YAMASAKIは今日も××だった~楽園16~

志賀雅基

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第41話

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 電力はちゃんと供給されたようでテュールの浮島都市は墜ちなかった。

 何事も変わりがないように思える中、ヨーゼフ=シャハト行政長がホテルまで出向いてきてヴィンティス課長に丁寧な礼を述べた。
 宿泊費その他一切をタダにした上に何の気まぐれか鉱山の利権までくれると言い出したらしかったが、ヴィンティス課長は後者を断り、このユミル星系第二惑星マーニの宝はマーニの人たちのために使って欲しいと言ったという。

 そんな話をシドとハイファはその晩の宴席で警務課の女性陣から聞いた。

「へえ、それじゃあ次期の『七分署・抱かれたい上司ランキング』でヴィンティス課長が上位に食い込むことは間違いないっスね」
「そんなモンまであるのかよ? 腐女子軍団恐るべしだな」

 宴会はもう飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎになっていて、当のヴィンティス課長は真っ赤な顔で舟を漕いでいる。そのうちに膳で囲んだ真ん中で、警務課の綺麗どころが流行りのアイドルグループを真似て歌い踊り出し、私服のミニスカートに男性陣の目が釘付けとなった。

 当然ながらシドも至福のひとときを過ごしたが、警戒したハイファからのクレームは付かなかった。どうしたのかと隣を見ると、銚子を四本転がしたハイファは目が据わった状態で、それでもマリカ=ポインターと銃談義に花を咲かせている。

 タマは女性陣にしこたま揉まれ、座布団の上でクッタリと伸びていた。

 そこにケヴィン警部とヘイワード警部補がビールのボトルを手にやってきて、午後に再開された歓楽エリアのカジノにおけるシドのミラクルについて語り始める。

「あれでイカサマなしとは、さすがにイヴェントストライカは違うな」
「全くだ。イヴェントストライカの旦那はあれで食っていけるぞ」

 食って余る財産をこさえているのに、天職の刑事も辞めないのでこのざまだ。
 ビールを注がれ、博打必勝法の伝授を迫られたがシドに答えられることはない。

「博打みたいな人生、交換できるものならして欲しいくらいですよ」
「面白くないな、シド。これで酔いもしないんだからな、この男は」
「存在自体が面白すぎるから、仕方がないんじゃありませんか?」

 マイヤー警部補が涼しげに笑う背後では、目を覚ました課長とゴーダ警部が大浴場からやってきた浴衣姿のままで大笑いしながら小皿を使った言葉通りの『隠し芸』を始めていて、宴席は一気に修羅場の兆候を見せ始める。

「せっかく上がった株を自ら落とすなんて、課長もタダ者じゃないっスね」

 そういうヤマサキはナカムラと共に引っ張り出され、芸を見せろと言われて歌を歌いながらのチークダンスだ。これが酷い音痴で皆が悶え苦しんだ。

 以前の合コンで間違ってメイベルちゃんをパフパフしてしまったヨシノ警部は話をミュリアルちゃんに蒸し返され、座敷の隅で膝を抱えてスルメを噛み締めている。

 そこで幹事のマイヤー警部補が立ち上がると、ミュリアルちゃんに何やら耳打ちを始めた。
 ご機嫌を取られてミュリアルちゃんはヨシノ警部に近づくと手を差し出す。勢いその手首を掴んだヨシノ警部はポケットから出したリングをミュリアルちゃんの左薬指に嵌めた。

「ミュリアル、結婚してくれ!」

 今や皆が固唾を呑んで二人を注視している。衆目の中で漢ヨシノ警部は宣言した。

「皆の前で誓う。一生をお前だけに捧げる。だから俺と一緒になってくれ!」
「……いいわ」

 わあっと皆が歓声を上げる。こっそりと配られていたクラッカーが鳴らされ、紙吹雪が舞った。二人にひとつのレイが掛けられ、マイヤー警部補がこのフリッグホテルのスイートルームのキィロックコードを流す。やんややんやの大歓声の中、二人は見送られて宴席から消えた。

「よかったっスね、ヨシノ警部」

 涙を拭いながらヤマサキがナカムラと手を取り合う。

「男やもめのヨシノ警部にも、やっと春が再来しましたね」

 第一回合コンから幹事を務め、キューピッド役ともいえるマイヤー警部補がしみじみ言って皆が一様に頷いた。ふいに酔いから浮上したハイファは羨ましそうに呟く。

「愛と結婚と豊穣のホテルで本当に結婚なんて、いいなあ」
「末永く幸せになって欲しいですね」

 ナカムラの言葉にまた皆が大きく頷いた。
 そこでケヴィン警部が要らんことを言う。

「次はシド、お前さんの番じゃないのか?」
「なっ、俺はハイファとは何の関係も――」
「誰もハイファスとは言ってないだろうが」
「えっ……あ、そうですね」

 皆の視線を一身に浴びてシドは誤魔化そうと煙草を咥えたものの、フィルタに火を点けそうになって全員から大笑いされた。さすがの鉄面皮も引き攣る。更には、

「ダブルベッドの寝心地はどうですか?」

 などと腐女子からスプーンをマイク代わりに訊かれ恥ずかしさで涙が滲みそうになる。どうせ色物だと覚悟はしてきたが、実際に座らされる針のムシロは痛かった。
 だが色物だと捉えているのは完全ストレート性癖を未だに言い張る本人だけである。何せペアリングまでしている、七分署一有名な公認カップルとも云えるのだ。

 なのに口から勝手に出るのは意地ばかりである。

「お、俺は床で寝てるから知らねぇよ!」

 大嘘をこいて用ありげに立つ。そのまま靴を履いてフスマを飛び出し手洗いに駆け込んだ。鏡を見るとポーカーフェイスの崩れかけた情けない顔の男の隣にノーブルな美貌が映る。

「何でお前までくるんだよっ!」
「僕だって用くらい足しますよーだ」

 呂律の怪しい相棒と並び、何処で間違ってしまったのかとシドは首を捻った。

「マイヤー警部補を見習えばいいのにサ」

 ここまできて、どう見習えばいいのかサッパリ分からないシドをハイファは笑う。

「まあ、最初から間違っちゃったんだもんね」
「でもお前とのこと自体は、これっぽっちも間違ったとは思ってねぇからな」
「ふふん、信じてるから。けど今はマイナス千二百十五点なんだよ」
「何だよ、その数字は?」

「メイベルちゃんが肩紐を直すのをガン見してマイナス五百点、ミニスカ踊りに釘付けになってマイナス五百点に、ミュリアルちゃんの胸元を密かに見てマイナス二百五十点」

 それが何処でどう影響するのか、考え出してコワくなったシドは手を洗ったついでに顔をザブザブと洗った。手を拭くペーパーでガシガシと拭い、先に宴席に戻る。
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