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第13話
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皆の不安が最高潮に高まったとき、ミュリアルちゃんが声を上げた。
「ああっ、この旅行日程表、見てよ!」
彼女が差し出したのは惑星警察の官品リモータ、その小さな画面を男十人と一匹が囲んで覗き込む。そこには警務課の合コン慰安旅行出席者に向けてなされたリモータ発振内容が浮かび上がっていて、何と決行日時が丸一ヶ月も先になっていたのだ。
「馬鹿野郎、ヤマサキ! 基本的なポカやらかしやがって!」
ゴーダ警部がペシリとヤマサキの頭を張る。それから暫しヤマサキは幹部トリオを主とするメンバーから、またもサッカーボール以下の扱いを受けた。
「それよりも決行か中止かを幹事に仰ぎたいのだがね」
尤もなことをヴィンティス課長が言い出し、冷静にマイヤー警部補が判断を下す。
「ここまできて二十数名分ものキャンセル料は馬鹿にならないと思われます」
「じゃあこのメンバーで行くしかないのか……はあ~っ!」
「課長、クサい溜息なんかつかないで下さいよ。ヤマサキの立場も考えて下さい」
珍しく後輩の援護射撃をしたシドに、ヴィンティス課長は僅かに仰け反った。
「あ、いや、すまん。シドもたまにはまともなことを言うな」
「俺はいつだってまともですよ」
「冗談が上手くなったようだな、シド。まあいい。時間は間に合うのかね?」
「あっ、急がないと定期BELはシャトル便の着に合わせてある筈だから……」
ハイファの呟きを聞いて十一人は走り始める。異星人も闊歩するタイタン第一宙港を一団はドドドッと駆け抜け、屋上直通エレベーターに飛び乗った。
屋上も夜闇を追い出すライトでギラギラ、目の底が痛いほどだった。お蔭で第四宙港行きの定期BELはすぐに見つかり、タラップドアが上げられるギリギリで十一人と猫一匹は滑り込む。機内でキャビンアテンダントの掲げるチェックパネルにリモータを翳した。
クレジットを支払った者から空いていたシートに腰掛ける。故に皆がバラバラで、慰安旅行という雰囲気など、もう何処にも残ってはいなかった。
だがシドとハイファは他人のBELまで盗んで生き延びてきた実績があるからか、しっかり並んだシートを確保している。誰からも離れているのを見てハイファはシドの手を握った。
「やっぱり第一段階からつまずいちゃったね」
「まだ想定内だ。見てろよ、もっと酷いことが起こるぜ」
「嫌な予言しないでくれる? ったく、キャンセル料くらい支払ってでも中止に一票入れればよかったよ」
「幾らFCの役員報酬で困ってねぇからって、二十数人分をお前が払うのか?」
「貴方だってお金持ちなんだから、ケチらずに払ってもよかったんじゃないの?」
こう見えてシドは財産家なのだ。以前の別室任務中に手に入れた宝クジ三枚がストライク大炸裂し一等前後賞に大当たり、億という桁のクレジットを稼ぎ出してしまったのである。その平刑事には夢のような巨額は、殆ど手つかずでテラ連邦直轄銀行で日々子供を生みながら眠っていた。
それでも刑事を辞めないのは、天職だからという他ない。
「ケチってる訳じゃねぇが『全ては俺のせい』を払拭する旅行は始まったばかりだからな。まだまだみんなには現実を見て貰わねぇと」
「そんな意地張って、本当にドツボに嵌っても知らないからね」
「いつもの別室任務に比べればチョロいさ」
「そうかなあ?」
これだけの人数で『もっと酷いこと』にストライクすれば、それこそ予想もつかない事態に陥りそうな気がひしひしとしていたが、ハイファはバディの機嫌を前にコメントは控えた。
約二十分のフライトを終え、定期BELは第四宙港メインビル屋上にランディングする。シドがリモータを見ると時刻は十一時三十五分、率先して七分署の面々は列に並び、タラップドアを駆け下りると二階ロビーフロアへエレベーターで下った。
「宙艦のチケットを流します、皆さん、確認願います!」
通関へと急ぎながらマイヤー警部補が凹みきったヤマサキをサポートし、それぞれのリモータにユミル星系第二惑星マーニ行きの宙艦のチケットを流す。
そこでシドとハイファは流れてきたのが乗艦チケットのみ、シートのリザーブチケットがないことに気付いたが、それについて議論しているヒマはなかった。
一団はX‐RAYサーチや臭気探知機などを通過し、係員に武器所持許可証を見せつつ通関をクリア、駆け足で専用口から一階ロータリーに降りる。するとリムジンコイルの最終便がまさに出るところで危うくシドが乗降口のタラップを踏んづけた。
これを逃すと宙艦まで自前の足で走るしかない。ギリギリ間に合ったが飲んだくれていたメンバーは青い顔をしている。もう慰安でも何でもない一種の修羅場だった。
「ああっ、この旅行日程表、見てよ!」
彼女が差し出したのは惑星警察の官品リモータ、その小さな画面を男十人と一匹が囲んで覗き込む。そこには警務課の合コン慰安旅行出席者に向けてなされたリモータ発振内容が浮かび上がっていて、何と決行日時が丸一ヶ月も先になっていたのだ。
「馬鹿野郎、ヤマサキ! 基本的なポカやらかしやがって!」
ゴーダ警部がペシリとヤマサキの頭を張る。それから暫しヤマサキは幹部トリオを主とするメンバーから、またもサッカーボール以下の扱いを受けた。
「それよりも決行か中止かを幹事に仰ぎたいのだがね」
尤もなことをヴィンティス課長が言い出し、冷静にマイヤー警部補が判断を下す。
「ここまできて二十数名分ものキャンセル料は馬鹿にならないと思われます」
「じゃあこのメンバーで行くしかないのか……はあ~っ!」
「課長、クサい溜息なんかつかないで下さいよ。ヤマサキの立場も考えて下さい」
珍しく後輩の援護射撃をしたシドに、ヴィンティス課長は僅かに仰け反った。
「あ、いや、すまん。シドもたまにはまともなことを言うな」
「俺はいつだってまともですよ」
「冗談が上手くなったようだな、シド。まあいい。時間は間に合うのかね?」
「あっ、急がないと定期BELはシャトル便の着に合わせてある筈だから……」
ハイファの呟きを聞いて十一人は走り始める。異星人も闊歩するタイタン第一宙港を一団はドドドッと駆け抜け、屋上直通エレベーターに飛び乗った。
屋上も夜闇を追い出すライトでギラギラ、目の底が痛いほどだった。お蔭で第四宙港行きの定期BELはすぐに見つかり、タラップドアが上げられるギリギリで十一人と猫一匹は滑り込む。機内でキャビンアテンダントの掲げるチェックパネルにリモータを翳した。
クレジットを支払った者から空いていたシートに腰掛ける。故に皆がバラバラで、慰安旅行という雰囲気など、もう何処にも残ってはいなかった。
だがシドとハイファは他人のBELまで盗んで生き延びてきた実績があるからか、しっかり並んだシートを確保している。誰からも離れているのを見てハイファはシドの手を握った。
「やっぱり第一段階からつまずいちゃったね」
「まだ想定内だ。見てろよ、もっと酷いことが起こるぜ」
「嫌な予言しないでくれる? ったく、キャンセル料くらい支払ってでも中止に一票入れればよかったよ」
「幾らFCの役員報酬で困ってねぇからって、二十数人分をお前が払うのか?」
「貴方だってお金持ちなんだから、ケチらずに払ってもよかったんじゃないの?」
こう見えてシドは財産家なのだ。以前の別室任務中に手に入れた宝クジ三枚がストライク大炸裂し一等前後賞に大当たり、億という桁のクレジットを稼ぎ出してしまったのである。その平刑事には夢のような巨額は、殆ど手つかずでテラ連邦直轄銀行で日々子供を生みながら眠っていた。
それでも刑事を辞めないのは、天職だからという他ない。
「ケチってる訳じゃねぇが『全ては俺のせい』を払拭する旅行は始まったばかりだからな。まだまだみんなには現実を見て貰わねぇと」
「そんな意地張って、本当にドツボに嵌っても知らないからね」
「いつもの別室任務に比べればチョロいさ」
「そうかなあ?」
これだけの人数で『もっと酷いこと』にストライクすれば、それこそ予想もつかない事態に陥りそうな気がひしひしとしていたが、ハイファはバディの機嫌を前にコメントは控えた。
約二十分のフライトを終え、定期BELは第四宙港メインビル屋上にランディングする。シドがリモータを見ると時刻は十一時三十五分、率先して七分署の面々は列に並び、タラップドアを駆け下りると二階ロビーフロアへエレベーターで下った。
「宙艦のチケットを流します、皆さん、確認願います!」
通関へと急ぎながらマイヤー警部補が凹みきったヤマサキをサポートし、それぞれのリモータにユミル星系第二惑星マーニ行きの宙艦のチケットを流す。
そこでシドとハイファは流れてきたのが乗艦チケットのみ、シートのリザーブチケットがないことに気付いたが、それについて議論しているヒマはなかった。
一団はX‐RAYサーチや臭気探知機などを通過し、係員に武器所持許可証を見せつつ通関をクリア、駆け足で専用口から一階ロータリーに降りる。するとリムジンコイルの最終便がまさに出るところで危うくシドが乗降口のタラップを踏んづけた。
これを逃すと宙艦まで自前の足で走るしかない。ギリギリ間に合ったが飲んだくれていたメンバーは青い顔をしている。もう慰安でも何でもない一種の修羅場だった。
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