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第26話
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それにアンテナがあったとしても、別室命令が正しければ六基の発電衛星のうち半分は爆破されている。残りの三基がまだ無事というのは甘いだろうとシドは思った。
「ですから重ねて言いますが『何もなかった』んです」
「パニック防いで挙げ句に島もろとも二万五千人で心中するってか?」
シドの言葉にマクレーン氏は溜息を洩らす。そして今度は副署長の行動を押し留めたりはしなかった。副署長はつかつかとシドの傍にやってくると、リモータを嵌めた左腕を掴む。
「騒乱罪で逮捕する」
「なっ、離せよ、この野郎!」
掴まれた腕を振り解いてシドはルーファス副署長を睨んだ。テラ標準歴で云えば四十代半ばに見える副署長も僅かに目を逸らしてリモータ操作、すると廊下に待機していたのか兵士たちが四人も入ってきてシドを取り囲む。
兵士たちはテラ連邦軍での制式小銃であるサディM18ライフルを手にしていた。銃口で小突かれてシドは立たされる。
「ちょっと待ってくれたまえ!」
ヴィンティス課長が声を上げたが誰も耳を貸さない。ゴーダ主任やマイヤー警部補も立ち上がったが、銃口でものを言われて着席させられた。そこでハイファが静かに挙手をする。
「逮捕するなら僕も一緒にお願いしていいかな?」
兵士たちは一瞬ハイファに見とれ、我に返ってルーファス副署長に指示を仰いだ。
「いい、一緒につれて行け!」
もはや全員が騒然としていたが連行されたのはシドとハイファだけだった。会議室から出される間際にシドはマイヤー警部補にタマのリードを手渡した。
◇◇◇◇
「このまま島と一緒に心中は勘弁だぜ」
「まあねえ。任務でもあるし、何とかしないと」
放り込まれた地下留置場でシドは硬い寝台に寝転がっていた。ハイファは枕元に腰掛けている。二人はリモータのない左手首を撫でていた。武装解除され、煙草やライターも没収された上にリモータまで取り上げられたのだ。
「アンテナが再設置できても発電衛星が木っ端微塵じゃあな」
「確かにね。誰がやったのか知らないけど、気は長くなさそうだし」
「ンなバカをやらかしたのは、いったい誰なんだよ?」
「だから僕も知らないってば。でも昨日の紅いナントカが言ってたみたいに、テロリストにとっては絶好の攻撃目標なのは確かだよね。今頃は行政府に犯行声明が届いてるかもよ」
「紅いナントカが犯行声明か?」
「それはどうかなあ。結構マヌケてたし、別の組織じゃないの?」
「ふん、ややこしいことしやがって」
「それにしてもイヴェントストライカは何処に行ってもイヴェントストライカだね」
嫌味な仇名を連呼されてハイファを睨んだシドは勢い起き上がると叫んだ。
「最低限の権利だ、リモータくらい返しやがれ!」
留置場のフロアにひとつだけデスクがあり、それに就いていた兵士がビクビクッと肩を揺らした。噛みつきそうな勢いで叫ぶこと数回、地上から繋がるスロープを四人の男が降りてくる。
三人は戦闘服の兵士でもう一人はルーファス副署長だった。副署長はシドたちの入れられた留置場前に立つと兵士に命じてキィロックを解かせる。
「出ろ。移動して貰う」
「今度は何処だ、裁判所か、死刑台か?」
自棄気味に言いつつシドは寝台を滑り降りて、ワイア格子の挟まった分厚いポリカーボネートのドアから出た。ハイファが続く。副署長が先頭になり背後を兵士に固められてスロープを上った。次にエレベーターに乗せられる。十階建ての最上階のボタンを副署長が押した。
説明もなくつれてこられたのは『署長室』のプレートが嵌った部屋だった。
ルーファス副署長がリモータチェッカにリモータを翳してセンサ感知、オートドアの中へとシドとハイファは招き入れられる。兵士たちはついてこない。
入ってすぐのパーテーションを避けて足を踏み入れた。中には応接セットと無人の多機能デスクがあり、多機能デスクの横にはテラ連邦軍旗が掲げられている。室内には三人の男がいて全員が応接セットに腰掛けていた。
そのうち一人はリアム=マクレーン行政副長だ。残る二人は軍服でシドとハイファを認めた途端、立ち上がって挙手敬礼する。
「中央情報局第二部別室のハイファス=ファサルート二等陸尉とシド=ワカミヤ二等陸尉ですな。いや、大変な目に遭わせてすまなかった。どうぞ座ってくれたまえ」
代表の一人に促されシドとハイファは応接セットの二人掛けソファに並んで腰掛けた。敬礼した軍服二人も向かいの二人掛けに落ち着く。副署長はその背後に立った。
「本当に失礼した。わたしは二分署長のキャンベル二等陸佐、こちらが一分署長のスカリー二等陸佐だ。マクレーン氏とルーファス三等陸佐はご存じだね?」
急変した応対にも表情を変えずにハイファがシドの機嫌を気にして言った。
「ええ、存じております。ところで我々のリモータは……」
「おお、すまなかった。ルーファス君、返して差し上げなさい」
解析されたガンメタリックとシャンパンゴールドのリモータは、あるべき場所に収まった。シドは煙草とオイルライターも返して貰う。見届けてキャンベル二分署長が口を開いた。
「いやいや、この重大事に別室が人員を差し向けてくれるとは誠に幸運だった」
「別室がついているとは、これほど頼りになるものはありませんからな」
はっはっはと笑う二人の署長と行政副長にシドとハイファは嫌な予感を覚える。
そこに男性兵士がコーヒーを五つ運んできた。かなりいい豆を使っているらしく、香ばしい匂いが署長室に充満する。上品に啜ってからハイファが口火を切った。
「取り敢えず、現時点での状況を教えて頂けますか?」
別室員の問いに大きく頷いて二分署長、
「ご存じのようにアンテナエリアは墜ちました。六基の発電衛星も全て爆破され送電不可能な状態です。行政府にはアラキバ抵抗運動旅団からの犯行声明が届きました」
「アラキバ……ヴィクトル星系発祥のテロリスト集団ですね」
「ご存じとは、さすがですな」
テラ連邦軍における階級は遥か上だが、署長たちはあくまでシドとハイファに丁重な態度を崩さない。母なるテラ本星という中央派遣の別室エージェントはスーパーエリート(という建前)、ときに記録に残らない言葉ひとつで実質的にテラ連邦軍基地全体までをも動かす力があるのだ。
「だからって僕らに発電衛星を打ち上げる力はないんですけど」
「アンテナ建てる土木作業員的な力もな」
「まあ、そう謙遜されずに。発電衛星とアンテナユニットはいつ届くんです?」
分かって貰えるまで十五分を要した。
「そ、それじゃあアンテナも発電衛星も届かないというのですか!」
「まあ、そういうことになりますね」
「そんな……嘘と仰って下さいっ!」
リアム=マクレーン行政副長は泣いてハイファに縋り付こうとする。だがそんなことはシドが許さない。天辺が薄くなったマクレーン氏の頭をグイと押し戻した。
「この浮島に電力供給する手は他にねぇのか?」
「残念ながら……このテュールに使われているバッテリは旧いもので、約五十時間しかプールした電力が保たないのです」
「そいつは聞いてる。新たに半永久バッテリを他星に発注したらどうだ?」
「勿論発注済みですが、充電したものをかき集め、届くまでに五日は掛かると……」
「五日か、ジリ貧だな」
「何か、何か手を打って下さい、二万五千名の命が貴方がたの双肩に掛かっているんですよ!」
勝手に二万五千名の命の責任を負わされ、シドとハイファは言葉を失う。
そのときマクレーン氏のリモータが小刻みに震えた。音声発信を求めるそれにマクレーン氏はイヤフォンを引き出して応答する。暫し話したのち、奇妙な顔つきで二人を見た。
「太陽系セントラル地方七分署を名乗る一団が行政府になだれ込んだとのことです」
「ですから重ねて言いますが『何もなかった』んです」
「パニック防いで挙げ句に島もろとも二万五千人で心中するってか?」
シドの言葉にマクレーン氏は溜息を洩らす。そして今度は副署長の行動を押し留めたりはしなかった。副署長はつかつかとシドの傍にやってくると、リモータを嵌めた左腕を掴む。
「騒乱罪で逮捕する」
「なっ、離せよ、この野郎!」
掴まれた腕を振り解いてシドはルーファス副署長を睨んだ。テラ標準歴で云えば四十代半ばに見える副署長も僅かに目を逸らしてリモータ操作、すると廊下に待機していたのか兵士たちが四人も入ってきてシドを取り囲む。
兵士たちはテラ連邦軍での制式小銃であるサディM18ライフルを手にしていた。銃口で小突かれてシドは立たされる。
「ちょっと待ってくれたまえ!」
ヴィンティス課長が声を上げたが誰も耳を貸さない。ゴーダ主任やマイヤー警部補も立ち上がったが、銃口でものを言われて着席させられた。そこでハイファが静かに挙手をする。
「逮捕するなら僕も一緒にお願いしていいかな?」
兵士たちは一瞬ハイファに見とれ、我に返ってルーファス副署長に指示を仰いだ。
「いい、一緒につれて行け!」
もはや全員が騒然としていたが連行されたのはシドとハイファだけだった。会議室から出される間際にシドはマイヤー警部補にタマのリードを手渡した。
◇◇◇◇
「このまま島と一緒に心中は勘弁だぜ」
「まあねえ。任務でもあるし、何とかしないと」
放り込まれた地下留置場でシドは硬い寝台に寝転がっていた。ハイファは枕元に腰掛けている。二人はリモータのない左手首を撫でていた。武装解除され、煙草やライターも没収された上にリモータまで取り上げられたのだ。
「アンテナが再設置できても発電衛星が木っ端微塵じゃあな」
「確かにね。誰がやったのか知らないけど、気は長くなさそうだし」
「ンなバカをやらかしたのは、いったい誰なんだよ?」
「だから僕も知らないってば。でも昨日の紅いナントカが言ってたみたいに、テロリストにとっては絶好の攻撃目標なのは確かだよね。今頃は行政府に犯行声明が届いてるかもよ」
「紅いナントカが犯行声明か?」
「それはどうかなあ。結構マヌケてたし、別の組織じゃないの?」
「ふん、ややこしいことしやがって」
「それにしてもイヴェントストライカは何処に行ってもイヴェントストライカだね」
嫌味な仇名を連呼されてハイファを睨んだシドは勢い起き上がると叫んだ。
「最低限の権利だ、リモータくらい返しやがれ!」
留置場のフロアにひとつだけデスクがあり、それに就いていた兵士がビクビクッと肩を揺らした。噛みつきそうな勢いで叫ぶこと数回、地上から繋がるスロープを四人の男が降りてくる。
三人は戦闘服の兵士でもう一人はルーファス副署長だった。副署長はシドたちの入れられた留置場前に立つと兵士に命じてキィロックを解かせる。
「出ろ。移動して貰う」
「今度は何処だ、裁判所か、死刑台か?」
自棄気味に言いつつシドは寝台を滑り降りて、ワイア格子の挟まった分厚いポリカーボネートのドアから出た。ハイファが続く。副署長が先頭になり背後を兵士に固められてスロープを上った。次にエレベーターに乗せられる。十階建ての最上階のボタンを副署長が押した。
説明もなくつれてこられたのは『署長室』のプレートが嵌った部屋だった。
ルーファス副署長がリモータチェッカにリモータを翳してセンサ感知、オートドアの中へとシドとハイファは招き入れられる。兵士たちはついてこない。
入ってすぐのパーテーションを避けて足を踏み入れた。中には応接セットと無人の多機能デスクがあり、多機能デスクの横にはテラ連邦軍旗が掲げられている。室内には三人の男がいて全員が応接セットに腰掛けていた。
そのうち一人はリアム=マクレーン行政副長だ。残る二人は軍服でシドとハイファを認めた途端、立ち上がって挙手敬礼する。
「中央情報局第二部別室のハイファス=ファサルート二等陸尉とシド=ワカミヤ二等陸尉ですな。いや、大変な目に遭わせてすまなかった。どうぞ座ってくれたまえ」
代表の一人に促されシドとハイファは応接セットの二人掛けソファに並んで腰掛けた。敬礼した軍服二人も向かいの二人掛けに落ち着く。副署長はその背後に立った。
「本当に失礼した。わたしは二分署長のキャンベル二等陸佐、こちらが一分署長のスカリー二等陸佐だ。マクレーン氏とルーファス三等陸佐はご存じだね?」
急変した応対にも表情を変えずにハイファがシドの機嫌を気にして言った。
「ええ、存じております。ところで我々のリモータは……」
「おお、すまなかった。ルーファス君、返して差し上げなさい」
解析されたガンメタリックとシャンパンゴールドのリモータは、あるべき場所に収まった。シドは煙草とオイルライターも返して貰う。見届けてキャンベル二分署長が口を開いた。
「いやいや、この重大事に別室が人員を差し向けてくれるとは誠に幸運だった」
「別室がついているとは、これほど頼りになるものはありませんからな」
はっはっはと笑う二人の署長と行政副長にシドとハイファは嫌な予感を覚える。
そこに男性兵士がコーヒーを五つ運んできた。かなりいい豆を使っているらしく、香ばしい匂いが署長室に充満する。上品に啜ってからハイファが口火を切った。
「取り敢えず、現時点での状況を教えて頂けますか?」
別室員の問いに大きく頷いて二分署長、
「ご存じのようにアンテナエリアは墜ちました。六基の発電衛星も全て爆破され送電不可能な状態です。行政府にはアラキバ抵抗運動旅団からの犯行声明が届きました」
「アラキバ……ヴィクトル星系発祥のテロリスト集団ですね」
「ご存じとは、さすがですな」
テラ連邦軍における階級は遥か上だが、署長たちはあくまでシドとハイファに丁重な態度を崩さない。母なるテラ本星という中央派遣の別室エージェントはスーパーエリート(という建前)、ときに記録に残らない言葉ひとつで実質的にテラ連邦軍基地全体までをも動かす力があるのだ。
「だからって僕らに発電衛星を打ち上げる力はないんですけど」
「アンテナ建てる土木作業員的な力もな」
「まあ、そう謙遜されずに。発電衛星とアンテナユニットはいつ届くんです?」
分かって貰えるまで十五分を要した。
「そ、それじゃあアンテナも発電衛星も届かないというのですか!」
「まあ、そういうことになりますね」
「そんな……嘘と仰って下さいっ!」
リアム=マクレーン行政副長は泣いてハイファに縋り付こうとする。だがそんなことはシドが許さない。天辺が薄くなったマクレーン氏の頭をグイと押し戻した。
「この浮島に電力供給する手は他にねぇのか?」
「残念ながら……このテュールに使われているバッテリは旧いもので、約五十時間しかプールした電力が保たないのです」
「そいつは聞いてる。新たに半永久バッテリを他星に発注したらどうだ?」
「勿論発注済みですが、充電したものをかき集め、届くまでに五日は掛かると……」
「五日か、ジリ貧だな」
「何か、何か手を打って下さい、二万五千名の命が貴方がたの双肩に掛かっているんですよ!」
勝手に二万五千名の命の責任を負わされ、シドとハイファは言葉を失う。
そのときマクレーン氏のリモータが小刻みに震えた。音声発信を求めるそれにマクレーン氏はイヤフォンを引き出して応答する。暫し話したのち、奇妙な顔つきで二人を見た。
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