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第42話
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「おおっ、嫁さんとの密談は終わったのか?」
「密談なんてしてませんよ、ヘイワード警部補」
宴席はダンスタイムとなっていて何故かワルツが流れている。タタミの上でソシアルダンスはかなりの違和感だったが、心得のある女性陣が男性陣をリードするという奇妙に真面目な空気が漂っていた。
マイナスポイントを気にしてミニスカートを見て見ぬフリしながらシドは訊く。
「ヘイワード警部補は踊らないんですか?」
「俺がそんなもの、カケラだって知っているとでも思うのか?」
「リードして貰えばいいじゃないですか。壁の花ならぬ壁のシミは勿体ないですよ」
「そういうシド、あんたはどうなんだ?」
「ワルツとタンゴくらいなら何とか」
別室任務で否応なく覚えさせられたのだ。だが意外な返事にヘイワード警部補は仰け反る。
「本当か? じゃあ、あんたの踊りを見てから俺も踊るか」
「何なんですか、それは」
「お前さんたちは隠し芸をまだ見せてないだろうが」
「そういう強要は宜しくないですよ」
文句を言ったが遅かった。地獄耳の刑事と腐女子が騒ぎ始め、「シド!」と「ハイファス!」コールが掛かる。戻ってきたハイファが何事かと目を瞠った。コールは止まない。
「踊れってよ。でもお前、酔ってるだろ?」
「踊るくらいは平気だよ。リードしてくれるならね」
「仕方ねぇな、やるか」
「えっ、本当に?」
それこそ驚いたような顔をしたハイファに、シドは手を差し出した。
大歓声の中で二人は立ち上がる。ハイファが髪留めを外してにっこり笑った。ゆったりとしたワルツから急に変わって掛かった曲は『Bem,Bem,Maria』、ルンバ・フラメンカの名曲である。構わず二人はラテンの曲に乗って即興で踊り出す。
両手を繋いで肩と腰でリズムを刻み、ステップを踏んで片手を離すとシドは細い腰を抱き寄せた。胸に寄り添い喉を仰け反らせたハイファの異様な色気に皆が口を開けて見つめる。
片手を高く上げてくるくるとターンするハイファにシドは優しく囁く。
「酔いが回るぞ」
「大丈夫ですよーだ、超優秀な介護者がついてるもん」
「酔うの前提かよ」
何度も交互に手を繋いでは離し、頬が触れ合うほどに寄り添い合ってはシドは薄い背を抱き締めた。軽快なラテンの曲に合わせて、ときに背中合わせに立ち、ときに手をタッチさせては腕と脚を絡めてポーズを決める。長いハイファの髪が舞い揺れた。
「くそう、誰にも見せたくなかったのによ」
「いいじゃない、今だけ……貴方、本当に上手いよね」
「自慢じゃねぇが、ガチの出来事に対しては強いんだ」
ステップの合間にキスしたいのを互いに堪え腕をくぐらせたハイファと束の間シドは見つめ合う。本当に誰にも見せたくなかった、自分だけの――。
たった三分ほどの曲のラストはやはりお約束でシドは取った片手を高く掲げ、ハイファの腰を支えて思い切り仰け反らせた。
数秒ポーズを決めてから、シドはハイファを支え起こす。
曲が終わっても数秒間、静けさが漂っていた。その間にハイファは何処の貴族かというような優雅な礼を取り、シドはさっさと自分の席に戻って一杯やり始める。
一瞬後、割れんばかりの拍手喝采が湧き起こった。
「俺、今すごいモノを見たっスよ!」
「あんなワカミヤ巡査部長、超レアよ、ラッキィだったわ!」
「あたしも参加してよかった! 何て素敵な二人なの!」
「すっごい……涙が出ちゃったわ、わたし!」
「どんだけ色っぽいんだ、ハイファス……」
「ボスとハイファス、まるでハンドキャノンと四十五口径ACP弾のようですね~」
「これを見られただけでも、参加した甲斐があったんじゃないでしょうか」
口々に褒めそやし、驚愕を露わにする同僚たちにも、シドは我関せずと飲み続ける。その前には腐女子軍団が銚子やボトルを手にして並び、隣に着地したハイファには何故か男性陣が列を成して酌をし始めた。飲んでも飲んでも次が注がれる。
ヴィンティス課長にまで酌をされて断れず、お蔭で再びハイファの目が据わった。
やがてゴーダ警部が腹踊りを始めてまたも場は修羅場へと突入する。いつの間にかニホンシュとビールから皆のグラスはカクテルに変わっており、その中身もどんどん得体の知れない液体に変化していた。
ジントニックを飲みながらシドは妙に行儀よく座っているハイファを窺う。置いたグラスを取って何気なくひとくち飲むと、水割りかウーロンハイだと思っていた液体はアーモンドの匂いとブランデーの味がして、フレンチコネクションなんぞ飲んでいることを知った。
「お前ハイファ、大丈夫かよ?」
「貴方こそアルコールは傷に悪いよ、まだ貧血もあるだろうし」
レスポンスがしっかりしているのでやや安心し貴重な残存兵で結成された『バーラウンジに突撃隊』に参加表明をする。シドが行くとなれば当然ハイファも参加だ。
奇しくも本日の献血・輸血メンバーが集まりプラスしてメイベルちゃんとゴーダ警部が名乗りを上げる。七名のつわものと一匹はバーラウンジのカウンターに場を変えた。
「密談なんてしてませんよ、ヘイワード警部補」
宴席はダンスタイムとなっていて何故かワルツが流れている。タタミの上でソシアルダンスはかなりの違和感だったが、心得のある女性陣が男性陣をリードするという奇妙に真面目な空気が漂っていた。
マイナスポイントを気にしてミニスカートを見て見ぬフリしながらシドは訊く。
「ヘイワード警部補は踊らないんですか?」
「俺がそんなもの、カケラだって知っているとでも思うのか?」
「リードして貰えばいいじゃないですか。壁の花ならぬ壁のシミは勿体ないですよ」
「そういうシド、あんたはどうなんだ?」
「ワルツとタンゴくらいなら何とか」
別室任務で否応なく覚えさせられたのだ。だが意外な返事にヘイワード警部補は仰け反る。
「本当か? じゃあ、あんたの踊りを見てから俺も踊るか」
「何なんですか、それは」
「お前さんたちは隠し芸をまだ見せてないだろうが」
「そういう強要は宜しくないですよ」
文句を言ったが遅かった。地獄耳の刑事と腐女子が騒ぎ始め、「シド!」と「ハイファス!」コールが掛かる。戻ってきたハイファが何事かと目を瞠った。コールは止まない。
「踊れってよ。でもお前、酔ってるだろ?」
「踊るくらいは平気だよ。リードしてくれるならね」
「仕方ねぇな、やるか」
「えっ、本当に?」
それこそ驚いたような顔をしたハイファに、シドは手を差し出した。
大歓声の中で二人は立ち上がる。ハイファが髪留めを外してにっこり笑った。ゆったりとしたワルツから急に変わって掛かった曲は『Bem,Bem,Maria』、ルンバ・フラメンカの名曲である。構わず二人はラテンの曲に乗って即興で踊り出す。
両手を繋いで肩と腰でリズムを刻み、ステップを踏んで片手を離すとシドは細い腰を抱き寄せた。胸に寄り添い喉を仰け反らせたハイファの異様な色気に皆が口を開けて見つめる。
片手を高く上げてくるくるとターンするハイファにシドは優しく囁く。
「酔いが回るぞ」
「大丈夫ですよーだ、超優秀な介護者がついてるもん」
「酔うの前提かよ」
何度も交互に手を繋いでは離し、頬が触れ合うほどに寄り添い合ってはシドは薄い背を抱き締めた。軽快なラテンの曲に合わせて、ときに背中合わせに立ち、ときに手をタッチさせては腕と脚を絡めてポーズを決める。長いハイファの髪が舞い揺れた。
「くそう、誰にも見せたくなかったのによ」
「いいじゃない、今だけ……貴方、本当に上手いよね」
「自慢じゃねぇが、ガチの出来事に対しては強いんだ」
ステップの合間にキスしたいのを互いに堪え腕をくぐらせたハイファと束の間シドは見つめ合う。本当に誰にも見せたくなかった、自分だけの――。
たった三分ほどの曲のラストはやはりお約束でシドは取った片手を高く掲げ、ハイファの腰を支えて思い切り仰け反らせた。
数秒ポーズを決めてから、シドはハイファを支え起こす。
曲が終わっても数秒間、静けさが漂っていた。その間にハイファは何処の貴族かというような優雅な礼を取り、シドはさっさと自分の席に戻って一杯やり始める。
一瞬後、割れんばかりの拍手喝采が湧き起こった。
「俺、今すごいモノを見たっスよ!」
「あんなワカミヤ巡査部長、超レアよ、ラッキィだったわ!」
「あたしも参加してよかった! 何て素敵な二人なの!」
「すっごい……涙が出ちゃったわ、わたし!」
「どんだけ色っぽいんだ、ハイファス……」
「ボスとハイファス、まるでハンドキャノンと四十五口径ACP弾のようですね~」
「これを見られただけでも、参加した甲斐があったんじゃないでしょうか」
口々に褒めそやし、驚愕を露わにする同僚たちにも、シドは我関せずと飲み続ける。その前には腐女子軍団が銚子やボトルを手にして並び、隣に着地したハイファには何故か男性陣が列を成して酌をし始めた。飲んでも飲んでも次が注がれる。
ヴィンティス課長にまで酌をされて断れず、お蔭で再びハイファの目が据わった。
やがてゴーダ警部が腹踊りを始めてまたも場は修羅場へと突入する。いつの間にかニホンシュとビールから皆のグラスはカクテルに変わっており、その中身もどんどん得体の知れない液体に変化していた。
ジントニックを飲みながらシドは妙に行儀よく座っているハイファを窺う。置いたグラスを取って何気なくひとくち飲むと、水割りかウーロンハイだと思っていた液体はアーモンドの匂いとブランデーの味がして、フレンチコネクションなんぞ飲んでいることを知った。
「お前ハイファ、大丈夫かよ?」
「貴方こそアルコールは傷に悪いよ、まだ貧血もあるだろうし」
レスポンスがしっかりしているのでやや安心し貴重な残存兵で結成された『バーラウンジに突撃隊』に参加表明をする。シドが行くとなれば当然ハイファも参加だ。
奇しくも本日の献血・輸血メンバーが集まりプラスしてメイベルちゃんとゴーダ警部が名乗りを上げる。七名のつわものと一匹はバーラウンジのカウンターに場を変えた。
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