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第20話
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呟いたシドの背を隣からヘイワード警部補が肘でつつく。
「おい、旦那。これ以上やらせると天井が落っこちるんじゃないか?」
「何で俺に言うんですか、課長か主任に訊いて下さいよ」
ゴーダ主任はヴィンティス課長を見た。見られた課長はブルーアイを哀しみに曇らせたものの、酔った勢いかヤケクソなのか知らないが、おもむろに部下に頷く。
「頃合いだ、許可する」
途端に一団は両手で耳に栓をした。同時に立ち上がったシドとハイファが銃を抜き撃つ。レールガン特有の「ガシュッ!」という発射音に旧式銃特有の「ガォン!」という撃発音が重なった。それぞれが一発に聞こえるほどの速射で二発、更に連射で四発を撃ち込んでいる。
最初の四発が男たちの手にした銃の機関部を粉砕してガラクタに変え、あとは二発ずつが四人の右上腕に着弾していた。ガラクタを持ったまま四本の腕がゴトリと地に落ちる。派手に血飛沫が舞い、数少ない客が甲高い悲鳴を上げた。
それより大声でゴーダ主任が叫ぶ。
「確保だ~っ!」
シドとハイファとマイヤー警部補以外の、その場を立った全員がテロリストたちのテーブルに駆け寄り、ザッとシリルM220を男たちに突きつけていた。
だがもう必要ないのは誰の目から見ても明らかだった。腕をちぎられた男四人は泡を吹いて気絶している。
「ここも高度文明圏ということで、ナンバは同じでしょうか?」
「たぶんそうじゃないかと思いますけど」
マイヤー警部補とハイファが救急と緊急にリモータ発振を入れている間に、シドはベルトに着けたリングから捕縛用の樹脂製結束バンドを抜き出した。ナカムラとヤマサキにも手伝わせ、男たちの腕を縛り上げて止血処置をし始める。
「何だよ課長の野郎、結局俺たち任せじゃねぇか!」
「まあまあ、始末書が降るでもなし、いいじゃない」
愚痴るバディをハイファが宥めているうちに、外から緊急音が響いてきた。
BELはホテルの屋上に駐まったらしく、すぐに白ヘルメットと作業服の救急隊員らが自走担架を伴って現着する。心臓を吹き飛ばされても処置さえ早ければ助かるのが現代医療だ。再生槽にボチャンと放り込み、腕の培養移植をすれば二週間も待たずに取り調べが可能になるだろう。
次にやってきたのは濃緑色の制服を着た一団で、どう見てもテラ連邦軍人だった。
「ふうん、ここでの官憲は軍なのか」
「みたいだね。狭いから基地や駐屯地がある訳じゃないとは思うけど」
「どっちにしろ、話の分かる奴らならいいけどな」
テロリストどもが腕と共に運び出されてゆく傍、軍人たちは胡散臭そうな目でシドたちを油断なく見張っている。皆、シリルは仕舞っていたものの、プロに執銃はバレバレだ。
ゴーダ主任とヴィンティス課長が身分を明らかにして状況説明を始めたが、それに対してなされたのは全員のID及び身分証と武器所持許可証提示要求にコピーの提出だった。
作業を進める間も他星の同輩に対し軍人たちの態度は非常に横柄でミュリアルちゃんがキリキリと眉を吊り上げるのを、男たちは必死で気付かないフリをする。
電子情報だけでなくハイファのテミスコピーのライフルマークや九ミリパラの現物に、シドのフレシェット弾もサンプルとして採取され、同じ話を五、六回は語らされて、ようやくその場の責任者らしい小隊長クラスが頷くに至った。
「あーあ、慰安旅行にきてまで実況見分に参加とは、ムゴいよなあ」
「俺のせいじゃありませんよ、ヘイワード警部補」
「シド、あんたのせいとは言ってない。ただ、何かこう……もういい」
ヘイワード警部補の気分は良く分かった。勝手の違う実況見分はやたらと時間が掛かり、全員が釈放となったのは二十二時になろうという頃で、シドはタマのトイレが心配だった。
案の定、解放されてエレベーターに乗った途端にタマは切羽詰まった声でニャーニャー鳴き出し、シドとハイファはダッシュで部屋に帰ってギリギリ事なきを得る。
上着を脱いで執銃を解きながらハイファが自ら気を取りなそうと言った。
「僕らが引っ張られなかったのはヴィンティス課長が頑張ってくれたからだよね」
「ここなら事件発生率が上昇しねぇからって、ゴーサイン出したのは課長だぜ?」
「また、課長には辛口なんだから」
「そうは言うが全員武装してるんだぞ。なのに何で俺たち二人がだな……」
「はいはい、もう終わったんだからいいじゃない。ね?」
まだ機嫌の悪いシドをハイファはソフトキスで黙らせた。
「で、せっかくの慰安旅行を貴方は愉しまないの?」
「警務課の綺麗どころもナシじゃあな――」
と、言いかけてハイファの目が険しくなったのを察知、シドは強引に話を変える。
「あー、課長はゴーダ主任と大浴場で一杯、残りは全員タッカーたちとカジノツアーだ。お前は遊びに行かなくて良かったのか?」
「貴方が行かないのに僕が行く訳ないでしょ」
シドは博打に非常に強い。というよりもイヴェントストライカは、まるで集金マシンの様相を呈するのだ。だが博打のような人生を歩まされているのでシド自身は博打があまり好きではなかった。それで敢えてホテルに残ったのである。
ベッドに腰掛けたハイファの明るい金髪を撫でてシドは若草色の瞳を覗き込む。
「せっかく任務のない他星だぞ?」
「じゃあ僕、主任たちと大浴場に――」
「却下。そいつはだめだ。お前のことは誰にも見せねぇからな!」
「怒らなくても冗談だってば。ここにもお風呂は付いてるし」
「それなら二人で広いバスルームとやらを堪能するか」
頬を染めて頷いたハイファが酷く愛しく、シドは細い躰を抱き寄せて白い額に唇を押し付けた。ハイファは照れて目を逸らしたまま立ち上がり、バスルームに向かう。
「お湯、溜めてくるね」
「おい、旦那。これ以上やらせると天井が落っこちるんじゃないか?」
「何で俺に言うんですか、課長か主任に訊いて下さいよ」
ゴーダ主任はヴィンティス課長を見た。見られた課長はブルーアイを哀しみに曇らせたものの、酔った勢いかヤケクソなのか知らないが、おもむろに部下に頷く。
「頃合いだ、許可する」
途端に一団は両手で耳に栓をした。同時に立ち上がったシドとハイファが銃を抜き撃つ。レールガン特有の「ガシュッ!」という発射音に旧式銃特有の「ガォン!」という撃発音が重なった。それぞれが一発に聞こえるほどの速射で二発、更に連射で四発を撃ち込んでいる。
最初の四発が男たちの手にした銃の機関部を粉砕してガラクタに変え、あとは二発ずつが四人の右上腕に着弾していた。ガラクタを持ったまま四本の腕がゴトリと地に落ちる。派手に血飛沫が舞い、数少ない客が甲高い悲鳴を上げた。
それより大声でゴーダ主任が叫ぶ。
「確保だ~っ!」
シドとハイファとマイヤー警部補以外の、その場を立った全員がテロリストたちのテーブルに駆け寄り、ザッとシリルM220を男たちに突きつけていた。
だがもう必要ないのは誰の目から見ても明らかだった。腕をちぎられた男四人は泡を吹いて気絶している。
「ここも高度文明圏ということで、ナンバは同じでしょうか?」
「たぶんそうじゃないかと思いますけど」
マイヤー警部補とハイファが救急と緊急にリモータ発振を入れている間に、シドはベルトに着けたリングから捕縛用の樹脂製結束バンドを抜き出した。ナカムラとヤマサキにも手伝わせ、男たちの腕を縛り上げて止血処置をし始める。
「何だよ課長の野郎、結局俺たち任せじゃねぇか!」
「まあまあ、始末書が降るでもなし、いいじゃない」
愚痴るバディをハイファが宥めているうちに、外から緊急音が響いてきた。
BELはホテルの屋上に駐まったらしく、すぐに白ヘルメットと作業服の救急隊員らが自走担架を伴って現着する。心臓を吹き飛ばされても処置さえ早ければ助かるのが現代医療だ。再生槽にボチャンと放り込み、腕の培養移植をすれば二週間も待たずに取り調べが可能になるだろう。
次にやってきたのは濃緑色の制服を着た一団で、どう見てもテラ連邦軍人だった。
「ふうん、ここでの官憲は軍なのか」
「みたいだね。狭いから基地や駐屯地がある訳じゃないとは思うけど」
「どっちにしろ、話の分かる奴らならいいけどな」
テロリストどもが腕と共に運び出されてゆく傍、軍人たちは胡散臭そうな目でシドたちを油断なく見張っている。皆、シリルは仕舞っていたものの、プロに執銃はバレバレだ。
ゴーダ主任とヴィンティス課長が身分を明らかにして状況説明を始めたが、それに対してなされたのは全員のID及び身分証と武器所持許可証提示要求にコピーの提出だった。
作業を進める間も他星の同輩に対し軍人たちの態度は非常に横柄でミュリアルちゃんがキリキリと眉を吊り上げるのを、男たちは必死で気付かないフリをする。
電子情報だけでなくハイファのテミスコピーのライフルマークや九ミリパラの現物に、シドのフレシェット弾もサンプルとして採取され、同じ話を五、六回は語らされて、ようやくその場の責任者らしい小隊長クラスが頷くに至った。
「あーあ、慰安旅行にきてまで実況見分に参加とは、ムゴいよなあ」
「俺のせいじゃありませんよ、ヘイワード警部補」
「シド、あんたのせいとは言ってない。ただ、何かこう……もういい」
ヘイワード警部補の気分は良く分かった。勝手の違う実況見分はやたらと時間が掛かり、全員が釈放となったのは二十二時になろうという頃で、シドはタマのトイレが心配だった。
案の定、解放されてエレベーターに乗った途端にタマは切羽詰まった声でニャーニャー鳴き出し、シドとハイファはダッシュで部屋に帰ってギリギリ事なきを得る。
上着を脱いで執銃を解きながらハイファが自ら気を取りなそうと言った。
「僕らが引っ張られなかったのはヴィンティス課長が頑張ってくれたからだよね」
「ここなら事件発生率が上昇しねぇからって、ゴーサイン出したのは課長だぜ?」
「また、課長には辛口なんだから」
「そうは言うが全員武装してるんだぞ。なのに何で俺たち二人がだな……」
「はいはい、もう終わったんだからいいじゃない。ね?」
まだ機嫌の悪いシドをハイファはソフトキスで黙らせた。
「で、せっかくの慰安旅行を貴方は愉しまないの?」
「警務課の綺麗どころもナシじゃあな――」
と、言いかけてハイファの目が険しくなったのを察知、シドは強引に話を変える。
「あー、課長はゴーダ主任と大浴場で一杯、残りは全員タッカーたちとカジノツアーだ。お前は遊びに行かなくて良かったのか?」
「貴方が行かないのに僕が行く訳ないでしょ」
シドは博打に非常に強い。というよりもイヴェントストライカは、まるで集金マシンの様相を呈するのだ。だが博打のような人生を歩まされているのでシド自身は博打があまり好きではなかった。それで敢えてホテルに残ったのである。
ベッドに腰掛けたハイファの明るい金髪を撫でてシドは若草色の瞳を覗き込む。
「せっかく任務のない他星だぞ?」
「じゃあ僕、主任たちと大浴場に――」
「却下。そいつはだめだ。お前のことは誰にも見せねぇからな!」
「怒らなくても冗談だってば。ここにもお風呂は付いてるし」
「それなら二人で広いバスルームとやらを堪能するか」
頬を染めて頷いたハイファが酷く愛しく、シドは細い躰を抱き寄せて白い額に唇を押し付けた。ハイファは照れて目を逸らしたまま立ち上がり、バスルームに向かう。
「お湯、溜めてくるね」
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