YAMASAKIは今日も××だった~楽園16~

志賀雅基

文字の大きさ
上 下
20 / 47

第20話

しおりを挟む
 呟いたシドの背を隣からヘイワード警部補が肘でつつく。

「おい、旦那。これ以上やらせると天井が落っこちるんじゃないか?」
「何で俺に言うんですか、課長か主任に訊いて下さいよ」

 ゴーダ主任はヴィンティス課長を見た。見られた課長はブルーアイを哀しみに曇らせたものの、酔った勢いかヤケクソなのか知らないが、おもむろに部下に頷く。

「頃合いだ、許可する」

 途端に一団は両手で耳に栓をした。同時に立ち上がったシドとハイファが銃を抜き撃つ。レールガン特有の「ガシュッ!」という発射音に旧式銃特有の「ガォン!」という撃発音が重なった。それぞれが一発に聞こえるほどの速射で二発、更に連射で四発を撃ち込んでいる。

 最初の四発が男たちの手にした銃の機関部を粉砕してガラクタに変え、あとは二発ずつが四人の右上腕に着弾していた。ガラクタを持ったまま四本の腕がゴトリと地に落ちる。派手に血飛沫が舞い、数少ない客が甲高い悲鳴を上げた。

 それより大声でゴーダ主任が叫ぶ。

「確保だ~っ!」

 シドとハイファとマイヤー警部補以外の、その場を立った全員がテロリストたちのテーブルに駆け寄り、ザッとシリルM220を男たちに突きつけていた。
 だがもう必要ないのは誰の目から見ても明らかだった。腕をちぎられた男四人は泡を吹いて気絶している。

「ここも高度文明圏ということで、ナンバは同じでしょうか?」
「たぶんそうじゃないかと思いますけど」

 マイヤー警部補とハイファが救急と緊急にリモータ発振を入れている間に、シドはベルトに着けたリングから捕縛用の樹脂製結束バンドを抜き出した。ナカムラとヤマサキにも手伝わせ、男たちの腕を縛り上げて止血処置をし始める。

「何だよ課長の野郎、結局俺たち任せじゃねぇか!」
「まあまあ、始末書が降るでもなし、いいじゃない」

 愚痴るバディをハイファが宥めているうちに、外から緊急音が響いてきた。

 BELはホテルの屋上に駐まったらしく、すぐに白ヘルメットと作業服の救急隊員らが自走担架を伴って現着する。心臓を吹き飛ばされても処置さえ早ければ助かるのが現代医療だ。再生槽にボチャンと放り込み、腕の培養移植をすれば二週間も待たずに取り調べが可能になるだろう。

 次にやってきたのは濃緑色の制服を着た一団で、どう見てもテラ連邦軍人だった。

「ふうん、ここでの官憲は軍なのか」
「みたいだね。狭いから基地や駐屯地がある訳じゃないとは思うけど」
「どっちにしろ、話の分かる奴らならいいけどな」

 テロリストどもが腕と共に運び出されてゆく傍、軍人たちは胡散臭そうな目でシドたちを油断なく見張っている。皆、シリルは仕舞っていたものの、プロに執銃はバレバレだ。

 ゴーダ主任とヴィンティス課長が身分を明らかにして状況説明を始めたが、それに対してなされたのは全員のID及び身分証と武器所持許可証提示要求にコピーの提出だった。
 作業を進める間も他星の同輩に対し軍人たちの態度は非常に横柄でミュリアルちゃんがキリキリと眉を吊り上げるのを、男たちは必死で気付かないフリをする。

 電子情報だけでなくハイファのテミスコピーのライフルマークや九ミリパラの現物に、シドのフレシェット弾もサンプルとして採取され、同じ話を五、六回は語らされて、ようやくその場の責任者らしい小隊長クラスが頷くに至った。

「あーあ、慰安旅行にきてまで実況見分に参加とは、ムゴいよなあ」
「俺のせいじゃありませんよ、ヘイワード警部補」
「シド、あんたのせいとは言ってない。ただ、何かこう……もういい」

 ヘイワード警部補の気分は良く分かった。勝手の違う実況見分はやたらと時間が掛かり、全員が釈放パイとなったのは二十二時になろうという頃で、シドはタマのトイレが心配だった。

 案の定、解放されてエレベーターに乗った途端にタマは切羽詰まった声でニャーニャー鳴き出し、シドとハイファはダッシュで部屋に帰ってギリギリ事なきを得る。

 上着を脱いで執銃を解きながらハイファが自ら気を取りなそうと言った。

「僕らが引っ張られなかったのはヴィンティス課長が頑張ってくれたからだよね」
「ここなら事件発生率が上昇しねぇからって、ゴーサイン出したのは課長だぜ?」
「また、課長には辛口なんだから」

「そうは言うが全員武装してるんだぞ。なのに何で俺たち二人がだな……」
「はいはい、もう終わったんだからいいじゃない。ね?」

 まだ機嫌の悪いシドをハイファはソフトキスで黙らせた。

「で、せっかくの慰安旅行を貴方は愉しまないの?」
「警務課の綺麗どころもナシじゃあな――」

 と、言いかけてハイファの目が険しくなったのを察知、シドは強引に話を変える。

「あー、課長はゴーダ主任と大浴場で一杯、残りは全員タッカーたちとカジノツアーだ。お前は遊びに行かなくて良かったのか?」 
「貴方が行かないのに僕が行く訳ないでしょ」

 シドは博打に非常に強い。というよりもイヴェントストライカは、まるで集金マシンの様相を呈するのだ。だが博打のような人生を歩まされているのでシド自身は博打があまり好きではなかった。それで敢えてホテルに残ったのである。

 ベッドに腰掛けたハイファの明るい金髪を撫でてシドは若草色の瞳を覗き込む。

「せっかく任務のない他星だぞ?」
「じゃあ僕、主任たちと大浴場に――」
「却下。そいつはだめだ。お前のことは誰にも見せねぇからな!」

「怒らなくても冗談だってば。ここにもお風呂は付いてるし」
「それなら二人で広いバスルームとやらを堪能するか」

 頬を染めて頷いたハイファが酷く愛しく、シドは細い躰を抱き寄せて白い額に唇を押し付けた。ハイファは照れて目を逸らしたまま立ち上がり、バスルームに向かう。

「お湯、溜めてくるね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 【連載中】は、短時間で読めるように短い文節ごとでの公開になります。 (お気に入り登録いただけると通知が行き、便利かもです) その後、誤字脱字修正や辻褄合わせが行われて、合成された1話分にタイトルをつけ再公開されます。 (その前に、仮まとめ版が出る場合もある、かも、しれない、可能性) 物語の細部は連載時と変わることが多いので、二度読むのが通です。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

CODE:HEXA

青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。 AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。 孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。 ※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。 ※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。

Mad Liberation ~狂人解放~

despair
キャラ文芸
地図にないその孤島に集められたのは、常軌を逸した狂人ばかり 無感情、感情的、筋肉、仏、悲観、楽観… 狂人が狂人を呼ぶ狂気のドミノ倒しが止まらない! 「もっとも正しき者の願いを叶えるゲームをしましょう!」 そして、始まる最悪のパーティー! 「こいつら全員狂ってる!」 って感じになる予定ですが、今のところ思い付くままに具体的な所はノープランで書いてます。 各話のタイトルの最後で誰の視点の話なのかが変わっています。 順次追加されますが現状… 姉妹:姉妹の妹視点 友達:なおこずのなおちゃん視点 死にたがり:???

処理中です...