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第10話
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「ところで警務課の綺麗どころはどうしたんだ?」
ゴーダ主任に訊かれて硬くなったヤマサキは舌を噛みつつ答える。
「警務課は定期BEL移動で、タイタン第一宙港で落ち合う予定になってるっす」
「そうか、ならいい」
後部座席を振り向いてシドが訊いた。
「で、ヤマサキ。俺たちはいったい何処の星系に行くってか?」
「シド先輩は知ってますかね、ユミル星系第二惑星マーニって所なんスけど」
「俺は初耳だ。ハイファ、お前は?」
振り向いたシドの目に映ったハイファは何とも言い難い複雑な表情をしていた。
「行ったことはないけど、知らない訳じゃないってとこかな」
「どういうことだよ、それ?」
「金やプラチナ鉱山が多くて有名なんだよ、その業界ではね」
「そいつはFC絡みの情報ってことか」
頷いたハイファはテラ連邦でも有数のエネルギー関連企業ファサルートコーポレーション・通称FCの会長を実の父として持つ。
ハイファも社長に祭り上げられたことがあるものの重責を背負い続けることは何とか逃れた。だが血族の結束も固い社において、名ばかりとはいえ現在も代表取締役専務という肩書きを持たされているのだ。
軍人で別室員だというのは軍機だがFC会長御曹司なのは秘密でも何でもなく、二人の会話を聞かれても困りはしない。なのに何故かハイファは声を潜めた。
「それについてはあとでね」
けれど背後ではもう、金やプラチナの採れる豊かな星だというので、盛り上がってしまっていた。特に旅行代理店に勧められるままに、よく調べもせず決めてしまったらしいヤマサキがホッとしたようで、にこにことして饒舌になっている。
「いやあ、ユミル星系なんて初めて聞いてどうなることかと思ってましたけど、良かったですよ。温泉があってカジノがあって安全で猫も連れて行けて、安上がりなら何処でもいいって言ってはみたんスけどね」
「ヤマサキお前、マジで『何処でもいい』なんて言ったのかよ?」
「みんなの意見じゃないっスか。おまけに予算はカツカツですからね。でもそんなにお宝が採れるなんて、エ、エ、エル……何て言いましたっけ?」
「エル・ドラドですか?」
マイヤー警部補の合いの手にヤマサキは手を打って笑う。
「それっスよ。エル・ドラドみたいでいいじゃないっスか!」
背後の盛り上がりに対し、シドはもうイヤな予感がしていた。嫌な予感が的中する確信めいたモノが隣でハイファが見せる薄い笑いによって生み出されている。大体、ハイファが出し惜しみする情報はロクでもないことが多いのだ。
「俺はナニもしてねぇぞ、俺のせいじゃねぇからな」
「分かってるよ。まあ、そう心配することはないと思うから」
「果たしてそいつは本当なのか?」
「本当でなきゃ困るでしょ、別室任務じゃないんだから。いつもみたいにハチャメチャの目茶苦茶な混沌の坩堝にみんなを叩き込む訳には行かないんだからね」
「個人的にヴィンティス課長の野郎だけは叩き込んでやりてぇんだがな」
事件発生率を建築基準法違反並みに積み上げる部下を何処でもいいからよそに押し付けておいて、自分は悠々と命の洗濯をするというのがヴィンティス課長という人物である。
最近では嬉々としてシドを別室任務に差し出すようになってきて、水面下での上司と部下の戦いは日々熾烈になっているのだ。
「別室長ユアン=ガードナーの妖怪野郎と居酒屋『穂足』で飲みながら、夜な夜な可愛い部下を地獄に蹴り落とす相談をしてるんだぞ、許せねぇだろ」
「許す許さないはともかく、あの二人が飲み友達ってアンビリバボーだもんねえ」
「毎度毎度、ふざけやがって……けど今回の旅行は、何があろうと俺のせいじゃねぇっつーのを課長の野郎だけじゃねぇ、みんなにも認識させるチャンスだからな」
「何があってもヤマサキさんのせいって?」
深く頷いたバディにハイファは溜息を洩らした。辞退者が出たと聞いても怒りもしなかったのは、証人はこれだけいれば充分だということらしい。
「あーた、端から何かが起こるのは想定済みってワケね」
「当たり前だろ、ヤマサキの仕切りだぞ?」
ゴーダ主任に訊かれて硬くなったヤマサキは舌を噛みつつ答える。
「警務課は定期BEL移動で、タイタン第一宙港で落ち合う予定になってるっす」
「そうか、ならいい」
後部座席を振り向いてシドが訊いた。
「で、ヤマサキ。俺たちはいったい何処の星系に行くってか?」
「シド先輩は知ってますかね、ユミル星系第二惑星マーニって所なんスけど」
「俺は初耳だ。ハイファ、お前は?」
振り向いたシドの目に映ったハイファは何とも言い難い複雑な表情をしていた。
「行ったことはないけど、知らない訳じゃないってとこかな」
「どういうことだよ、それ?」
「金やプラチナ鉱山が多くて有名なんだよ、その業界ではね」
「そいつはFC絡みの情報ってことか」
頷いたハイファはテラ連邦でも有数のエネルギー関連企業ファサルートコーポレーション・通称FCの会長を実の父として持つ。
ハイファも社長に祭り上げられたことがあるものの重責を背負い続けることは何とか逃れた。だが血族の結束も固い社において、名ばかりとはいえ現在も代表取締役専務という肩書きを持たされているのだ。
軍人で別室員だというのは軍機だがFC会長御曹司なのは秘密でも何でもなく、二人の会話を聞かれても困りはしない。なのに何故かハイファは声を潜めた。
「それについてはあとでね」
けれど背後ではもう、金やプラチナの採れる豊かな星だというので、盛り上がってしまっていた。特に旅行代理店に勧められるままに、よく調べもせず決めてしまったらしいヤマサキがホッとしたようで、にこにことして饒舌になっている。
「いやあ、ユミル星系なんて初めて聞いてどうなることかと思ってましたけど、良かったですよ。温泉があってカジノがあって安全で猫も連れて行けて、安上がりなら何処でもいいって言ってはみたんスけどね」
「ヤマサキお前、マジで『何処でもいい』なんて言ったのかよ?」
「みんなの意見じゃないっスか。おまけに予算はカツカツですからね。でもそんなにお宝が採れるなんて、エ、エ、エル……何て言いましたっけ?」
「エル・ドラドですか?」
マイヤー警部補の合いの手にヤマサキは手を打って笑う。
「それっスよ。エル・ドラドみたいでいいじゃないっスか!」
背後の盛り上がりに対し、シドはもうイヤな予感がしていた。嫌な予感が的中する確信めいたモノが隣でハイファが見せる薄い笑いによって生み出されている。大体、ハイファが出し惜しみする情報はロクでもないことが多いのだ。
「俺はナニもしてねぇぞ、俺のせいじゃねぇからな」
「分かってるよ。まあ、そう心配することはないと思うから」
「果たしてそいつは本当なのか?」
「本当でなきゃ困るでしょ、別室任務じゃないんだから。いつもみたいにハチャメチャの目茶苦茶な混沌の坩堝にみんなを叩き込む訳には行かないんだからね」
「個人的にヴィンティス課長の野郎だけは叩き込んでやりてぇんだがな」
事件発生率を建築基準法違反並みに積み上げる部下を何処でもいいからよそに押し付けておいて、自分は悠々と命の洗濯をするというのがヴィンティス課長という人物である。
最近では嬉々としてシドを別室任務に差し出すようになってきて、水面下での上司と部下の戦いは日々熾烈になっているのだ。
「別室長ユアン=ガードナーの妖怪野郎と居酒屋『穂足』で飲みながら、夜な夜な可愛い部下を地獄に蹴り落とす相談をしてるんだぞ、許せねぇだろ」
「許す許さないはともかく、あの二人が飲み友達ってアンビリバボーだもんねえ」
「毎度毎度、ふざけやがって……けど今回の旅行は、何があろうと俺のせいじゃねぇっつーのを課長の野郎だけじゃねぇ、みんなにも認識させるチャンスだからな」
「何があってもヤマサキさんのせいって?」
深く頷いたバディにハイファは溜息を洩らした。辞退者が出たと聞いても怒りもしなかったのは、証人はこれだけいれば充分だということらしい。
「あーた、端から何かが起こるのは想定済みってワケね」
「当たり前だろ、ヤマサキの仕切りだぞ?」
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