていた。この辺りの路地は狭く、元々人気もほとんどないから良いようなものだが、もしここが大通りだったとしたら大迷惑だろう。
しかし、こんな鬱蒼とした一般人はほとんど立ち入れないようなビル街にこんな男が何のようだろうか。似るからに鈍そうなサラリーマン風の男だ。道に迷ったのだろうか。
「あ、す、すみませんありがとうございます……」
眼鏡を拾って差し出してやると、男はそれを受け取ってかける。しかし、まだ何かを探しているのか辺りを四つん這いのまま探っている。
「で、今度は何よ」
多分まだ何かを落としたのだろうと思って男を見下ろしながら問いかける。
「あの、メモなんです……、地図が載っているんですけど……そこへ行く途中で」
ああやはり迷ってこんなところまでやってきてしまったのかと虎は納得した。
同じ場所に突っ立ったまま辺りを一緒に見渡してやるが、今度は何も見当たらない。
緩く吹き付ける風に飛ばされて、もう遠くへ行ってしまったのかもしれない。
「ないなぁ、どこかに飛んじゃったんじゃないの?」
「そ、そんな……」
男は四つん這いのまま項垂れる。何だかいちいち反応が古典的な男だ。何だか見ていると少し不憫になって来る。
特に急ぐ用事もないし、ぶつかった自分にも責任があるかと、虎は男に手を差し伸べた。
「大丈夫か? 行き先の名前とか言ってもらえれば俺ここら辺は詳しいからわかるかもしれないけど?」
男は虎の手を取りゆっくりと立ち上がる。虎よりも少し身長が高い。よくよく見てもやはりサラリーマン顔だ。腰の低い気弱そうな顔立ちをしている。いい言い方で言えば、優しそうで柔らかい。眼鏡がよく似合う。
「同僚が、たまの休みだから癒やされて来いって紹介してくれたんです。この辺りは全然わからなくて迷ってしまって……」
「いや、だから名前」
そんな前置きは正直どうでもいい。とにかく案内してやろうというだけなのだから、早く店の名前を言ってもらえればいい。
「あ、僕ですか? 僕、坂崎啓一と言います」
「あ? あんたのじゃないよ。行きたい場所の。それにそろそろ手、離してくれない?」
ボケた坂崎の回答に失笑してしまう。それに、この年であまり年齢も変わらないような出会ったばかりの男と仲良しこよしで手を繋いでいるという現状も少ししらけてくる。
「はっ……、す、すみません」
坂崎はようやく気付いたのか、慌てて虎の手を離す。
どこまでも天然な男だ。
「えっと、その……『パフューム』という店なのですが……。この辺りにあるはずらしく……」
苦笑いを浮かべてそう告げてくる坂崎に、九条は意外すぎて大きく目を見開いた。
「え? あ、ああ。そういう事。まぁある意味癒やされるっちゃ癒やされるか。つか、全然方向違うんだけど。まぁ俺の店と比較的近いから送ってやろうか?」
「す、すみません。お、お願いします……!」
虎の提案に坂崎はパッと明るい笑顔を見せた。
「なんかあんたと話してると調子が狂うな」
「え? あ、はぁ」
わかっているのかわかっていないのか。良くわからない相槌を打ってくる。
「まぁいいや。ついてきなよ」
「は、はい!」
ここで長々と会話をしていても仕方がない。虎が先に歩を進めると、坂崎もそれに続いて歩いてきた。
鬱蒼としたビル街の中の幾つかの路地を抜けると、煌びやかなネオン街へと入った。
坂崎の目的の場所は、このネオン街の中にある。
「え? こっちですか? もっと静かな場所にあるかと思ったんですが……」
だからビル街の方に言ったのだとわけのわからない事を呟いている。
「こっちこっち、もうすぐ着くって」
辺りにはキャバクラやホストクラブ、風俗店などが乱立している。通りには高級そうな車が幾つも止まっていて、キャバクラの前では帰る客を見送るホステスたちが立っていたり、酔っ払いがフラフラと道のど真ん中を歩いていたりして、明るいだけではなく酷く賑やかだ。通りを行き交う人もかなり多い。
「そういえば、君の店もこの辺りに……?」
不意に坂崎が、思い出したように問いかけてくる。
「ああ。ホストクラブ」
「ホ、ホストクラブですか……」
驚いたような声を上げる坂崎だったが、恐らくこんななりをしているせいで虎がその店を経営しているだなんて微塵も思わなかっただろう。単に、ホストの一人だと思っているに違いない。
その後は特に会話もなく、いかがわしい看板が乱立している路地へと少し入ると、そこに『パフューム』と書かれた看板を見つけた。香水のビンをモチーフに店頭の看板が作られている割には少し下品な雰囲気が漂う。
「はい、到着。じゃ、俺はこれで」
ぶつかった責任はもう果たしたしと、坂崎を残してその場から立ち去ろうとしたが、不意に腕を掴まれて引き止められた。
「は? まだ何か?」
目的の場所まで連れて来てやったというのに、それ以上一体何があるというのだろうか。
「えっとここ、一体なんの店なんですか?」
「は? 見てわかるだろ? 風俗だよ風俗。しかもコスプレ風俗」
承知の上でやってきたわけではないのだろうか。それにしてもそのさも風俗ですと言わんばかりの店名とここいら一帯の地図を見せられればわかりそうなものだが。
「ふ、風俗……!?」
坂崎はいきなり顔を真っ赤に染めて大声で叫んだ。
「お、おい叫ぶなよ! 俺が勧誘してきたみたいに見えるじゃないか」
大声で言える事ではなかったが、虎は女が嫌いだった。売春宿やホストクラブのような場所で社長はしているが、あまりそう言う店は好きじゃない。どうもこういう類の店は野蛮なイメージが拭えないからだ。
「ちょ、ちょっと来い」
あまり辺りの注目を集めるのが嫌で、虎は坂崎を連れてその場所を離れた。
「何だよあんた、やっぱり何も知らずに来たのかよ。普通わかるだろ、そう言う類の店だって」
坂崎の腕を掴んだまま、急ぎ足で路地裏へと連れて行く。
「僕は癒やされて来いって言われたので、温泉施設でもあるのかと……」
「は? 何か? 『パフューム』って言う名前の温泉施設がこんな歓楽街にあると思ったのか? あんた馬鹿じゃないのか」
あまりのお惚けっぷりにそろそろ疲れてきた。
人気がないところまでやってくると、坂崎の腕を放して後ろを振り返る。
「まさか同僚がそんな店を紹介してくるなんて思わなくて……す、すみません……」
坂崎は虎の言葉におろおろしながら謝ってきた。
「いや、怒ってるんじゃなくてさぁ……」
何故こんなに調子が狂うのだろうか。坂崎はあまり普段関わりあいを持たないタイプの人間で虎もどう接していいのかわからない。
「あんたホントになんつーか、天然だよな。いいじゃん、ああいう店でもそれなりに癒やされるんじゃないの? 折角来たんだから行ってくれば?」
虎自身は行かないからなんとも言えないが、形は違えど性的な欲求を満たす事で癒やされるという事は知っている。
「もしかしてセックスした事ない? あんた三十は過ぎてるよな。もしかしてそんな事……」
虎は冗談でそう言ってみたのだが、言われた坂崎は真っ赤になって黙り込んでしまった。
「え? 図星? うわ、ごめん」
確かにそれではああいう場所に免疫がないのもわかる。それに商売相手で脱童貞というのも何だか虚しいだろう。
しかし、いちいち坂崎が見せる反応が少し新鮮で面白くなってきた。
「あそこに入る勇気ないならさ」
虎は少し考えた後に、坂崎を見て小さく笑った。
「え?」
その虎の反応の意味が坂崎にはいまいち理解出来なかったのか、少し戸惑ったような声を漏らす。
「俺についてきなよ。お勤め疲れで癒やされたいんだろ?」
虎はグッとまた坂崎の腕を掴んだ。
「えっと、あの……」
坂崎は戸惑った様子で虎に腕を引かれて歩き出す。
「癒やされるところに連れて行ってやる。あんな店よりもずっと癒やされる場所にさ」
「あ、あの……」
困惑の声を漏らす坂崎を、虎はどんどんと先へ連れて行く。
路地を幾つか抜けて、たどり着いた建物の中にずんずんと進んで行く。
「あの、ここは……」
「はいはい、お会計するから黙ってて」
虎は幾つかある部屋の写真から適当な部屋のボタンを押して、出てきた紙をこちらの顔が見えなくなっているカウンターに持って行く。
滞在時間を伝えると、幾らか告げられてその金額を支払う。引き換えに鍵をもらって、エレベーターに向かうとそこに乗り込んだ。
「あ、あの……」
坂崎はおろおろしながら弱気な声を漏らすばかりだ。エレベーターが目的の階に着いたら、フロアに降りて鍵にかかれたナンバーの部屋に向かった。
「はい、どうぞ」
その部屋の前にたどり着くと、鍵と扉を開けて坂崎の腕を引っ張り部屋の中に押し込んだ。
中はいたって普通の部屋で、大きなテレビと、カウンターテーブル、キングサイズのベッドが置かれている。ベッドの向こう側にはシャワールームと、その横にトイレへ続く扉がある。
「あの……!」
先にベッドに向かい座り込む虎に、入り口付近に突っ立ったままでいた坂崎が顔を赤くして叫びかけてきた。
「あんたでもここがどこか何となくはわかるだろ? ラブホテル」
「だから……その」
坂崎は一歩も動けずにいるのか、入り口付近で顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ラブホテルに来たらやる事は一つだけ。だろ?」
それすらもわからないほど馬鹿だとは思わない。
「……わ、わかります……。で、でも、僕たちは男同士で」
ようやくまともに喋ったかと思うと、震える声で最もな正論を述べる。
「今時珍しくもないでしょ。あ、もしかして童貞を男に捧げるのは忍びないとか」
まぁ確かにそれは可愛そうかとベッドに寝転がった。
「いえ、その。そういう事は、意中の人と……やる事ではないかと……」
「は、ははは……!」
今度は意中と来たか。どこまでも実直な男だと虎はつい笑いを漏らしてしまった。
「じゃあ、あんたが俺の事好きになればいいじゃないか。俺もあんたの事好きになるよ? それなら問題ない」
ベッドに寝転がって天井を見上げる。
昔、『DARK HELL』でよく目にしていた天井とは全く違っていて、すぐそこに天井があって手が届きそうな感覚に襲われた。あそこは高級クラブみたいなものだから、こんな安上がりなラブホテルと一緒にしては可哀想か。
「それとも俺じゃ抱けない? 三十過ぎの割には童顔で、自分では若々しいと思ってるんだけど」
「さ、三十過ぎ……!?」
入り口で突っ立ったままでいる坂崎がまた変なところに食いついてくる。
「てっきり、二十代半ばかと……」
予想外の反応を示すものだから、坂崎と会話をしているとやはり面白かった。虎はベッドから起き上がると坂崎に一番近いベッドの縁に座り込んだ。
「そりゃ、光栄だね。童顔だ童顔だとは思ってたけど、そんなに若く見られるとはやっぱり俺は童顔みたいだ」
男で童顔というのを嫌がる人間は大勢いるだろうけれど、虎はむしろそう言われる事が嬉しかった。いつまででも若々しくいられるというのは喜ばしい事だ
「あ、そんな事実を知ったらさらに欲情しないか。しくじったな」
自分の失態に気付いて、小さくため息を漏らす。
「そ、そんな。若々しくて羨ましいよ。僕なんて、三十三にもなってまだで……君みたいに経験豊富な人を羨ましいと思っているんだ」
坂崎は何故だか今度はガクリと肩を落としてしまった。コロコロといちいち反応が変わる男だ。
「経験豊富だなんていうのは、俺を見てのイメージ? 見た目で人を判断するものじゃない。もしそうじゃなかったら俺傷つくよ?」
わざと肩を落としてそう言うと、坂崎は今度は慌て出した。
「す、すみません……! そ、そんなつもりは……」
虎はゆっくりと立ち上がり、坂崎のところまで歩んで行く。
目の前に立つと、グッと腕を引いてベッドにその身体を投げ込んだ。
「ぅわ……!!」
坂崎の足がベッドの縁に引っかかり、前倒しにベッドに埋もれる。
「羨ましいと思うなら、あんたもそうなればいい。怖くなんてない。快楽を知れば恐怖心なんてなくなる」
坂崎は、身体を仰向けにして肘を立てると、枕の方に後ずさった。
「でも、僕は……」
「ほら、黙って」
虎もベッドに身体を預けると、坂崎に覆いかぶさる。緩く唇を奪うと、坂崎は凍りついてしまった。
「ちょ……っ……」
坂崎の身体を溶かすように柔らかく唇を舌でなぞる。けれど、坂崎の身体は固まってしまったままだ。激しい緊張からか全身が強張ってしまっている。
「じゃあさ、あんたが好きなようにしてみなよ。俺はそれを甘んじて受ける。だったら何も、嫌な事はないだろう?」
「え、あ……」
坂崎は少しの間呆然としていたが、上から退いて目の前に座り待っていた虎の腕をゆるゆると取った。
するりと腕を滑った坂崎の指が、虎の掌を取るとそっとそこに口づけてきた。
「くすぐったいなぁ」
ちゅっと手の甲に口づけられる。そっとこちらを見た坂崎の顔はそれはもう真っ赤で、見ている虎の方が恥ずかしくなりそうだった。
「あんた可愛いな」
今時こんな反応をする奴なんて珍しい。小学生だって金のために平然と身体を売るような時代だ。天然記念物にも等しい。
「な……何を……。僕は、男ですよ……」
クスクスと笑いを漏らす虎に、坂崎はまた顔を真っ赤にしてしまった。
「で、次はどうしたい? なぁ、してみなよ」
そんな坂崎に次の行動を促す。すると、今度は弱々しい力で、虎の顎に手を当てる。ゆるりと上向かされると、軽く坂崎の唇が虎の唇に触れた。
「……ん、……舌、入れてみなよ……」
何度か軽くだけ押し当てる坂崎に焦がれて、そう言うと、少し戸惑った後でまた唇を押し当ててきた。
リクエストした通りに、戸惑いつつも舌先が唇の隙間に差し込まれる。薄く歯に隙間を作ると、その間を縫って口腔内にザラリとした舌が差し込まれる。
入ってきたものの、それだけで戸惑っている舌に自分の舌を絡ませると、大きめに唇を開き坂崎の唇に吸い付いた。
「……んっ……」
「はっ……」
くちゅくちゅと音を立てて、坂崎の舌を吸う。慣れない動きにまさかキスも初めてなんて事はないよなと小さな疑惑が生まれた。
溢れそうになる唾液をゴクリゴクリと何度か飲み干して、ゆっくりと唇を離した。わざと舌先を口の外に出したまま、坂崎との唇の間に銀色の糸を作る。
「は、はぁ……」
坂崎は赤い顔をして、ぼんやりとしている。
「ディープキスぐらいで、だらしないな」
真っ白なものを汚すのは楽しいが、真っ白過ぎるのも考え物だ。上手く先に進まない。
「す、すみません……」
虎の言葉に坂崎は我に返って、片手で軽く頭を抱える。
「いや、そんなに悲壮にならなくても」
いちいち大げさな反応にもそろそろ慣れてきて、今度は服を脱がせるように促した。
「一応このスーツ、うん十万はするから丁寧に脱がしてくれよ」
「あ、は、はい……」
緊張気味に坂崎がスーツのボタンに手をかける。一つ一つ外していって、全部外し終えるとゆっくりと虎からジャケットを奪いベッド横のカウンターに置いた。
「今度はシャツな」
「は、はい」
虎の言葉通りに動くロボットのように坂崎は従順に真っ白なシャツのボタン一つ一つに手をかけていく。
上から一つ一つ外して行き、胸の辺りまで来たところで坂崎の手の動きが止まった。
「これ……」
「ん?」
坂崎は虎の胸を凝視したまま固まっている。
「ああ、これ」
目線の先には龍の刺青がある。刺青を見たのも初めてとかいうのだろうか。
「今時ファッションの一部だろ?」
呆然としている坂崎からシャツを奪い返し、プツリプツリとボタンを外していく。すべてのボタンを外した後で、シャツをカウンターの上に置くと坂崎に背中を向けた。
「こんなもの、そんなに珍しいものじゃない」
虎の背には、その名と同じ『虎』の刺青。背中を覆いつくすほどに大きく勇ましい獣の姿がそこに描かれていた。
「そ、それは…………」
上半身裸のまま、坂崎に向かい直る。坂崎は唖然としていて、少し苦笑いが浮かぶ。
「ああもしかして」
「そんな、駄目ですよ! 親からもらった大切な身体にそんな……」
想像通りの言葉にまた虎は苦笑いを浮かべた。
「言うと思った」
どこぞの保護者みたいな台詞だ。
「若気の至りですか? 勢いで入れてしまって後悔してるとか……」
お決まりの台詞に小さくため息をつく。
「若気の至りっていうか、まぁ成り行きっていうか。別に後悔はしてないし」
自分から進んで入れたわけではなかったが、これはこれでそれなりに気に入っている。
というか、何故こんな説明をしなければならないのかと虎は小首を傾げた。
「あれ? もしかしてこれで萎えた?」
「い、いえ……そんな事は……」
ゆるゆると首を振る坂崎に虎は小さく笑いを漏らす。
「素直でよろしい。じゃあ、続き、しようよ」
「あ、えっと……」
自分が恥ずかしい事を言ってしまった事に気がついて、坂崎がまた真っ赤になる。
虎は坂崎の手を取ると、そっと自分の股間に触れさせた。
「ちょっ……」
「ここ触るの、抵抗ある……? じゃあさ、俺が見本を見せてあげるよ」
そう言うと、虎は坂崎の股間に手を当てて、ベルトを外しにかかった。
「あの……」
「し、黙って」
人差し指を立て、坂崎の唇に押し当てる。すると、坂崎は素直にそれに従う。
カチャカチャと音を鳴らしてベルトを外すと、すべて取り去りカウンターへ放り投げる。ファスナーを下ろしきると、露わになった下着の上から膨らみを手で包み込む。
「……っ……」
坂崎が息を詰めるのがわかる。
「人に触られるのは初めてだよね」
「あ、ああ……」
虎は身を屈めて、下着の中から坂崎のものを引きずり出す。
「ちょっ……何を……」
「触るだけだよ」
股間の間で揺れるそれにそっと両手を重ねる。丹念に柔らかい肉を上下に扱くと、すぐに硬さを増してきた。柔らかかったものが、木の幹のように太く逞しく成長していく。
「立派だね。しかもあまり触られていないせいか色も綺麗だし。使わないなんて勿体無い」
「……っ……」
坂崎は羞恥からか言葉すら発せられなくなっていた。
虎はそのまま軽く被った皮を下に引きずり下ろして亀頭を露わにさせる。ぬろぬろとほんのり湿って光っている。
掌に唾液を垂らし、ほんのり濡らしてからその幹を緩く扱いていく。
「くっ……」
淡い反応にも坂崎が敏感に反応する。
「ここも気持ちいいんだ。知ってる?」
硬く立ち上がった部分を扱きながら、根元にある柔らかい二つの塊にも手をかける。軽くもみしだくとさらに坂崎の身体がビクリビクリと震えた。
少しの間そこを弄んでからそっと手を離す。
「はぁ、……はぁ……」
坂崎が上ずった吐息を漏らす。弄んだものの先端からは、透明で粘ついた液体が漏れていた。指先でそれをすくい上げると、トロッと伸びて糸が出来た。
「これを俺にもしてくれる? さっき気持ち良かった事を俺にもしてくれればいい」
「わ、わかった……」
坂崎と場所を入れ替わり、枕を頭にベッドに横たわった。膝を立てると足を大きく開く。そこに坂崎が身を埋め、ズボンのベルトを外し自分がされたようにファスナーを下ろして前を開く。
「俺のは全部脱がしてくれる?」
そう言うと、坂崎はズボンをすべて脱がしてまたそれもカウンターの洋服の山に重ねた。
虎の下着の前に、坂崎がまた身体を埋めてくる。下着を下に降ろして、中から自身を出されると、すでに軽く立ち上がりかけていた。
「あんたのしててちょっと興奮したんだ。早く扱いてよ」
下着も取り去られると、熱く膨れ上がった中心に緊張のためか汗に濡れた掌が触れてくる。
緩く少しずつ、上下に扱かれてどんどん硬さを増してくる。
「……っ……そう、そんな感じ」
少したどたどしい動きではあったが、しっかりと快楽は滲み出している。
坂崎は、虎がやったのを真似るように、硬い幹を扱きながら根元の二つの塊も緩く揉みしだいてくる。じんわりとそこが疼いて気持ちがいい。
「気持ち、いいのかい……?」
坂崎の目が心配そうに問いかけてくる。だから見下ろして、虎は小さく笑ってやった。
「ああ、いいよ。先も触ってよ」
「わ、わかった……」
むき出しになった亀頭に、坂崎の指先が触れる。
「んっ……」
ピリリと甘い刺激が小さく全身を駆け抜ける。
「わ、すまない……っ……」
「は? 何謝ってんの? いいんだよ、それで」
坂崎には虎の反応の意味もわからないらしい。
恐る恐るという感じで手の動きを続ける。
「ん、サンキュー。もういいよ。ちょっと寝転がってくれる?」
坂崎に股間から手を引かせると、ゆっくり身体を起こしてスペースを明け渡す。
「あ、ああ……」
意味もわからない様子で、坂崎はそこに寝転がる。
「ちょっと滑り、良くするためだから楽にしてて」
「え、あ、ちょっ……」
先ほどの坂崎のように虎が股間に身体をねじ込んできたのまでは良かったが、そこから顔を埋めてきた事に坂崎は慌てる。
両手で掴んだ太い幹の先端を、虎は口の中に挿し込んだ。
「う、あっ!」
舌先の強い刺激に坂崎が大きな声を上げる。虎は構わずにそれを根元深くまでくわえ込んだ。
喉仏に先端が触れて、軽い吐き気がする。けれど、実際に戻す事はない。むしろそこに先端が触れる感触さえ快楽になる。
根元から少しずつ、多めに唾液を垂らしながらそこを丹念に濡らしていく。舌を使って一緒に舐め上げながら先端までたどり着くと窪みの部分に軽く舌を埋めて中からあふれ出す液体を舐め取った。
「先走り出てるね。気持ちいい? まだイっちゃ駄目だよ」
「何を……っ……」
虎が坂崎の身体を跨ぐ。腹の辺りまで来ると、後ろ手に坂崎の硬く立ち上がったものに手を沿わせた。
「騎乗位。嫌いかなぁ」
にっこり笑ってそういうと、自分の尻の丘にそれをグッとねじ込んだ。
「んっ……君っ……!」
「ん~っ……ちょっと久しぶりだからなぁ」
そう言いながらも、虎の身体にはやすやすと硬く昂ぶったものが埋まっていく。秘部の入り口が突き刺さる幹の大きさに合わせ拡張してそこをきつくくわえ込む。
「あ……っ……くっ……」
自分自身を襲う激しい刺激にか、坂崎が切羽詰まった声を漏らす。
「きついでしょ。初めてだからわかんないかもしれないけど、女なんか目じゃないよ。男の方が女より締まりが良くて堪んないんだ」
虎は顔色も変えずズズズッと坂崎のものを身体の中に埋めて行く。
「……くっ……ひっ……」
坂崎はただ精一杯という感じで、自分を襲う感覚に耐えているようだった。
「ね、それに俺さ、君じゃなくて『虎』って言うんだ。呼んでみてよ、虎ってさ」
グッと最後の最後、根元までぎっちりと坂崎をくわえ込むとそこにぺたりと肌を合わせ座り込んだ。
「はぁ……はぁ……」
坂崎は真っ赤な顔をして身体をビクビクと震わせている。
これでは一体どちらが攻めているのかわからない。
「ね、呼んでくれない?」
ちゅ、と、身体を前に倒して深く根元まで繋がったまま坂崎の首に両手を回し抱きつき口づけをする。
「ん……ん」
だらしなく薄く開いた坂崎の唇に舌を刺し込みゆるゆると中で縮こまっていた舌に絡ませると、少しずつあちらからも反応を返してきた。
「は……」
唇を離すと、また坂崎の上に座り直す。
「動かしてよ。俺の腰、持ってさ」
「待って……くれない……かな。今動かしたら、どうにかなりそう、なんだ……」
坂崎が気弱な事を言う。
「やっぱり俺が見本を見せないと。ほらこうやって」
「……くぅっ……」
ゆるりと腰を持ち上げると、慌てたように坂崎が腰を押さえつけてきた。
「んっ……何? 埋まってる方が好きなわけ?」
「そうじゃ、なくて……っ」
余裕がない様子で浅く息を吐きながら、必死で虎の腰の動きを抑える。
「ゆっくりでいいから、持ち上げて」
恐る恐るという感じで、押さえつけた腰をゆっくりと持ち上げる。
「くっ……」
「そうそう、その調子」
本当に少しずつだったが、虎の腰が上がって行く。
はぁはぁと息を漏らしながら、坂崎は真っ赤な顔をしてビクビクと震え快楽に耐えている。
腰を掴む手の力が強い。掌が汗ばんでいてじっとりと虎の皮膚を濡らす。
じっくりとした動きで、ようやく先端付近までたどり着く。
「じゃあ今度は俺が腰を下ろすよ。楽にしてて」
小さく笑いながら、虎は長い時間をかけて先端まで抜かれたモノを今度は一気に根元までくわえ込んだ。
「あ! ……くぅっ……!」
坂崎が一層大きな声を漏らす。
「なぁ、良かったでしょ? 気持ちよくてわけわかんない?」
ククッと笑うと、虎は坂崎の上でゆるりと勝手に動き出した。
「え、あ……っ……ちょっと、待っ……くぅっ……」
「あんただけじゃなくてさ、俺も気持ちよくなりたいんだよ……っ……。じれったくてさぁ」
正直こんな弱い刺激だけでは虎には物足りない。
坂崎の腹に両手を添えて、腰を上下に激しく動かし始めた。
「くっ……あ……っ……ん、せめて、これぐらいじゃないと……ねぇっ……」
「あ……っ……待っ……、僕っ……もう……っ……」
激しい動きにさらに坂崎は切羽詰まった声を出した。身体がビクビクと小刻みに震えている。
「イきたい? いいよ、先にイって。中に出していいしさ……んっ」
「な、か……くっ……うぅっ!」
そう言った矢先に、坂崎が全身を大きく震わせて虎の中で熱い液体を放つ。ゴボゴボと中で溢れるものの感覚に腹が満たされていく。
「ん……っ……多いね」
何度か坂崎の身体がビクついてから、その身体がぐったりとベッドに崩れ落ちる。
「まだ早いよ。俺の事、イかしてくれないと」
そう言うと、虎はまた坂崎の上で動き始める。少し萎えかけた坂崎のものがまた硬さを増してくる。
「待って……くれって……くっ……」
中に吐き出された液体が太い幹に掻き混ぜられてグチュグチュと音を立てて響く。
「ん、ね……いい音。卑猥でさ、堪らないよ」
上下に腰を律動させて、その卑猥な音を楽しむ。
身体に埋まったものがまたピクリと震え始めたのを感じて、虎はいきなりそれを身体から抜き去ってしまった。
「な、にっ……」
坂崎は驚いて慌てて上から退こうとする虎の肩を掴み引き止める。
「わかってるって。そろそろ騎乗位にも飽きてきたんだ。今度はあんたが主導でやってよ」
ね、と小さく笑って坂崎の唇を奪う。
「どんな体位がいいかな?」
俯いて考え込んでいると、坂崎が咄嗟に虎の身体を抱きこんだ。
「もうちょっと、キス、させてくれないか?」
おどおどとしながらも、初めて意思らしきものを示す坂崎に虎は頼もしくなった。
「いいよ、ほら」
そっと抱き込まれた身体を離して、坂崎の行動を待つ。
ちゅっと唇を何度か吸われて、今度は深く舌を使って口腔を嬲られる。
「ん……っ……」
教育した甲斐があったのか、最初とは比べ物にならないぐらいに濃密な口づけだった。
「はっ……」
唇が離れてから、坂崎はゆるりと耳元に唇を寄せてきた。
「後ろから、してもいいかな……」
「バック? いいね。俺の事、好きに動かしてみなよ」
坂崎がしたいようにさせるために、そう指示して自分からは動かず動かされるのを待った。
ベッドの頭元に四つん這いになるような形をとらされると、ゆっくりとした動きで双丘を割って坂崎のモノが液で濡れた秘部に侵入してきた。
中はベトベトしていて簡単に坂崎のモノを絡め取っていく。
グググッと硬いものが先へと押し込まれていく。
「好きに、あんたが気持ちいいようにしてみなよ」
大きく足を左右に開いて、しっかりとそれを受け入れる体勢になる。
グッと根元まで押し込まれたものが、今度は抜かれていき、先端まで到達したところでまたグッと押し込まれる。
「ん……っ……そう、……上手いよ……」
最初はゆっくりだった動きが少しずつ激しくなり、また腰を掴んだ坂崎の掌が汗ばんできた。
「あっ……いい、……ですかっ……」
「ん、……いいから、……もっと、激しくして」
好きなように動けばいいと助言すると、坂崎はさらに激しい動きでそこを突き上げてくる。濡れた音が耳に心地いい。腹の奥を突き上げる塊に身体が震える。
「……あ、……ぅんっ……いいよ……っ……もっと……!」
「……くっ……あ、……くぅ……!」
パンパンと肌が触れるたびに乾いた音が響く。獣のようなセックスに、快楽が身体中を駆け巡る。背筋にビリビリと激しい電流が駆け巡っていった。
「あ……っ……は……っ! もう、イく……っ……。ね、坂崎さん……っ……坂崎さんっ……」
虎は繰り返し自分を犯している男の名前を呼ぶ。
「虎、君……僕も……、もうっ……!」
これ以上ないぐらいに激しくお互いの身体をぶつけ合い、そして虎はシーツの上に、坂崎は再度虎の腹の中に白い飛沫を吐き出した。
「は、ぁ……っ」
繋がったまま、ぐったりと折り重なるようにベッドに横になる。
「やっと、名前、呼んでくれたね……。イく時に『虎、君』か。なかなかいいね」
「はぁ、はぁ……。君も、僕の事、『坂崎さん』って……。名前を呼ばれたら、何だか我慢が効かなくなって……」
中に埋まったものをゆるりと抜くと、ベッドに仰向けになる。秘部からはゴボゴボと中に溢れた液体があふれ出す。
「あんた、実はいやらしいね。こんなに中に出してさぁ。妊娠したらどうするよ」
冗談でケラケラ笑いながら言う虎に、坂崎は慌てて起き上がると真剣な表情で頭を下げた。
「す、すみませんっ……。僕、つい夢中になってしまって……」
何となく想像はしていたけれど、やはり変わった反応をする男だなと虎は坂崎の事をさらに気に入った。
「男だからもちろん妊娠とかはしないけどね。別に構わないよ。俺が中に出していいって言ったんだし」
虎はんーっと大きくベッドに横たわったまま背伸びをする。
「ふぁ……。久しぶりにしたら疲れて眠くなってきたな。あんた先に出ていいよ。俺はちょっと一眠りするから。あ、延長料金とか気にしなくていいし。俺払っとくから」
虎はウリ目的でこの男に抱かれたわけではない。だから、金を貰う必要もない。
「ちょっとぐらい癒やされた? あんな店に行くよりはずっと濃厚で気持ち良かったと思うけど」
「あの……」
さて、眠るかと目蓋を閉じようと思った瞬間声をかけられて坂崎の方を見た。
「ん? どうした?」
坂崎はやはり真剣な眼差しでこちらを見てくる。
「あの、今日限り、ですか?」
「は? どういう意味?」
坂崎の言わんとする事の意味がわからない。
「また会っては……いけないですか?」
「……は?」
虎はとりあえず頭の中を整理してみる。そしてたどり着いた一つの結論を投げかけてみた。
「もしかして、気持ち良過ぎたから忘れられないとか?」
確かに童貞相手にあれは刺激が強かったかもしれない。そこまで考えていなかった。
「あの……、それもあるんですが……そうじゃなくて……」
そこでそれを認めてしまう坂崎はやはり面白い男だが、それだけではないと言うなら何だというのだろうか。
「じゃあ何?」
頭の後ろで両手を組んで坂崎を見上げる。坂崎は少し言いにくそうにしつつも、真剣な瞳を向けてくる。
「君の事を、忘れられそうに……なくて……」
「は? はぁ……」
何だか良くわからない甘い空気に、虎はようやく気がついた。
「えっと……もしかして、俺に惚れちゃった……とか?」
幾らなんでも童貞を奪われたからってその相手に惚れるような古典的な……。
しかし、坂崎はまさにその古典的な男そのものだったようだ。顔を赤らめたかと思うと小さく頷いてしまう。
「………………」
あまりに予想外な展開に虎は呆然としてしまった。
今の虎に真剣な恋愛などするつもりもないし出来るとも思えなかった。
「あの、いいんです……、どうしても付き合ってもらえないと困るとかではなくて、また君に会えればそれで……」
「あ、……えっと……」
坂崎のあまりに真剣な様子に虎は困り果ててしまう。そもそも男二人がナニを曝け出しているような状態で何故こんなやり取りを繰り広げなければならないのか。せめて服を着るかガウンを羽織るかそれをしまうかしてそんな甘い話はしたいものだ。
「……んーー。そうだなぁ……」
恋人はいらないが、遊び相手が出来たと思えばそれはそれで楽しいかもしれない。坂崎は面白い男だし、都合のいい時に会ってセックスして、楽しく過ごせるのならそれはそれで不都合もない。
「わかった。オッケー」
悩んだ末に、根負けしてそう言ってしまった。
「ほ、本当ですか……!?」
まるで乙女のように笑う坂崎に苦笑いが浮かぶ。
「でも別に、ホント、恋人になるとかそう言う重いのは無理だけど。したい時に連絡でもくれれば空いてる時に来てやるよ」
「したい時とかじゃなくて、いいんですよ。君に会えれば……」
ったく、本当に調子が狂うな。
虎は心底心の中で呟いて、けれど何だか微笑ましくて少し笑ってしまった。
「ていうかさ、俺は眠いの。ベッドの上にご丁寧に正座して座ってないでさ、話がまとまったならちょっと寝ようよ。俺ホント眠くて」
虎は欠伸交じりに言いながら、そっと目蓋を閉じる。
「は、はい……!」
坂崎はご丁寧に返事をしてから、隣に横たわってきた。
「虎君の事、抱いて眠っても……いいですか?」
耳元で囁かれる声の振動をくすぐったく感じながら、虎は坂崎の胸に身体を寄せる。
「はいはい。どーぞ。つかやっぱ、同世代の男に『虎君』ってのはちょっと、気持ち悪いかな……坂崎サン……」
虎は言いながら小さく寝息を立て始める。
「おやすみなさい」
自分の身体を抱くぬくもりと優しい男の声を聞きながら、虎の意識は暗闇へと落ちていった。
目的の店はビル街を抜けた先にある。この細い通路を抜けて、幾つか路地を突き進み、大体歩いて八分ぐらいのところだろうか。
薄暗い通路を抜けて、広めの道に出たところで不意に何かにぶつかった。
「わ」
「ぅわ……!」
自分以外の声の大きさに驚いて、声がした方を見ると何もない。ふと視界の下の方に入ったものに視線を移す。
「あいたたた……」
大の男が一人地面に転がっていた。
「は? お、おい大丈夫かよ」
そこで、先ほどぶつかったのはこの男だという事に虎は気が付いた。
大した衝撃でもなかったのにこけるなんて間抜けな奴だなと少し苦笑いが浮かんだ。
「す、すみません……えっと……」
男は体勢を持ち直すと、四つん這いのまま地面を探り始めた。
「は? ああ、もしかしてこれか?」
男の周りを見渡すと、少し離れたところに眼鏡らしきものが落ちていた。この辺りの路地は狭く、元々人気もほとんどないから良いようなものだが、もしここが大通りだったとしたら大迷惑だろう。
しかし、こんな鬱蒼とした一般人はほとんど立ち入れないようなビル街にこんな男が何のようだろうか。似るからに鈍そうなサラリーマン風の男だ。道に迷ったのだろうか。
「あ、す、すみませんありがとうございます……」
眼鏡を拾って差し出してやると、男はそれを受け取ってかける。しかし、まだ何かを探しているのか辺りを四つん這いのまま探っている。
「で、今度は何よ」
多分まだ何かを落としたのだろうと思って男を見下ろしながら問いかける。
「あの、メモなんです……、地図が載っているんですけど……そこへ行く途中で」
ああやはり迷ってこんなところまでやってきてしまったのかと虎は納得した。
同じ場所に突っ立ったまま辺りを一緒に見渡してやるが、今度は何も見当たらない。
緩く吹き付ける風に飛ばされて、もう遠くへ行ってしまったのかもしれない。
「ないなぁ、どこかに飛んじゃったんじゃないの?」
「そ、そんな……」
男は四つん這いのまま項垂れる。何だかいちいち反応が古典的な男だ。何だか見ていると少し不憫になって来る。
特に急ぐ用事もないし、ぶつかった自分にも責任があるかと、虎は男に手を差し伸べた。
「大丈夫か? 行き先の名前とか言ってもらえれば俺ここら辺は詳しいからわかるかもしれないけど?」
男は虎の手を取りゆっくりと立ち上がる。虎よりも少し身長が高い。よくよく見てもやはりサラリーマン顔だ。腰の低い気弱そうな顔立ちをしている。いい言い方で言えば、優しそうで柔らかい。眼鏡がよく似合う。
「同僚が、たまの休みだから癒やされて来いって紹介してくれたんです。この辺りは全然わからなくて迷ってしまって……」
「いや、だから名前」
そんな前置きは正直どうでもいい。とにかく案内してやろうというだけなのだから、早く店の名前を言ってもらえればいい。
「あ、僕ですか? 僕、坂崎啓一と言います」
「あ? あんたのじゃないよ。行きたい場所の。それにそろそろ手、離してくれない?」
ボケた坂崎の回答に失笑してしまう。それに、この年であまり年齢も変わらないような出会ったばかりの男と仲良しこよしで手を繋いでいるという現状も少ししらけてくる。
「はっ……、す、すみません」
坂崎はようやく気付いたのか、慌てて虎の手を離す。
どこまでも天然な男だ。
「えっと、その……『パフューム』という店なのですが……。この辺りにあるはずらしく……」
苦笑いを浮かべてそう告げてくる坂崎に、九条は意外すぎて大きく目を見開いた。
「え? あ、ああ。そういう事。まぁある意味癒やされるっちゃ癒やされるか。つか、全然方向違うんだけど。まぁ俺の店と比較的近いから送ってやろうか?」
「す、すみません。お、お願いします……!」
虎の提案に坂崎はパッと明るい笑顔を見せた。
「なんかあんたと話してると調子が狂うな」
「え? あ、はぁ」
わかっているのかわかっていないのか。良くわからない相槌を打ってくる。
「まぁいいや。ついてきなよ」
「は、はい!」
ここで長々と会話をしていても仕方がない。虎が先に歩を進めると、坂崎もそれに続いて歩いてきた。
鬱蒼としたビル街の中の幾つかの路地を抜けると、煌びやかなネオン街へと入った。
坂崎の目的の場所は、このネオン街の中にある。
「え? こっちですか? もっと静かな場所にあるかと思ったんですが……」
だからビル街の方に言ったのだとわけのわからない事を呟いている。
「こっちこっち、もうすぐ着くって」
辺りにはキャバクラやホストクラブ、風俗店などが乱立している。通りには高級そうな車が幾つも止まっていて、キャバクラの前では帰る客を見送るホステスたちが立っていたり、酔っ払いがフラフラと道のど真ん中を歩いていたりして、明るいだけではなく酷く賑やかだ。通りを行き交う人もかなり多い。
「そういえば、君の店もこの辺りに……?」
不意に坂崎が、思い出したように問いかけてくる。
「ああ。ホストクラブ」
「ホ、ホストクラブですか……」
驚いたような声を上げる坂崎だったが、恐らくこんななりをしているせいで虎がその店を経営しているだなんて微塵も思わなかっただろう。単に、ホストの一人だと思っているに違いない。
その後は特に会話もなく、いかがわしい看板が乱立している路地へと少し入ると、そこに『パフューム』と書かれた看板を見つけた。香水のビンをモチーフに店頭の看板が作られている割には少し下品な雰囲気が漂う。
「はい、到着。じゃ、俺はこれで」
ぶつかった責任はもう果たしたしと、坂崎を残してその場から立ち去ろうとしたが、不意に腕を掴まれて引き止められた。
「は? まだ何か?」
目的の場所まで連れて来てやったというのに、それ以上一体何があるというのだろうか。
「えっとここ、一体なんの店なんですか?」
「は? 見てわかるだろ? 風俗だよ風俗。しかもコスプレ風俗」
承知の上でやってきたわけではないのだろうか。それにしてもそのさも風俗ですと言わんばかりの店名とここいら一帯の地図を見せられればわかりそうなものだが。
「ふ、風俗……!?」
坂崎はいきなり顔を真っ赤に染めて大声で叫んだ。
「お、おい叫ぶなよ! 俺が勧誘してきたみたいに見えるじゃないか」
大声で言える事ではなかったが、虎は女が嫌いだった。売春宿やホストクラブのような場所で社長はしているが、あまりそう言う店は好きじゃない。どうもこういう類の店は野蛮なイメージが拭えないからだ。
「ちょ、ちょっと来い」
あまり辺りの注目を集めるのが嫌で、虎は坂崎を連れてその場所を離れた。
「何だよあんた、やっぱり何も知らずに来たのかよ。普通わかるだろ、そう言う類の店だって」
坂崎の腕を掴んだまま、急ぎ足で路地裏へと連れて行く。
「僕は癒やされて来いって言われたので、温泉施設でもあるのかと……」
「は? 何か? 『パフューム』って言う名前の温泉施設がこんな歓楽街にあると思ったのか? あんた馬鹿じゃないのか」
あまりのお惚けっぷりにそろそろ疲れてきた。
人気がないところまでやってくると、坂崎の腕を放して後ろを振り返る。
「まさか同僚がそんな店を紹介してくるなんて思わなくて……す、すみません……」
坂崎は虎の言葉におろおろしながら謝ってきた。
「いや、怒ってるんじゃなくてさぁ……」
何故こんなに調子が狂うのだろうか。坂崎はあまり普段関わりあいを持たないタイプの人間で虎もどう接していいのかわからない。
「あんたホントになんつーか、天然だよな。いいじゃん、ああいう店でもそれなりに癒やされるんじゃないの? 折角来たんだから行ってくれば?」
虎自身は行かないからなんとも言えないが、形は違えど性的な欲求を満たす事で癒やされるという事は知っている。
「もしかしてセックスした事ない? あんた三十は過ぎてるよな。もしかしてそんな事……」
虎は冗談でそう言ってみたのだが、言われた坂崎は真っ赤になって黙り込んでしまった。
「え? 図星? うわ、ごめん」
確かにそれではああいう場所に免疫がないのもわかる。それに商売相手で脱童貞というのも何だか虚しいだろう。
しかし、いちいち坂崎が見せる反応が少し新鮮で面白くなってきた。
「あそこに入る勇気ないならさ」
虎は少し考えた後に、坂崎を見て小さく笑った。
「え?」
その虎の反応の意味が坂崎にはいまいち理解出来なかったのか、少し戸惑ったような声を漏らす。
「俺についてきなよ。お勤め疲れで癒やされたいんだろ?」
虎はグッとまた坂崎の腕を掴んだ。
「えっと、あの……」
坂崎は戸惑った様子で虎に腕を引かれて歩き出す。
「癒やされるところに連れて行ってやる。あんな店よりもずっと癒やされる場所にさ」
「あ、あの……」
困惑の声を漏らす坂崎を、虎はどんどんと先へ連れて行く。
路地を幾つか抜けて、たどり着いた建物の中にずんずんと進んで行く。
「あの、ここは……」
「はいはい、お会計するから黙ってて」
虎は幾つかある部屋の写真から適当な部屋のボタンを押して、出てきた紙をこちらの顔が見えなくなっているカウンターに持って行く。
滞在時間を伝えると、幾らか告げられてその金額を支払う。引き換えに鍵をもらって、エレベーターに向かうとそこに乗り込んだ。
「あ、あの……」
坂崎はおろおろしながら弱気な声を漏らすばかりだ。エレベーターが目的の階に着いたら、フロアに降りて鍵にかかれたナンバーの部屋に向かった。
「はい、どうぞ」
その部屋の前にたどり着くと、鍵と扉を開けて坂崎の腕を引っ張り部屋の中に押し込んだ。
中はいたって普通の部屋で、大きなテレビと、カウンターテーブル、キングサイズのベッドが置かれている。ベッドの向こう側にはシャワールームと、その横にトイレへ続く扉がある。
「あの……!」
先にベッドに向かい座り込む虎に、入り口付近に突っ立ったままでいた坂崎が顔を赤くして叫びかけてきた。
「あんたでもここがどこか何となくはわかるだろ? ラブホテル」
「だから……その」
坂崎は一歩も動けずにいるのか、入り口付近で顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ラブホテルに来たらやる事は一つだけ。だろ?」
それすらもわからないほど馬鹿だとは思わない。
「……わ、わかります……。で、でも、僕たちは男同士で」
ようやくまともに喋ったかと思うと、震える声で最もな正論を述べる。
「今時珍しくもないでしょ。あ、もしかして童貞を男に捧げるのは忍びないとか」
まぁ確かにそれは可愛そうかとベッドに寝転がった。
「いえ、その。そういう事は、意中の人と……やる事ではないかと……」
「は、ははは……!」
今度は意中と来たか。どこまでも実直な男だと虎はつい笑いを漏らしてしまった。
「じゃあ、あんたが俺の事好きになればいいじゃないか。俺もあんたの事好きになるよ? それなら問題ない」
ベッドに寝転がって天井を見上げる。
昔、『DARK HELL』でよく目にしていた天井とは全く違っていて、すぐそこに天井があって手が届きそうな感覚に襲われた。あそこは高級クラブみたいなものだから、こんな安上がりなラブホテルと一緒にしては可哀想か。
「それとも俺じゃ抱けない? 三十過ぎの割には童顔で、自分では若々しいと思ってるんだけど」
「さ、三十過ぎ……!?」
入り口で突っ立ったままでいる坂崎がまた変なところに食いついてくる。
「てっきり、二十代半ばかと……」
予想外の反応を示すものだから、坂崎と会話をしているとやはり面白かった。虎はベッドから起き上がると坂崎に一番近いベッドの縁に座り込んだ。
「そりゃ、光栄だね。童顔だ童顔だとは思ってたけど、そんなに若く見られるとはやっぱり俺は童顔みたいだ」
男で童顔というのを嫌がる人間は大勢いるだろうけれど、虎はむしろそう言われる事が嬉しかった。いつまででも若々しくいられるというのは喜ばしい事だ
「あ、そんな事実を知ったらさらに欲情しないか。しくじったな」
自分の失態に気付いて、小さくため息を漏らす。
「そ、そんな。若々しくて羨ましいよ。僕なんて、三十三にもなってまだで……君みたいに経験豊富な人を羨ましいと思っているんだ」
坂崎は何故だか今度はガクリと肩を落としてしまった。コロコロといちいち反応が変わる男だ。
「経験豊富だなんていうのは、俺を見てのイメージ? 見た目で人を判断するものじゃない。もしそうじゃなかったら俺傷つくよ?」
わざと肩を落としてそう言うと、坂崎は今度は慌て出した。
「す、すみません……! そ、そんなつもりは……」
虎はゆっくりと立ち上がり、坂崎のところまで歩んで行く。
目の前に立つと、グッと腕を引いてベッドにその身体を投げ込んだ。
「ぅわ……!!」
坂崎の足がベッドの縁に引っかかり、前倒しにベッドに埋もれる。
「羨ましいと思うなら、あんたもそうなればいい。怖くなんてない。快楽を知れば恐怖心なんてなくなる」
坂崎は、身体を仰向けにして肘を立てると、枕の方に後ずさった。
「でも、僕は……」
「ほら、黙って」
虎もベッドに身体を預けると、坂崎に覆いかぶさる。緩く唇を奪うと、坂崎は凍りついてしまった。
「ちょ……っ……」
坂崎の身体を溶かすように柔らかく唇を舌でなぞる。けれど、坂崎の身体は固まってしまったままだ。激しい緊張からか全身が強張ってしまっている。
「じゃあさ、あんたが好きなようにしてみなよ。俺はそれを甘んじて受ける。だったら何も、嫌な事はないだろう?」
「え、あ……」
坂崎は少しの間呆然としていたが、上から退いて目の前に座り待っていた虎の腕をゆるゆると取った。
するりと腕を滑った坂崎の指が、虎の掌を取るとそっとそこに口づけてきた。
「くすぐったいなぁ」
ちゅっと手の甲に口づけられる。そっとこちらを見た坂崎の顔はそれはもう真っ赤で、見ている虎の方が恥ずかしくなりそうだった。
「あんた可愛いな」
今時こんな反応をする奴なんて珍しい。小学生だって金のために平然と身体を売るような時代だ。天然記念物にも等しい。
「な……何を……。僕は、男ですよ……」
クスクスと笑いを漏らす虎に、坂崎はまた顔を真っ赤にしてしまった。
「で、次はどうしたい? なぁ、してみなよ」
そんな坂崎に次の行動を促す。すると、今度は弱々しい力で、虎の顎に手を当てる。ゆるりと上向かされると、軽く坂崎の唇が虎の唇に触れた。
「……ん、……舌、入れてみなよ……」
何度か軽くだけ押し当てる坂崎に焦がれて、そう言うと、少し戸惑った後でまた唇を押し当ててきた。
リクエストした通りに、戸惑いつつも舌先が唇の隙間に差し込まれる。薄く歯に隙間を作ると、その間を縫って口腔内にザラリとした舌が差し込まれる。
入ってきたものの、それだけで戸惑っている舌に自分の舌を絡ませると、大きめに唇を開き坂崎の唇に吸い付いた。
「……んっ……」
「はっ……」
くちゅくちゅと音を立てて、坂崎の舌を吸う。慣れない動きにまさかキスも初めてなんて事はないよなと小さな疑惑が生まれた。
溢れそうになる唾液をゴクリゴクリと何度か飲み干して、ゆっくりと唇を離した。わざと舌先を口の外に出したまま、坂崎との唇の間に銀色の糸を作る。
「は、はぁ……」
坂崎は赤い顔をして、ぼんやりとしている。
「ディープキスぐらいで、だらしないな」
真っ白なものを汚すのは楽しいが、真っ白過ぎるのも考え物だ。上手く先に進まない。
「す、すみません……」
虎の言葉に坂崎は我に返って、片手で軽く頭を抱える。
「いや、そんなに悲壮にならなくても」
いちいち大げさな反応にもそろそろ慣れてきて、今度は服を脱がせるように促した。
「一応このスーツ、うん十万はするから丁寧に脱がしてくれよ」
「あ、は、はい……」
緊張気味に坂崎がスーツのボタンに手をかける。一つ一つ外していって、全部外し終えるとゆっくりと虎からジャケットを奪いベッド横のカウンターに置いた。
「今度はシャツな」
「は、はい」
虎の言葉通りに動くロボットのように坂崎は従順に真っ白なシャツのボタン一つ一つに手をかけていく。
上から一つ一つ外して行き、胸の辺りまで来たところで坂崎の手の動きが止まった。
「これ……」
「ん?」
坂崎は虎の胸を凝視したまま固まっている。
「ああ、これ」
目線の先には龍の刺青がある。刺青を見たのも初めてとかいうのだろうか。
「今時ファッションの一部だろ?」
呆然としている坂崎からシャツを奪い返し、プツリプツリとボタンを外していく。すべてのボタンを外した後で、シャツをカウンターの上に置くと坂崎に背中を向けた。
「こんなもの、そんなに珍しいものじゃない」
虎の背には、その名と同じ『虎』の刺青。背中を覆いつくすほどに大きく勇ましい獣の姿がそこに描かれていた。
「そ、それは…………」
上半身裸のまま、坂崎に向かい直る。坂崎は唖然としていて、少し苦笑いが浮かぶ。
「ああもしかして」
「そんな、駄目ですよ! 親からもらった大切な身体にそんな……」
想像通りの言葉にまた虎は苦笑いを浮かべた。
「言うと思った」
どこぞの保護者みたいな台詞だ。
「若気の至りですか? 勢いで入れてしまって後悔してるとか……」
お決まりの台詞に小さくため息をつく。
「若気の至りっていうか、まぁ成り行きっていうか。別に後悔はしてないし」
自分から進んで入れたわけではなかったが、これはこれでそれなりに気に入っている。
というか、何故こんな説明をしなければならないのかと虎は小首を傾げた。
「あれ? もしかしてこれで萎えた?」
「い、いえ……そんな事は……」
ゆるゆると首を振る坂崎に虎は小さく笑いを漏らす。
「素直でよろしい。じゃあ、続き、しようよ」
「あ、えっと……」
自分が恥ずかしい事を言ってしまった事に気がついて、坂崎がまた真っ赤になる。
虎は坂崎の手を取ると、そっと自分の股間に触れさせた。
「ちょっ……」
「ここ触るの、抵抗ある……? じゃあさ、俺が見本を見せてあげるよ」
そう言うと、虎は坂崎の股間に手を当てて、ベルトを外しにかかった。
「あの……」
「し、黙って」
人差し指を立て、坂崎の唇に押し当てる。すると、坂崎は素直にそれに従う。
カチャカチャと音を鳴らしてベルトを外すと、すべて取り去りカウンターへ放り投げる。ファスナーを下ろしきると、露わになった下着の上から膨らみを手で包み込む。
「……っ……」
坂崎が息を詰めるのがわかる。
「人に触られるのは初めてだよね」
「あ、ああ……」
虎は身を屈めて、下着の中から坂崎のものを引きずり出す。
「ちょっ……何を……」
「触るだけだよ」
股間の間で揺れるそれにそっと両手を重ねる。丹念に柔らかい肉を上下に扱くと、すぐに硬さを増してきた。柔らかかったものが、木の幹のように太く逞しく成長していく。
「立派だね。しかもあまり触られていないせいか色も綺麗だし。使わないなんて勿体無い」
「……っ……」
坂崎は羞恥からか言葉すら発せられなくなっていた。
虎はそのまま軽く被った皮を下に引きずり下ろして亀頭を露わにさせる。ぬろぬろとほんのり湿って光っている。
掌に唾液を垂らし、ほんのり濡らしてからその幹を緩く扱いていく。
「くっ……」
淡い反応にも坂崎が敏感に反応する。
「ここも気持ちいいんだ。知ってる?」
硬く立ち上がった部分を扱きながら、根元にある柔らかい二つの塊にも手をかける。軽くもみしだくとさらに坂崎の身体がビクリビクリと震えた。
少しの間そこを弄んでからそっと手を離す。
「はぁ、……はぁ……」
坂崎が上ずった吐息を漏らす。弄んだものの先端からは、透明で粘ついた液体が漏れていた。指先でそれをすくい上げると、トロッと伸びて糸が出来た。
「これを俺にもしてくれる? さっき気持ち良かった事を俺にもしてくれればいい」
「わ、わかった……」
坂崎と場所を入れ替わり、枕を頭にベッドに横たわった。膝を立てると足を大きく開く。そこに坂崎が身を埋め、ズボンのベルトを外し自分がされたようにファスナーを下ろして前を開く。
「俺のは全部脱がしてくれる?」
そう言うと、坂崎はズボンをすべて脱がしてまたそれもカウンターの洋服の山に重ねた。
虎の下着の前に、坂崎がまた身体を埋めてくる。下着を下に降ろして、中から自身を出されると、すでに軽く立ち上がりかけていた。
「あんたのしててちょっと興奮したんだ。早く扱いてよ」
下着も取り去られると、熱く膨れ上がった中心に緊張のためか汗に濡れた掌が触れてくる。
緩く少しずつ、上下に扱かれてどんどん硬さを増してくる。
「……っ……そう、そんな感じ」
少したどたどしい動きではあったが、しっかりと快楽は滲み出している。
坂崎は、虎がやったのを真似るように、硬い幹を扱きながら根元の二つの塊も緩く揉みしだいてくる。じんわりとそこが疼いて気持ちがいい。
「気持ち、いいのかい……?」
坂崎の目が心配そうに問いかけてくる。だから見下ろして、虎は小さく笑ってやった。
「ああ、いいよ。先も触ってよ」
「わ、わかった……」
むき出しになった亀頭に、坂崎の指先が触れる。
「んっ……」
ピリリと甘い刺激が小さく全身を駆け抜ける。
「わ、すまない……っ……」
「は? 何謝ってんの? いいんだよ、それで」
坂崎には虎の反応の意味もわからないらしい。
恐る恐るという感じで手の動きを続ける。
「ん、サンキュー。もういいよ。ちょっと寝転がってくれる?」
坂崎に股間から手を引かせると、ゆっくり身体を起こしてスペースを明け渡す。
「あ、ああ……」
意味もわからない様子で、坂崎はそこに寝転がる。
「ちょっと滑り、良くするためだから楽にしてて」
「え、あ、ちょっ……」
先ほどの坂崎のように虎が股間に身体をねじ込んできたのまでは良かったが、そこから顔を埋めてきた事に坂崎は慌てる。
両手で掴んだ太い幹の先端を、虎は口の中に挿し込んだ。
「う、あっ!」
舌先の強い刺激に坂崎が大きな声を上げる。虎は構わずにそれを根元深くまでくわえ込んだ。
喉仏に先端が触れて、軽い吐き気がする。けれど、実際に戻す事はない。むしろそこに先端が触れる感触さえ快楽になる。
根元から少しずつ、多めに唾液を垂らしながらそこを丹念に濡らしていく。舌を使って一緒に舐め上げながら先端までたどり着くと窪みの部分に軽く舌を埋めて中からあふれ出す液体を舐め取った。
「先走り出てるね。気持ちいい? まだイっちゃ駄目だよ」
「何を……っ……」
虎が坂崎の身体を跨ぐ。腹の辺りまで来ると、後ろ手に坂崎の硬く立ち上がったものに手を沿わせた。
「騎乗位。嫌いかなぁ」
にっこり笑ってそういうと、自分の尻の丘にそれをグッとねじ込んだ。
「んっ……君っ……!」
「ん~っ……ちょっと久しぶりだからなぁ」
そう言いながらも、虎の身体にはやすやすと硬く昂ぶったものが埋まっていく。秘部の入り口が突き刺さる幹の大きさに合わせ拡張してそこをきつくくわえ込む。
「あ……っ……くっ……」
自分自身を襲う激しい刺激にか、坂崎が切羽詰まった声を漏らす。
「きついでしょ。初めてだからわかんないかもしれないけど、女なんか目じゃないよ。男の方が女より締まりが良くて堪んないんだ」
虎は顔色も変えずズズズッと坂崎のものを身体の中に埋めて行く。
「……くっ……ひっ……」
坂崎はただ精一杯という感じで、自分を襲う感覚に耐えているようだった。
「ね、それに俺さ、君じゃなくて『虎』って言うんだ。呼んでみてよ、虎ってさ」
グッと最後の最後、根元までぎっちりと坂崎をくわえ込むとそこにぺたりと肌を合わせ座り込んだ。
「はぁ……はぁ……」
坂崎は真っ赤な顔をして身体をビクビクと震わせている。
これでは一体どちらが攻めているのかわからない。
「ね、呼んでくれない?」
ちゅ、と、身体を前に倒して深く根元まで繋がったまま坂崎の首に両手を回し抱きつき口づけをする。
「ん……ん」
だらしなく薄く開いた坂崎の唇に舌を刺し込みゆるゆると中で縮こまっていた舌に絡ませると、少しずつあちらからも反応を返してきた。
「は……」
唇を離すと、また坂崎の上に座り直す。
「動かしてよ。俺の腰、持ってさ」
「待って……くれない……かな。今動かしたら、どうにかなりそう、なんだ……」
坂崎が気弱な事を言う。
「やっぱり俺が見本を見せないと。ほらこうやって」
「……くぅっ……」
ゆるりと腰を持ち上げると、慌てたように坂崎が腰を押さえつけてきた。
「んっ……何? 埋まってる方が好きなわけ?」
「そうじゃ、なくて……っ」
余裕がない様子で浅く息を吐きながら、必死で虎の腰の動きを抑える。
「ゆっくりでいいから、持ち上げて」
恐る恐るという感じで、押さえつけた腰をゆっくりと持ち上げる。
「くっ……」
「そうそう、その調子」
本当に少しずつだったが、虎の腰が上がって行く。
はぁはぁと息を漏らしながら、坂崎は真っ赤な顔をしてビクビクと震え快楽に耐えている。
腰を掴む手の力が強い。掌が汗ばんでいてじっとりと虎の皮膚を濡らす。
じっくりとした動きで、ようやく先端付近までたどり着く。
「じゃあ今度は俺が腰を下ろすよ。楽にしてて」
小さく笑いながら、虎は長い時間をかけて先端まで抜かれたモノを今度は一気に根元までくわえ込んだ。
「あ! ……くぅっ……!」
坂崎が一層大きな声を漏らす。
「なぁ、良かったでしょ? 気持ちよくてわけわかんない?」
ククッと笑うと、虎は坂崎の上でゆるりと勝手に動き出した。
「え、あ……っ……ちょっと、待っ……くぅっ……」
「あんただけじゃなくてさ、俺も気持ちよくなりたいんだよ……っ……。じれったくてさぁ」
正直こんな弱い刺激だけでは虎には物足りない。
坂崎の腹に両手を添えて、腰を上下に激しく動かし始めた。
「くっ……あ……っ……ん、せめて、これぐらいじゃないと……ねぇっ……」
「あ……っ……待っ……、僕っ……もう……っ……」
激しい動きにさらに坂崎は切羽詰まった声を出した。身体がビクビクと小刻みに震えている。
「イきたい? いいよ、先にイって。中に出していいしさ……んっ」
「な、か……くっ……うぅっ!」
そう言った矢先に、坂崎が全身を大きく震わせて虎の中で熱い液体を放つ。ゴボゴボと中で溢れるものの感覚に腹が満たされていく。
「ん……っ……多いね」
何度か坂崎の身体がビクついてから、その身体がぐったりとベッドに崩れ落ちる。
「まだ早いよ。俺の事、イかしてくれないと」
そう言うと、虎はまた坂崎の上で動き始める。少し萎えかけた坂崎のものがまた硬さを増してくる。
「待って……くれって……くっ……」
中に吐き出された液体が太い幹に掻き混ぜられてグチュグチュと音を立てて響く。
「ん、ね……いい音。卑猥でさ、堪らないよ」
上下に腰を律動させて、その卑猥な音を楽しむ。
身体に埋まったものがまたピクリと震え始めたのを感じて、虎はいきなりそれを身体から抜き去ってしまった。
「な、にっ……」
坂崎は驚いて慌てて上から退こうとする虎の肩を掴み引き止める。
「わかってるって。そろそろ騎乗位にも飽きてきたんだ。今度はあんたが主導でやってよ」
ね、と小さく笑って坂崎の唇を奪う。
「どんな体位がいいかな?」
俯いて考え込んでいると、坂崎が咄嗟に虎の身体を抱きこんだ。
「もうちょっと、キス、させてくれないか?」
おどおどとしながらも、初めて意思らしきものを示す坂崎に虎は頼もしくなった。
「いいよ、ほら」
そっと抱き込まれた身体を離して、坂崎の行動を待つ。
ちゅっと唇を何度か吸われて、今度は深く舌を使って口腔を嬲られる。
「ん……っ……」
教育した甲斐があったのか、最初とは比べ物にならないぐらいに濃密な口づけだった。
「はっ……」
唇が離れてから、坂崎はゆるりと耳元に唇を寄せてきた。
「後ろから、してもいいかな……」
「バック? いいね。俺の事、好きに動かしてみなよ」
坂崎がしたいようにさせるために、そう指示して自分からは動かず動かされるのを待った。
ベッドの頭元に四つん這いになるような形をとらされると、ゆっくりとした動きで双丘を割って坂崎のモノが液で濡れた秘部に侵入してきた。
中はベトベトしていて簡単に坂崎のモノを絡め取っていく。
グググッと硬いものが先へと押し込まれていく。
「好きに、あんたが気持ちいいようにしてみなよ」
大きく足を左右に開いて、しっかりとそれを受け入れる体勢になる。
グッと根元まで押し込まれたものが、今度は抜かれていき、先端まで到達したところでまたグッと押し込まれる。
「ん……っ……そう、……上手いよ……」
最初はゆっくりだった動きが少しずつ激しくなり、また腰を掴んだ坂崎の掌が汗ばんできた。
「あっ……いい、……ですかっ……」
「ん、……いいから、……もっと、激しくして」
好きなように動けばいいと助言すると、坂崎はさらに激しい動きでそこを突き上げてくる。濡れた音が耳に心地いい。腹の奥を突き上げる塊に身体が震える。
「……あ、……ぅんっ……いいよ……っ……もっと……!」
「……くっ……あ、……くぅ……!」
パンパンと肌が触れるたびに乾いた音が響く。獣のようなセックスに、快楽が身体中を駆け巡る。背筋にビリビリと激しい電流が駆け巡っていった。
「あ……っ……は……っ! もう、イく……っ……。ね、坂崎さん……っ……坂崎さんっ……」
虎は繰り返し自分を犯している男の名前を呼ぶ。
「虎、君……僕も……、もうっ……!」
これ以上ないぐらいに激しくお互いの身体をぶつけ合い、そして虎はシーツの上に、坂崎は再度虎の腹の中に白い飛沫を吐き出した。
「は、ぁ……っ」
繋がったまま、ぐったりと折り重なるようにベッドに横になる。
「やっと、名前、呼んでくれたね……。イく時に『虎、君』か。なかなかいいね」
「はぁ、はぁ……。君も、僕の事、『坂崎さん』って……。名前を呼ばれたら、何だか我慢が効かなくなって……」
中に埋まったものをゆるりと抜くと、ベッドに仰向けになる。秘部からはゴボゴボと中に溢れた液体があふれ出す。
「あんた、実はいやらしいね。こんなに中に出してさぁ。妊娠したらどうするよ」
冗談でケラケラ笑いながら言う虎に、坂崎は慌てて起き上がると真剣な表情で頭を下げた。
「す、すみませんっ……。僕、つい夢中になってしまって……」
何となく想像はしていたけれど、やはり変わった反応をする男だなと虎は坂崎の事をさらに気に入った。
「男だからもちろん妊娠とかはしないけどね。別に構わないよ。俺が中に出していいって言ったんだし」
虎はんーっと大きくベッドに横たわったまま背伸びをする。
「ふぁ……。久しぶりにしたら疲れて眠くなってきたな。あんた先に出ていいよ。俺はちょっと一眠りするから。あ、延長料金とか気にしなくていいし。俺払っとくから」
虎はウリ目的でこの男に抱かれたわけではない。だから、金を貰う必要もない。
「ちょっとぐらい癒やされた? あんな店に行くよりはずっと濃厚で気持ち良かったと思うけど」
「あの……」
さて、眠るかと目蓋を閉じようと思った瞬間声をかけられて坂崎の方を見た。
「ん? どうした?」
坂崎はやはり真剣な眼差しでこちらを見てくる。
「あの、今日限り、ですか?」
「は? どういう意味?」
坂崎の言わんとする事の意味がわからない。
「また会っては……いけないですか?」
「……は?」
虎はとりあえず頭の中を整理してみる。そしてたどり着いた一つの結論を投げかけてみた。
「もしかして、気持ち良過ぎたから忘れられないとか?」
確かに童貞相手にあれは刺激が強かったかもしれない。そこまで考えていなかった。
「あの……、それもあるんですが……そうじゃなくて……」
そこでそれを認めてしまう坂崎はやはり面白い男だが、それだけではないと言うなら何だというのだろうか。
「じゃあ何?」
頭の後ろで両手を組んで坂崎を見上げる。坂崎は少し言いにくそうにしつつも、真剣な瞳を向けてくる。
「君の事を、忘れられそうに……なくて……」
「は? はぁ……」
何だか良くわからない甘い空気に、虎はようやく気がついた。
「えっと……もしかして、俺に惚れちゃった……とか?」
幾らなんでも童貞を奪われたからってその相手に惚れるような古典的な……。
しかし、坂崎はまさにその古典的な男そのものだったようだ。顔を赤らめたかと思うと小さく頷いてしまう。
「………………」
あまりに予想外な展開に虎は呆然としてしまった。
今の虎に真剣な恋愛などするつもりもないし出来るとも思えなかった。
「あの、いいんです……、どうしても付き合ってもらえないと困るとかではなくて、また君に会えればそれで……」
「あ、……えっと……」
坂崎のあまりに真剣な様子に虎は困り果ててしまう。そもそも男二人がナニを曝け出しているような状態で何故こんなやり取りを繰り広げなければならないのか。せめて服を着るかガウンを羽織るかそれをしまうかしてそんな甘い話はしたいものだ。
「……んーー。そうだなぁ……」
恋人はいらないが、遊び相手が出来たと思えばそれはそれで楽しいかもしれない。坂崎は面白い男だし、都合のいい時に会ってセックスして、楽しく過ごせるのならそれはそれで不都合もない。
「わかった。オッケー」
悩んだ末に、根負けしてそう言ってしまった。
「ほ、本当ですか……!?」
まるで乙女のように笑う坂崎に苦笑いが浮かぶ。
「でも別に、ホント、恋人になるとかそう言う重いのは無理だけど。したい時に連絡でもくれれば空いてる時に来てやるよ」
「したい時とかじゃなくて、いいんですよ。君に会えれば……」
ったく、本当に調子が狂うな。
虎は心底心の中で呟いて、けれど何だか微笑ましくて少し笑ってしまった。
「ていうかさ、俺は眠いの。ベッドの上にご丁寧に正座して座ってないでさ、話がまとまったならちょっと寝ようよ。俺ホント眠くて」
虎は欠伸交じりに言いながら、そっと目蓋を閉じる。
「は、はい……!」
坂崎はご丁寧に返事をしてから、隣に横たわってきた。
「虎君の事、抱いて眠っても……いいですか?」
耳元で囁かれる声の振動をくすぐったく感じながら、虎は坂崎の胸に身体を寄せる。
「はいはい。どーぞ。つかやっぱ、同世代の男に『虎君』ってのはちょっと、気持ち悪いかな……坂崎サン……」
虎は言いながら小さく寝息を立て始める。
「おやすみなさい」
自分の身体を抱くぬくもりと優しい男の声を聞きながら、虎の意識は暗闇へと落ちていった。
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