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第11話
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ぼそぼそと内緒話をしているうちに二十五分が経過し、宙港管制から干渉があって機のコントロールを渡す。二機の緊急機は宙港隅の駐機場に並んでランディングさせられた。
捜三の四名も含めて合計十三名プラス一匹もの男たちは、宙港内専用のコイルに分乗して宙港メインビルを目指す。何せ宙港は広大だ。七、八分も掛けてメインビルのロータリーに辿り着いた。ここで捜三の人員とは別れることになる。
代表してヴィンティス課長が彼らに礼を言った。
「いやいや、助かったよ。ありがとう、ありがとう」
相互に敬礼をして捜三の四人を見送ると、ヴィンティス課長は率先してメインビル内に足を踏み入れ、二階ロビーフロアへのオートスロープに乗っかる。
何処かヤケ気味の課長の所作に、ヤマサキがシドに耳打ちした。
「じつはヴィンティス課長も『辞退組』だったっスよ」
「ふん。どうせ捜査戦術コンが『武器携帯』を勧めてきてビビったんだろ」
「もう人数を変えられないって言ったら、諦めたみたいっスけどね」
太陽系の内外に出入りするには土星の衛星タイタンのハブ宙港を経なければならない。第一から第七まである宙港のどれかを経由しなければ、何処にも行けないシステムになっているのだ。
そのタイタンにはテラ連邦軍の巨大基地があり、テラの護り女神・第二艦隊が睨みを利かせている。テラ連邦議会のお膝元であるテラ本星を護る砦といった所だ。
ちなみに攻撃の雄・第一艦隊は火星の衛星フォボスを母港としていた。
ともあれタイタンに向かうにはシャトル便に乗ることである。
「皆さん、シャトル便のチケットを流しますよ」
ヤマサキを手伝ってマイヤー警部補が涼しい声で言い、それぞれリモータにチケットが流された。同時にシドはリモータで時刻を確かめる。現在時、九時二分だった。
「ヤマサキ、ちょっとタマのトイレだけ行ってくるぞ」
声を掛けておいてその場を離れる。ペットのトイレ専用ブースに駆け込んでキャリーバッグからタマを出してやると、ふんふんと臭いを嗅いだタマはザリザリと砂を掻き始めた。
シャトル便は毎時二十分に出航する。次は九時二十分だ。だが二階ロビーに直接エアロックを接続するので、そう焦ることはない。ゆっくりと用を足させ、戻ってみるとヨシノ警部とミュリアルちゃんが合流していた。
いつも制服姿しか見ていなかったミュリアルちゃんが、ボディラインも大胆なオレンジ色のワンピースで混ざったことで旅行気分が盛り上がってきたようである。
「そろそろ皆さん、並んだ方がいいっスよ」
ヤマサキの仕切りで長蛇の列に並ぶ。先頭を切ったのはヤケ気味なままのヴィンティス課長だ。だがここでも焦ることはない、シートはリザーブしてあるのだ。
並びながらシドは透明な壁の向こうに見える白い宙港面を眺めた。そこには一見、てんでバラバラに様々な色や形・大きさの宙艦が停泊している。それらが時折糸で吊られたように浮き上がってゆき、またしずしずと降りてくる様は、まるで透明な巨人のチェスを見るようだ。
ハイファと二人、別室任務で何度この光景を見ただろうかと思う。
そのハイファは傍で寄り添うようにして微笑んでいた。
やがて順番がやってきて、それぞれがチェックパネルにリモータを翳しチケットと武器所持許可証を認識させる。エアロックをくぐり客室のシートに収まった。
キャビンアテンダントが配るワープ前の白い錠剤をシドはふたつ貰い、ひとつは嚥下して、もうひとつは四分の一に噛み割った。それを持参してきた竹輪片に仕込んでタマに食わせる。
「よし、竹輪作戦は成功だぞ」
「みんな、怪我はしていないだろうな?」
ヴィンティス課長の声に皆がそれぞれに応えた。
遥か三千年前に反物質機関の発明とそれを利用したワープ航法を会得したテラ人だったが、未だにワープの弊害を克服したとは言い難いのが現状である。
ワープ前にはこうして宿酔止めを服用するのが一般的で、星系間ワープともなれば一日に三回までが常識とされていた。勿論それを超えることも可能でプロの宙艦乗りならこなすだろうが、そうでなければ無理をしたツケは躰で払うハメになる。
おまけに怪我の治療を怠ってのワープは厳禁、亜空間で血を攫われワープアウトしてみたら真っ白な死体が乗っていたということにもなりかねないのだ。
捜三の四名も含めて合計十三名プラス一匹もの男たちは、宙港内専用のコイルに分乗して宙港メインビルを目指す。何せ宙港は広大だ。七、八分も掛けてメインビルのロータリーに辿り着いた。ここで捜三の人員とは別れることになる。
代表してヴィンティス課長が彼らに礼を言った。
「いやいや、助かったよ。ありがとう、ありがとう」
相互に敬礼をして捜三の四人を見送ると、ヴィンティス課長は率先してメインビル内に足を踏み入れ、二階ロビーフロアへのオートスロープに乗っかる。
何処かヤケ気味の課長の所作に、ヤマサキがシドに耳打ちした。
「じつはヴィンティス課長も『辞退組』だったっスよ」
「ふん。どうせ捜査戦術コンが『武器携帯』を勧めてきてビビったんだろ」
「もう人数を変えられないって言ったら、諦めたみたいっスけどね」
太陽系の内外に出入りするには土星の衛星タイタンのハブ宙港を経なければならない。第一から第七まである宙港のどれかを経由しなければ、何処にも行けないシステムになっているのだ。
そのタイタンにはテラ連邦軍の巨大基地があり、テラの護り女神・第二艦隊が睨みを利かせている。テラ連邦議会のお膝元であるテラ本星を護る砦といった所だ。
ちなみに攻撃の雄・第一艦隊は火星の衛星フォボスを母港としていた。
ともあれタイタンに向かうにはシャトル便に乗ることである。
「皆さん、シャトル便のチケットを流しますよ」
ヤマサキを手伝ってマイヤー警部補が涼しい声で言い、それぞれリモータにチケットが流された。同時にシドはリモータで時刻を確かめる。現在時、九時二分だった。
「ヤマサキ、ちょっとタマのトイレだけ行ってくるぞ」
声を掛けておいてその場を離れる。ペットのトイレ専用ブースに駆け込んでキャリーバッグからタマを出してやると、ふんふんと臭いを嗅いだタマはザリザリと砂を掻き始めた。
シャトル便は毎時二十分に出航する。次は九時二十分だ。だが二階ロビーに直接エアロックを接続するので、そう焦ることはない。ゆっくりと用を足させ、戻ってみるとヨシノ警部とミュリアルちゃんが合流していた。
いつも制服姿しか見ていなかったミュリアルちゃんが、ボディラインも大胆なオレンジ色のワンピースで混ざったことで旅行気分が盛り上がってきたようである。
「そろそろ皆さん、並んだ方がいいっスよ」
ヤマサキの仕切りで長蛇の列に並ぶ。先頭を切ったのはヤケ気味なままのヴィンティス課長だ。だがここでも焦ることはない、シートはリザーブしてあるのだ。
並びながらシドは透明な壁の向こうに見える白い宙港面を眺めた。そこには一見、てんでバラバラに様々な色や形・大きさの宙艦が停泊している。それらが時折糸で吊られたように浮き上がってゆき、またしずしずと降りてくる様は、まるで透明な巨人のチェスを見るようだ。
ハイファと二人、別室任務で何度この光景を見ただろうかと思う。
そのハイファは傍で寄り添うようにして微笑んでいた。
やがて順番がやってきて、それぞれがチェックパネルにリモータを翳しチケットと武器所持許可証を認識させる。エアロックをくぐり客室のシートに収まった。
キャビンアテンダントが配るワープ前の白い錠剤をシドはふたつ貰い、ひとつは嚥下して、もうひとつは四分の一に噛み割った。それを持参してきた竹輪片に仕込んでタマに食わせる。
「よし、竹輪作戦は成功だぞ」
「みんな、怪我はしていないだろうな?」
ヴィンティス課長の声に皆がそれぞれに応えた。
遥か三千年前に反物質機関の発明とそれを利用したワープ航法を会得したテラ人だったが、未だにワープの弊害を克服したとは言い難いのが現状である。
ワープ前にはこうして宿酔止めを服用するのが一般的で、星系間ワープともなれば一日に三回までが常識とされていた。勿論それを超えることも可能でプロの宙艦乗りならこなすだろうが、そうでなければ無理をしたツケは躰で払うハメになる。
おまけに怪我の治療を怠ってのワープは厳禁、亜空間で血を攫われワープアウトしてみたら真っ白な死体が乗っていたということにもなりかねないのだ。
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